ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

副隊長(レイド編)

 レイドはアニムスと別れた後にシンが住んでいる都市の外壁の上に立っていた。




「……リーヴァーには手を出さないが同じ場所にいるんじゃ少し被害にあっても仕方ないよな」




 レイドはそう言って【空間倉庫】でマントと剣を取り出して装備した。




「まずは情報収集だな……【気配察知】」




 レイドは【剣術】の能力の【気配察知】で街の中を探る。
【気配察知】は生物を探知する術……熟練度が上がると範囲が広くなり相手の情報が明確にわかる。




「……これか?いや……リックにしてはあまりにも弱すぎる。しかし似すぎている炎の力も感じられる」




 レイドは少し考えた後にその場所に向かった。




「とりあえずその場所に向かえば分かるか」




 レイドは気配を感じた家の庭に侵入して気配を消す。
 そしてもう一度【気配察知】を使用して家の中を探った。




「……三人か、強さ的に連れか」




 レイドは凄まじい跳躍力で三人がいる二階の部屋の窓から侵入した。
 突然の侵入者に連れの二人は驚き瞬時に警戒態勢を取る。




「何者だ!」


「我らをジュエリニアの篝火と知っての無礼か!」




 レイドに向けて2人は剣の先を向けて質問を投げかける。
 そんな2人を無視してレイドは冷静に奥で座っている青年を見る。




「チッ!やっぱリックじゃねぇか……」


「…………」




 青年は無言で横に置いていた剣を取りレイドの前に立つ。




「貴様、リック団長に何の用だ」


「団長だぁ?……あいつ団長なんかやってんのか、あー……確かにそんなこと道中で言ってたな」


「リック団長の知り合いなのか?」


「ん?あぁ……知り合いではあるな、それでリックはどこにいるんだ?」


「いくら知り合いとはいえ素性の知れない相手に教えることはできない」




 レイドが居場所を聞くと青年は剣を鞘に納めて質問を返した。
「しかたねぇな……」と頭をかきながらレイドが呟くと、青年の胸ぐらをつかんで窓の外に放り投げた。




「なっ!」




 青年は予想していなかった行動に驚きつつも空中で姿勢を立て直して綺麗に着地した。
 レイドも窓から飛び降り青年に声をかけた。




「無駄に俺だって戦闘したくねぇんだ……さっさと教えてくれねぇかな?」


「団長に合って何をするつもりだ!」


「殺すだけだが?」


「なっ!」




 レイドがまるで普通のことを言うように驚きの発言をすると
 そのあまりにも普通ではない様子に驚きながらも危険人物と判断して剣を再度構える。




「貴様と団長を合わせるわけにはいかないようだ……ジュエリニアの篝火、第三副団長 ベール・レストリアが成敗する!」


「はぁ……無駄な戦闘はしたくないんだが、大事な団員……それも副団長の生首なら少しは絶望してくれそうだなぁ!」




 ベールが剣をレイドに向けて宣戦布告する。
 レイドは悪意に満ちた笑みをこぼしながら地面に黒い円を出現させた。




 2人はその黒い円に飲み込まれて都市外れの何もない野原に移動した。
 ベールはその現象に驚きレイドに質問する。




「な、何をしたんだ……いったい」


「これか?これは【空間倉庫】の応用だ、生物は本来入れることはできないが
 二つ穴を用意すると入った穴とは違う穴から放り出される。その仕組みを使っただけだ」


「く、空間魔法が使えるのか……?」




 使い手が珍しい強力な空間魔法の使い手だと考えたベールはさらに警戒を高める。
 そんなベールを見ながらレイドは笑いながら声をかける。




「安心しろ、俺に魔法は使えない、ただのスキルの応用だ……それにこんな無駄な会話をしに来たわけじゃないだっ……ろ!」


「くっ!」




 レイドがベールに凄まじい速度で近寄り攻撃を仕掛ける。
 ベールは驚きながらも攻撃を受け止め反撃を仕掛ける。




「中級剣技【三連斬】」




 ベールが【三連斬】を放ち一瞬で三回レイドに攻撃を仕掛ける。
 それをレイドは全て受け止め腹に蹴りベールを吹き飛ばす。




「グッ!中級剣技【波切り】」




 ベールはダメージを負いつつもレイドに向かって走って攻撃を仕掛けた。
 レイドはその攻撃を技を使うことなくよけ顔面にパンチを入れた。




「ウグッ!つ……強い」




 殴られた顔面を押さえながらベールはそう呟く。
 レイドはその様子を見ながらケタケタと笑っていた。




「おいおい、その程度の実力で副団長とは、レベルがずいぶんと低いんだな」


「ば、馬鹿にするなぁ!」




 ベールは怒りをあらわにして中級剣技【連斬】で攻撃を仕掛ける。
 そんな怒りにまかせた攻撃がレイドに当たるわけがなく簡単によけられ腹を思いっきり殴られた。




「グォ……!」


「マジかよ……ずいぶんと人間のレベルは低いんだな」




 腹の痛みでこうべを垂れているベールの頭を肘で上から叩き地面にひれ伏せさせる。
 ベールは痛みに耐えながらレイドの足を剣を持っていない手でつかむ。




「お前……根性だけはあるな」




 レイドはそう言って掴まれた足を後ろに振ってベールの顔面を蹴り飛ばした。
 蹴られたベールは鼻や口から血を流しながら空中を舞った。
 しかしベールは根性で意識を戻し地面ギリギリで受け身を取った。




