ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

力の提示(シン編)

 
「さて…やろうか、猿の王様」




 シンはそう言うと、魔王に向かって急降下しながら人差し指を向ける。
 それと同時に魔王の行動の何手も先を予測する。




「上級雷魔法【雷撃】」


「上級無属性魔法【魔法障壁】」






 シンの指から放たれた雷を魔王の目の前に出現した魔力の壁が防ぐ。
 魔王は予想以上の魔法の威力に顔をしかめ、【鑑定】をシンに使った。
 それに気がついたシンはお返しとばかりに【能力看破ステータスチェック】を使う。






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 シン(・アルカナ)


 種族 人族


 HP:A


 MP:S-


 INT:S+


 STR:C+


 DEF:A+


 DEX:AA


 AGI:B


 LUK:C-


 MGA:火 AAA 水 AAA 風 AAA 土 AAA 無 AAA 光 AAA 闇 AAA






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 ヘル・ゴールド・アテナ


 種族 魔族


 HP:AAA


 MP:AAA+


 INT:AAA


 STR:AA+


 DEF:AA


 DEX:AA+


 AGI:AA


 LUK:C-


 MGA:火 AA 水 AA 風 AA 土 AA 無 AA 光 G 闇 AA




 〔スキル〕


【魔力操作Lv8】【魔力消費減少Lv6】


【格闘Lv6】【魔法攻撃力増加Lv3】




 〔特殊スキル〕


【鑑定】【言語理解】




 〔固有スキル〕


【王の威厳】【魔王】




 〔神与スキル〕


【魔王解放】






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 互いに相手の情報ステータスが流れる。
 シンは笑顔になり、魔王は一層険しい顔になる。




(シン…予想をはるかに超えるステータスだ、善の心を持っていたならば奴に人族の運命の子として選ばれた可能性があった、ここまでの適合者を奴が放っておくはずがない、俺が殺さなくとも殺されるだろう…だが、俺が止めなければ未来を残すこともできない)




 魔王は目を一回瞑りすぐに目を開く。
 その目は今までのような不安のある目ではなく、覚悟を決めた目だった。




「行くぞ!」




 魔王がシンに向かって叫んだ瞬間、魔王の魔力が増大した。
 シンは予想していなかった行動に驚き、急停止し、地面に降りた。




(なんだ?いきなり心境の変化が起きた、魔力の増大はもう少し後だと思ったんだがな、流石は猿とはいえ王様ってわけか)




 シンは少し口角を上げ人差し指を魔王の顔に向ける。
 その瞬間、魔王が地面を蹴り、シンとの距離を詰める。




「戦術級拳技【牙狼拳】」


「上級無属性魔法【障壁】」




 いきなりの攻撃に反応し、とっさの判断で壁を作り出し攻撃を防ぐ。
 そしてシンは後ろから嫌な雰囲気を感じ、体をそらし向かってきていた銀色の槍をかわす。




(鉄か…あの横にいた魔族の攻撃か)




 シンは槍が向かってきた方向を見て、シルバーに【能力看破ステータスチェック】を使う。






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 フィール・シルバー


 種族 魔族


 HP:B


 MP:A+


 INT:A


 STR:C-


 DEF:C


 DEX:B


 AGI:B-


 LUK:D-


 MGA:火 B- 水 C- 風 C 土 C- 無 C+ 光 G 闇 A-




 〔スキル〕


【魔力操作Lv3】【魔力消費減少Lv1】




 〔固有スキル〕


【金属魔法】






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(さっきの攻撃は固有魔法の一種の金属魔法か、情報はトトの知識の中にもないな、随分珍しい魔法らしいな、鉄の神玉を手に入れる練習台になってもらうか)




