ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

猿(レイド編)

 
 アニムスの言葉により立ち直ったレイドは傷を治した後、ヴリドラを除いた仲間と共に神秘的な遺跡の前にいた。




「もう一度確認する、俺はこれから幻想大陸と呼ばれる場所に行きロキの神玉を手に入れる。
 そこそこの期間、俺はここに帰ってくることはできない。その間、俺たちが喧嘩を売った悪魔たちから隠れ家を守ってほしい」




 レイドの言葉を頷きながら聞く。




「正直な話、いつ帰ってくるかは分からない。もしかしたら死ぬ可能性もある。それでも待っていてくれるか?」




 レイドの質問でアニムスとグレイヴ、ジャックはお互いの顔を見て、頷き、質問を答えた。




「当たり前ではないですか、私達はいつまでもレイド殿を待ち続けますよ。…まだ研究に手伝ってもらってないですしね」


「僕たちがレイド様を置いて行くなんてありえないです!」


「レイド…蟻役はもういらない、生きて帰ってきて、いつまでも待つから」




 仲間たちの笑顔の言葉にレイドは励まされながら頷いた。
 そして今いない仲間のヴリドラの姿を思い浮かべる。




「…ヴリドラには謝っておいてくれ、親父を…ヴァラーグを守れなくてすまなかった、と」


「レイドは勘違いしてる、ヴリドラが来ていないのはヴァラーグの死が原因じゃない」




 レイドが申し訳なさそうにアニムスに頼むと、アニムスは首を横に振りながら反論した。




「じゃあ…」


「ヴリドラはもう立ち直ってる、次に進もうとしてる、だから心配しないで」


「…そうか、わかった」




 レイドはそれ以上ヴリドラのことを聞くことは無く自分で納得した。
 そして心の中にいるロキに話しかける。




(ロキ…準備が出来たぞ)


『ん?もう終わったの?随分と長い間ここに来ていなかったから感覚がわかんなかったよ』


(それで、神玉の場所はわかったのか?)


『大体はね、幻想大陸事態の形が変えられてて分かりずらくなってたけどね』


(問題は無いんだろ?)


『もちろん、ということで、さっそく行こうか』




 ロキとの会話を終わらしたレイドは最後にアニムス達の顔を見る。
 そんなレイドの様子を見たアニムスがレイドに呟く。




「待ってる」




 レイドはその言葉を聞いて薄い笑顔を浮かべた。
 その笑顔には何の心配もいらないといった曇りのない笑顔だった。




『じゃあ行くよ、神の力、約束に反せ【幻想送り】』




 ロキの能力発動と同時にレイドの体がアニムスの目の前から消えた。




「行きましたね」


「アニムス様、大丈夫ですよ、レイド様は必ず帰ってきますよ」


「……わかってる」




 空を見続けるアニムスを心配して二人はやさしく声をかけた。
 その声で我に戻ったアニムスは顔を見せずにそう言って、隠れ家に向かった。






 ◆






 空中に転移したレイドは着地し周りの様子を見る。
 ただの草原、その一言で説明が終わってしまうほど何も無い草原だった。




「ここが幻想大陸、普通の場所に感じるんだがな」


『うーん…やっぱりここは動きやすくていいね』


「ここだとあの空間じゃなくても会話ができるのか?」


『そうだね、ここは僕の神玉があるぐらいだからね、力が戻るんだよ』


「なるほどな…それで?神玉はどこにあるんだ?」


『そうだね、まずは……レイド!』




 普通に会話が可能になったロキとレイドが会話をしていると、ロキが大声を出してレイドの危険を知らせる。
 レイドがロキの大声で右を向いた瞬間、そこには膝がありレイドはノーガードで吹き飛ばされた。




