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ダブル・デザイア 〜最強の力は神をも超える〜

真心の里

プロローグ(レイド編)

「…………」




 その青年は深い傷を負っていた。
 左腕からはボタボタと血を垂れ流し、足を引きずっていて誰が見てもその青年は瀕死の状態だった。視認できるのがギリギリのはるか遠くの町、青年はその町を目指しているようだった。
 虚ろな表情で重症の体に無理を言わせてゆっくりと歩を進めるよう様子は明らかに普通ではなかった。




「……ッ!!…傷はまだ癒えないか」




 青年は定期的に襲われる痛みに悶えながら一歩一歩町に向かって進んでゆく。
 ガタッガタッという音を鳴らして青年の後方から馬車が発して向かってくる。
 馬車がいる方向を向きすぐさまに青年は近くの草むらに身を潜める。






 数秒後、一台の馬車が青年の前を通る。
 三匹もの馬が巨大な荷台を二つ引いており、合計で十何人もの人が入るほど巨大な荷台だった。
 青年は【気配察知】を使用し荷台の中の様子を調べる。




「相変わらずクズしかいないのか」




 青年はそう呟いて走っている馬車の後ろの荷台の上に飛び乗る。




「中級剣技【三連斬】」




 青年は腰に掛けた剣を取り出し【三連斬】で荷台の屋根をバラバラにした。




「な、なん…「静かにしていろ」」




 荷台の中にいた一人のゴロツキの首を声を出す前に跳ね飛ばした。
 前の荷台にいるゴロツキはまだ青年の存在に気が付いていない。




「前には三人か」




 青年は剣を鞘にしまい馬車においてある物資を漁る。
 瓶に入った水、麻縄、音石おんせきを一つずつ手に持ち
 回復のポーションを飲み、荷台同士がつながるドアの前に立つ。
 音石を床に投げ大きな音を鳴らす。




「なにごとだ!?」




 ゴロツキたちが勢いよくドアを開けてそう言い放った。
 青年は水の入った瓶で最初に入ってきたゴロツキの顔面を勢いよく殴る。




「グハァッ!!」




 殴った衝撃で瓶が割れる、青年は反撃の余地を与えないかのごとく
 割れた瓶の鋭利な先で殴ったゴロツキの首元を狙った。
 殴られた衝撃で意識を少し失っていたゴロツキは抵抗することなく
 首に瓶が刺さり、血が勢いよく吹き出しそのまま絶命した。




「テ、テメェ何しやがる!」




 後ろに控えていたゴロツキ達が青年に襲いかかる。
 青年は華麗に攻撃をかわして足払いで相手の一人の体勢を崩した。
 そのあとすぐにもう一人の後ろに回って麻縄で首を絞めた。




「ヴゥッ…や、やめ…」




 ゴロツキは抵抗するも縄をほどくことができず意識を失い、
 重力に逆らうことなく床に倒れた。
 その様子を見た倒されたゴロツキはさらに怒りを露わにして青年に襲いかかる。




「ウォォォォォォ!!」




 ゴロツキのパンチを簡単にかわしその勢いを利用するかのように
 カウンターでパンチを顔面にくらわした。
「メキッ」っという痛々しい音と共にゴロツキが吹き飛ぶ。




 青年は吹き飛ばしたゴロツキの様子を確認して意識を失っているのを確認すると
 鞘から剣を抜いてゴロツキの喉に刺した。
 その後、縄で意識を失ったゴロツキの喉にも刺し2人を殺害した。




「少しは傷も回復したな、さて最後は」




 青年はその後馬の元へと向かう。
 馬の操縦を任されている男の後ろに行き、首元に剣をあてる。




「ひっ!ご、護衛はどうしたんですか!」


「もうすでに全員殺した、俺の質問に答えなかったらお前も殺す」


「わ、わかりました!」


「運んでいるこの荷物はおまえのものか?」


「い、いえ!私は運ぶのを依頼され「そうか…なら、もういい」」




 青年は男の言葉の最中にもかかわらず剣で首を跳ね飛ばした。
 操縦者を失った馬車は不安定になり大きく左右に揺れる。
 青年は馬と馬車をつないでいる紐を剣で切り、馬と馬車を切り離した。




 動力を失った馬車はゆっくりとスピードを落とし静止した。
 青年は止まったことを確認した後、荷台の中でも布で隠された場所に向かった。
 その布をどかしてその商品たちを見る。




「ど、どうか殺さないでください!」


「なんでもしますから!」


「この子だけは!どうか!」


「………」




 青年の目線の先には檻に入れられた鉄の手枷がつき、首には鉄製の首輪が付いた
 奴隷が5人ほどいた。子どもを抱えた親とその子供、ゴロツキに殴られた様子がある長髪の細い女 性、頭を抱えたまま懇願する少女、目を瞑って何も言わず座っている少女。
 奴隷たちは青年に殺されるのを恐れていて大きく震えていた。




