ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

決意(レイド編)

 
 レイドとアニムスの二人は野営をしていた。
【空間倉庫】から出した食べ物と、魔法で簡易的なキャンプをした。




「そういえば、レイドが食事をしているのを見たことないけど、おなかすかないの?」


「神玉を持ったときに邪魔になるものを排除されてしまうんだ、空腹とかもそれの一つだ。
 ほかには性欲や睡眠欲、つまり三大欲求はなくなる」


「じゃあ、ご飯とかはもう食べないの?」


「いや、元々食べるのは好きだからな、嗜好品として食事する場合もある、必要が無いだけで取ることはできるからな」


「そうなんだ……性欲もないんだ、だから私のこと襲わないんだ」




 アニムスがレイドに聞こえないようにそう呟いた。
 レイドは【空間倉庫】から龍族クレイアから奪った神玉を取り出した。




「それって神玉でしょ? 吸収しなくていいの?」


「吸収したいんだがロキが言うにはこれは俺には向かないらしい」


「吸収できない種類だったってこと? 」


「いや、これを吸収しても力が大して上がらないだけだ、しかし俺の魂がいくら強くとも吸収できるのは限られている」


「でも数が限られてるんだったら神玉を全て集めても創造神の力を手に入れられない」


「俺もそれはロキに聞いた、創造神の力を手に入れるには神玉を吸収していなければならない場合じゃない」


「…………? 」




 レイドの言葉にアニムスは首をかしげた。




「創造神の力を手に入れるのは神玉を全て一か所に集め、全てを融合させるらしい」


「じゃあ力を手にする時は一回全部出すってこと?」


「そういうことだ、だから吸収せずとも持っているだけでいい」


「そうなんだ、じゃあ私が吸収してもいいんだ」


「……理屈的にはそうだが耐えきれない場合もある、そんな賭けに出る必要は無い」




 アニムスはレイドの自分を心配する言葉に嬉しさを覚えながらも、まだ完全には信頼してくれていないことに不満そうだった。




「それにもし耐え切れずに死んだ場合、どっかに行ってしまうからな」


「そうなの? 」


「あぁ、ロキの能力によって回収できているが本来神玉は持ち主が死んでから24時間で他の場所に飛んで行ってしまうらしい。その24時間の間に特殊な魔法陣を描くことによってロキと似たような術を使える。俺の場合はロキのおかげで簡易的な魔法陣で済んでいるがな」


