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ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

折れた正義(シン編)

 
 ジュエリニアを離れてから一週間…少し日が暮れ、舗装された道路を馬車が走る。
 その馬車の中にいるシンは頭の中にあるトトの情報を整理していた。




(そろそろグエルに着くはずだ…)




 シンがそんなことを覆っているとグエルの門に到着する。
 本来ならば検問されるが、貴族の印が描かれた馬車の為、検問なしで入国できた。




「今日はここで宿泊するか」




 シンはそう呟いて馬車の外に出る。
 そして隠蔽魔法を自分と馬車にかけてから魔法を発動する。




「空間魔法【ゲート】」




 シンが魔法を発動すると馬車の舌に大きな黒い円が出現し、馬車を閉まった。
 そして、隠蔽魔法を解除して、少し町を探索した。




(お腹は減らないがトトの情報にあったグエルの名物料理を食べてみたいんだが…)




 シンはグエルの名物料理グルルという柔らかい皮で肉を包み、餡のようなドロドロとした味の濃いスープで煮た料理。
 その料理をどうしても食べたいシンは宿を取るのも後回しにして、グルルを探す。




「どこにもないな…少し遅かったか?」




 時間が無いシンにとってグルルを食べるのは今日しかなかった。
 シンは大通りにはないことを悟り、少し寂れた道に行く。




(この国の法律がどうなっているかは知らないが大通りに出せるのは経営権を持つ店だけだろう。そこに無くとも寂れた場所なら経営権を持たない店がやっている可能性がある)




 シンがそんなことを考えながら寂れた道を歩くと、どこからか良い匂いが流れてくる。
 その匂いに気が付いたシンは匂いの元に少し急いで向かう。




「…あった」




 角を曲がるとそこには中学生程の男女が運営している屋台があった。
 そしてその屋台には探していたグルルがあった。




「今日も売れなかったか…」


「仕方ないよ、孤児だからって大通りの経営権がもらえないんだから」


「くそっ…ウル兄のためにもお金が必要だってのに…」




 屋台を経営している男の子が頭を抱えながらため息をついていると、隣にいた女の子が慰めるように近寄り声をかけた。
 そんな二人にシンがやさしい声で声をかける。




「三つ頂けるかな?」




 シンがお金を差し出しながらそう言うと二人は少し驚く。




「あ…ありがとうございます!」




 男の子の方が勢いよく頭を下げた後にグルルを器によそった。
 女の子の方はシンから渡されたお金を計算してお釣りを渡した。




「お、おまたせしました…」




 男の子が一つづつシンに器を渡していく。
 その器を受け取ったシンは二人の顔を見て、優しい顔を向ける。




「お腹すいているんだろ?一緒に食べないか?」


「え…?」


「一緒に食べたほうが美味しいしな」


「でも…」




 シンの誘いを断るように両手を向ける。
 それと同時に二人のお腹が「ぐぅぅ~」と鳴った。




「食べてくれないと二つ無駄になってしまいそうだから食べてくれるとありがたいんだが…俺を助けるためだと思って食べてくれないか?」


「「は、はい!」」




 二人はシンからグルルを受け取るとよりお腹を鳴らす。
 そしてシンが食べるように合図を出すと勢いよく食べ始めた。




(美穂を思い出すな…どうもこっちに来てから美穂をよく思い出してしまう、俺もさびしがり屋ってことか…元気にしているといいんだがな)




