ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜
恐怖(レイド編)
「随分と立派になったな、アニムスが建てたのか?」
「ううん、設計図はグレイヴで、建てたのはヴリドラ」
一軒家になった隠れ家の廊下を歩きながらレイドとアニムスはそう会話する。
「あそこにいた半年間は短かったんだがな、こっちは随分変わったようだ」
「うん、この半年間いろいろあった」
「そうか…じゃあ、後で聞かせてくれ」
「わかった」
レイド達は一番の奥にある扉を開き中に入った。
そこには、人数分の椅子があり、神玉の場所が記されている地図が置かれた机があった。
「…ここはあまり変わってないんだな」
「ここはヴァラーグとの思いでもあるから…」
「そうだな…」
ヴァラーグの名前で少し悲しい雰囲気が漂った。
その空気を壊すように、後ろから声が聞こえる。
「レイド~!終わったよ~!」
「主!」
「レイド殿!」
後ろの声の主は、西で戦っていたヴリドラとグレイヴ、そして新しい仲間のルージュだった。
ヴリドラとグレイヴの二人がレイドに抱きつこうとしたが、避けられ、床に激突した。
「な…なぜですか、主…」
「レ、レイド殿?」
「汗にまみれた男に抱きつかれたい奴がいるか、それよりジャックを直してやってくれ」
床に伏しながら二人がうめき声を上げると、レイドは嫌味ったらしく言った。
そしてレイドの指示に従い、グレイヴはジャックの怪我の回復を始めた。そんな様子を見たアニムスは自然と笑顔になっていた。
「久しぶりなんだからいいじゃないか、みんなレイドの帰りを待ってたんだから」
「いいんだよ、これぐらいラフな感じが俺たちには似合う」
「ふーん、別にいいけどさ」
ルージュがそう言いながらレイドに近寄る。
アニムスはどんどんと近くなるルージュを見て、レイドの腕を引っ張った。
「レイド、この人だれ」
「あぁ、紹介しないとな、こいつは新しい仲間のルージュ・レル・オーラだ、信用はできないが、信頼はしている。星の瞳でも良い色だった、仲良くしてやってほしい」
「ご紹介いただきました!ルージュだよ!みんなよろしくね!」
ルージュはみんなから見える場所に移動して、満面の笑顔で自己紹介をした。
アニムスだけはルージュを睨んでいた。そんなアニムスを見たレイドは耳元で小さく話しかけた。
「どうしたアニムス、何か嫌な感じでもするのか?」
「……と……」
「なに?聞こえなかったんだが、もう一回言ってくれないか?」
「……の人…」
「アニムス、もっとハッキリと言ってくれ」
アニムスのぼそぼそとした声を聞きとれないレイドは何度も聴きなおす。
そしてアニムスはプルプルと体を震わせながらレイドの方向を向いて言った。
「なんで女の人…?」
「えっ!?」
アニムスの低い声にレイドは驚き、圧倒されながら声を漏らす。
しかし、アニムスは低い声でまだ言いたりないとばかりにレイドに近寄る。
「女の人は魂が弱いから仲間にしないって…男女の問題が起きたらめんどくさいから仲間にしないって…レイド、私に言った」
「あー、確かに言った」
「でも女の人仲間にした、綺麗な人だから」
レイドはアニムスから目を逸らす。
そんなレイドを見て、アニムスはルージュを指でさした。
「まてまて、そんな理由で仲間にしたりはしない」
「ウソ、前に運命の色が良い女の人に会った時に仲間にしないのって聞いたら、「あれは好みじゃない」って言ってた」
レイドの言い訳を斬り捨てて、アニムスは声真似で昔の発言をレイドに指摘した。
それを聞いたレイドは慌てながら弁明をする。
「それは顔が好みじゃないってことじゃなくてだな」
「じゃあ胸、その人は大きかった、でもルージュは無い、レイドは小さい胸に引かれたんだ」
「そ、そんなわけがないだろ!」
「え~、レイドって僕の子とそんな目で見てたの?」
「お前は黙ってろ!」
レイドの弁明に対してアニムスはルージュの胸を指でさしながら言った。
ルージュがそれに乗って自分の体を抱きしめながら目を細めてレイドを見る。
「改装するときに部屋を片付けたら、こんなの出てきた」
「そ、それはっ!?」
アニムスはそう言って近くの木の棚から一枚の紙を取り出した。
そこにはスレンダーな大人の女性の水着の写真が貼ってあった。
「おぉ、それは世渡人が伝承したカメラと言う魔道具で作れる写真ではありませんか、高価な物なので初めて見ました」
「そう、グレイヴが言う通り、写真は凄く高価なもの、普通は飾るために風景の写真を買うはず」
「なるほどね、レイドはそんな高いお金を出してまでスレンダーな女性の水着が見たかったわけか」
アニムスがプルプルと震えながら言うと、ルージュは思いついたかのように言ってレイドを冷ややかな目で見る。
「レイド殿、少し見損ないました…我々にはお金の使い道がほとんどないといっても、この使い方は…」
「俺もだ、主は男だから仕方ないかもしれないがわざわざ写真を勝手までとは…」