「そうなんだ……じゃあ神玉は簡単には吸収できないね」




 アニムスは納得したような顔をした。
 そしてもう一つ思いついた質問をする。




「神玉を吸収すると模様が出るんでしょ?」


「あぁ、ロキやハデスのように意識的に出すのが特殊で、普通は模様が出るな」


「レイドは剣の模様が出てない、なんで?」


「それはロキやハデスが特殊と言っただろ? それの影響らしい」


「そうなんだ……らしいってことはまだわからないことがあるんだ」


「あぁ、ロキも完全には理解しきれていないらしいからな」




 2人の会話はアニムスが睡魔に耐え切れなくなるまで続いた。
 アニムスが寝た後も睡眠欲がなくなったレイドは朝を待ち続けていた。






 ◆






 2人は着実に風の国リールに近づいていき目視できる距離まで来ていた。
 レイドは風の勇者を警戒しながら歩いて近づいた。




「来るか……アニムス準備しろ」


「わかった」




 レイドの言葉でアニムスは魔力の循環量を増やし戦闘態勢を取った。
 そしてレイドの言葉から数十秒後、2人の目の前に国から緑髪の男が飛んでやって来た。




「やっと来たか風の勇者」


「邪悪な力、俺の国に何の用だ」


「安心しろ、国に手を出す気は無い、神玉を渡してもらえればな」


「……この力が目的か、生憎これは国に必要な力だ、渡すわけにはいかない」


「そうか、ならわかっているだろ?」


「仕方ない、戦闘はあまり好まないんだがな、仇をなす者には死をくれてやる」




 レイドと風の勇者は剣を構え臨戦態勢を取る。
 アニムスはレイドの近接戦闘の邪魔にならず、サポートできる距離を取った。




「まともな勇者と戦うのは初めてでな、記念だ、名前を覚えといてやる」


「クルス、クルス・ゼフィロスだ」


「レイド、レイド……たくさんあってどれ名乗ればいいかわからねぇな」


「なに名前など俺はどうでもいい、すぐに忘れる!」




 その言葉と同時に2人の戦闘が開始した。
 クルスの戦闘スタイルは右手に剣を持ち、左手で魔法を撃つというものだった。




「上級剣技【重力斬】」


「上級剣技【裏流し】」




 クルスの攻撃をレイドは剣を巧みに使い後ろに流した。
 その流した力によって地面に傷がつく。




「風精霊魔法【中風】」


「【魔滅剣】」




 クルスの魔法により凄まじい風がレイドを襲った。
 レイドは今まで詠唱を唱えなければ使えなかった【魔滅剣】を無詠唱で使い魔法を斬り消した。




「俺の魔法を……なら、風精霊魔法【強風】」




 レイドに自分の魔法を消されたことに驚きながらもさらに強力な魔法で立っていられないほどの強風を起こす。その魔法を何回も切りかき消すとクルスに近づき、次は自分の番だと言わんばかりに攻撃を仕掛けた。




「戦術級剣技【千羽切り】」


「手を貸せ【風の精霊剣】、風精霊剣技【風流】」




 レイドの千に近い攻撃をクルスは風を纏った剣を巧みに扱い空へと流していく。
 レイドは受け流された瞬間にしゃがみ、アニムスとクルスとの射線を開けた。




「風と水の精霊よ、雷に変わり撃ち抜け、上級雷魔法【雷撃】」




 アニムスの雷の魔法がクルスを襲った。
 魔法の中でも攻撃力が弱いものの、最速を誇る雷魔法は準備していたならまだしも、不意打ちの一撃にはクルスも防御が間に合わなかった。