 シンは二人を優しい笑みを浮かべながら見つめ、グルルを食べる。
 食べ終えると2人はシンに頭を下げてお礼をした。




「「ありがとうございました!」」


「そんなかしこまらないでいいよ、俺が頼んだことだから」




 頭を下げてくる二人に顔を上げるように言った後に、紙でできた器を炎魔法で燃やす。




「魔法……」


「じゃあ、急がないとだから俺は行く、美味しかった」


「はい、本当にありがとうございました!」




 シンの魔法を見て女の子が聞こえない程度に呟く。
 そんなつぶやきに気が付かないシンはこの場を離れようとした。




「ま、待って下さい!」


「……?」




 宿を探しに行こうとするシンを女の子が止めるように声をかける。
 シンは立ち止り、振り返ってなぜ止めたかを聞こうとする。




「あ、あの…もしよかったら私たちの家に来て頂けませんか?」


「サラ、何言ってるんだ!?す、すみません…気にしないでください」




 女の子…サラの言葉でシンの顔は笑顔から真剣な表情になる。
 その顔の変化でシンが怒ったと思った男の子はすぐに謝る。




「ノイア…この人ならウルさんを助けられるかも…」


「何でそんなことが言えるんだよ」


「シーカ先生が言ってた、私より高度な魔法使いならば治せる可能性はあるって」


「お客さんは確かに魔法を使ってたけど、シーカ先生を超える魔法使いんて簡単にいるわけないだろ」




 男の子…ノイアとサラがこそこそと話し合う。
 その二人の様子を見ながらシンは考える。




(何か事情がありそうだな…俺に出来ることならば手を貸したいが時間がかかることなら俺には無理だ…)




 迷いながらもシンは二人に話しかける。




「何か事情があるんだろ?時間が掛からないことなら手をかす」


「本当ですか!?」


「食べたかったグルルが食べれたからな、それの恩返しだ」


「でも…孤児院には歩いたら二日ぐらいかかるし」


「そうだった…」




 ノイアの言葉に反応しサラががっかりとした表情になる。
 その二人の様子を見たシンはどうにか方法を考える。




「孤児院ってのは南の方向か?」


「いえ、東の方向です…」


「そうか…南の方向なら行っても問題はなかったんだがな…」


「やっぱり無理か…」




 ノイアが下を向きながらつぶやくと、サラが何か思いついたように顔を明るくする。




「ノイアの【空間倉庫】を使うならどう?」


「そうか!もう一つの穴があっちに繋がってるから入れば…!」


「うん、危険だからあんまり使っちゃダメって言われてるけど、今回ぐらいは仕方ないよね!」


「お客さん、俺たちについてきてくれますか?」


「明日までに帰ってこれれば問題はない」




 シンがそう言うと、二人は向き合って頷く。
 そして、ノイアが【空間倉庫】を使い、屋台をしまうと同時にその中に入った。
 シンも二人が入ったのを確認すると、黒い円の中に入った。






 ◆






 森の中にある孤児院に着いたシンはサラに話しかけられる。




「お客さんの名前を聞いてもいいですか?」


「そうだったな、俺の名前はシン」


「シンさんですね、では案内します」




 サラがそう言いながら孤児院の扉を開く。
 少し古い様子が見られるがよく掃除がされていて綺麗だった。




「ノイアとサラ、今帰りました!」


「帰りました!」




 二人が大声で玄関で叫ぶと奥から大人の女性が走って向かってきた。
 その女性はアリア…ウルとテリーを目の前で失った女性だった。




「お帰り……その人は?」


「この人は…」




 二人がアリアに質問をされると、都市であった事を話した。
 最初はシンを疑いの目で見ていたが、段々と感謝に変わっていった。




「そうでしたか…二人をありがとうございます」


「いえいえ、それで自分に何か用事があるといった感じでしたが、何をすればいいのでしょうか?」


「こちらで説明します…」




 アリアは呟きながら三人を二階の部屋に連れていく。
 部屋のドアを開くと、そこには椅子に座っている男性の背中があった。




「一年ほど前にこの孤児院が襲われる事件がありまして、襲撃者を撃退するために用心棒だったウルが迎え撃ちました」




 アリアはウルの近くに行きシンにそう話す。
 そしてノイアとサラもウルの近くに移動して話しかける。




「ただいま!ウルさん!」


「今日はいろいろあったんだぜ!優しいお客さんがさ…」




 二人がウルに話しかけてもウルは何の反応もなかった。
 アリアは楽しそうに話す二人と違いその様子を見て強く拳を握っていた。




「シーカ先生が偶然立ち寄ったことで撃退には成功しました。職員の一人は死んでしまいましたが、ウルはスキルの一つを使い生き返りました」


「……」


「ですが、相手の攻撃はっ…!」




 アリアが椅子をゆっくりとシンの方向に向けた。
 シンの目に映ったのは口を開け、生気が無く、焦点の合っていない目をし、力のない人形のようなウルの姿だった。




「ウルの…ウルの精神を殺しました…」




 シンは予想以上の重い雰囲気にのまれそうになる。




「お願いです…ウルを助けてください!お金はありませんが、何でもしますのでお願いします!」


「「お願いです!」」




 アリアが土下座をしながらシンに頼みこむと他の二人も頭を下げながら頼んだ。
 本当は三人はシンがシーカを超える魔法使いだと思っていない。
 しかし、小さな希望にすがりつかなければならないほど追い込まれていた。