グレイヴとヴリドラも呆れながら冷ややかな目で見る。
この部屋にはすでにレイドの味方は存在していなかった。
「ちょっと待て、まず前提がおかしい、ルージュは男だ!」
追い込まれたレイドはルージュを勢いよく指さして最後のカードを切った。
思いがけない一手でみんなの視線はレイドからルージュに移った。
「男…?」
「まさか、いや中性的で微妙なラインです」
みんながルージュの体や顔を見ながらそれぞれの考察を呟く。
レイドは「勝った」といった表情で小さくガッツポーズしていた。
「……僕、女だよ?」
たった一言、たっと一言でこの部屋に戦慄が走った。
レイドのガッツポーズは儚く崩れ去り、膝をついた。
「な、なんだと…」
「レイド、言い訳は無駄」
そんなレイドに近づいてきたアニムス。
そんなアニムスに必死の言い訳をレイドは始める。
「し、知らなかったんだ、女だってことも」
「ひどーい、僕の中にいれたって言うのに」
「レイド!?」
「違う!変な言い方をするな!お前の空間の中にお前が入れただけだろ!」
ルージュが頬を赤らめて言った証言にアニムスは反応して大声を出す。
レイドはルージュの方を向きながら指摘すると、ルージュはいたずらっ子のようにベロを少し出した。
「あの野郎…」
「はぁ…レイドがルージュの事を女だと思っていなかったのはわかった」
「流石アニムスだ、話がわかる」
「でも…」
「でも?」
「この写真の話はまだ終わってない」
レイドはやっと説得に成功したと思いガッツポーズをした。
しかし、目の前に出されたのはスレンダーな女性の写真と現実だった。
「それはだな…」
「レイドは前に神玉使いは欲が無いって言ってたけど、コントロールができるだけ、発散もできるし発散した方が良いのは知ってる」
「うっ…」
「だから発散するのは別にいい、でも発散の為に仲間を増やすのはよくない」
「そ、そんなことで増やすわけないだろ」
「レイド、僕をそんなことに使おうとしていたの…?」
「お前は黙ってろぉ!」
アニムスが悲しそうな顔をしながらそう言うと、レイドは大慌てで否定をした。
そしてルージュがまたもや頬を赤らめながら恥ずかしがるフリをすると、レイドは大声で黙るように言った。
「先ずだな、その写真も俺が欲しくて買ったものじゃない、ジャックが買ってきて渡しただけだ、なぁジャック…!」
レイドはそう言ってジャックがいる方向を見る。
しかし、そこにはグレイヴに治療してもらっている気を失ったジャックの姿だった。
「レイド~、気を失ってる仲間のせいにするのは最低だよ~」
「主…本当に見損ないました…」
「レイド殿…」
「ちょっと待て、本当なんだ、ジャックが「レイド様ー、商人を助けたときに写真貰ったんですよ、僕の好みとはちょっと違うんであげますー」って言ったんだ」
レイドがジャックの声真似をして何とか弁解をしようとする。
その健闘も虚しく、誰も信じようとしなかった。
「レイド、正直に言って」
アニムスがレイドの目をしっかりと見ながらそう言った。
「本当に俺じゃない、まずこの女性は俺の好みじゃない、俺の好みに貧乳は含まれない!」
「……!」
レイドの鋭い言葉がアニムスの胸を貫く。
自分の胸を押さえながら、そこには何もないことを実感する。
「これは…もっとやばい地雷を踏んだね」
「ですね」
「だな」
ルージュとグレイヴとヴリドラがそんなことを言ってレイドとアニムスから距離を取る。
レイドも小刻みに震えるアニムスのただならぬ雰囲気に少し後ずさる。
「待て、アニムス、別に貧乳が駄目と言ったわけじゃない、その慎ましい胸も素晴らしくはある、だがな世渡人が伝えた言葉に大は小を兼ねると言う言葉がだな…」
「レイド、どうして地雷を増やしたんだい?」
「上級闇魔法【闇輪】」
アニムスの手から出た黒い輪っかがレイドを拘束した。
レイドは無理やり力でほどこうとした瞬間、アニムスが睨みつける。
「動かない」
「はい…!」
アニムス一言でレイドの動きは全て停止した。
そしてレイドを魔法で浮かせてドアへと向かう。
「自己紹介でもしてて」
「わかりました、ではヴリドラ殿とルージュ殿は椅子に座っていてください」
「わかった」
アニムスの言葉でルージュとヴリドラは椅子に座り、グレイヴは回復が終わったジャックを椅子の上に乗せた。
そして運ばれるレイドは恐る恐るアニムスに質問をした。
「アニムスさん、ちなみに俺はどうなるんでしょうか?」
「レイドの考え方を正さなくちゃいけない」
「…あー、間違えてた、俺の好みは貧乳だった、貧乳は素晴らしいな!素晴らし…」
レイドの声は閉まるドアによって途切れた。
そして、グレイヴとヴリドラは心の中で祈っていた。
(レイド殿、同じ巨乳派として無事を祈っています)
(主、同じ巨乳派として無事を祈る)
神の力に近づいたところで、女には勝てないのであった。
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