ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

倉間 真(シン編)

 
 逃げてきた幹部たちは特殊な魔法が掛けられている丘の上にいた。
 魔法障壁を何重にもできる魔法道具が埋め込まれているため、いかに強力な魔法も至近距離で放たれなければ壊すことはできないうえに、認識阻害魔法が掛けられており丘自体認識できないため無敵の場所とされている。
 しかし、角度敵に魔王城が邪魔で神と魔王の戦いは見えない。




「一体なにが起きているというのですか!」


「あんな威力の魔法出せんのは神話級の魔物じゃないのか?」




 ブラックがシンが放った隕石を見ながら叫ぶ。
 近くにいる幹部たちも隕石を見ながら険しい顔をしていた。
 ただ一人を除いて…




(父さん…俺はわかってる、放ったのは神玉使いなんでしょ?そいつが近づいてきて、父さんと母さんが戦うって言った時に分かったんだ、父さんと母さんとはここでお別れだって。でも二人とも顔に悔しさは無かった、だからあいつを選んだ運命を恨まないよ)




 ホワイトだけは冷静に隕石を見ていた。
 そして幹部たちは隕石から目線を下げる。




「とはいえ、仲間の人族軍もろともとは恐ろしいですね」


「あぁ、なんの合図もなしに撃つとは人族じゃない可能性が高い」




 目線の先には逃げる魔王軍と人族軍の姿があった。
 両軍とも冷静の言葉は無く、撤退に必死だった。




「人族は守りに入っていたため撤退に時間はかかりませんがこちらは厳しそうですね。人族も運が良いことです」




 仲間が死ぬというのにこの冷静さは流石は幹部と言った様子だった。
 幹部にとって有象無象の魔族は自分たちでも生み出せる駒のようなものだった。






 ◆






 魔王は大きさに比例して速度が落ちるという【隕石メテオ】の特性を理解しており、熟考していた。




(あの大きさを維持するためにはシンとは言え動けないはずだ、ならば逃げるのが得策だと思うが、隕石は動かすことができる。無理に逃げて丘に被害が及ぶのは避けたい。そうすると着弾する前にできるだけ威力を削るのが正解か…)




 魔王は自分が作り出した壁から出て、手を天に向ける。
 本来ならシンが妨害するはずだが、魔王の予想通りシンも身動きができなかった。




「動けないのは正解か、だが魔法障壁に何か細工をしているはず、自滅は見込めないな、火の精霊よ、天まで燃やせ、災害級炎魔法【天炎】」




 魔王の魔法によって出現した炎の柱が隕石に向かって放たれる。
 それが直撃したが、表面が少し削れた程度で何も影響は無かった。




「なんて強度だ…!」


「はっはっはっ、もっと見せてくれ、抵抗してくれ」




 シンはいろんな魔法を試す魔王を見ながら高らかに笑う。
 余裕のあるシンとは反対に魔王は段々と消耗していく。
 しかし、肝心の隕石は少しも壊れる気配はなく、依然として魔王に向かっている。




(おそらく幹部たちは丘に着いたはずだ、時間稼ぎはいらない、だがもう少し消耗させなければ丘に向かってしまう、この一発は何とか耐え、もう一回これぐらいの大技を使わせなくては)




 魔王は歯を食いしばり再度隕石に手を向け魔法を放つ。
 その様子を心底楽しそうにシンが見る。その瞬間、シンに向かって金属の槍が飛んでくる。
 それをシンは舌打ちをしながらギリギリで首を動かし避けた。




「はぁ…はぁ…」


「生きていたかっ」


「シルバー!」


「あなた、私の魔法…金属魔法は発射された瞬間普通の金属になりますので魔法障壁を突破できます。こいつの気を引けば隕石が不安定になるはずです…その瞬間に魔法を直撃させてください」




 シンも予想外のシルバーの生存…魔王にも可能性が生まれる。
 シルバーはボロボロの体で魔法を放ちシンの気を隕石から遠ざける。




「闇の精霊よ、世界をさながら暗黒にする長の力に欠片を持つ精霊よ、犠牲払ひ生けるくらき物どもに闇の世界を見せまほしき、災厄級闇魔法【暗黒】」




 魔王が魔法を放った瞬間、大陸の空が黒い闇に覆われたと思うと、その闇が隕石に集まって行く。
 そして完全に包み込んだと同時に魔王が手を握ると隕石が砕け散った。




「はぁ…はぁ…はぁ…」




 隕石を砕いた魔王は魔力が切れたのか膝をついて地面を見る。
 そしてシンの方を見ると、そこには首を絞められているシルバーの姿があった。




「ぅ…ぅ……!」


「シルバー!」




 シンの表情から笑顔はなく怒りをあらわにしていた。
 首を絞められているシルバーは抵抗するも魔力切れを起こした上に魔法使いとあって、解けることは無かった。




「まってろ…」




 何とか立ち上がった魔王がゆっくりと助けに行く。
 それを見たシンは首から手を離し、魔王に向かってシルバーを投げた。
 シルバーをキャッチした魔王はそのまま倒れてしまう。それを見下すシンは手を向ける。




