箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

43・祭りを計画する

俺がキルルと一緒に町の中をブラブラと回っていると、ヘルキャットのペルシャとたまたま出会った。

ショートボブの猫娘である。

ペルシャは図面を広げて家を建築中の大工たちに何やら指示を出していた。

「よ~う、ペルシャ。仕事に性を出しているか~」

「ニャニャ、これはエリク様だニャ~。今日は散歩ですかニャ~?」

「ああ、散歩だ。それにしてもペルシャのお陰でだいぶ町も栄えてきたって感じだぜ」

ほとんどの新築ハウスはペルシャの設計だ。

しかも同じ作りの家は一つもないのである。

各家に様々な個性を持たせて設計しているようなのだ。

それがペルシャの建築家としてのポリシーのようである。

「いやいや、みんな大工さんたちの頑張りのお陰ですニャ~」

ペルシャがショートボブを指先でクリクリとさせながら謙遜していた。

「これはボーナスをださないとならないかな」

ペルシャが首を傾げる。

「ボーナスって、何ニャ~?」

「ペルシャは何が欲しい?」

「何か貰えるのかニャ~?」

ペルシャは何やら不思議そうな表情を浮かべていた。

するとキルルが後ろから俺に囁く。

『ペルシャさんは、ボーナスの意味が分からないようですね』

「うぬぬ、ペルシャはボーナスを知らんのか?」

「知らないニャ~」

「日頃から頑張ってる奴らに、特別な報酬を与えるって言う人間界の風習だ」

「おお~」

まあ、俺も前世ではボーナスなんて物はもらったことが無いんだけどね~。

アルバイトにボーナスなんて存在しないからな。

俺はキルルに問う。

「なあ、キルル。この世界だと、ボーナスって給料の何ヵ月分だ?」

『魔王様、そもそも魔物たちには給料を払ってませんよ』

「えっ、マジで!?」

魔王軍って、もしかしてブラック企業なのか!?

『魔王様、魔物たちには、そもそも通貨って概念すらありません』

「ええっ、そうなの……?」

『はいです』

俺は真面目に知らなかった。

「じゃあ、物々交換なのか?」

『いえ、それすらありませんよ』

「マジかっ!?」

『この町では、与えられた仕事をこなす。そうすればすまいが与えられて、食事も三食あたえられます。働いたら、食べれる。寝床も与えられる。それだけです』

「マジか~……。それで良く社会が回ってるな……」

『そもそもが魔王様に対しての忠義のみで社会が回っていますから、問題無いのでしょう。住人からは不平不満の欠片すら上がっておりませんし』

「そうなのか……」

生前の俺ならアルバイトすらやりたくなかったから、報酬無しで働いている魔物たちの気持ちがいまいち理解できなかった。

『ですが魔王様。配下にボーナスと言う御褒美を与えるのは良い提案だと思いますよ』

「そうか?」

ペルシャが瞳を輝かせながら言う。

「ニャニャニャ? 何か御褒美でも貰えるのかニャ~!?」

「そうだな、頑張っている奴に御褒美を与えるのは、確かに良いのかも知れないな……」

俺は腕を組んで考えた。

どのような御褒美が良いのだろうか?

ペルシャだとネコだから鰹節とかマタタビとかが良いのかな?

俺が考え込んでいるとキルルが提案した。

『それでは魔王様。町がある程度完成したら、町の完成祝いとしてお祭りを開くのはどうでしょうか?』

「祭り?」

『そうです』

「裸祭りか?」

『違います!!』

「ちぇ……」

『……ごほん』

キルルが一つ咳払いののちに改めて話を進める。

『お祭りがご褒美ってのはどうでしょうか?』

「褒美代わりにお祭りを開催するんだな」

『そうです』

すると話を訊いていたペルシャや大工たちが声を上げた。

「それは素晴らしいニャ~!」

大工たちも換気の声で言う

「祭りは良いですな!」

「祭り! 皆で酒を飲んで、皆で騒ぐ! それは最高ですぞ!!」

うぬぬ~。

この反応を見るからに、どうやら祭りが御褒美として良さそうだ。

そもそも個人個人にボーナスを出していたら評価が難しい。

それに目立たないが大切な仕事に励んでいる者を評価できない。

そうなると不平不満が上がりだすかもしれない。

ならば、皆が同じ目標に向かって頑張って、その目標が達成できたら皆で祝う。

それで良いのではないだろうか?

