ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜
魔法(シン編)
シンが手を向けると同時にクルスがダッシュで距離を詰める。
「戦術級雷魔法【雷流】」
「力を貸せ【風の精霊剣】」
シンの指先から放たれたた雷の塊を風を纏わせ緑色に変化した剣で真っ二つにする。
その勢いを殺すことなく、シンに攻撃を加えに行く。
「中級剣技【連撃】」
「戦術級闇魔法【闇渦】」
冒険者の男とは比べ物にならないほど鋭い連撃をシンに向かって放つ。
攻撃が届く瞬間にシンは闇の渦をクルスの後方に作り出し、距離を強制的に取らせる。
(レイドの仲間もそうだが風で魔力を荒れ狂わせる俺の【強風】の中で魔法が使えるとは……神玉使いは一味も二味も違うな……)
無理やり後ろに引っ張られ体勢を一瞬崩したが、すぐに立て直しシンに手を向ける。
何か攻撃が来ることを察知したシンは目を大きく開く。
(今の俺でも精度は低くいが先読みはできる……魔力の流れと真剣な目つき、それにしては何か心で笑っているかの様子……大技か?)
シンは大技が来ると予想し、防御の魔法を展開する。
「上級無属性魔法【魔法障壁】」
「避けることは諦めたか、賢明な判断だな……!風精霊魔法【激風槍】」
吹き荒れる風が全てクルスの手元に集まり槍の形になる。
そしてクルスは槍を掴み、シンに向かって投げつけた。槍は壁を貫きシンの体を貫いた。
「ちっ……!分身か!?」
貫かれたシンは散り散りになり空中に消える。
分身だと気が付いたクルスはシンを探すようにきょろきょろと周りを見る。
「戦略級雷魔法【落雷】」
「…………!?」
上から聞こえた声に反応しクルスが上を見る。
そこにいたシンが三本指を立てながら腕を振ると、クルスに雷が落ちる。
「風精霊剣技【風嶺】」
クルスが剣と纏われている風を巧みに扱い雷を全て流そうとする。
しかし、凄まじい威力の雷に対応しきれずに直撃してしまう。
「ぐっ……」
威力を軽減したとはいえ直撃したクルスは膝をついた。
魔道具をつけていると思っていたシンはクルスに近寄る。
「大丈夫ですか!?」
「……外せ」
「え……?」
「魔道具を外せ、普通の練習は終わりだ、神玉を解放しろ」
クルスが不敵な笑みを浮かべながら言う。
「無駄に魔道具を壊すのはもったいないからな」
「本当にやるんですか……」
「当たり前だ、お前もそのつもりで来たんだろ」
「…………」
クルスにそう言われたシンは魔道具をはずしポッケに入れる。
それを確認したクルスはシンから少し距離を取り、首の模様を抑える。
「風の力よ、今こそ解放しろ【勇者解放】」
クルスの模様が光り出した瞬間、風の精霊が目視できるようになる。
その風の精霊は風へと変化し、クルスに纏う。
「さぁ、お前も解放してみろ」
クルスが笑いながらシンも【勇者解放】を使うように指示する。
初めて使うスキル【勇者解放】……どの程度の力が出るかもわからないシンは躊躇っていた。
(もしかしたら俺は使えないかもしれない、使えたとしても力に変化が現われなかったらどうする?そもそもどっちの神玉を使えばいいんだ?)
シンはトトからの情報を探る。
そんな事を考えているシンにクルスが話しかける。
「何を迷っているかは知らないが、迷っていて答えが出るほど世界は簡単じゃない」
「…………」
シンは話しかけてきたクルスの方を見る。
(そうだ……この世界に俺の知識は基本的に通じない、なら試すしかないじゃないか……失敗したらその時に対策を考える……)
シンは手の甲を見る。そこにはトトの神玉の模様ではない模様が描かれている。
その模様は魔法の神玉の模様だということをシンは知っていた。
(魔法の神玉は知識の神玉より適性が高い、だから俺の手の甲の模様が神玉に変わった……知識より高いなら解放率もきっと高いはずだ……)
シンは覚悟を決めた表情で手の甲を見る。
ようやく神玉を解放する気になったシンを見てクルスは少し笑顔になる。
「ようやくか……」
「魔法の力、今こそ解放しろ【勇者解放】」
シンが【勇者解放】を使った瞬間、魔力がシンから勝手に溢れだすほど魔力が増える。
想像以上の異常なまでの魔力量にクルスは少し後ずさる。
「なっ…………想像以上の力だ」
この魔力量に驚いているのはクルスだけではなかった。
シン自身もコントロールできないほどの魔力に驚いていた。
(これほどの魔力をコントロールするのは至難の業だな……集中しなければ……)
シンが目を瞑りながら集中してあふれ出る魔力を自分の体に抑え込もうとする。
少しづつシンに魔力が集まり、ついに魔力が垂れ流しになることはなかった。
(あれだけの魔力を押さえこみやがった……シンから感じれる魔力は既に…………)
やっと本気になったシンに喜びながらもクルスは少し恐れていた。
そしてシンは準備はできましたとばかりにクルスの目を見た。
「じゃあ、行くぜ!」
クルスが風を放出させ一瞬でシンに近づく。
向かってくるクルスにシンは二本指を向けて魔力を集める。
「戦術級爆裂魔法【業爆】」
「風精霊剣技【風道】」
シンの魔法によりクルスが爆発に襲われる。
その爆発を剣で作り出した風の道を通らせ、後ろに全て流した。
「風精霊剣技【風の舞】」
「戦略級炎魔法【火炎葬】」
クルスが攻撃範囲に入った瞬間に踊るような剣技を放つ。
シンはその瞬間に手を地面に向け魔法を発動し、凄まじい範囲を炎の海に変える。
「風精霊魔法【風上】」
炎に包まれかけたクルスが魔法を発動すると近くにあった炎が全て上空に舞い上がる。
それの影響により、傍からは炎の渦が天まで伸びているように見えた。
炎の渦の中にいるクルスが厚さなど気にもせずに外に出て、シンに攻撃を放つ。
「風精霊剣技【風の舞】」
「戦略級闇魔法【超重力】」
シンが二本指を向けて放った魔法によりクルスは地面にたたきつけられる。
と、シンは想像していたが神玉によって強化されたクルスは少し体勢を崩す程度だった。
「甘いっ!風精霊魔法【爆風】」
風を凝縮した玉をシンの目の前に出現させ、風を解放させた。
突如として起こった爆風にシンが吹き飛ばされる。
(攻撃は剣がメインか?魔法は確かに威力はあるが殺傷能力はない……剣を警戒しておけば大丈夫か?)