「ぐっ……!」


「戦術級剣技【重連斬】」




 アニムスの魔法でしびれているクルスにさらに攻撃を加える。
 クルスは防御しようとするも筋肉が硬直し少しだけ間に合わず、一撃もらってしまった。




「ぐあっ……!」




 重い一撃によりクルスが宙を舞った。
 しかし違和感を覚えたレイドは自分の剣を見る。




「切れてない?」




 剣には血が付いていなく切れていないことがわかった。
 その原因を探るために受け身を取り何事もなくたっているクルスを見る。




「チッ! 魔法を使っていやがったか」


「ご名答、風を操り身に纏っていた、しかし予想以上だ、そろそろ力を解放しなくちゃいけないようだな」


「そうだな、俺も準備運動が終わったころだ」


「すぐにその口黙らしてやる」




 クルスの首にある模様が緑に光り出した。
 そして、それを見たレイドは舌に破壊の神玉の模様を浮かびだした。




「風の力、今こそ解放しろ【勇者解放】」




 クルスが力を解放をすると近くにいた風の精霊達が目視できるようになる。
 その精霊たちはクルスに近寄り風に変わりクルスに纏った。




「破壊の力、今こそ解放しろ【勇者解放】」




 レイドが力を解放すると近くにいた精霊たちが消え、花が枯れ、動物や魔物までもが逃げ出した。
 そして紫色のオーラが発生しレイドを纏った。




「さて……本気でやろうか、レイド」


「上等だ、どっかの龍族や悪魔みたくがっかりさせるなよ」


「風精霊魔法【暴風】」




 クルスがレイドに手を向け魔法を発動する。
 その魔法により木や岩が吹き飛び更地になるほどの風が吹き荒れる。




「アニムス!」


「私は大丈夫! 精霊よ、干渉し魔法から守れ、戦術級無属性魔法【魔法障壁】」


「人の心配をしている場合か!」




 レイドはアニムスの安否を確かめるように大声を出す。
 アニムスは【魔法障壁】によりなんとか風から身を守っていた。
 そんなレイドにクルスは近寄り攻撃を開始する。




「風精霊剣技【風の舞】」


「破壊の力【破壊剣】」




 クルスの踊るような鮮やかな攻撃にレイドが正面から相殺する。
 そして全て弾ききった後に反撃をした。




「戦略級剣技【万楊斬まんようざん】」


「風精霊剣技【風嶺ふうれい】」




 レイドの変幻自在な剣筋がクルスを襲った。
 しかし、その攻撃の全てを四方八方に散らした。




「この暴風の中で動くとは期待以上だ、レイド」


「そっちこそ、楽しい勝負になりそうだ」




 レイドとクルスがそんな会話をする。
 そしてそれが終わると同時にさらに戦闘が激化した。




「な、なんて戦闘……【魔法障壁】を使っても立っているのがやっとの風の中であれほどの動き、これが神玉持ち同士の」




【魔法障壁】で風から身を守っているアニムスがそう呟く。




「出る幕が無い……レイドが心配する理由が少しわかった、持っているのと持っていないのじゃ次元が違う……」




 アニムスは下を向きながらレイドが戦闘前に渡した箱を見る。
 そして渡された時の会話を思い出した。




「レイドこれは?」


「神玉が入っている箱だ、特別な素材で作られている。その中にあれば神玉は消えることは無い」


「なんで私に?」


「その神玉は闇の神カオスの神玉だ、魔法に適性が無い俺が使っても意味がない、命をかける決意ができたら使え、お前ならきっと使える、だが決意が無いものは神に飲み込まれる、半端な決意では使うなよ」




 会話を思い出したアニムスは再度、箱を見る。




「決意……レイドの役に立つという思いは、私にとって……」




 アニムスは箱から視線をはずしてレイドとクルスの戦闘に再び視線をやる。




「これなら……風精霊魔法【爆風】」




 クルスとレイドが剣をぶつけ合っている。
 そして、クルスがレイドの顔の目の前に魔法で風を凝縮した玉を出現させ風を解放した。




「舐めるな、破壊の力【消滅斬】」




 暴風がレイドに放たれると同時に剣を上から振り下ろした。
 黒い斬撃が発生し風をかき消しながらクルスを襲った。




「風精霊魔法【風身】」




 斬撃がクルスを真っ二つにしたが、そんなクルスは風に変わり散り散りになった。
 そして本体のクルスはレイドの後ろに回っていた。




「チッ!」


「油断したな、風精霊剣技【暴風撃】」


「戦術級剣技【流路りゅうろ】」




 クルスが後ろから攻撃を仕掛けると同時に剣を後ろに回し体全体を使い回転しながら何とか攻撃を流した。そして、回転を殺さずにそのままクルスに攻撃を仕掛けた。




「上級剣技【回転切り】」


「風精霊剣技【風流】」




 それもクルスは剣で受け流し、そのまま腹に蹴りを放った。
 その攻撃に反応して剣の横で防御し、後ろに飛んで威力を殺した。




「これにも反応するか……」


「ここまでやるとは想定外だ、さすが伝統を継いできただけあるな」


「……それも知っているか、より生かしてはおけないな。楽しむのは終わりだ、本気を出してやる」


「奇遇だな、俺も言おうとしてたところだ」




 クルスがそう言うとさらに風の精霊が近寄ってくる。
 そして纏っている風が増え、さらに強烈な追い風が吹き荒れた。




「剣の力、今こそ解放しろ【勇者解放】」




 レイドはさらに神玉を解放した。




(本来はロキも使いたいんだがレイヴに合ってからなぜか使えない、ロキもそれについて話せないようだった……これでも届かないとなると……)




