話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

カード(シン編)

 
 孤児院を離れてから既に一ヶ月…変わらずシンを乗せた馬車は槍気にいある舗装された道を走っていた。
 シンは車内で魔力のコントロールをしていた。ジュエリニアを離れてから毎日欠かさずにいやっている事だった。




(ウルのことがあってから魔法も万能なものじゃないことがわかった……魔法は魔力で作られた魔法陣が元となって発動する、魔力の操作を今より高い精度で行えるようになれば魔法の幅も広がるはずだ)




 シンの手の上には魔法陣があり、その更に上に水の球が浮いている。
 描かれている魔法陣は【水球】を使用する時に現れる見えない魔法陣と同じものだった。




(全く同じ魔法陣なら意図的に描いた物でも魔法は出現するわけか…いわゆるこれが魔法陣魔法なんだろうが、トトの情報にある【水球】の魔法陣魔法はもっと複雑だ……おそらく、無駄な部分が多いのに気が付いていないのだろう。無駄な工程が含まれているから消費魔力も多い、魔法陣魔法が使われないわけだ)




 シンが考えている通り、魔法陣魔法は普通の魔法と同じ現象しか起きない物の消費する魔力は大きい。
 そのため使い手が少ない。しかし、戦争時では魔法陣さえ書かれていれば魔法適性が関係ない、という点からよく使用されている。




(最近わかった事だが魔法陣を書き換え魔法に性質をつけ足すのは【状魔変化】の能力だということがわかった、【状魔変化】を意識的に使わないようにしてみたら魔法陣の形はいくら魔力を使っても動かなかった)




 シンがそんなことを考えながら外を見る。




(魔族領から遠ざかったせいか大きな都市もなければ村の一つもありやしない、神玉使いになってから食べなくていいとはいえ、人間として生きているからには食事は必要だ、精神衛生的にな……)




 グエルを出てからの一ヶ月シンは何も食べずに過ごしていた。
 途中で馬の食事はどうするかと考えたが、車内に不自然に置かれていた魔導具の鞄の中に二年分の馬の食事が用意されていた。




(まったく…文句は言いたくないが馬のも用意するなら俺の分も用意してもらいたい……)




 シンは手の上にある魔法陣を消して、天に腕を伸ばす。
 体を伸ばしながらシンは遠くに見える生物を見つける。




「あれは?」




 シンは手を下して目を細めて遠くの生物の姿を確認する。
 その生物の体は岩でできており、大きさが2m程もある巨大な魔物だった。




(ロックマンか、魔族領から離れたからCランクに合うとは思っていなかったな……そうか、あの奥の森から出てきたのか)




 その生物の名前はロックマン、高い攻撃力と防御力を持つ魔物。
 攻撃手段は力に頼った大振りな拳で、ビームや敵の能力を奪うことはない。




(……誰か襲われているのか?)




 シンの目に映ったのはロックマンの目の前に立っている人影だった。
 フードをかぶっており顔は見えないが、足が細いため冒険者ではないとシン判断した。




「冒険者なら謝れば済むことだしな…上級雷魔法【雷撃】」




 ロックマンが両手を上げ目の前の人影を攻撃しようとする。
 シンは馬車から飛び降り、念のため二本指をロックマンに向け魔法を放った。
 馬はシンが飛び降りると同時にスピードを落とし少し先で停止した。




「……!?」




 シンから放たれた雷は高い防御力を誇るロックマンの上半身を消滅させた。
 いきなり目の前で起こった事象に驚き、目の前にいた人はフードが脱げてしまう。




「大丈夫ですか?」


「凄い威力…」




 シンはすぐに人に近寄り安否を確認する。
 その人は綺麗な金色の短い髪をしていて、顔立ちは整っており、中性的な印象を覚えた。




「もしかして冒険者の方でしたか? 獲物を横取りしてしまいましたら申し訳ありませんでした」


「あ……」




 シンは頭を下げながらそう言うと中性的な人は困ったような声を出す。
 そして頭を上げたシンは優秀な頭脳を使い、言い訳を始めた。




「百合の花の様な美しい肌、日の光で照らされ輝きを放つ美しい髪、貴方の様な可憐な女性が冒険者だと思わず…」




 シンはそんな歯の浮く様な聞くと耳を押さえたくなるイタいセリフをドヤ顔で言う。




(どうだ? こんだけ完璧な言葉を並べれば冒険者であっても許してくれるうえに、間違ったところで怒られる心配もない…)




