ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

狂気の研究者(レイド編)

 レイドはアルカをお姫様だっこした状態で裏路地に向かった。




「確か…この家であっているはず」




 裏路地の中でもひときわ異彩な分機を醸し出した場所にポツンと朽ちかけの家があった。
 レイドはそこに入り床を見ながら何かを探した。




「ここか…上級剣技【断切】」




 レイドは空中に現れた黒い円から剣を取り出し【断切】で
 床に不自然にあった金属の扉を切った。




「情報が正しければ…」




 レイドはそう呟きながら扉をくぐり怪しい地下へと向かった。
 数メートル落ちるとそこに真黒い大きな空間が広がっていた。


 周りを見渡すと壁や床にまき散らされた血、檻に入っているネズミの集団、
 メスやフラスコ、怪しい薬品の入った瓶などが無造作に置かれていた。




「この臭い…!」




 レイドは怪しい薬品の臭いに気付き瞬時に鼻を押さえる。




「きっきっきっ…どなたですか?こんな寂れた場所には迷いこまないはずですが…」




 白衣を着たやせ細った男が奥から笑いながら出てきた。
 レイドは警戒をしながら質問する。




「お前がグレイヴか?」


「おや…私の名前を知っているということは研究所の方ですか?」


「何の研究所かは知らないが俺とは全く関係がない…ただ少し用があって会いに来た」


「ふむ…それはそのお嬢さんの怪我についてですかな?」


「そうだ」




 グレイヴは顎に手を当てて少し考える。
 レイドはその様子を黙ってみる。




「…私の場所に来なくとも治療ならば治癒術師のもとに行けばいいのではないでしょうか?」


「俺らはお前と同じような人種だ…闇に隠れて生きるしかない」


「なるほど…それであなたは何を対価に払うのでしょうか?」


「…お前は何を望むんだ?」


「そうですね…実は私ある実験に最近成功したんですよ」




 グレイヴはそう言いながら机の上に合った怪しい液体の入った瓶を手に持つ。




「この液体は能力を強化させる液体なんですが効能が強すぎてですね、マウスじゃ耐え切れないんですよ」


「それを飲めと…」


「あなた…相当強いですよね?」


「なぜそう思う?」


「入った時にあなたは臭いに気づき鼻を押さえましたよね…
 あの臭いはパラライズの花の花粉で作った液体のにおいです」


「それと何か関係があるのか?」


「パラライズの花粉はステータスによって効果が変わります。私が作ったパラライズの液体は
 100倍の濃度の物です。いくらステータスが高くともマヒで動けなくなるはずですが…あなたには
 何の効果も見られなかった」




