ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜
青(シン編)
「魔王様!魔王様!」
翼と角の生えたオールバックの顔の整った男が叫びながら広い廊下を走る。
凄まじい大きさのドアを細い腕で開き、豪華な装飾が施された部屋に入る。
「魔王様!」
「うるさい、一体何の用だ、ブラック」
「申し訳ありません、今回の侵略で想定外の事態が発生したようでして」
「不測の事態に備えベージュを配置したはずだ、ベージュが対応すれば問題ない」
「どうやらベージュが討たれたようです」
「なんだと…?」
魔王と呼ばれる男は玉座から立ち上がり目を大きく開く。
仰ぎに手を当て少し考え冷静になり、玉座に再び座りブラックに話しかける。
「ベージュが討たれたというのは本当か?」
「はい、グリーンの固有魔法にて分かった情報です」
「グリーンのか、なら真実なのだろう、誰が協力している、単独で討てるのは勇者の素質を持つ物ぐらいだが」
「その線は無いかと、勇者の素質がある者が今の戦争状況で参戦するのは考え難いですし、魔法の勇者が来てからのスパンが短すぎます」
「ならば悪魔、天使、成龍、フェンラル、それらのハーフ、どれかがいるはずだ」
魔王が上げた5種類の生物。その生物たちは生物的なステータスが非常に高く、スキルが豊富な場合が多い。
自分が名前を覚えている程の優秀な部下を倒せる生物はそれらしかいないと魔王は思っていた。
「しかし、人族たちと協力関係にあるのは獣人族、エルフ族、ドワーフ族だけのはずです。それにその生物たちは人族に協力するような種族ではないと思われますが」
「それもそうだ、悪魔は指示なんかに従うはずがない、成龍や天使は公平な立場、フェンラルは生きているかどうかすら怪しい、可能性があるならハーフだが、ハーフは世界的に迫害されてきた、何かに協力することは無い」
「そうですね…ベージュを討つほどの実力者が人族側から出たということでしょうか」
「考えていても仕方ない、確実に倒すために幹部、ブルーを向かわせろ」
「幹部をですか、わかりました、急いで向かわせます」
魔王の指示に従いブラックは急いで退出し、ブルーのもとに向かった。
部屋で一人になった魔王は頭に手を当て何かを考える。
(神玉使いがとうとう出てきたというのか、風は国から出ない、鉄と緑は本部を守っている、契約は死んだらしいが、他に新しく持つ者が現れたのか?…まさか、魔法が生きていたというのか?)
魔王は袖をまくり腕にある模様をマジマジと見る。
◆
シンはベージュを倒した後、戦場を駆け巡り隠れている魔族を殺して回っていた。
いくら命乞いをしようと、慈悲のない一撃で確実に殺していた。
「早く来い、早く来ないと兵士がいなくなるぞ」
シンは風魔法で空中をまた飛びまわる。
そしてベージュを倒してからおよそ10分後、ベージュのようにシンに向かって飛んできた魔族がいた。
「やっと来たか…」
その魔族は翼と目と髪が青く、冷たい目をしていた。
凄まじい速度で急接近し、シンの目の前で急停止した。
「人族…本当にベージュが人族に負けたのか、にわかには信じがたい話だったが、本当のようだな」
「本当に弱い奴ほどよく吠える、俺を倒しに来たんだろ?御託は良いからかかって来いよ」
「こんな奴に負けるとは、固有魔法に頼りすぎた結果だな」
魔族はシンの挑発に乗ることなく、自分の仲間をとがめた。
その魔族の様子を見てシンの表情は少しだけ笑顔になった。
「さっきの奴よかマシな猿だな、幹部って奴か?」
「そうだ、魔族軍幹部シーン・ブルーだ、楽に殺してやるからじっとしてな」
ブルーが胸の前に手を伸ばし言い放つ。
魔力が増大し、青い翼が青く輝きだす。
「凍りつくせ、戦術級氷魔法【氷塊】」
ブルーの手から巨大な氷の塊が放たれシンを吹き飛ばした。
シンはそのまま重力に逆らうことなく地面に倒れた。そして、倒れたシンにブルーが近寄る。
「この程度にやられたとは、ここで死なずとも、いつか死んでいたかもな」
「うーん、なかなかの攻撃だったぞ、猿」
ブルーが吐き捨てるようにそう言って、シンに背を向けた。
その瞬間、シンが体を伸ばしながら立ちあがり、ニヤニヤとした表情を浮かべた。
「なぜ生きている、手ごたえは確かに感じたんだが」
「確かに当たりはしたさ、でもな、その程度の氷魔法じゃ、俺の防御魔法は突破できねぇよ」
シンは服を少し上げて、肌の上で発動されている魔法をブルーに見せる。
「上級無属性魔法【魔法衣】か、凄まじい強度だ、負けたのもうなずける」
「それはどうも、猿に褒められても嬉しくないけどな」
「人を馬鹿にすることしか能のない奴に負けるほど俺は落ちぶれちゃいない、貫け、戦術級氷魔法【氷槍の雨】」
「上級無属性魔法【魔法障壁】」
ブルーの魔法によって作り出された氷の槍がシンを襲う。
それに対してシンが魔法を発動し魔力の壁を作り出して防御した。
「もうちょっとマシな攻撃は無いのか?」
