ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

出会い(シン編)

【状魔変化】で魔法を作ったシンは最初に転移した野原の近くでオオカミのような形の魔物…ウルフと戦闘していた。




「火の精霊の力よ、槍の形にうつろひ貫け【火の槍】」




 シンの隣に20cm程の火の槍が出現してウルフを貫いた。
 ウルフは貫かれたのにもかかわらず速さを変えずにシンに近づいて攻撃を仕掛けた。




「風の精霊の力よ、切り刻め【風の斬撃】」




 飛びついてきたウルフがシンの魔法によって浅い傷がいくつも刻まれる。
 ウルフは出血多量によりその場に崩れた。




「初級魔法じゃこれが限界か…」




 シンはウルフの牙を小さいナイフで切り取りポーチの中に入れる。
 その後にウルフの牙をまだ手に入れるためにさらにウルフを探す。




(【状魔変化】の強さは相当なものだ…しかし、条件がいくつかあるのが難点だな、
 まず一つ目は詠唱の省略をした場合、した分だけ魔力の消費量が増えること。
 二つ目は威力の変更はできない。攻撃の種類によって殺傷能力は変わるが
 絶対的な威力に変化はない。もし強力な魔法を作りたければ強力な魔法を覚える必要がある。
 三つ目は魔法を作るときに、その魔法を細部までイメージしないといけないことだ。
【火の球】の時は目の前に実物があったからよかったがイメージしないといけないのは
 戦闘中の作成において大きな障害となる。
 とはいえ、それらを考慮しても強力な能力だとは思うがな…)




