箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

66・育む祖国

俺とキルルはムサシとガラシャの案内で村の中腹にある遺跡にやって来ていた。

遺跡は大きな岩をくりぬいただけの原始的な建物だ。

遺跡と呼ぶより洞穴に近い。

「ここが、酒の倉庫じゃ」

赤茶色なイグワナ風のリザードマンに変貌したムサシが示した大岩の入り口には雑な木の扉が設置されていた。

だが、扉にドアノブが付いていない。

そして、扉の前から退いたムサシが娘のガラシャに述べる。

「ガラシャ、扉を開けてけれ」

「はい、父上」

お辞儀をするリザードマンの娘も父親同様に姿が変貌していた。

フレームは父親同様にゴツゴツしたイグアナ系の成りだが、鱗の色が違う。

白いのだ。

羽織っている白い着物と一緒で純白のリザードマンである。

他の雌は雄のリザードマンと同じ色で赤茶色なのだが、ガラシャだけが純白のリザードマンに変貌したのだ。

突然変異の希少種のようである。

その純白は怪しいほどに白い。

純白過ぎて怖いぐらいだ。

その純白のガラシャが両手で印を組んで何やら魔法を唱え始める。

「行く手を阻む魔法の鍵よ、扉を開けろ。アンロック!」

フワリとガラシャの掌が光ると眼前の扉がゆっくりと自動ドアのように開いた。

ガラシゃのしゃべりかたは悠長に変化している。

この変化はガラシャだけでない。

すべてのリザードマン&ガールズが悠長にしゃべれるように変化していた。

そして、更にガラシャが魔法を唱える。

「暗き闇を祓い光で照らせ、ライト!」

今度はガラシャの嵌めていた指輪が明るく輝いた。

その光はランタンや蝋燭の炎より明るい。

まるで60ワットの電球のように明るいのだ。

その明かりを前に向けたガラシャから遺跡の中に入って行った。

「ささ、エリク様。我々も──」

続いて遺跡に入って行ったムサシが俺たちを中に招く。

俺が入り口を潜ると、すぐそこは下りの階段だった。

内部の明かりはガラシャの魔法だけだ。

その明かりを便りに俺たちは階段を下って行く。

階段を下りていて俺は築く。

遺跡の内部は少し肌寒いのだ。

ヒンヤリとした空気が下から上に登って流れて行く。

「少しここは肌寒いな」

俺が呟いた疑問にムサシが答えてくれた。

「酒を発酵させるのに温度の調整は必須ですからのぉ。このように温度が一定な地下が相応しいのですぞぃ」

「なるほど──」

そして、階段は数メートルで終わる。

そこから室内に進む。

その室内は縦横15メートルぐらいで天井が低い部屋だった。

その部屋も冷や冷やした空気感で更に寒い感じの部屋である。

そして、室内には大小様々な壺が並んでいた。

その壺に魔法の光を当てながらガラシャが述べる。

「エリク様、これが、我々が蓄えている酒のすべてであります」

「これで全部なんだな」

室内を見回した感じでは、酒壺の数は三十は越えている。

俺は大きな壺の一つに歩み寄ると、木の蓋を開けて中身を覗き見た。

蓋を開けた瞬間にアルコールの強い匂いが俺の鼻に届く。

そして、壺の中に透明な液体が揺らいでいた。

赤ワインのような濁りのある酒ではない。

透明な酒、白ワインか?