「つ……強い、いったい何者なんだ」


「はぁ……そんな程度の力じゃ殺しても絶望は余り与えられなさそうだな」


「はぁはぁはぁ……まだ未完成だが使うしかないのか……」




 ベールはレイドに聞こえないほどの声でそう呟く。




「しっかし……こんな奴が本当に副団長なのか?流石に弱すぎるだろ」


「おい!」


「ん?まだやるのか、無駄だからやめておいた方がいいと思うが」


「はぁはぁはぁ……俺が、副団長の理由……今から見せてやる」


「ほぉ……」




 興味が無さそうにしていたレイドがベールのその言葉によって
 笑みをこぼしながら興味を持ち始めた。




「はぁはぁはぁ……すぅー……ふぅ……火の精霊よ、今こそ降臨し、我に纏え!【炎の精霊剣】」




 ベールの詠唱が終わるとベールの剣が紅く染まり火を纏い始めた。
 それと同時にその様子を見ていたレイドの顔が険しくなった。




「……これが俺が副団長に選ばれた理由だ!」


「お前、そのスキルは……変更だ、絶対に殺してやる」




 レイドはそう言ってベールに向かって走り攻撃を仕掛けた。




「中級剣技【波切り】」


「炎精霊剣技【炎舞】」




 レイドの攻撃を一方的に受けていた先ほどとはまるで別人のような動きで受け流した。
 その流れでそのままレイドに攻撃を仕掛けた。




「チッ!上級剣技【体流し】」




 レイドはその攻撃を剣で受け止めその衝撃を体を使って地面へと流した。
 その流された衝撃で地面に鋭い斬撃の跡が刻まれた。




「厄介だぜ……」


「これでも……ならば!炎精霊剣技【炎連斬】」


「上等だ、正面から打ちあってやる!戦術級剣技【千羽切り】」




 2人の攻撃が正面からぶつかり合う。
 最初はレイドが少し押していたが少しづつベールの攻撃が速くなり互角になり始めた。




「これでもか!炎精霊魔法【炎重斬】」


「戦術級剣技【全流しフルシェッド】」




 ベールが上から何度も攻撃したかのような威力の一撃をレイドに仕掛ける。
 それをレイドはリーヴァーの攻撃を受け流した技でそれを流す。




 その凄まじい威力でレイドの立っている地面にクレーターができてしまった。
 2人の顔が近くなり競り合いながら会話をする。




「貴様……そこまでの力をなぜ悪用する!」


「悪用なんてしていない……お前が勝手に決め付けているだけだ」


「貴様のやることは悪ではないというのか!」


「生物の善悪なんてのは立場によって変わる。俺にとってはお前らの団長が悪だ。
 それを殺そうとしている俺はむしろ善行をつんでいる。そうは考えられないか?」


「……貴様と話しても意味がなさそうだ」


「気が合うじゃねぇか……俺もそう思っていたところだ」




 2人はそう言って同時に距離を取った。




(未完成だからか消耗が激しい、これ以上の戦闘は俺が先に倒れてしまうな……次で、あの技で勝負をつけてやる)




「ふぅー……炎精霊剣技【黒炎の衣】」




 ベールが天に剣を向けると紅い炎が少し黒くなり禍々しくなる。
 そしてその炎がベールの全身を包んだ。




「その技は……少しまずそうだ、反逆の力、今こそが使うべき時、神が創りし力、この力の前にあらず【魔滅剣】」




 レイドの剣の剣身も黒く染まり禍々しいオーラを放つ。
 そして攻撃を仕掛けてきているベールに向かっていった。




「この技を防げると思うな!炎精霊剣技【黒炎斬】」


「減らず口をそろそろ黙らしてやる……反逆の力の一部、今こそ解放しろ【勇者解放】」




 レイドの右目が神玉に変わり右手に神玉に刻まれている模様と同じものが出現した。
 その瞬間にレイドのスピードが今までの比ではないほど速くなりベールの技をかわす。




「なっ!その模様は……!」


「俺の前に立ちふさがりたきゃ、その力をあの時の俺より使いこなすんだな!」




 そしてレイドがベールの心臓部分を突き刺した。
 ベールはすぐに剣を体から抜いてレイドから距離を取った。




「ぐっ……ゲホッゲホッ……」




 口に流れてくる血によりベールはむせかえる。
 そのベールにとどめを刺そうとレイドが近寄る。




「手こずらせやがって……」




 そう言ってレイドが剣を振り上げる。
 そしてベールは死を覚悟して様子で眼を瞑る。




「来世で出直してくるんだな」


「………………!上級炎魔法【炎柱】」


 レイドが剣を振り下ろす。
 その瞬間にレイドとベールの間に炎が通る。




 その炎が無くなるとそこにはベールの姿はなかった。
 レイドは気配で後ろにベール以外の人がいることを知ると振り向く。




「よく持ちこたえた、これを飲め」




 そう言ってベールに最上級ポーションを飲ませて怪我を完治させた。
 そしてレイドは見知った顔に喜びながら声をかける。




「よぉ、久しぶりじゃねぇか、リック!」


「リーヴァーから聞いてはいたが、本当にお前が生きていたとは……
 随分と落ちたじゃないか!レイド!」




 ベールの横にはレイドの復讐相手である隻腕の顔にやけどを負った男。
 リック・ロゼバルトが立っていた。



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