「…頭を上げてください」




 シンはそれを見て頭を上げるように言う。
 三人は「無理です」と断られる覚悟をしながら頭を上げた。




「自分にできる限りのことはやってみます」


「ほ、本当ですか!?」


「はい、ですから土下座はやめてください…子供たちが見てますから」




 シンが指をさすと、扉の後ろには小さい子供たちがアリアを見ていた。
 そして、シンはウルに近寄り観察をする。




(植物状態か…しかし、この世界に来てわかったが脳と精神は別物で前世の植物状態は脳死の状態だったが…今回は脳が動いているから生命活動はできているわけか…トトの情報の中にはヒントがあった…)




 シンはウルの頭に手を置いて魔法を発動する。
 その魔法は【検知ソナー】という魔法で、治療に役立つ魔法。




(精神が破壊された状態からの回復方法はただ一つ、精神を作り直す方法…その方法なら時間をかければ自然に治る、しかし、記憶は戻らない…全く違う人物に生まれ変わるってことだ)




 シンはアリアに他の人たちは部屋から出すように言った。
 サラとノイアは抵抗したがアリアの真剣な眼差しに折れ、部屋の外に出た。




「ありがとうございます」


「それで、話と言うのは…」


「治すことはできます」


「本当ですか!?」


「はい、ですが後遺症として記憶を全て失ってしまいます。戦闘はもちろん、言語や自分の名前まで」




 シンの言葉を聞いたアリアは拳をさらに強く握り悲しそうな顔をする。
 しかし、シンの目からは決して目を離さなかった。




「生憎自分にはその方法でしかウルさんを助けることはできません。しかし、自分以外の方法を知っている人物がいないとも限りませんから、自分の方を断ることも選択肢の一つです」


「それでも、お願いします」


「……本当にいいんですか?」


「はい、シンさんが来てくれたこと自体が奇跡なんです。ウルがウルじゃなくなっても普通に生きてくれれば私は幸せですから」


「わかりました、では始めさせていただきます」




 シンはウルの顔に両手を向けて、魔力を集める。
 人間の精神の代わりになるほどの魔力は凄まじい量で、はっきりと目に見えるほど濃密だった。




「固有魔法【精神世界】」






 ◆






 シンは白い空間にポツンと立っている。
 そのシンの目の前には剣を背負った金髪の青年がいた。




『君がウルを助けに来てくれたのか?』


(…薄々は気が付いていたが神玉持ちだったか)


『よかったよ、俺の力じゃ魂を回復させることはできないからな』


(なぜ神玉を持っていながら倒されたんだ?)


『簡単な話だ、相手も神玉持ち…いや、神玉持ちの状態だったらここまで酷いことにはならなかった』


(まさか【神玉解放】を使っていたというのか?)


『違う、神が表に出てきていたんだ』




 シンは目の前の男の言葉に驚いた。




(表に出てきたってのはどういうことだ?)


『一部の神は無理やり体を奪い、この世界に現れることができる』


(神の力は神玉使いより強いのか?)


『そうでもない、神も乗っ取る体との相性がすごく良くないと力を発動すらできない』


(そいつらは相性が良かったってことか)


『そういうことだ、神にやられて精神を完全に破壊された、このままじゃ俺も消えてしまう。だから助けてほしい』


(事情は理解した、善処しよう)


『ありがとう…』




 シンの目の前にいる男がそう言うと白い空間に消えていった。






 ◆






 シンが目を開けると、そこには生気を取り戻したウルがいた。
 自分の魔法が成功したシンの横を通り抜け、アリアはウルに抱きついた。




「ウルっ!」


「……?」




 ウルが首をかしげてアリアを知らない人を見るような目線で見つめている。
 それを見たアリアは悲しそうな顔でウルの胸に顔をうずめた。




「シンさん…ありがとうございました、いつかお礼をしますので」




 悲しそうな顔を一生懸命笑顔に変えてシンにそう言った。




「今日泊まる部屋が無くてですね、ここに泊らせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「そ、そんなことでいいんですか?」


「はい」


「わかりました、精一杯もてなします!」




 その後、シンは孤児院の職員にもてなされ楽しい夜を送った。
 しかし、シンは隅でウルの介護をしているアリアの姿が気になって仕方が無かった。

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