無駄に仲間同士での競争もなくなるし、平和的かも知れない。

「よし、町がある程度完成したらお祭りを開こう。町の誕生祭だ。皆で祝うぞ!」

「「「おおーー!!」」」

ペルシャと大工たちが声を揃えて拳を上げた。

歓喜に沸いている。

「キルル」

『はい、なんでありますか、魔王様?』

「キングにお祭りのことを伝えてくれ。アンドレアにもな。あと縦穴鉱山のルートリッヒにも話してお祭りを計画してくれないか」

『はい、分かりました!』

その日の晩には魔王軍の幹部クラスが霊安室に集められた。

祭りを計画する会議が開かれる。

顔ぶれはいつもの幹部格に、オーク猪豚組の組長ルートリッヒと若頭のアビゲイルが追加された面々であった。

ただ、俺は猪オークのルートリッヒの横に立つ豚鼻の乙女を見て首を傾げる。

見た事のない女性だ。

キルルに訊いた。

「おい、キルル。ルートリッヒの横に立つ女性は誰だ……?」

ルートリッヒの横に立つ女性はスマートだが筋肉質なアスリートタイプの体型をしていた。

身形は上半身が甲冑だが腹と臍が出ている露出度の高いレディースアーマーだった。

下はホットパンツで生足を露出している。

綺麗な足だ。

金髪のショートヘアーは前髪だけが長く左目を隠している。

その金髪の前髪で隠している下にはアイパッチを嵌めているようだった。

そして露になっている右目は勇ましく鋭い。

まるでヤンキーのような強面のギャルである。

だが、美人ではある。

──あるのだが、その顔面の中央には豚の鼻がデカデカと付いていた。

金髪の頭からも豚のような垂れ耳が覗いている。

明らかに獣人だろう。

そして、俺の質問にキルルが答えた。

「あ~、彼女は猪豚組の若頭、アビゲイルさんですよ」

「アビゲイルだって!?」

アビゲイルってキングと戦っていた盾持ちのオークだよな!

あいつ、女だったんかい!?

しかも、鮮血で美人に変化したのかよ!

それよりも痩せすぎじゃねえか!?

以前は豚見たいにブクブクに太ってたじゃんかよ!

変わりすぎじゃね!?