地面が近くなるとシンは魔法を使い衝撃を軽減して綺麗に着地する。
そして追撃の為に向かってきたクルスに手を向け攻撃の準備をする。
(長期戦になれば消耗しない点を含めこっちが不利だ……一発一発で勝負をつける気でなくては……)
シンは三本指を広げ今までより多い魔力を集める。
「戦略級雷魔法【落雷】」
シンが腕を振るとクルスに向かって雷が落ちる。
その落雷をクルスは認識してから横に移動し避ける。
(中途半端な一撃じゃ駄目だ……だがあまり大技を使えば離れているとはいえ都市に迷惑がかかる可能性がある……)
シンが都市の心配をして魔法を押さえているのに気が付いたクルスは叫ぶ。
「安心しろ!少し程度の影響なら俺の従者が何とかするからな!」
「しかし……」
「本気で来なければ俺から行くぞ!風精霊魔法【風龍】」
クルスが叫びながら手を向けは魔法を放つ。
風が集まり龍の形になりシンに襲いかかる。
(この角度は避けた場合都市にぶつかってしまう……それほど従者を信頼しているということか?ここまで躊躇いが無いということは本気なんだ……本気で俺と戦うつもりなんだ……)
シンは向かってくる風の龍に五本指を広げた手を向け魔力を集める。
「龍には龍だ……災害級雷魔法【雷龍】」
シンの手から放たれた雷の龍が風の龍とぶつかり相殺した。
龍と龍のぶつかり合いによって大きなクレーターができる。
「本気で行く……」
シンがそう呟いて左手を広げクルスに向ける。
今までよりはるかに多い魔力が集まっていることを察知したクルスは急停止し攻撃に備える。
「来るか……大技が……」
「災悪級土魔法【隕石】」
シンが魔法を発動した瞬間、シンの手にあった魔力がクルスの真上に移動し石を作り出す。
その石……隕石の大きさは10mほどの大きさだった。
(おいおい、マジかよ……あのレベルの大きさを防ぐにはあれ使うしかないか?)
クルスは予想以上の大きさに焦りながらそんなことを考える。
シンを攻撃する方法も考えたが、それでは練習にならないと思い却下する。
(とはいえ、あの大きさを放っておいたら国際問題だよな、仕方ない、使うか)
クルスから吹き荒れていた風が一気に穏やかになる。
何か起る事を悟ったシンは目を見開いて観察する。
「いつか起きる戦争にお前は必要かもしれない、一瞬しか使えないからよく見ておけ、風の力、今こそ魂と融合しろ【神玉解放】」
神々しい雰囲気がクルスを纏い、目が緑色に変わる。
荒々しさはないが内なる力の量が明らかに違うことはシンにも分かった。
(あれがトトの情報にあった稀に表れる神玉使いの中でもすぐれた才能を持ったものが使えるという【神玉解放】……その力は%では少ししか差が無いと思われているがその差は大きい……確かに異常なまでの差があるようだ……)
感嘆のため息をもらしながらクルスを見ているシン。
そんなシンを少し見たクルスはすぐに隕石に目を移し、隕石に手を向ける。
「さて、時間が少ししかないんでな急がせてもらう、風精霊魔法【風龍】」
先ほどの龍の何倍も大きい龍がクルスの手から発生し隕石に向かって放たれる。
風の龍は隕石に近くなると大きく口を開け隕石にかみついた。
「砕け散れ!」
クルスが叫びながら手を握りつぶすと龍は口を閉じ隕石を砕いた。
砕かれた隕石の欠片は消えることなく地面に降り注ぐ。
「まずい!」
シンはそう言って魔力の供給を止める。
その瞬間、散らばっていた隕石の欠片は消滅した。
「ふぅ……やっぱこれは疲れる」
クルスが呟きながら【神玉解放】を解除しその場に座り込んだ。
そしてシンの方向を向いて話しかける。
「これ以上激化すると流石に怒られるから終わりにしようぜ」
「自分もこれ以上は、と思っていたのでよかったです」
「多分、俺の従者が来るからそれまで待ってようぜ」
クルスがそういうとシンもその場に座り込んだ。
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