 グレイヴが瓶を机に置きあちこちを歩き回りながら説明をする。




「俺が耐性持ちだということは考慮しなかったのか?」


「それも可能性はありましたが、私のスキルによればあなたは状態異常系のスキルは持っていないようですから」


「なるほどな…それで?実験に成功したのがわかっているなら俺に飲ませる必要はないはずだが」


「私の目的は幼い時から変わっていないんですよ…究極…究極の存在を私の手で作り出したいんですよ!」




 グレイヴが狂気じみた様子でそう叫びレイドに近づいた。




「あなたは私の眼に狂いがなければ最高の素材…究極になれる器なんですよ!」


「この薬品は能力を上げるんだったな?」




 レイドは狂気じみた様子のグレイヴを無視して机の上に置かれた瓶を持つ。




「私は実験と薬品には嘘をつきません…あなたの器が本物ならば能力の強化は絶大なはずです」


「そうか…俺も力が欲しかったところだ、ちょうどいい…」




 レイドは汚れたベッドにアニムスを寝かして瓶の中の液体を見る。
 そしてグレイヴのほうを振り返って言葉を投げかける。




「お前のことは信用していない…しかし、お前の俺と似た狂気を信じよう」




 レイドはそう言って瓶のふたを開けて一気に液体を体に流し込む。
 しかしレイドに何も変化は起きなかった。




「何も起きないぞ…?」




 レイドが改めてグレイヴのほうを見て質問を投げかける。




「いまは消化を待っているんですよ…おそらくもう少しで…」


「グッ!」




 グレイヴがそういった瞬間にレイドが心臓を押さえながら床に倒れる。
 レイドは体験したことのない痛みにのたうちまわる。




「グッ…アァァァァァ!」


「お嬢さんの治療は任せてください…少し手は加えますけどね、きっきっきっ」




 痛みでのたうちまわるレイドを横目にグレイヴはアニムスの治療を始めた。




 …そして数十分後、アニムスの治療が終わったグレイヴはレイドの様子を見た。
 レイドは痛みに我慢しながらも椅子に静かに座っていた。




「流石ですね…生物が命を手放すほどの痛みのもう慣れている、私が見込んだ通りです」


「こ…この、痛みは…い…いつ終わ…るん…だ?」


「そうですね、私の計算的にはもう少しで終わるはずですが」




 グレイヴがそういった瞬間にレイドは突如として意識を失った。
 しかしそれは一瞬で椅子から倒れる前に意識が戻り体勢を立て直した。




「っ!…はぁはぁはぁ、痛みが治まった?」


「おめでとうございます…あなたは私の期待に応えてくれた、これをどうぞ」




 グレイヴはそう言ってレイドにステータス石を渡した。
 レイドは石を割り前のステータスを思い出しながら変化をみる。






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 レイド(・ロキ)


 種族 半魔半人


 HP:B+ → A-


 MP:―


 INT:―


 STR:A- → A


 DEF:B+ → A-


 DEX:B+ → A-


 AGI:B+ → A-


 LUK:G


 MGA:火 ー 水 ー 風 ー 土 ー 無 ー 光 ー  闇 ー




 〔スキル〕


【成長促進】【格闘Lv6】【剣術Lv13】
【痛覚耐性】【体力消費削減Lv5】




 〔特殊スキル〕


【自然治癒増進Lv4】【空間倉庫】




 〔固有スキル〕


【愚者の意地】【魔滅剣技】




(〔神与スキル〕)


(【能力獲得】)(【神の加護】)