 シンは自分で作り出した魔力の壁から飛び出しシルバーに近寄る。
 シルバーは向かってくるシンに手を向け魔法を発動する。




「金属魔法【鉄槍】」


「上級土魔法【流砂】」




 向かってきた鉄の槍に向かって魔法を発動する。
 放たれた砂が鉄の槍を包み、上空へと方向転換させた。




「金属魔法【針山】」


「戦術級風魔法【風遊】」




 地面の下から出てきた針の山をシンは風魔法で浮遊し避ける。
 その神に対してシルバーは攻撃の手を緩めない。




「金属魔法【鉄塊】」


「戦術級爆裂魔法【業爆】」




 シンに向かって放たれた大きな鉄の塊をシンが爆散させる。
 その瞬間、後ろで魔力を感じたシンが振り返る。そこには魔力をためていた魔王の姿があった。




「火の精霊よ、天まで燃やせ、災害級炎魔法【天炎】」




 シンの下から突如として出現した大きな炎の柱がシンに襲いかかる。
 その炎の柱に向かって、シンが人差し指を向ける。




「固有魔法【魔消】」




 シンの人差し指から放たれた魔力が炎の柱に触れた瞬間、炎の柱が消滅する。
 シルバーはいきなり起きたその事象に驚き、一瞬シンへの注意が切れてしまう。
 その隙を見逃さなかったシンは風魔法を巧みに扱い、距離を詰め三本指をシルバーの腹に当てて魔法を発動する。




「戦術級爆裂魔法【業爆】」




 超至近距離で放たれたシンの魔法が直撃したシルバーは少し先にある魔王城の壁まで吹き飛ばされる。
 それを見ていた魔王は歯をギリギリと慣らしながらシンに近寄る。




「怒るとつまらなくなるぞ?上級雷魔法【雷撃】」


「戦術級雷魔法【雷流サンダーフロー】」




 シンの人差し指から放たれた雷と魔王の雷が正面からぶつかる。
 魔王の攻撃力が上なのか雷がシンの方に段々と近寄る。




「一本指で少し押されるぐらいか、ステータスってのは一段階でだいぶ差があるようだな」




 シンは呟きながら冷静に現状を把握する。
 そして一本指から二本指に変更を始める。




「二倍に耐えられるかな?」




 シンから放たれていた雷の大きさが一瞬で二倍になる。
 その瞬間、力関係は一気に逆転し、魔王にシンの雷が直撃する。




「ぐっ…」




 魔王は膝をつきながらシンを見る。




(同じ神玉持ちでもこうも違うのか、多分【魔法制御】をこいつは使っている。たったの二割、さらに上級でこの威力。シルバーはもう………いや、ネガティブにはなるな、まだこっちも本気は出していない)