「チッ!まったく胸糞悪い」




 青年は奴隷たちの檻と手枷を剣で切った
 その後、奴隷たちにゆっくりと近寄る。




「…ひっ!い、命だけは!」


「あいつらと一緒にするな、静かにしていろ」




 青年はそう言って首についている首輪に触れる。




「低級隷属魔法か、これなら今の俺でも大丈夫だな」




 青年は剣を鞘から取り出して深呼吸をした後
 目を瞑り剣身を人差し指でなぞる。




「反逆の力、今こそが使うべき時、神が創りし力、この力の前にあらず【魔滅剣】」




 銀色に光っていた剣身が黒く染まり禍々しいオーラを放つ。
 その剣で5人の奴隷の首についていた首輪を切った。




「反応はない、成功か…」




 青年はそう呟いて剣を鞘の中にしまった。
 奴隷たちは自分が解放された実感がわかないのかボーっとしてしまっていた。




「どうした、お前らはもう自由の身だ自殺するなり、家族の元に戻るなり、自由にしろ」




「「「あ、ありがとうございます!」」」




 奴隷たちは商品の中にあった服を着て青年にあらためて挨拶をして
 それぞれの帰る元へと向かって馬車から出て行った。一人を除いて。




「いつまでそこにいるつもりだ」


「…………」




 青年は馬車の中にまだ残っている眼をまだ瞑っている少女に問いかけた。
 少女は目を瞑ってままその問いに無言を返した。




「チッ、もうお前を縛るものはない、早く自分が帰るべき場所に帰れ」


「……私に帰るべき場所なんてものはもうない」




 少女は青年の問いかけに静かに答えた。
 おそらく長い間喋っていなかったのだろう声帯が話すのを忘れてしまったような声だった。


「それはすまなかった、ならどっかの孤児院かギルドにでも行け」


「私はそんな場所には行けたとしても行かない」


「ならば勝手に他の場所で自殺でもしろ、俺の前では死ぬな、俺の行動が否定されているようで頭にくるからな」


「自殺はしない」


「はぁ、ならお前は何がしたいんだ」


「私はあなたについていきたい」




 2人の間に沈黙が訪れる。
 青年の目は少女をにらみ殺すかのように細くなる。
 少女はこの気まずい沈黙の中でも微動たりせずに返答を待つ。




「俺についてくるのはこの世で最もあり得ない選択肢だ、止めておくの勧める」


「それは進めているだけであって禁止ではないんでしょ、なら私はついていく」


「お前には無理だ、仮についてきたところでその貧弱な体じゃ何も役に立ちそうにない。すぐに死んで戦闘の邪魔になるだけだ、わざわざ負ける要因を増やすようなことはしたくはない」




(さすがにこれであきらめてくれるだろう。こんな少女を俺のくそみたいな人生につき合わせることはできない。どうせ俺が助けた人物なら少しぐらいはまともになってほしいからな。それじゃないと俺の労力が無駄に感じちまうからな。)




「私はあなたの役に立つことができる」


「その発言に何かしらの根拠でもあるのか」


「あなたは魔法が使えないでしょ、私は魔法だけには自信がある」


「魔法か、もしおまえが俺の戦闘に役立つぐらいの魔法が使えるなら奴隷になっていないはずだが」


「私は世界に絶望していたの、奴隷になっても何になってももうどうだって良かった
 大切な人の最後の言葉で生きてくれって言われたから自殺はしなかっただけ」


「そんな世迷言を俺に信じろと」


「どうやったら信じてくれるのかしら」




 青年は近くに合った商品の入った箱の中から安っぽい剣を取り出して馬車の外に向かった。
 少女もその青年を追いかけて外に出た。
 外に出た青年は安っぽい剣を地面に突き刺した。




「反逆の小さき力、今こそ使うべき時、神が創りし力、この力に防がれりけり【魔滅結界(弱)】」




 安っぽい剣の剣身が黒く変色した。
 青年が首輪を壊す時と違い禍々しいオーラは出ていなかったが
 嫌悪は伝わるような嫌な雰囲気が出ていた。




「この剣を壊してみろ、そうすれば少しは信じてやる」


「この剣を壊せば私のことを連れてってくれるの?」


「少しは信じてやるって言っただけだ、連れていくとはまた別問題だ」


「ならどうやったら連れてってくれるの?」


「その話はこの剣を壊してからだ、前提条件も突破できないやつの話を聞く気はない」




 青年はまだ目を瞑っている少女に冷たく言い放つ。
 少女は「わかった」とだけ言い、剣の目の前に立つ。




「火の精霊よ、我の目線にあるものを燃やしつくさばや、今こそ我にその力を貸したまへ、中級炎魔法【爆炎エクスファイヤー】」




 少女が【爆炎エクスファイヤー】を放つと少女の目の前は3mほどの炎に包まれ
 地面に生えていた草木と共に剣を炭にした。




「これで少しは信じてくれたかな、私の話」


「話は信じてやる…だが、お前のことはやっぱり信じれなさそうだ」


「それは何で?」


「最初に会ったときにお前は目を瞑っていた、それは恐怖からなのかわからないが
 別に不思議には感じなかった、お前ぐらいの年なら恐怖で目を瞑るのは仕方ないからな。けど今もお前は瞑っている、もし俺に対する恐怖で瞑っているなら付いてくるなんて言わないだろうしな」