 レイドとクルスは目を合わせ威圧し合う。
 そして痺れを切らしたようにクルスが攻撃を仕掛けた。




「風精霊剣技【激風槍】」


「剣の力、我の剣道に革命を起こせ【剣聖】、戦略級剣技【天流】」




 吹き荒れていた暴風が全て剣に纏い槍の形に変わり、レイドに向かって一気に放たれた。
 その一撃をレイドは下から上に流し、その流した攻撃で雲が散り散りになると同時に激しい戦いが再び始まった。




「戦略級剣技【蝶舞斬】」


「風精霊剣技【風の舞】」




 レイドが舞い踊るような動きで凄まじい早さで切りつける。
 それに合わせるように舞いながら打ち合った。




「レイドォ!」


「クルスゥ!」




 レイドとクルスが剣をぶつけ合い叫び合う。




「風精霊剣技【烈風】」




 レイドと距離を取ったクルスは下に剣を突き刺した。
 その瞬間、レイドを中心とした半径5m程の地面の下から天に向かって風の塊が放たれた。




「ぐっ! 災害級剣技【絶斬】」




 レイドは【烈風】を受けながらも体勢を立て直し【絶斬】で真っ二つにした。
 地面に着地するとすぐにクルスに近寄り攻撃を放っていく。




「破壊の力、【破壊龍】」




 クルスの腹に手を置いて【破壊龍】を発動すると手から黒い龍が現れクルスを飲み込んだ。
【破壊龍】は地面を貫通を繰り返しながらクルスを攻撃した。




「ぐあぁぁぁ!」


「はぁ……はぁ……これでやられてくれれば助かるが……」




 レイドが膝に手を置きながら息を整えクルスが飛んで行った方向を見た。
 土煙が張れるとそこには右腕から血を流したクルスが立っていた。




「はぁ……はぁ……はぁ……」


「……タフな奴だ」


「はぁはぁはぁ……これを出すことになるとはな」




 クルスがそう呟くと右手を前に出しほとんどの魔力を手に送り出した。
 大技が来ることを悟ったレイドはその場で防御をする。




(もう逃げれるほどの体力は残ってないか……)




「初代の魔法を耐えられると思うなよ! 風精霊魔法【風神の吐息】」




 クルスが魔法を発動すると地面をえぐりながら強烈な風がレイドを包み込んだ。
 数秒すると風が止みクルスが魔力切れを起こしその場に膝をついた。




「やったか……?」




 クルスはそう呟きながらレイドがいた方向を見た。
 そこには防御の姿勢をとり傷だらけで立っているレイドの姿があった。




「ぐっ……な、なんとか耐えられた……が、限界か……」




 レイドはそう言いながらその場に倒れた。
 その様子を見たクルスは息を整えレイドに近づいた。




「はぁ……はぁ……ここまで追い込まれるとはな、だがこれで終わりだ」




 クルスはそう言いながら手に持っている剣でとどめを刺そうとした。
 その瞬間、魔法がその剣を弾き飛ばした。




「なっ……!?」


「レイド、私……決意できた、修業した程度であなたの横に立とうと思っていた。でもやっと命をかけて立つ決意が……やっとできた」


「この雰囲気……神玉を吸収させやがったな、レイド!」


「賭けに……勝ったか……」




 レイドはアニムスを少し見た後に意識を手放した。
 クルスは剣を構えてアニムスに相対した。




「はぁ……はぁ……来るなら、来い!」


「私も吸収して落ち着いてない、それにあなたも満身創痍でしょ? ここは一旦手を引かない?」


「逃がすと思ったか……」


「今のまま戦ったら私もあなたも無事では済まない、あなたにもそれはわかるはず」


「…………」


「戦うなら後ろから攻撃すればいい、今のあなた相手ならそれでも勝率はある」




 そう言って風魔法でレイドとアニムスは飛んで行った。
 その様子を見ながら立っていたクルスも限界が来てその場に倒れた。




「くそ……体が動かねぇ……」


「クルス様!」


「ご無事ですか!?」




 クルスが倒れてからすぐに騎士らしきものが現れた。
 そして風魔法でやさしく国へと運んで行った。

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