「…っ!?」




 レイドは予想以上に受けたダメージに驚きながら受け身を取り敵を確認する。
 そこには「キャキャキャ」とレイドを指さして無邪気に笑う猿の姿があった。




「一体なに猿だ?見たことねぇ種類だが、随分と舐めた攻撃してくれるじゃねぇ、か!」




 レイドはそう呟きながら猿との距離を一瞬で詰め、ヒザ蹴りを放った。
 攻撃をくらった猿は首の力だけで威力を殺し、耐えていた。




「なにっ!?」




 自分の攻撃を耐えられたことに驚きながらレイドは距離を取った。
 それに対して、猿は鼻血を少し出しながらも手を叩いて笑っていた。




「ウキッ!ウキキキキ!」


「あのクソ猿が、舐めやがって【空間倉庫】」




 レイドは顔をひきつらせながら血管を浮き出しにして【空間倉庫】から剣を取り出そうとした。
 しかし、いつもは空中に発生する黒い円が発生することは無かった。




「【空間倉庫】が発動しない…?」


『多分、幻想大陸と異空間は完全に断絶されてるんだろうね』


「つまり?」


『【空間倉庫】は使えないかな!』


「嘘だろ…食料もなし、剣も腰に掛けてるヴァラーグの剣が一本だけ…そうだ!一回帰るのはどうだ?準備を整えてから」




 レイドは一旦絶望しながら何か思いついたようなジェスチャーをして、ロキに提案をした。




『幻想大陸はそんな簡単には出入りできないよ、出れるのはあと一年後、来れるのもさらに1年後』


「…おいおい、一年間も食料なしで生きろだと?」




 ロキは首を振って否定すると、レイドは今の状況を深刻にとらえ再び絶望した。




『大丈夫!神玉持ちにはご飯は必要ない!』


「モチベーションの問題だ!食べなきゃ狂っちまう!」


『大丈夫!もう狂ってる!』


「そういうことじゃなくて、食事は精神状況において大事な…!?」




 レイドがロキに熱弁していると猿が構ってと言わんばかりに攻撃をしてレイドを吹き飛ばした。
 起き上がり砂埃から出てきたレイドは完全に怒った表情で猿を睨んだ。




「決定だ!クソ猿殺して、今日は楽しく猿鍋にしてやる!」


『えー、おいしいくなさそう』


「ごちゃごちゃうるせぇ!食えればいい!」




 レイドはヴァラーグから作りだした邪龍剣を鞘から抜き、猿に攻撃を仕掛ける。




「上級剣技【多連斬】」


「ウキキキキ!」




 レイドの鋭い攻撃が猿を襲う。
 それを猿は予測不可能な動きでどんどんと攻撃をかわしていった。




「変な動きしやがって、上級剣技【舞刃】」


「ウキッ!」




 レイドも予測不可能な動きから攻撃を繰り出し攻撃を仕掛ける。
 そんな工夫も虚しく、その攻撃も全てかわされてしまった。




「ウキー!!」


「上級剣技【裏流し】」




 猿が何も考えずにはなって来た一撃をレイドは剣で後ろに流す。
 しかし、最初の一撃とは比べ物にならない威力で、流し切れず顔面に直撃をくらってしまった。




「…っ!?」




 レイドは殴られた場所を押さえながら猿を睨みつける。




(この攻撃力、シャレになってねぇぞ)


『幻想大陸に来てから力が上がって【鑑定】を使えるようになったんだ、使ってみれば?』


(戦闘中も話しかけれるとは随分力が上がったじゃねぇか…)


『まぁね。それで?使わないの?』


(もちろん、使わせてもらう)




 レイドはいきなり話しかけてきたロキに驚きながらもスキル【鑑定】を猿に使った。
 ※【鑑定】は相手のステータスがわかる。妨害スキルも存在する。






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 ノイジーモンキー


 種族 魔猿族


 HP:A


 MP:G


 INT:G


 STR:A+


 DEF:A


 DEX:A+


 AGI:AA


 LUK:C


 MGA:火 G 水 G 風 G 土 G 無 G 光 G 闇 G






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 レイドは自分の頭に流れ込んできたステータスに苦笑いをこぼす。




「ふざけたステータスだ、幻想大陸は随分とハードじゃないか」


『そうかも、でも、そっちの方が修行にもなるでしょ?』


「…上等だ、必ず神玉を手に入れてやる」




 レイドは気合を入れ舌を出し挑発してくるノイジーモンキーに攻撃を仕掛けた。
 ノイジーモンキーは笑いながら攻撃をよけようとした。




「何度も避けられると思うな、クソ猿、上級拳技【列脚】」




 空ぶった攻撃の勢いを利用して下から二回蹴りを入れた。
 ノーガードで攻撃をくらったノイジーモンキーは綺麗に宙を舞った。




「ウギッ…ウキィィィィ!」


「上級剣技【表流し】」




 ノイジーモンキーは空中で回転し、地面に着地した瞬間ダッシュで叫びながらレイドに襲いかかった。
 その攻撃の向きをレイドは剣でノイジーモンキーの方向へと変更し、自滅させた。




「ウギッ…ウギギギ…」


「しぶとい猿だ」




 身悶える猿の目の前に立ち、とどめを刺そうと剣を上に掲げた瞬間、ノイジーモンキーは笑顔になりレイドを攻撃した。
 明らかに予想外の攻撃に見えたがギリギリで反応し、後ろに放り投げた。