いや、違うな。

日本酒に近い香りがする。

元日本人のムサシのことだ、日本酒かも知れない。

「これは日本酒なのか?」

顎髭を撫でながらムサシが答えた。

「左様でござる。儂の知識で作り上げた酒じゃ。何せ転生前は田舎で密造酒を作って自分だけで楽しんでいたからのぉ~」

「なるほど……」

そう言えば、死んだ爺ちゃんも言ってたな。

昔の田舎だと、許可無しに酒を作って自分だけで楽しんでいる老人は珍しくなかったとか……。

「素人が作った酒だが、前世と現世でのキャリアを合わせれば数十年の酒造経験はあるのじゃわい。ヘタで赤字な酒蔵ぐらいの味は保証できるぞい。カッカッカッ」

笑うムサシを余所にガラシャが湯飲みを取り出し釈で酒を次ぐ。

それを俺に差し出した。

「エリク様、お味見を──」

「おう、センキュー」

俺はガラシャから酒の入った湯飲みを受け取ると、まずは鼻に近づけ匂いを確かめる。

それから一口だけ酒を口に伏んだ。

「香りはいいな、だが辛いな……」

「辛口ですぞ」

「でも、悪くはないぞ」

俺の言葉を聞いたムサシの顔が満面に微笑んだ。

自分が作った酒が褒められて嬉しかったのだろう。

だが、俺は、どちらかって言うとビール派である。

あまり日本酒の味は分からない。

ああ、キンキンに冷えた悪魔的なビールが飲みたいな……。

『魔王様、これで祭りで振る舞えるほどのお酒が手に入りましたね!』

「そうだな」

今一度俺は酒の入った壺を見回しながらムサシに訊いた。

「なあ、ムサシ?」

「なんでありましょうぞ、エリク様?」

「この酒って何人分ぐらいある?」

「祭りで振る舞うなら百人分ぐらいかと」

俺とキルルの顔が落胆に歪む。

「足らんな……」

『足りませんね……』

少し慌てるムサシが問う。

「現在魔王軍とは、何兵ぐらい要るのですか?」

ムサシの質問にキルルが答える。

『魔王城ヴァルハラと城下町ソドムで住人が五百匹。縦穴鉱山都市マチュピチュで二百五十匹。女性や子供がお酒を飲めなくっても、おそらくトータルで六百匹はお酒を飲むと思われます……』

一度ムサシが酒の壺を見回した後に答えた。

「た、足りませぬな……。この量では……」

「『やっぱり~……」』

「十匹そこそこで村に攻めて来たから、もっと少人数の軍隊かと思うたわい……。まさか、それほどの大組織だとわのぉ……」

「まあ、いいさ。酒を追加で作ればいいだろ」

「それは、時間と場所、それに人手と材料が必要ですぞ……」

「それなら、こちらの町から職人を送り込む。すまぬがそいつらに酒の作り方を教えてやってくれないか」

「それは構わぬ。任せてくだされ」

「それと、まずはこの村の改築だ。家の作り方とかは送り込んだ大工職人たちから習ってくれないか」

「要するに、儂らが酒造りを教えて、代わりに儂らが家造りを習えと」

「まあ、そうなる」

キルルが笑顔で言う。

『現在のヴァルハラの建築技術を習得出来れば、住まいが二階建てから三階建てにはなりますよ。それに雨風なんて微塵も感じない温かくて快適な家に住めますからね』

「本当かぇ……。二階建ての建築物なんて、この世界に転生していらい見たこともないぞぃ」

リザードマンの家は壁は木の枝を蔓で編んだだけの隙間だらけの原始的な家だ。

屋根も藁葺き屋根である。

それが板張りの床に進化して、壁や屋根には煉瓦や黒瓦が使われるのだ。

暖炉も竈も室内に置ける。

それは格段の進化と言えよう。

生活の向上である。

「それとお前らリザードマンにも数名ソドムに来てもらうぞ」

ムサシとガラシャが首を傾げる。

「「ソドムとは?」」

キルルが自慢気に言った。

『魔王様の住まいが魔王城ヴァルハラで、その城下町がソドムと言います!』

「なるほどのぉ。なんともハイカラな名前がついた町や城じゃわい」

『えっへん!』

なんかキルルが胸を張っている。

まあ、それよりも。

俺が話を戻した。

「それで、お前らにはこちらに来てもらい、いろいろ学んでもらうと同時に、酒作りを別の町に伝授してもらいたいのだ」

「なるほどのぉ。何もここだけで酒を造る必要もないか」

『各町でお酒が造れれば、各町でもお酒が飲めるから住人の娯楽にも幅が広がりますね』

いずれは各町に酒屋やら酒場が栄えることだろう。

娯楽施設は町作りでは重要だろうさ。

働いたら、働いた分だけ楽しみ遊ぶ。

それが健全な生活である。

「ムサシ、明日までに数匹ソドムに向かうリザードマンをピックアップしろ。それと、まずは貴様に魔王軍のすべてを見てもらう。こちらの幹部たちと顔合わせだ。だからお前も旅立つぞ」

「御意っ!」

ムサシが深々と頭を下げるとガラシャもゆっくりと淑やかに頭を下げた。

そして、頭を上げたガラシャが述べる。

「エリク様、父上、わたくしも旅路にお供してよろしいでしょうか。このガラシャ、異国の地を見てみたいであります」

『ガラシャさん、城下町ソドムは賑かな町ですよ』

笑顔で述べるキルルに続いて俺も言う。

「ガラシャ、一つ違うな」

「何がでありますか?」

「異国じゃあねえよ」

「はて……?」

「もう、祖国だ。俺が統治する土地は、お前らリザードマン族に取っても祖国なんだよ!」

俺に言われたガラシャは目を丸くさせていた。

だが、すぐにいつも通りに目を細めながら述べる。

「ならば、暖かい祖国に育みましょうぞ、エリク様」

再びガラシャが礼儀正しく頭を下げる。

俺は満面の笑みで微笑むと胸を張りながら言ってやる。

「当然だ!」



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