「猿が調子に乗りやがって、ケリつけてやる」




 シンの手に魔力が集まり魔法を放つ準備をする。




(まだシンは魔力に余裕がある、後一発大きな技を撃たせなければ…俺がここから離れれば大技を使う可能性はある。しかし、シルバーを置いてはいけないうえに俺も早くはもう走れない)




 魔王はシルバーを抱きしめ死を覚悟する。シルバーも魔王を抱きしめ返した。
 その二人に容赦の欠片もなくシンが魔法を放つ。しかし、その魔法が魔王に届くことは無かった。




「…どこのどいつだ?」




 魔王とシンは人の気配がする方向を見る。
 そこには赤色の宝石が付いているネックレスを付け魔道具に座っているレイヴと押しているセバスチャンの姿があった。




(レイヴ…シン、残念だったな、レイヴが来た以上いくらお前でも勝つことはできない、運は俺を味方したようだ…)




 魔王は一瞬で笑顔になり、シンを見る。
 シンはというと、感じられる異常なまでの強者の雰囲気に汗をかく。




(なんだこいつは…異常だ…あの執事服の爺の力…)




 シンはレイヴではなくセバスチャンを意識していた。
 それもそのはず、レイヴからは強者の雰囲気は感じられないがセバスチャンからは感じられたからである。




「…いくら強いとはいえ猿が俺の邪魔をしたことに変わりは無い、戦略級雷魔法【落雷】」




 シンが五本指を広げ魔法を発動すると二人に雷が落ちる。
 雷が直撃し、砂煙が立つ、そして砂煙が無くなると、そこには無傷の二人が立っていた。




「……」




 二人は砂煙によってできた汚れを手で落としながらシンを見る。
 そしてセバスチャンがレイヴに何かを耳打ちするとレイヴは小さく頷く。




(無傷だと…何か魔法を使った様子もなければスキルを使った様子もない、一体なにが起きたんだ)




 シンがそんなことを考えているとレイヴは立ち上がる。
 そして一瞬でシンとの距離を詰め、シンの顔を見る。




「うーん、凄まじい魔力だが運命が感じられないな……でも、奥には何かあるな…そうか、違う方なのか」


「何をわけのわからないことを、戦術級爆裂魔法【業爆】」




 シンが広げた左手をレイヴに向け魔法を発動させる。
 巨大な爆発が発生し、地面に大きなクレーターができる。




「…神玉を使ってないのにこの威力とは奥に変わってもらう必要がさらに増えたな」


「なっ…!?」




 至近距離で放ったのにもかかわらず無傷のレイヴを見て初めてシンが焦る。
 レイヴは後ずさるシンに一歩ずつ近寄る。




(…なんで人間の俺が逃げるんだ、こいつは、こいつらは!猿でしかないんだ)




 シンは両手をレイヴに向け魔法を放つ。




「災悪級土魔法【隕石メテオ】」






 ◆






 真が美穂をいじめから助けてから一年後、あの時に助けてくれた恵と共に普通の高校生生活を送っていた。
 本来なら美穂のことが心配だが、放っておいた教師陣を追い込んだことから学校側から美穂を守るように約束されているため安心していた。




「真、ご飯一緒に食べよう!」




 恵が真剣な表情で教室の端にいる真を昼ごはんに誘う。
 そして真の隣にいる林道りんどう 楓間ふうまがそんな恵を見てにやにやする。




「真さんや、恵からのご指名だぜ行ってやんな」


「楓間!ご指名なんかじゃ…」


「楓間も一緒じゃないのか?」




 真の天然発言に二人はずっこけてしまう。




「真、お前そんな性格だから友達ができないんだぞ」


「………?」




 真にとって二人は学校での唯一の理解者だった。
 二人は天才の真を特別扱いせずに普通の人に接するような態度で接してくれていた。
 高校生になってからその二人の影響もあり、他の人も真を忌み嫌うことは無くなり、むしろ好意的な者は多かった。




「みんなで食べたほうが上手いって母さんが…」


「あのなぁー!」


「いいよいいよ、一緒に食べよう」




 恵はそう言って近くの机を用意して弁当を開ける。
 二人もそれを見て昼食の準備を始めた。




 ご飯が食べ終わり恵がいつもの女子のグループに戻る。
 そこでは超イケメンの真の事を恵が一方的に質問されているようだった。
 真はそんなことは気にせずに楓間と共にジュースを買いに行く。