 魔王は立ち上がり、シンの睨みつける。
 その様子をにやにやとした表情でシンは観察する。




「魔王って言っても子供作ったらこの程度か」


「……!?」


「なぜそのことを知っているって顔だな、まぁ確かに子供を作ってしまった魔王は子供に大半の力を取られてしまうため弱くなるなんて人族に知られたら大変だもんな」


「そこじゃない、なぜ子供の存在を知っているんだ」


「なんでって…この弱さだとそれしか考えられなかっただけだが?」


「馬鹿にしやがって…」


「馬鹿にはしていない、事実を述べただけだ」




 魔王が拳を握りつぶすような強さで握り、震えながらシンを睨む。
 シンはなにが悪いかわからないような無害な子供のような顔で言う。




「本当に弱いかどうかは今からの力を見て言うんだな」


「…ようやく神玉のお出ましか」


「魔法の力、今こそ解放しろ【魔王解放】」




 魔王の目が鋭くなり、魔力が爆発的に増え、翼が大きくなる。
 シンも首を鳴らし、笑いながら魔力を解放する。




「災害級闇魔法【混沌】」




 魔王がシンに手を向け魔法を放つ。
 シンもその魔法に対して三本指を向け全く同じ魔法を放つ。




「災害級闇魔法【混沌】」




 二つの魔法がぶつかり周りの地面が魔法の中心へと吸い込まれていく。
 地面が抉れ穴が大きくなる中、二人は空中に飛ぶ。




「殺せはしなくとも、足止めはさせてもらう」


「猿ごときが人間様を足止めできるとは、随分と生意気な妄想をするじゃないか」


「言っておけ、戦略級雷魔法【落雷】」




 魔王が腕を振り下ろした瞬間、シンに向かって雷が落ちる。
 本来なら生物が反応でいるはずのない攻撃をシンは先読みし防いでいた。




「戦略級炎魔法【火炎葬】」


「戦略級氷魔法【氷囲】」




 魔王を中心とした半径10mほどの範囲が一瞬で炎に包まれる。
 それと同時に放ったシンの魔法により、炎がシンを包む前に全て凍る。




「戦術級水魔法【水槍の雨】」


「固有魔法【魔消】」




 魔王が魔法を発動するタイミングに合わせ魔法を一瞬で消す。
 シンはベージュ戦で行った完全な先読みをあえてしていなかった。




(響君とはお前は違うだろ?俺をより楽しませてくれるんだろ?)




 シンがさらに悪に染まった表情になる。
 その見たこともないような悪い顔に流石の魔王も少し引いてしまう。




(異常だ、こいつは異常すぎる、俺のような誰かにとっての悪とは根本的に違う。こいつは単純な悪、表情がそれを物語ってる)






 ◆






 シン…旧名、倉間 真は地球人にとって救世主だった。
 その異常なまでの頭脳から発明された物は幾度も人類の危機を救ってきた。
 さらには運動神経までも抜群で容姿端麗、性格も良しと世間からは完璧超人と言われていた。




 …小学生時代、全ての才能に恵まれていた真は同級生からはチヤホヤされ、上級生のヤンチャ達からは目をつけられていた。行動を先読みできる真にとっては上級生など取るも足らず、簡単に追い返ししてしまった。




 真にとってそれは褒められると思ってやっていた行動だった。
 ましてや自分が悪いなど微塵も思っていなかった。
 しかし、大人たちは皆、真を叱った。「弱い者いじめは…」「手を出しちゃ…」「上級生を敬い…」
 真がいくら頭がよくとも精神はまだ子供、初めに殴られたはずの自分が怒られる理不尽に真は素直な疑問をもっっていた。




「なぜ俺が怒られなくてはいかないんだ?」




 真はそれからいろんな実験を行った。その疑問の答えを探しだすために。
 まずは、上級生と同じく自分から喧嘩を売りに行ってみる…自分が怒られた。
 次は、喧嘩を売りに行って負けてみる…自分が怒られた。その次は、喧嘩を売られてから負けてみる。




「喧嘩をする真君も悪い、喧嘩両成敗だね」




 担任の女の先生が言ったその言葉で真は気がついた。
 自分が怒られる理由は自分が悪いからではなく自分だからだと。
 それがわかった時に真は新しい疑問が生まれた。




「なぜ自分だけ怒られるのか?」




 その疑問の答えはすぐに分かった。
 自分は言わずとも分かっていると大人たちは本気で思っていたからである。
 認めてくれたと言う事実に子供の真は素直に喜び、より認めてもらうために努力した。
 しかし、最初は褒めてくれていた教師や同級生がいくら結果を出しても褒めてくれなくなった。
 真が優秀な成績を取ると口をそろえて…




「あいつは特別だから」




 真は気がついた、されている特別扱いとは良い扱いではなく悪い扱い。
 仲間外れにされている嫌な感じ。他の人が取ったら褒められる成績を取っても褒めてくれない疎外感。精神が子供の真にとってこの環境が耐えがたいものだった。




「真がいると勝てないんだもん」


「真君は私たちとは違うよねー」




 優秀すぎるゆえの孤独、真はそれに包まれていた。
 しかし、真にとって理解者は一人だけ存在していた。
 それは真の実の父親である、倉間 旬だった。




 そして理解はできなくとも特別扱いせずに毎回褒めてくれてる母親…倉間 香織
 香織は真が天才であろうとも過度な期待はせずに普通の子供のように育ててくれた。




 理解者と特別扱いしない人物が揃っている家庭は幸せだった。
 旬は仕事であまり帰ってこないとはいえ、母親はいつも家にいてくれた。
 そして、なにより妹の存在が大きかった。自分より2歳下の妹の倉間 美穂に真は癒されていた。