「グゥゥ…ガァァァ!!」




 シンが歩きながら考えていると木の後ろからウルフが襲ってきた。
 シンはその攻撃を軽々と開始して戦闘態勢に入った。




「お前で最後の一つだ、風の精霊の力よ、弾の形にうつろひ撃ち抜け【風の弾】」




 シンの周りに4つ程の風の弾が出現し、ウルフに向かって放たれた。
 ウルフは2発は直撃するもシンの首を引きちぎる勢いで突進する。




「まだ死ななくて助かった。あと一つ試していないのが残っているんだ、
 魔法の精霊よ、無の力を衝撃に変へよ【衝撃インパクト】」




 シンが魔法を発動すると透明の何かをぶつけられたかのように
 ウルフは数メートル吹き飛んだ。




「なかなかの威力だ、使い勝手はそれなりによさそうだな」




 シンはそう言いながらウルフの死体に近づき牙を切り取った。
 その後に納品としてギルドに向かった。




「クレアさん、ウルフの討伐が完了しました、確認お願いします」


「了解しました、お預かりします」




 シンは受付につくと最初に対応してくれた受付嬢のクレアに依頼の完了を報告した。
 クレアはウルフの牙をシンから受け取り数を確認した。




「はい、確かにウルフの牙3つを確認しました。シン様は依頼の達成が早くて助かります」


「そんなことありませんよ、他の人と大して変わりません」


「謙遜なさらなくていいんですよ、シン様はたいへん優秀な冒険者様です」


「クレアさんもとても綺麗で優秀な受付嬢だと思います」


「シン様は口もお上手なんですね」




 2人は笑みをこぼしながら会話をした。
 クレアは話に区切りがつくと机の中から一枚の紙を取り出した。




「シン様が探していた図書館の場所の地図です。本当にウルフの報酬はこちらでよろしかったんですか?」


「はい、ありがとうございます」


「シン様は勤勉な方なんですね」


「それが父親からの教えだったので」


「そうですか…そんな一面も素敵ですよ」




 シンはクレアとの話を終えるとギルドから出て地図に書かれた図書館に急いで向かった。
 クレアはというと、他の受付嬢とシンについて話していた。




「ねぇ、シンさんは何であんたのとこにばっか行くわけ?」


「私が一番最初に受付したからじゃない?」


「はぁー…そんなことなら化粧なんかせずに早く受け付けしに行けばよかったなぁ
 久しぶりの超イケメンなのになぁー」




 クレアの同期であるヒナがうな垂れながらそう呟く。
 クレアは呆れながら「やれやれ」といった表情でヒナの様子を見ていた。




「ほぉ…相当な量があるな…」




 図書館についたシンはその本の量に感動していた。
 さっそく目的の本を見つける司書のもとに向かった。




「すみません、歴史や魔法についての本ってどこにありますか?」


「歴史と魔法ですか…少し待ってて下さい」




 司書はそういうと近くにある機械のようなものに手を置いて呪文を唱えた。
 少し時間がたつとその機会の上に歴史と地理の本が出現した。




「はい、この本に載っているはずです。本をこの図書館から持ち出すことは重罪ですので
 ご注意ください」


「わかりました、ありがとうございます」




 シンは本をお礼を言いながら受け取り、机に向かった。
 図書館はものすごい大きさでぽつぽつと人がいる程度だった。




「あの機械は魔法か何かなんだろうか?」




 シンはついさっき見た現象に驚きを持ちながらも
 本来の目的である本に手をかけた。




「まぁそれは後で考えればいいか。まずは本だな…」




 最初に読み始めたのは魔法の本だった。
 シンがこの場所に魔法の本を読みに来たのはさらに強力な魔法を作りだすためだった。




(情報によると魔法の本で一般的に入手可能なのは初級までだという。神の力とかいうふざけた力に
 対抗するためには【状魔変化】の力を最大限に引き出す必要がある。
 そのためにも最低でも本で知ることのできる戦術級までは知っておきたい)




 シンが受け取った魔法の本は「完全網羅!初級から戦術級魔法!(上位魔法もあるよ!)」というタイトルの本だった。シンは黙々とその本を読み始めた。




 依頼達成による報酬で買った羊皮紙と羽ペンをポーチから取り出して
 書かれていることを次々にまとめていく。




(なるほど…強くなると詠唱の量と発動消費魔力、維持消費魔力が増えるのか。
【状魔変化】は省略すれば消費魔力は増えるが、詠唱を増やせばその分消費魔力は減る。
 それを使い分ければ戦略の幅も広がるな。上級魔法は…詠唱が複雑になるのか、
 しかし基本は変わらないからあまり問題はなさそうだが…俺の魔力適性は確かCだったよな、
 それってどの程度の魔法まで使えるのだろうか…)




 シンは本に魔力適性についてのページがないか探し始めた。




「これか…えーっと、C+で戦術級魔法を覚えることができるかぁ。予想以上に上の魔法まで覚えるのが可能なんだな」




 シンはそう呟いてさらに本を読み進める。
 常人では考えられないほどのスピードで読み進めたシンは
 あっという間に魔法の本を読破してしまった。




(なるほどな…戦術級魔法以上の魔法は大きな組織や
 有名な魔法使いが所持していて関係者以外は見ることができないのか)




「魔法はいくら時間をかけても足りなさそうだな」




 シンはふと窓から外の景色を見る。
 集中して気がつかなかったのか日が暮れていることに驚いていた。




「もうこんな時間なのか…急がないとな」




 シンは急ぎ足で歴史の本を読み始めた。
 その本にはこの世界の成り立ちや仕組みが最初に描かれていた。




『……………70億年前に創造神様の手によって100柱の神々が創りだされた。
 100柱の神々は25億年というとても長い期間、仲良く過ごしていた。
 しかし創造神は唐突に消えてしまった。
 親がいなくなったことによって神々は喧嘩することがたびたびあったが、
 何億年も生きるうちに精神的にも大人になった。
 そうして喧嘩が無くなり今の平和な世界が神々によって管理されながら作りだされた。
 しかし、完璧に作ることはできなく、ごく稀に悪性なものができてしまう。
 それが魔物や魔族そして魔王と呼ばれる最悪の存在。
 その最悪の存在に対抗するために神に才能を見込まれ神の力である神玉を渡された者が
 希望の象徴である勇者である。魔王を倒せるのは神玉を持つ勇者だけである』




 その後は人類と魔族の戦争の歴史や人類の発展について書かれていた。
 シンはそれをすらすらと読み、夕食の時刻までにはしっかりと宿に帰った。
 夕食を取ったシンはなにもすることなくベットに座り瞼を閉じた。




(これからどうするか…神玉について有意義な情報は見つけられなかった。
 あの神は勇者を倒せとでも言うのだろうか?しかし、あの本の通りならば
 俺は魔族のほうに加担することとなり神の邪魔をすることになりそうだが…)




「………くそっ!」




 シンはベットを力の限り思いっきり殴る。




「どうすれば神玉の情報を得ることができるんだ。
 何もかもが足りなさすぎる…力も情報も。相手の戦力も分からずに魔法を鍛え上げるのは
 非効率すぎる。なんとかして神玉の情報を得ないと…」




 シンは様々なことを考えながら眠りについた。




「冒険者様!」


 シンはドアをたたく音と大声と共に目を覚ます。
 シンは状況把握の為に外に出る。
 そこにはシンの寝起きを見て頬を赤くしたシーナがいた。




「どうかしましたか?」


「ギ、ギルドの人からこの紙を緊急で渡してくれと…」


「ギルドの人が?」




 シンは紙を受け取り書かれている内容を見る。




『緊急依頼!ゾンビの大群が草原に出現、そのゾンビの討伐。数はおよそ300。
 報酬は普段の二倍!ゾンビ一体につき銅貨4枚。ゾンビがこの町に攻め入った場合
 被害は市民まで及ぶ可能性が高い!手の空いている冒険者は至急討伐に向かってほしい。』