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「確かに強くなっているのは確認できた」


「それはよかった!それで何段階ほど上がりましたかね?」




 グレイヴはハイテンションでメモを持ちながらレイドに近寄る。
 そしてレイドはステータスの上がり幅について正直に語った。




「え…?一段階しか上がらなかったのですか?」


「あぁ…そうだが」


「しかも上がらなかった部分も存在したのですか?」


「あぁ…何か問題があるのか?」


「しっ…失敗です!私は成功と言いながら失敗していたのです!アァァァァァァ!」




 グレイヴはいきなりメモを放り投げて発狂しだした。
 部屋を暴れまわり机にあるものを全て床にぶちまけた。




「おい…!ステータスは上がったんだ…成功のはずだろ?」


「違いますぅぅ!私が作ろうとしていたのはもっと上がるはずだったんです!もっとぉぉぉぉぉ!」




 レイドは立ち上がりグレイヴを止めるように声をかけたが、
 より一層あばれまわり手がつけられなくなった。




「これは放っておいた方が良さそうだな」




 発狂しているグレイヴを止めることを諦めてアニムスが寝ているベットの近くに向かった。
 近くに置いてあった椅子にレイドはゆっくりと腰をかける。




「…いつまで寝ているふりをしているつもりだ?」




 レイドが静かにそうアニムスに問いかけるとアニムスはゆっくりと
 瞼を開けてレイドのほうを見た。




「なんで助けてくれたの?あなたにとって私は大事な存在でも何でもないはず」


「大した理由はない…俺には魔法適性がない、魔法が必要になった時に
 魔法使いがいないと面倒なだけだ。たまたまお前が都合のいい場所にいた、それだけだ」


「私のせいで復讐の邪魔をしてしまった…レイドにとって私はもう邪魔なはず」


「確かに邪魔はした…しかしそれはお前の責任だけではない、俺がシンの力を見誤った」


「それでも…私は役に立つって言ったのに…」


「俺は悪だ…だがクズじゃない。一度のミス、さらに自分にも非がある場合に捨てるほど」


「レイド…」


「だが勘違いするな…二度目はない。俺にこれ以上ついてきたいのであれば今以上に強くなれ。
 あいつ…シン以上に強くなれ、次に合った時に勝てるようにな」


「…うん、わかった」




 アニムスはそう言ってベットから起き上がろうとする。
 レイドはそんなアニムスの頭をつかんで無理やりベットに寝かした。




「…?」


「あと少しは寝ておけ、途中で倒れられても迷惑だ」


「…私は大丈夫」


「それでもだ…急いではいるが倒れられた方が遠回りになる」


「わかった…」




 アニムスはそう言って再び眠りについた。
 そしてレイドは疲れて発狂が治まったグレイヴグレイヴのもとに向かった。




「大丈夫か?」


「はぁはぁはぁ…お騒がせしました…」




 グレイヴは床に倒れている状態で息を切らしながらレイドにそういった。




「はぁはぁはぁ…あなたの眼はやはり騙せないようですね」


「…何のことだ」


「あのお嬢さんの体の変化に気が付いているのでしょう?」


「…明らかに魔力の乱れが感じられた、俺でもわかるほどの乱れだ、相当激しい乱れなんだろう。
 お前…いったい何したんだ?」




 レイドが少しどすの利いた声でグレイヴに質問する。
 グレイヴは立ちあがり笑みをこぼしながら答える。




「あのお嬢さんも素晴らしい器の持ち主だった…少しばかり薬品を投与させていただきました。
 あ、安心してください、安全はすでに確認済みのものなので」


「そうか…ならよかった、それであと何日ほどで乱れは落ち着きそうなんだ?」


「あの薬品は安全性は高いのですが効能が遅いので…多分ですが半年ほどだと思います」


「そんなにか…わかった、あいつが起きたら少し伝えてほしいことがある」


「何ですか…?」




 そしてレイドはグレイヴに伝言を伝えた。




 ◆




 アニムスは眠りに入ってから一時間後に眼を覚ました。
 そしてレイドの行方を捜すようにグレイヴに尋ねる。




「…レイドはどこ?」


「起きたのですね…少し伝言を預っています」




 グレイヴはそうしてレイドからの伝言をアニムスに伝えた。




『アニムス、お前はあと半年魔法が使えないらしい、その状態のお前は邪魔でしかない。
 しかし半年後には剣聖に復讐するためにお前を迎えに行く。お前が戦闘できるようになるまで
 俺は剣聖には手を出さない。他の二人に復讐しに行くつもりだ。お前はそこで狂気じみた研究者の薬品で
 強くなれ、こいつの力は本物だ…認めたくないがこいつは研究のことなら信用できる。
 強くなっていなければ半年後であろうと連れていくことはできない。それを心して強くなれ』




「私の力を認めて頂きありがたいです。それであなたはどうするんですか?
 今なら追いつくこともできますし追いかけるのもありだとは思い「私はここで力をつける」」




 グレイヴの言葉をさえぎるようにアニムスが強い言葉でそういう。
 グレイヴはその言葉を聞いて笑いながらアニムスに問う。




「あなたはどっちがいいですか?」




 グレイヴは左右で違う色の薬品をアニムスの眼の前に出す。




「左は能力の上がり幅が高いです。しかし致死率も高く苦痛も尋常ではない。
 さらにはそんな代物を数カ月にわたって飲む必要性があります。対して右は上がり幅は
 低いですが致死率も少なく、苦痛もほぼありません。どちらにしますか?」


「そんなの決まってる」




 そう言ってアニムスはグレイヴの左手に向かって手を伸ばす。
 そしてアニムスは薬品を一気に飲み干した。




「…あれ?何も起きない」


「ブラボー!!それはただのジュースです」




 そう言って賞賛を送りながらアニムスが選ばなかった法の瓶の中身を排水溝らしき場所に流す。




「ジュース?嘘をついたの?」


「いえ、本当に薬品は存在しますよ。しかし一日に二本も薬品は投与してはいけません。
 明日から飲み始めましょう」


「わかった…それで何で捨てているの?もったいない」


「あぁ…これは猛毒ですよ」


「え…?」


「これも頼まれていてですね…こっちを選ぶようなら価値はないと」




 グレイヴはそう言いながら「酷い人です」と笑っていた。




「じゃあ、私はまだ強くなれるのね」


「はい…私の薬品があれば」


「わかった…これからよろしく」


「はい…あなたが耐え切れることを私は心から願っております」




 そう言いあって2人は互いに握手をした。

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