「ということは私が目を瞑っているから信じてくれないということ?」




 少女は依然と目を瞑りながら青年のほうに振りむいて質問を投げかける。
 青年は立ちあがり少女の目の前に立つ。




「何か隠し事のある奴は弱い奴以上に連れていくことはない」


「私が目を開ければあなたは私のことを連れてってくれるの?」


「隠していた物が何かによるが、可能性はある」




 少女は少しうなずき青年の顔を見上げながらゆっくりと目を開ける。
 少女が成年に見せた目はとても神秘的で綺麗な目だった。
 金色の透き通った瞳は吸い込まれるような感覚が感じられた。




「星の瞳…それは生まれつきか?」


「やっぱり星の瞳について知っているんだ、そうだよ、これは生まれつきの忌み嫌われる眼」


「そうか…俺も完全に運が尽きたわけじゃなかったらしいな、星の瞳を持っているやつに会えるなんてな」


「あなた、私みたいな戦力がほしいんでしょ?」


「なんでそう思う」


「あなたは私に似ている、あなたという希望を見つける前の私に」


「…何を根「あなたは…いえ、あなたも、剣聖を殺したいんじゃないの」」




 青年の言葉をさえぎるように発せられた言葉に反応して
 少女を睨むように青年は視線を移動させた。




「…なんでそのことを知っている、答えなければ星の瞳をもっていようが俺はお前を殺す」


「私の星の瞳の効果は、運命に大きく干渉する人の断片的な情報を知ることができる」


「それが俺だと」


「そう、私はあなたについて少しなら知っている。剣聖のほかにも2人仲間がいたこと。この先にある街でどこに行こうとしているのか。そして、あなたも星の瞳を持っていることも」




 青年はその発言に驚くそぶりもせずに静かに目を閉じた。
 そしてゆっくりと閉じた目を開き少女に星の瞳を見せた。




「この眼について知っているということはその能力は本当のようだな」


「これで私のこと信頼してくれた?これ以上、私が切れるカードはないんだけれど」


「…俺の星の瞳の能力は運命の可視化だ」


「運命の可視化?」


「お前との運命の色は今さっき変わった、運命を良くしてくれる白色にな」


「てことは…「信頼はしてやる、これで裏切られても俺の能力不足だから仕方ないと思えるからな」」




 少女の表情はその言葉が耳に入ると同時に明るくそして覚悟を決めたような表情へと変化した。
 青年は馬車の中から少女に合うサイズの服を探し渡した。




「一応今から俺の連れなんだ、奴隷の服は目立つ着替えろ」


「わかった」




 少女はそう言って青年の目の前で着替え始める。
 青年の視線を確認するように少女は目線を青年に向けるが青年は着替えを凝視していた。




「動揺するような人じゃないってのはわかっていたけど、凝視はどうかと思う」


「なに気にするな、疾しい目で見ているわけではない、相手の戦闘能力を知るのは
 裸を見るのが一番なんだ、けど今の俺じゃ魔法使いの戦闘能力は計れなさそうだ」


「少しは動揺するべきだと思う、自慢じゃないけど私容姿は綺麗なほうだと思ってる」


「確かに綺麗なのかもしれないが、俺を誘惑したいならもう少し大人の体になってから言うんだな、そんな平らな体じゃ俺は欲情することはない」




 青年はそう言い捨てて少女の裸から目線をはずして馬車にあった武器が入っている
 木箱の中を漁り始めた。少女もその様子を見て諦めたように溜息を吐いて着替えを再開した。




「着替え終わったか?終わったなら商業都市ポートタウンに行くぞ」


「ポートタウン?ジェネルに向かうんじゃないの?」


「ここからジェネルは歩いて行くにはめんどくさい、ポートタウンなら海を使った商業が発達している。ジェネルもあれだけでかい都市だ、そこまで待たずとも交易船があるはずだ」


「なるほどね、いち早く目的を果たしたいっていう感じなのに意外と冷静」


「俺も怒りで計画を水の泡にするほど馬鹿じゃない、だが急いではいる行くぞ」




 青年はそう言ってポートタウンへ向かって歩き出した。
 少女も青年の横に行き同じく歩き出した。




「いつまでもあなたとかお前じゃ変、名前を教えて」


「人に聞く前に自分から名乗るのが基本だと思うが」


「それもそう、私はアニムス、あなたの標的の一人に少しだけ用がある普通の少女」


「普通の少女が俺のスキルを貫通できるわけがないが、まぁいいか…
 俺はレイド、儚い希望にとらわれて地獄まで落ちた、勇…いやいまはもう、ただの愚なる者だ」


「これからよろしくレイド」


「どうせ少しの付き合いだ」




 アニムスはレイドのその発言にため息を漏らして
「いまはそれでいいか」と小さく呟いた。

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