 前世で恋愛の経験がほとんど無いシンにとって自分が言った言葉がイタい言葉だとは一ミリも思っていなかった。
 いくらイケメンだろうと前世ならば少し引かれていただろうセリフ…




「褒められると照れちゃうな…」




 中性的な人は頭を掻きながら恥ずかしそうな表情をしてほほを少し染めていた。
 この世界においてシンのセリフはイタいセリフではなく、最上級の褒め台詞だった。




「僕は冒険者じゃないから大丈夫だよ、ありがとう、えーと……」


「俺の名前はシンと言います」


「シン、ありがとう、僕の名前はルージュ・レル・オーラだよ」


「ルージュさんですか、美しさが感じれる良い名前ですね」




 ルージュが満面の笑みを浮かべながら自己紹介をする。
 そしてシンがまた褒め言葉を言っていると、ルージュがロックマンの死体を見る。




「シンって……神玉っていう物知ってる?」


「……っ!?」




 ルージュの不敵な笑みから発された言葉に驚き、シンは一瞬で距離をとった。
 そんなシンを見てルージュは不敵な笑みから無邪気な笑みに変わる。




「そんな警戒しなくてもいいじゃないか」


「一体何者だ?」


「自己紹介はしたはずだけど?」


「とぼけるな、神玉を知っているということは神名を持っているはずだ」


「心外だなー、僕は何も隠してないのに……むしろ神名を隠してるのはそっちなんじゃないの? シン・トトさん」




 シンはルージュの言葉で手の甲の模様を見る。
 確かに手の甲には神玉使いの証である模様があるが、それは魔法の神玉の模様がだった。




(魔法の神玉持ちだとばれるのは覚悟していたが、知識の神玉がばれたのはなぜだ…?)




 怪しいルージュを睨みながらシンは考える。
 考えるシンをニヤニヤとした表情でルージュは見ながら話しかける。




「なぜばれたって顔してるね」


「……」


「理由は簡単さ、僕には神玉を見抜ける力を持ってるからね」




 ルージュが言葉を発してもシンが何か反応することはない。




「……」
(それは嘘だろう、わざわざ知っている奴に神玉を知っているかなんて聞かないだろうからな…)


「シンは頭の回転が速いよね、君がロキだったらよかったのにな」


「……」
(ロキ…トトの情報の中にも無いということは神の名前ではないか)


「だんまりなんてひどいじゃないか、世渡人はみんな閉鎖的なの?」


「……!?」




 シンはまたも秘密にしている事を当てられて大きく目を開く。
 神玉を持っている事より知っている人物が少ない世渡人と言う事実を当てられたことにより驚きが隠しきれなかった。




「さて、シンとの会話も楽しいんだけど、僕には用事があるから行くね…」


「…逃がすと思うか?」




 ルージュがシンに背を向けた瞬間、シンは人差し指をルージュに向けた。
 シンの声は低く、殺気がこもっているように感じられた。




「怪しい奴が秘密を知っていて、「はい、そうですか」って逃がすほど俺は甘くない」


「…シンとはは《・》戦いたくないんだけどな」


「ならば正体を吐け、神名を持たないのに神玉を知っているのはなぜだ、俺についてなぜそんなにも詳しい」


「質問すれば何でも返えすほど、僕も甘ちゃんじゃないよ」


「そうか……なら口止めするしかないようだ、上級雷魔法【雷撃】」




 シンの指先に魔力が集まると同時に雷が発射される。
 ルージュはバク転をするかのように体を地面と平行になるような飛び方をして攻撃を避けた。




「上級拳技【重拳】」


「上級無属性魔法【障壁】」




 ルージュが空中で上手く体を使いシンに攻撃を放つ。
 シンは魔力で壁を作り出しその攻撃を防いだ。そして、ルージュは一旦、シンから距離を取った。




「どうした? 逃げないのか?」


「僕が逃げたら後ろから攻撃するんでしょ? 不可能に近い行動をするほど僕も馬鹿じゃない」


「戦闘がお望みか…」


「【タロットカード】」




 ルージュはそう言いながら目の前にカードの束を出現させる。
 シンは何かのスキルだということを理解し、体の魔力を少し上げる。




「魔法は君のが有利だからね、No.2【女教皇】」




 ルージュがカードの束から一枚のカードを引く。
 そのカードはすぐに光に変わり、ルージュの体を包み込んだ。




「……」
(何をしたんだ?)