「ゾンビか…わかった、この紙を渡してくれてありがとう」


「は、はい」




 シンは部屋に一度戻り急ぎ足で準備をした。
 そしてシーナに一礼して一階に降りようとした。




「あ、あの!」




 シーナの呼びかけにシンは振り向く。




「き、気をつけて!」


「……」




 シンはいきなりの言葉に驚きすぐには言葉が出てこなかった。
 言葉が返ってこないシーナは「迷惑だったのでは?」と考え込み下を向いてしまった。




「ありがとう、君に心配させないためにも無傷で帰ってくるよ」




 シンは笑顔でそう言って一階に下りて行った。
 シーナはその笑顔に見とれてボーっと立ち尽くしていた。




「クレアさん、今はどういう状況ですか」




 シンはギルドの目の前にあるなにかの説明を受けている集団の横にいた
 受付嬢のクレアに話しかける。




「シン様!来てくださったんですね」


「こんな状態で来ないわけにはいきませんから」


「ギルド長にに変わり感謝します。この集団はSランク冒険者のリック・ロゼバルド隊長が率いる<ジュエリニアの篝火>の一員です。少し経ったらリック様も来るそうです。この方々には討伐をしていただくつもりでしたが、どうやらリック様の友人がリック様と共にくるそうで、そちらの方が討伐に参加するそうです。なのでこの方々は防衛にあたってくれるそうです」


「了解しました、ではその方が来るまで足止めをすればいいということですか?」


「その方の実力がわからない以上、それに期待するのは悪手だと思われます。
 討伐しきるつもりで討伐をお願いします」


「確かにそうですね…わかりました、ではいってきます」


「お気をつけて」




 シンはそう言って草原のほうに急いで向かう。
 門を抜けて少し走るとゾンビの集団を視認した。




「この大人数ならあれが効果的か?…やってみるか」




 シンは走ってゾンビの討伐に参加している冒険者のもとに向かう。




「少しいいか?」


「なんだ?」


「これから約3分後にジュエリニアの篝火が強力な魔法を使用するらしい。だからそれまでにゾンビの集団から離れてほしいそうだ」


「なるほど!了解した、報告サンキューな!」




 シンはそう言って少し離れた場所にある岡の上に立つ。




(冒険者のように長いものに巻かれる職種をコントロールするには
 正直に言うより実績のあるものの名前を出すのがやっぱり一番だな)




 シンは会話をした冒険者が他の冒険者に聞いた情報を流しているのを確認し
 攻撃の準備を始めた。




「火の精霊よ、目前にある悪しきものを滅ぼさばや、そのための力は我ばかりには叶へられず、今こそその力を貸したまへ、戦術級炎魔法【獄炎フルフレイム】」




 シンが獄炎フルフレイムを発動するとゾンビの下に大きな魔法陣が出現した。
 シンはその瞬間に【状魔変化】を発動した。




「ふぅ…これでいつでも【獄炎フルフレイム】は編集できるようにはなった、後は威力を見るだけだ」




 魔法陣が赤く光り出し100以上のゾンビたちを青い炎で包んだ。
 ゾンビたちはたちまち焼死してその数を減らしていった。




「これはすごいな…ここまでの威力を編集できるならいろんな魔法が作れそうだ。
 他の戦略級も試したいがここまで魔力を持ってかれるなんてな…少し時間が立たないと無理そうだ」




 シンはそう呟いて岡の上からゾンビのもとに向かった。
 その頃、シンの魔法を見た冒険者たちは大盛り上がりを見せていた。




「さすがジュエリニアの篝火だ!」


「威力が違うぜ!」「ゾンビども死んじまえー!」




 憧れでもあるSランク冒険者が率いるAランクのクランが放った一撃で冒険者のテンションは最高潮だった。その大盛り上がりの集団に魔法が放った後に混ざったマントの男が冒険者に話しかける。




「すまないが、この魔法は一体だれが撃ったんだ?」


「あぁ?そんなのジュエリニアの篝火のやつらに決まってんだろ!」


「…あいつらは攻撃しないと言っていたはずなんだが」




 マントの男はそう呟いた。
 魔法の炎が収まると残りのゾンビたちが見えてきた。




「残りは半分ぐらいだ!俺らも意地見せるぞ!」


「「「オォォォ!!!」」」




 冒険者たちは声を上げてゾンビたちに向かって攻撃を仕掛ける。
 マントの男はその様子を見守っていた。




「この中にはあの魔法を撃てそうなやつはいないか…」




 マントの男はそう呟いてマントを脱いでゾンビたちに攻撃を仕掛けた。




「下がってな!上級剣技【千連斬】」




 マントの男はそう言ってゾンビたちの中心に入り込み【千連斬】で
 目にもとまらないスピードでゾンビを殺していった。
 その様子を冒険者たちは魂でも抜かれたような様子で見ていた。