「…ありがとう」


「いきなりなんだよ、恥ずかしいな」




 廊下を歩いていると真が楓間に突然そう言った。
 楓間は一瞬驚き、恥ずかしそうに顔をそむけた。




「お前たちがいてくれて父さんが望んでいた学校生活がおくれている」


「…気にすんなよ、友達だろ」


「……友達」




 楓間の言葉に引っ掛かった真は小さく呟く。
 それと同時に横の空き教室から出てきた三年生のヤンキーグループが楓間を見るなり手を来い来いとやった。
 楓間はそれに気がつき真の方を向く。




「すまねぇ、先輩に呼ばれちまったから先戻ってくれ」




 楓間は両手を合わせ謝った後、三年生たちのいる空き教室の中に入って行った。
 そこで行われている事を真は知っていた。




「…何で友達なのにいじめを相談してくれねぇんだよ」




 真は持っている空き缶を握りつぶす勢いでこぶしを握った。
 しかし、楓間のことを考えるといじめは止めることはできなかった。
 いじめの首謀者は楓間の父親の会社の社長の息子、少しでも機嫌を損ねれば父親の職業は無くなってしまう。




「……楓間、待ってろよ」




 真は授業にも帰ってこない楓間の机を見ていじめを止める方法を考える。
 それは、簡単なことではなかった。その会社を倒産させてしまえば父親の職は無くなる。




(俺はこの後にいじめをなくすことは成功した、だが…)




 楓間のいじめが無くなり楓間からは感謝された。
 しかし、退学処分となってしまった三年生たちの後処理を考えていなかった真は甘かった。
 退学処分になってから1週間後、恵と楓間が誘拐され、真に連絡が届く。




『送った画像まで来い、頭のいいお前ならやってはいけないことも建物の位置もわかるだろ』




 真は一緒に送られてきた廃工場の写真を見て場所を特定する。
 そして全速力でその場所へと向かった。




「はぁ…はぁ…」




 真が付いたころには悲惨な光景があった。
 ボロボロの楓間の姿と暴行された後の恵の姿があった。




「…っ!」




 真は怒りをあらわにしながらも二人に近寄る。
 その瞬間、工場の奥から10人の男たちが現れる。
 その中には退学処分された先輩たちもいたが、残りは黒人だけだった。




「こいつらはさ、中学生のお前に情報を吐かれて職に困った奴なんだって」


「二人は関係が無いだろ…!」


「こいつら日本人とやってみたかったらしくてさ、ごめん、我慢できなかったわ」


「貴様らっ!」


「待て待て」




 真が血管をむき出しにして殴りかかろうとした瞬間、先輩が銃を取り出し楓間に向ける。
 そのことに気が付いた真は動きを止めて先輩を睨みつける。




「正直な話、普通にやったらこの人数でもあんたには勝てないんだわ、だから動いたらこいつ殺すから」


「…っ」


「まこ…と…俺は…いいから…やっ…ちま……え…」


「楓間…」


「うるせぇよ!」




 先輩がそう言いながら引き金を引き、楓間の足を撃つ。
 その弾は楓間の足を貫き発狂させた。




「アァァァ!」


「やめろ!わかった、わかったからやめてくれ…」


「物わかりのいい後輩でよかったぜ、やっちまっていいぜ」


「O~K~!」




 黒人たちが真に近寄り、リンチを開始した。
 真は抵抗せずに何回も何回もノーガードで攻撃を受ける。




「ぐぁ…!あがぁ…!」


「はっはっはっ!見ろよ!あの天才様がゴミのように転がってるぜ!」


「ま…こと…」




 何回も殴られ真は意識を手放しかける。
 その瞬間に先輩が黒人に止めるように言う。




「そいつの前で楽しいことやろうぜ」




 先輩がにやにやしながら恵の髪を引っ張る。
 それを見た黒人は笑顔になり、真は最悪の事態を考える。




「どうだー!天才様!大事な奴が弄られるのを目の前で見る気持ちはよ!」


「や…め…ろ……!」




 恵は強制的に起こされ真の目の前で暴行される。
 真は涙を流しながらその光景を強制的に見せられる。




(恵…楓間…俺のせいなのか?俺がいなければ…俺と言う存在がいなければ…!)