「じゃあ、行くよ!」




 ルージュがシンとの距離を詰め近接攻撃を仕掛ける。
 シンは初撃をかわし、ルージュに人差し指を向ける。




「上級爆裂魔法【爆発エクスプロージョン】」




 シンの指先で大きな爆発が起き、爆発がルージュを飲み込んだ。
 完全に魔法が直撃したシンは勝負が決まったと思った。
 しかし…




「上級拳技【列脚】」


「なにっ…!?」




 煙の中から現れた蹴りを驚きながらもギリギリでシンは避ける。
 そのシンを追うように現れた二発目の蹴りをシンは両手でガードした。




「近接戦闘もいけるの? すごいね」


「何故その程度の傷で済んでいるんだ…!」


「No.2【女教皇】は魔法から受けるダメージを二割に軽減するっていう能力なんだ」


「随分と強力な能力じゃないか」




 シンはルージュの足を手からどかしルージュから距離を取る。
 ルージュの能力の説明を少し疑いながらも嘘をついていないことはわかっていた。




「シンも近接ができるのは想定外だったなー、あんまり使いたくないけど使うか…」




 ルージュが呟くと、またカードの束が目の前に出現した。
 その束から再度カードを一枚引く。




「No.8【剛毅】」




 ルージュが引いたカードは光となって消え、ルージュに吸収された。
 見た目に変化が無いルージュを見て、シンは警戒をする。




(どんな能力が来るかわからないからな…)




 警戒しているシンを見て、ルージュは先ほどより遥かに速いスピードでシンに近づいた。
 異常なまでのスピードアップに驚きながらもシンはルージュからは目を離さない。




「上級拳技【重拳】」




 ルージュの鋭く重い一撃をシンは合気道を使い地面に叩きつけた。
 …はずだったが、ルージュはいつの間にか手の中からいなくなった。




「どこだっ!」




 シンはルージュから感じられる小さい魔力を感じ取る。
 本来なら優秀な魔法使いでも大きな魔力を持ったものではないと感知はできない。
 しかし、魔力に敏感なシンは魔法使いではないルージュの魔力も感知することができた。




「下か!戦術級爆裂魔法【業爆】」




 シンが三本指を広げ魔法を発動すつと大爆発が起きる。
 大きなクレータができたが、そこにはルージュの姿はなかった。




「僕も魔法が使えないわけじゃないからね」




 ルージュが使ったのは【風身】と言う魔法で、風の分身を作るというものだった。
 シンが感知したのはその分身から出る魔力だった。では、なぜ本体のルージュは見つけられなかったのか。




「君の感知能力は素晴らしいけどさ、魔力を使った感知方法でしょ? 僕の【女教皇】は正しくは魔力の阻害だからね、君の感知能力は効かないわけだよ」


「…教えてくれるとは、親切じゃないか」


「褒めても大して変わらないからね、それに…教えた方がいい場合もあるしね」


「……」




 ルージュの言葉でシンは黙りこむ。




(確かにそうだ、これで俺はルージュの感知に諦める、そして感知した物は魔法と認識するがルージュが【女教皇】を解除した場合、俺は魔法だと思って対応してしまう可能性がある。これは注意しても生物上、魔法を後回しにしてしまう。言われなければこうはならない……)




 シンは想像以上に賢いルージュの戦い方に額に汗を流す。
 少し困った表情のシンを見ながらルージュは笑顔になる。




「だから【剛毅】の能力も教えてあげる、【剛毅】はATK・DEF・AGIを上げる能力だよ」


「なるほどな、魔法を軽減して自分は近接能力UPか」


「正解~、【剛毅】は疲れるからあんま使いたくないんだけど、シンが相手じゃ仕方ないからね」




 ルージュがそう言うとシンに近寄り攻撃を仕掛けた。
 シンはその攻撃を何とか避け、魔法で反撃をする。




「上級爆裂魔法【爆発エクスプロージョン】」




 その爆発をルージュは両手でガードした。
 二本指で放った魔法が効かなかったシンは少し焦ったかのような表情になる。




(予想以上だな…防御力を強化したうえに二割に軽減されたとはいえここまで効かないとはな…)