「あ、あの男はいったい…」


「は、はやすぎる…」




 ほんの数秒でマントの男の近くにはゾンビはいなくなっていた。




「あ…あの男は!いや、あの方は」


「ま、まさか…Sランク以外にこんな人が…」




 マントの男の素顔に冒険者たちは驚く。
 その顔は緑色の瞳に金色の髪…そして首に大きな傷跡の好青年だった。




「「「剣聖…リーヴァーだ!」」」


「ばれてしまったか…これは秘密にしておいてくれよ」




 冒険者が尊敬のまなざしをリーヴァーに向けると
 リーヴァーは満足そうな表情を浮かべた。




「火の精霊の力よ、槍の形にうつろひ貫け【火の槍】」




 ゾンビのもとについたシンはそんなリーヴァーに目もくれずゾンビを攻撃した。




「なにしてるんだ、憧れの人を眺めるのは自由だが、ゾンビを倒すのが優先だろ」




 シンが冒険者に向かってそういうと、冒険者はやるべきことを思い出したかのように
 尊敬のまなざしをやめてゾンビに攻撃を始めた。




(あ、あの野郎…俺への称賛のまなざしを楽しむ時間を邪魔しやがった!
 俺を目の前にしたら何をやめてでも握手や何やらを求めるのが優先だろうが!)




 リーヴァーは内心で怒りを表しながらも、表情には出すことなく
 シンに向かっていった。




「確かに君の言うとおりだ、すまなかったね」




 シンの顔を見ながらリーヴァーは謝罪をした。
 シンは戦闘を一回止めてリーヴァーの顔を見た。




「あんた…ずいぶんと承認欲求が高いんだな」


「な、なにを?」




 リーヴァーは右眉をぴくぴくさせながらも表情を崩さずに質問した。
 シンは魔法をまた放ち始めてついでのように答えた。




「表情に感情を出さないのは得意そうだな…しかしな、その程度の技術で俺の眼を騙せると思うなよ」


「っ!黙って聞いていれば!」




 リーヴァーが剣を鞘から取り出してシンに攻撃を仕掛けた。
 シンはその攻撃を完全に読んでいたかのようにリーヴァーの方向を向くことなく避けてゾンビへの攻撃をやめなかった。




「まったく…あんたみたいなやつは一番操りやすい、他人を自分より下だと決めつけてるからな。
 だから少し図星をつかれると怒りをあらわにする。行動を読むなんて簡単な話だ」


「言わせておけば……!」




(あいにく冒険者の屑どもはこっちに気が向いていない、少しこの屑に実の程ってやつをわからしてやろう。俺は剣聖なんだ、他の奴らはクズ同然、そんなのは自他ともに認める事実なんだ!)




 リーヴァーは一向に自分のほうを見ないシンの後ろで攻撃の型を構えて
 シンが一番無防備になる瞬間、魔法を撃った瞬間に攻撃を仕掛けた。
 シンは振り向き魔法で応戦をしようとする。




「風の精霊の力よ、切り刻…!?」




 シンがリーヴァーの方を向くと驚きの光景が目の前に広がっていた。
 リーヴァーの利き手である右腕が切断されていた。




「はぁ?…俺の右手?…俺の右手ガァァァァァ!」




 リーヴァーは想定していなかった痛みにもがき苦しむ。
 シンは自分以外のだれが攻撃したのかを探るために周りを警戒した。




「き、貴様ぁぁ!許さんぞ!」




 リーヴァーはポーチから最上級ポーションを取り出して飲んで腕を復活させた。
 シンは自分の攻撃ではないと否定しながら周囲を警戒した。
 リーヴァーはシンの言葉を信じずに剣を拾ってシンにじりじりと近づいた。




「俺じゃない!他に誰かお前を狙っているやつがいる!」


「そんな騙しに俺が引っ掛かると思うなよ!」


「なぁ…リーヴァー、少しは自分以外を信用したらどうだ?」




 リーヴァーの真後ろに突如現れた少女を連れた男がリーヴァーに話しかける。
 リーヴァーは男の出現に驚きながらも一瞬で距離を取る。




「な、なぜおまえが生きているんだ!」


「酷いなぁ…お前達がちゃんと殺してくれないからだろう?」




 男はケラケラと笑いながらそう言う。
 リーヴァーは明らかに男を見ておびえていた。




「怖いか?リーヴァー、怖いよなぁ…だからその称号を奪いたかったんだろ?」


「ぐっ!な、なぜだ!なぜおまえが生きているんだ!レイドォォォォォ!」




 レイドはケラケラと笑いながら空中に出現した黒い円から剣を取り出して…




「復讐をするためだよ…お前たちになぁ!」




 そう大声で言った。

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