 真がそんなことを考えながら楓間と恵を交互に見る。
 目の前で暴行される大事な人、死にかけている大事な人、真は嫌というほどしっかり見る。






(この時…俺は生まれた)






 真が下を向き恵達から目をそらす。先輩はその行動をさせまいと真の髪をつかむ。
 その瞬間、真は手で腰にあった銃を奪い取り先輩を何の躊躇もなく射殺した。




「What!?」




 そして恵を暴行している黒人を左から銃殺した。
 離れていた殺されていない黒人が真に銃を向け発砲する。




「……」




 真は無言でその弾を避けた。
 それに驚いている黒人に向かって銃を発砲し殺した。




「あ…あ…あぁぁぁ!」




 残っていた先輩が真に怯え工場から出ようと背を向けた瞬間、銃殺した。
 そして真は恵に制服をかけ、救急車を呼んだ。






 ◆






 シンの全力の【隕石メテオ】は魔王に放った時より大きく直径40mはあった。
 その隕石を見たレイヴは笑いながらシンを見る。




「この大きさを出せるのは神玉使いでも少ない、優秀だな」


「猿が俺を評価なんてするな!」




 シンは叫びながら魔力を巧みに扱い、隕石の着弾を早くする。
 凄まじい勢いで向かってきた隕石をレイヴは余裕を持った表情で見る。




「魔力で操作までするか…おもしろい…」




 レイヴは呟き、隕石の着弾を待っていた。
 その余裕の様子を見たシンはより怒りをあらわにする。




「余裕ぶるな!」




 隕石がさらに速くなりレイヴに向かう。
 そしてついに隕石が掻き分けた風が感じられるようになり、地面に凄まじい速度で近寄る。
 そんなとてつもない威力の隕石をレイヴは片手で受け止める。




「なにっ…!」




 軽々と受け止めたレイヴの力にシンは初めて自分を疑った。
 そして魔力の供給が止んだため隕石は消えていった。




「折角に機会だ、奥の君にも見せてあげるからよく見ておきな」


「……っ!?」




 レイヴがそう言った瞬間、隠していた魔力が少しだけあらわになる。
 嵐のようで静まっている、不思議な魔力が全員を包み込む。




「本当の魔法を、災悪級土魔法【隕石メテオ】」




 その魔力が一瞬でなくなり、上空に大きな魔力が発生する。
 シンはいち早くその存在に気がつき天にある物を認識する。




(ふざけんな…こんなことがあってたまるか、こんな簡単にこの大きさの隕石が出現してたまるか…!)




 上空にあった隕石の大きさは直径が約10㎞以上の隕石…恐竜を絶滅に追い込んだ大きさの隕石だった。
 生物が絶滅するほどの隕石の大きさと知っているシンは首を振って現実を否定していた。




「さて、これを落とすといくらこの星が頑丈にできているとはいえ被害はあるからな、消しておくか」




 レイヴがそう言って魔力の供給をやめると、大きな隕石はそこから姿を消した。
 そしてレイヴはシンの方を向いて話を始める。




「君の奥にいるもう一人の君が必要でね、変わってもらえるかい?」


「…断わる」


「そうか…残念だけど強制的にやらせてもらうよ」




 レイヴが拳を握ると同時にシンは先読みを始める。
 凄まじい早さで近寄って来たレイヴの攻撃をかろうじてシンは避けた。




「あれ?君もしかして未来見てる?」




 レイヴの発言など気にしている余裕が無いシンは先読みをする。
 しかし、突如として先読みができなくなり、シンは慌てる。




「何されてるか知らないけど、二回目はやらせない」




 先読みしてギリギリの攻撃を読まずと避けられるはずが無くまともに食らう。
 痛みではない不思議な衝撃がシンを襲い、そのまま意識を手放した。




「伝えておく、君がもし…………」






 ◆






 シンが目を覚ますと、そこには見知らぬ天井が見える。
 そして横を見ると、可憐な少女…アルカの姿があった。




「アルカ…?」


「シンさん!?シンさん!」




 アルカが涙を流しながらシンに抱きついた。
 なぜここにいるかも泣いているかもわからないシンはただ慌てていた。




「うっ…!」




 シンは頭を押さえる。そしてレイヴの言葉を断片的に思い出す。
 それと同時に頭に流れる情報を整理する。




(俺は魔法の神玉を手に入れたのか?一体なにがあったんだ…)




 頭を押さえているシンを心配そうに見つめるアルカ。
 アルカを心配させまいとシンはアルカに笑顔を送る。




「大丈夫だ、心配するな」


「無理…しないでくださいね、一年間も寝ていたんですから」


「一年間…!?」


「はい、魔大陸の途中で精神的な攻撃を受けたシンさんを貴族のレイヴ・イルミネイト様が送り届けてくださったんです。その後、治療するも一年間寝たっきりで、兄のこともありとても心配しました」




 シンは一年間という衝撃の事実を聞いて頭を整理する。
 最後に見た光景やレイヴという名前を思い出そうと記憶をさかのぼる。




「…そのレイヴ様ってのは?」


「レイヴ・イルミネイト様は謎の多い人でして…」


「そうか…」




 自分の身に起こったことを整理しきれないまま、シンは退院となってしまった。

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