「安心しろ、少し試しただけだ、目の前を凍りつくせ、戦略級氷魔法【裂氷】」
ブルーが地面に手を置きながら魔法を発動すると、地面が一瞬で凍った。
そして数秒後、地面に亀裂が入り、シンをその亀裂に落した。
「【氷裂】を使うか…戦術級風魔法【風遊】」
シンが風を巧みに操り空中に浮く。
そして地面に這い上がろうとした瞬間、ブルーが目の前に現れる。
「お前に俺の故郷を案内させてやる」
ブルーがシンの頭をつかみ亀裂の奥深くまで連れて行った。
◆
シンとブルーが亀裂の奥に飛んで行ってから数分後、大きな空洞が視界に入る。
その空洞を認識したシンは関節技を使い手を離させ、地面に着地する。
「ここは…?」
「ここは俺の故郷、先代魔王の子孫が追放され行き着く場所だ」
「そうか、反逆させないために魔族どもが生み出した洞窟と言うのは大陸の下にあったのか、しかし、なぜここに俺を連れて来たんだ?」
「今の魔王様が健在な限りここは必要ない、ここなら俺も本気を出すことができる」
「なるほどな、魔王の子孫が本気を出したら仲間を巻き込む可能性は高い、だから外部に魔法での影響を及ぼせない作りになっているここに連れてきたわけか」
「その通り、これから本番だ、全てを凍らせろ、災害級氷魔法【終冷】」
「ちっ…!戦術級風魔法【風遊】」
ブルーからの手から放たれた冷気が洞窟内を包み込んだ。
そして壁から地面まで全てを凍らした。シンはとっさの判断で風魔法で地面から離れた。
「まだ完全には読めないか…」
シンは呟きながら目を見開いてブルーを見る。
ブルーは地面に手を向け魔法を発動した。
「操れ、災害級氷魔法【氷操】」
ブルーの魔力が凍った地面に行きわたり、不穏な空気が流れる。
シンは知らない魔法の性質を知るために【解析】を発動し、魔法陣を見る。
「氷の操作、そう言うことか……見れてれば防げていたのにな、厄介だ」
シンが険しい顔をしながら呟いていることを無視し、ブルーが手首を曲げ、上に向ける。
その瞬間、地面から鋭利な氷塊がシンに向かって生え、襲いかかる。
「戦術級爆裂魔法【業爆】」
シンは二本指を向かってきた氷塊に向け、魔法を発動する。
その魔法により大爆発が発生し、氷塊を粉々にした。
「猿にしては楽しめそうだ」
「まだそんな余裕があるか」
ブルーが複雑に手首を動かし、氷塊を生み出す。
その手首の動きを暗記したシンは順番通りに生まれてくる氷塊を壊していく。
「その程度の動きで俺を倒すなんて猿は知能が足りないようだな、戦術級雷魔法【雷流】」
「くっ…!?」
シンの二本指から放たれた魔法をブルーがぎりぎりでかわす。
その魔法は奥の壁にぶつかり壁を少し壊した。
「見えないと当たらないか…まだ脳の休憩は終わっていない、もう少し遊ぶか」
シンは小さな声で呟いて、氷塊を壊しながら攻撃を放つ。
ブルーもシンの攻撃をよけながら、攻撃を続ける。
「何度攻撃を放っても壁に当たるだけだぞ」
「猿が少し遊んでやっているだけで調子に乗るな」
シンは強めに口調でブルーに言うが、攻撃が全て替えに当たっているのは事実だった。
その様子を見たブルーは口角を少し上げシンに話しかける。
「貴様、本調子じゃないな、明らかに回復を待っている戦い方だ」
「……」
「図星か?なら早く終わらしてやる!」
ブルーはさらに素早く手首を動かし氷塊を出現させる。
その攻撃をシンは全て【業爆】で破壊させる。
「災害級氷魔法【降氷】」
ブルーが流氷に対応しているシンに向かって手を向け、魔法を放つ。
魔法により、洞窟の天井から凄まじい量の氷の塊が生まれ、シンを襲った。
「この程度で…戦術級炎魔法【豪炎】」
シンを中心として炎が発生し、氷を全て溶かした。
しかし、ブルーはその炎をかき分けてシンに近寄り攻撃を放つ。
「貴様は魔法には強いが物理にはどうだろうな、戦術級拳技【豪拳】」
ブルーの振りかぶった鋭い一撃がシンを襲い、壁まで吹き飛ばした。
壁にぶつかった瞬間、氷が広がり、衣服と共にシンを凍らし動きを止めた。
「無様なものだな、馬鹿にしていたものにやられる気分はどうだ?」
「……」
シンは下を向いて、ブルーに顔を見せないようにする。
ブルーはそれを見て、シンの顔を覗き込んだ。
「黙りこんでどうし…た…!?」
「……」
シンの表情は歯を食いしばり、手から血を流すほど強く握りしめていた。
その激怒した表情にブルーは驚き、少し後ろに引いた。
「……俺のことを殴りやがった、猿の癖に調子に乗りやがって、流石に遊びは終わりだ、まともに死ねると思うなよ」
「そ、その格好で何をするつもりだ」
「この程度で調子に乗るような猿に殴られたと思うと死にたくなる、固有魔法【魔消】」
シンが魔法を発動した瞬間に氷が砕け散り、シンが解放された。
ブルーは自分の魔法が突如として消えたことに驚きながら後ずさる。
「猿が…今から少しだけ本気を見せてやる、普通に死ねると思わないことだな」
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