 シンは風魔法を使いルージュから距離を取った。
 そして目を瞑りながらつぶやき始めた。




「…こっちも力を見せる必要があるようだな」




 シンがそう言うと同時に魔力を二倍以上に上げる。
 今までも普通の魔法使いに比べた場合、異常なほどの魔力だったが、それでも足りないとシンがルージュを評価した証拠だった。




「凄い魔力…これは厳しくなりそうだね」




 シンには魔法で【身体能力強化】と言う物があるが、それは使わないと決めていた。
 その理由は【身体能力強化】は動体視力と体幹だけを強化するものだったからである。
 その二つを強化したところで今の現状は大して変わらないうえに、剣士でもないルージュに使っては剣士に勝てないと言った意気ごみからだった。




「長期戦になると体力的に僕が不利だからね!」




 ルージュが大声を出しながらシンに襲いかかる。
 シンは向かってくるルージュをしっかりと見ながら、攻撃範囲に入るまで待つ。




「初級光魔法【発光フラッシュ】」




発光フラッシュ】…消費した魔力に比例して光を出す魔法。
 シンは大量の魔力を使い、凄まじいほどの量の光を出した。




「うっ…!」




 近くにいたルージュは強烈な光によって目を押さえる。
 人間は予想していないまぶしさには対応できない生物である。




「二割にしても、強力な魔法ならダメージが通るだろ」


「……!?」




 シンは指を全て広げた右手をルージュに向ける。
 魔法使いではないルージュでも感じ取れるほどの魔力が手に集まる。




「少しまずいかもね…」


「災害級爆裂魔法【地獄の爆発ヘルボム】」




 ルージュがそう呟くと同時にシンの魔法が放たれ大爆発が起きる。
 爆発の影響で爆風が吹き荒れ、地面が少し揺れた。




「……!?」




 シンの目の前には凄まじい大きさのクレータができ、そこにはルージュの死体がある。
 …となるはずだった。しかし、ルージュが先ほどまでいた場所はギリギリ爆発の範囲ではなかった。




「ま、まさ…か…!こんな…方法でかわすとは!」




 シンは右腕の関節を押さえ、歯を食いしばりながら言う。
 爆発が右側にずれた理由…それは右腕の関節が無理やり逆側に曲げられていたからである。




(逆側に曲げることによって森側には被害を与えずに逃走を図ったわけか…魔力を感知できないのは厄介だな…)




 シンは倒せる相手を逃がしたことに悔しさを覚えていた。
 そして思い出したかのように馬車の安否を確かめる。




「よかった…あれが無いと詰むからな……戦術級光魔法【上回復ハイヒーリング】」




 シンが回復魔法をかけると、みりみる傷が治り、すぐに完治した。




(しかし、どうやって俺の関節を曲げたんだ? 攻撃された感覚はなかったんだがな…)






 ◆






 森の中を歩くルージュは右腕の関節を押さえながら歩く。
 そして手負いの獲物を狙うオオカミの魔物がルージュの目の前に現れる。




「運が良かった、これでカードが引ける…」


「グルゥゥゥ!」


「【タロットカード】」




 襲いかかってきたオオカミの攻撃を避け目の前にカードの束を出現させる。
 そして束からカードを一枚引く。




「No.3【女帝】」




 カードが光となりルージュを包むと、ルージュの傷が一瞬で完治した。
 そして一回避けられたのにもかかわらず攻撃してきたオオカミをカードを使って殺した。




「HPとMPを完全に回復させるカード、勝負が始まらないと引けないからね」




 ルージュはカードに付いたオオカミの血を振りはらいながら呟く。
 そして天を見て笑いながら言う。




「No.6【恋人】対象に設定した男女1組のダメージを「同期」させる能力で今回は何とかなったけど、シンとはもう戦いたくないな…」




 そして前を向いて歩き始める。




(そういえば短髪なのに僕の子と女ってわかってたな……あんな褒めてくれるなんて久しぶりで嬉しかったな…)




 ルージュがシンに褒められた顔の肌を触り、髪を触りながらそう思う。




「少し女っぽく髪を伸ばしてみようかな? …なーんて」




 可愛らしい笑顔を浮かべながらそう呟く。
 そして振り返ってシンとあった場所を見る。




「ロキに会うために南に行かないとね…」




 そう言ってルージュは南へと歩き出した。

「ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く