ちょっと、かなり、スゲーびっくりだぜ……。

「鮮血を口にすると、オークの女性って、あんな感じの姿になるんだ……」

そのような驚きの中で会議の話が進んで行った。

「まあ、そう言う訳で町がある程度完成したら、皆で祝いの祭りを開きたいんだわ。皆はどう思う?」

一番にキルルが発言した。

『町の誕生祭ですね。僕は賛成です』

続いてキングが言う。

「それは良い提案だと思いますぞ!」

更にアンドレアが続く。

「わっちも賛成でありんす」

ローランドが言う。

「町の祭りですか、それは素晴らしいダスな」

ルートリッヒが述べる。

「我々猪豚組も、呼ばれて良いのですか?」

「構わん。お前らも魔王軍の仲間なんだ。祝いごとは一緒に祝って当然だろう」

「エリク様、感謝します!」

猪人間が深々と頭を下げていた。

「まあ、オークたちには街道を作るのに苦労を掛けたからな」

ルートリッヒが深々と頭を下げると、隣のアビゲイルも続いて頭を下げる。

この二ヶ月で墓城と縦穴鉱山との間には、平たい道が煉瓦で舗装されて開通された。

二つの町での行き来がかなり楽になっている。

墓城から縦穴鉱山までは歩いても三時間程度と短縮されたのだ。

お陰で鉱物の運搬も大八車が使えるようになってスムーズになったのである。

今では野生のバッファローを捕まえてきて、牛車として鉄鉱石を運搬しているのだ。

故にオークたちは十分過ぎるほど魔王軍に貢献している。

彼らオークたちは土建作業には特に向いている種族なのだ。

そして、皆が歓喜を表現しているなかでゴブロンが質問を投げ掛けてきた。

「はいはーーい、お酒は飲めるでやんすか!?」

「酒?」

魔物たちの肩が一斉にピクリと揺れた。

そう言えば、この世界に来てから酒を飲むどころか見たことすらないな。

でも俺は酒には執着が無い。

酒は付き合い程度にしか飲まなかったからだ。

それでも魔物たちの態度からして酒に大きく反応している節が見て取れた。

酒に大きな期待を抱いているのが分かる。

俺は会議に揃った面々に訊いてみた。

「なあ、酒ってあるのか?」

俺の質問にキングが答える。

その顔は暗い。

「我々が飲める酒は少ないです。そもそも酒を造る技術がありませんでしたから……」

「今はどうなんだ。誰か酒造りのメモリーを開封した者は居ないのか?」

キングが更に暗い声で答えた。

「それが、居ません……」

するとルートリッヒが述べる。

「我々の縦穴鉱山に酒が少しありますが、とても祭りで振る舞えるほどの量ではありません」

「ちょっと待て。じゃあオークには酒の作り方を知っている者が居るんだな」

「いえ、違います」

「うぬぬ?」

「我々の縦穴鉱山に、マジックアイテムで酒が湧く壺があるのです」

「マジックアイテムか」

「壺の大きさは、このぐらいです」

ルートリッヒが手振りで表したサイズは俺の頭ぐらいだった。

「ですが、その壺が酒で満ちるのに一ヶ月以上掛かります。だから我々も酒を貴重品として扱っておりました」

更にアビゲイルが言う。

「しかも、在庫は少ないです。とても祭りで振る舞える量ではないですね。せいぜい魔王様や幹部の方々が飲める程度の量です」

それでは少なすぎる。

「それだと祭りまでに、町の連中全員に振る舞えるほどの量は確保できないのか?」

「流石に全員は無理かと……」

皆が溜め息を吐いて落ち込んでいるとローランドが手を上げた。

「あの~、魔王様……」

「なんだ、ローランド?」

「未確認の情報ダスが……」

「なんだよ、言ってみろ?」

「西の果てに沼地があるダス。そこに巣くうリザードマン族が酒を作れるって噂で聞いたことがあるダス」

「マジか!?」

魔物たちの目が瞬時に輝いた。

「あくまでも未確認の噂ダス」

「いやいや、酒のメモリーも大切だが、なんでリザードマンが居るってことを黙っていた!?」

「いや~、キング殿には報告しておいたダス」

「そうなのか、キング?」

「はい、報告を受けておりましたので、現在ハートジャックを調査に向かわせています。ハートジャックが帰還したら部隊を編成して、リザードマン捕獲作戦を遂行させるつもりでしたから」

「なるほど!」

俺は椅子から立ち上がるとキングに指示する。

「キング、お前はリザードマン捕獲作戦を優先させろ!」

「はい、畏まりました、エリク様!」

「それと、リザードマンの捕獲には俺も同行するぞ。今回は小さなグループを取っ捕まえてくるのとは訳が違うのだ。皆の酒が掛かっているからな!」

「はい、了解しました!」

すると今度はキルルが手を上げた。

「なんだ、キルル?」

『あの~、お酒も大切ですが、もう一つ大切なことを決めていませんよね』

「えっ、何が?」

『この町の名前です。町に名前がありません!』

「あー、町の名前か~」

俺が考え込むと、珍しくキルルが熱い視線で俺を見詰めて来た。

明らかに期待を孕んだ眼差しである。

「もしかして……」

俺がキルルの瞳を見ながら言うと、キルルが大きく頷いた。

やっぱりだ……。

「分かったよ、キルル。町の名前はお前がつけてもいいぞ……」

『やったーーー!!!』

キルルが高く跳ねて喜んだ。

うん、可愛いから許す。

ただ、町の名前は若干厨二臭い名前になりそうだな……。



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