「お前のやり口はもうわかって…んだ…よ!」


「ウキィィィ!?」




 放り投げられたノイジーモンキーまたもや空中で回転し華麗に着地した。
 そしてノイジーモンキーはレイドがいた方向を見る。




「遅せぇ、上級拳技【重撃】」


「ウキッ!」




 すでに懐に忍び込んでいたレイドは重い一撃を放った。
 しかしノイジーモンキーも反応して華麗にカウンターをレイドにくらわした。




「ぐっ!この…クソ猿が、戦術級剣技【重連斬】」


「ウキッ!ウキッ!ウキッ!」




 レイドの一発が凄まじい威力を持つ攻撃が連続で放たれる。
 その攻撃をノイジーモンキーは完全に見切り笑いながら全て避けた。




「ウキィィィ!」


「上級剣技【強反撃カウンター】」




 ノイジーモンキーがお返しとばかりに放った一撃に合わせて強力な一撃を顔面にくらわした。
 その一撃により体勢が崩れ背中から地面に倒れる。




「その笑顔、いつまでもつか試してやる、戦術級拳技【牙狼拳】」


「ウ、ウキッ…!」




 逃げ道のないノイジーモンキーは手でレイドの攻撃を止めようとしたがその程度でレイドの攻撃は止まらない。
 強力な連撃に伸ばしていた手が段々と下がって行った。




「…まだ生きてるか、タフな奴だ」


「ウ…キ……」




 レイドがそう呟くと力の無い声でノイジーモンキーが鳴いた後、のばしていた手が地面に倒れ白目をむき絶命した。
 予想外に苦戦したレイドはその場に座り込み、深呼吸をした。




「…それでロキ、神玉はどこにあるんだ?」


『うーんとね、西の方向かな』


「なるほど、了解した」




 レイドは呼吸を整え立ちあがり西の方向に進んだ。
 少し歩くとそこには先ほど倒した200体を超えるノイジーモンキーが群れで住んでいた。




「おい…あの中にあるって言うのか?」


『違うよ?あの扉の向こうにあるのさ』




 ロキが指をさしてノイジーモンキーの群れが近寄らない扉を指さす。
 明らかに不自然にそびえたつ扉、そこからは異様な雰囲気が漂っていた。




「なるほどな、簡単にはいかないか」


『どうするの?一体に苦戦してるようじゃあの群れはきつそうだけど』


「確かに少し状況は悪化したように感じる、だがその逆だ、状況は良くなった」


『なんで…?』


「理由は簡単だ、魔物とはいえ食べなきゃ生きられない、そして探してみたら案の定あった」




 レイドは扉がある場所とは逆方向に歩きながらロキと話す。
 そして果実の生っている木を見つけたレイドは木に登り果実を手に取った。




「果実がある、美味いかどうかは知らないがな」


『えー、そんな気色の悪い果実食べるの?』


「食べるという行為がモチベーションを上げるんだ、味は知らん」




 そう言ってレイドは果実を口に運んだ。
 その味は甘く爽やかでとてもおいしい果実…とはならなかった。




「予想以上だ…マズすぎる…」


『だからやめておけばいいのに』


「だが木からとってしまった以上…」




 そう言いながらレイドは木から取った5個の果実を見た。
 そしてため息をついた後、根性で全て食べきった。






 ◆






「さて、じゃあやるか」


『一体なにをするの?』


「そんなん決まってるだろ?あいつらは言語こそないが知能はある、見回りってのがあるんだろう、だから一匹づつ殺していく、確実にな」


『なるほどね』




 レイドはロキの会話が終わるとノイジーモンキーの群れの近くに行った。
 そして単体行動をしているやつを着実に殺して行った。
 一日に一匹、二匹と数は増えていき10日が経つころには群れのほとんどはレイドによって殺されていた。




「ふぅ…これでやっとドアに入れる」




 レイドは最後の一匹にとどめを刺してドアのもとにゆっくりと近づいた。
 近づくにつれ嫌な雰囲気は増幅していったがレイドは無視して近づいた。




「まだいやがったのか?いや、違うか【鑑定】」




 レイドがドアの目の前にいるノイジーモンキーに似ている猿を見つけて【鑑定】を発動した。
 その瞬間、その猿の首が急に曲がりレイドの方向を見た、そしてステータスが流れ始めた瞬間、レイドはその猿の攻撃によって見えない壁まで吹き飛ばされた。




「ぐっ…な、なんだあいつは…一撃で骨のほとんどがいかれちまった…」




 レイドは何とか立ち上がり追撃に備えた、しかし猿はいつまでたっても追撃に来なかった。
 完全に相手にされていないことに安心しながらも怒りを覚えたレイドはその感情を押さえ、休憩できる場所を探した。




「ここは…」


『珍しいね、ヒールスポットだよ、癒しの神の力の残り香だね、そこに入ってれば君ならすぐに回復すると思うよ』


「運が良かった…のか?」




 レイドはそう言いながら力がたまっている場所の中に入り猿のステータスを思い出す。






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 ロアモンキー


 種族 魔猿族


 HP:AAA


 MP:F


 INT:F


 STR:AA


 DEF:AA


 DEX:AAA


 AGI:AAA


 LUK:F


 MGA:火 F 水 F 風 F 土 F 無 F 光 F 闇 F




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(ふざけた能力だが、猿ごときが俺に勝てると思うなよ…)




 レイドはそんなことを思いながら瞼を閉じ回復の為に眠りに就いた。

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