 真は幸せだった。学校での疎外感を超えた家族の温かさで幸せだった。




 …あの事件が起きるまでは。
 真が中学三年生、美穂が中学一年生の時、二人が誘拐される事件が起きる。
 仕事で遠くに行っている旬はすぐには向かえなかった。




 真と美穂は違う場所に監禁されており、真だけが抜け出した場合、美穂にも被害が及ぶと考えた真は動けなかった。監禁されて1週間、真は父親が助けにきてくれることを確信して、ひたすら待っていた。そして、それは予想通りで旬は日本に帰ってきてからたったの3時間で事件を解決してしまった。今まで警察が本気で捜索しても一ミリも進まなかった事件を…




「お前だけは許さねぇぞ!」




 捕まえられた誘拐犯の一人が警察から抜け出し、隠していた銃で旬を撃った。
 その放たれた弾は旬の体を貫き、壁にめり込んだ。




「あぁ…あぁ…」




 子供の真は目の前で起きたことが理解できずにパニックになってしまう。
 警察はすぐに誘拐犯を押さえ、救急車を呼ぶ。




 真の人生は一気にどん底まで落ちることになる。
 病院に救急搬送された旬は、発達した医療技術でも命を維持することさえもできなかった。
 そして学校では美穂へのいじめが発生した。




「お前がいたから天才の兄が動けなかったんだろ?動けてたら父親も無事だったんじゃねー」


「えー、お兄さん可哀そう。美穂ちゃんがいなければよかったのにね」


「てか、誘拐犯に乱暴されたって本当?美穂さん不潔ー」




 優秀な真や容姿端麗な美穂に対する嫉妬が爆発し、いじめが激化する。
 いじめは陰湿で、真が学校にいるときには静かに行われ、教師も真に対する劣等感を感じており見て見ぬふりをしていた。美穂もこれ以上兄を追いこまいといじめを真や母親に黙っていた。




「てか美穂って本当にあの家族なの?」


「それ思ったー、美穂だけ普通だもんね、少しかわいいだけで調子のってさー」




 いつも通り、放課後に美穂に対するいじめが行われる。
 しかし、いつもと違うこともあった。それは男子達が教室にいることだった。




「てかマジでいいの?」


「大丈夫だよ、どうせ犯罪者にいっぱいされてんだから一人増えてもいいでしょ」


「マジラッキー」


「……!?」




 男子の一人はそう言って服を脱ぎ始める。
 今からされることを悟った美穂は何とか逃げようとする。
 しかし、人数の差もあるうえに男子もいるため押さえつけられてしまう。




「やめて…!」


「口答えすんなよ、ブス!」




 女子の一人が抵抗する美穂の顔面をおもいっきり殴る。
 美穂は本当は犯罪者に乱暴などされておらず、初めてだった。
 無理やり始め手を奪われる怖さから、美穂は泣きながら一生懸命抵抗する。




「抵抗すんなよ、俺様が相手なんだからうれしいだろ」


「いや…!いや…!」


「ちっ…!うるせぇな!」






 ◆






 シンは魔力をさらに増幅させ魔王に両手を向ける。
 全ての指を使った強力な魔法を悟った魔王は防御の魔法の詠唱を始める。




「土と魔法の精霊よ、我を守りたまへ、災害級錬金術魔法【ダイヤモンドガード】」




 魔王の周りを凄まじい硬さの金属が覆う。
 その様子を見たシンは笑顔になりながら魔力を手に送り魔法を放つ。




「猿と人間の差を教えてやる、災悪級土魔法【隕石メテオ




 その瞬間、天を覆っていた雲が何かに押しのけられるように左右に散る。
 魔王は異常な状況に気がつき天を見る。




(…【隕石メテオ】は俺がホワイトを産む前に使うことはできた。だがそれは直径が30cmぐらいの石を降らせる魔法だ。【隕石メテオ】ってのはそう言う魔法だ、いくら小さくとも遥か上空から放たれた石はそれだけで威力を持つ、だがシンの【隕石メテオ】の大きさは…!)




 魔王は自分の目に映る光景がにわかには信じられなかった。
 視線の先にあった石…隕石の大きさは軽く10mはあった。




「さぁ、猿ども、俺の力を恐れろ!」

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