箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

42・木刀の寸止め

俺とキルルが町の広場に下りて行くとキングが若い連中に剣の稽古をつけていた。

キングは広場に輪を作ってチャンバラの稽古中だ。

「こら、もっと腰を入れてかかってこんか!」

「はい、隊長!!」

キングと若いコボルトが木刀を持って剣の稽古に励んでいた。

その周りを若いコボルトやゴブリンが囲んでいる。

若いコボルトが木刀を振りかぶってキングに跳び掛かるが、キングは簡単に若いコボルトをいなしてのける。

完全に子供扱いだった。

まるでキングの相手になっていない。

そして、俺とキルルが少し離れた場所から覗いていると、キングが俺に気が付いて頭を下げた。

それを見て稽古をつけてもらっている連中も振り返り俺に頭を下げる。

「よう、キング。稽古か~、ご苦労だな~」

俺が気さくに声を掛けるとキングが提案してきた。

「どうですか、エリク様も御一緒に稽古でも?」

キングは若いコボルトから木刀を取り上げると俺に差し出した。

その様子を周りの若い衆が凝視している。

俺がキングから木刀を受け取るか受け取らないかを息を殺して見守っていた。

期待しているのかな?

ならばと俺はキングから木刀を受け取った。

キングが言う。

「エリク様、一つ私に稽古を!」

言うなりキングが木刀を頭より高く振り上げて上段の構えを築く。

俺は手にした木刀を凝視した。

「まあ、試しだ。やってみるか……」

言うなり俺も木刀を前に構える。

木刀を右手に持ち、体は斜め。

「でも、俺は剣道なんて素人なんだよな~」

「参ります!」

「問答無用かよ……」

「何せ相手はエリク様ですからな!!」

「ひでぇ~……」

まずは先手を取りたいかのようにキングから動く。

上段の構えのままキングがジリジリと俺の周りを回りだした。

隙を探るように距離を図っている。

俺もキングから正面を外さないように距離を保つ。

刹那、キングが大きく一歩前に出た。

打ち込んで来る。

「はっ!!」

「ふんっ!」

キングの縦振りに対して俺は木刀を横に構えて攻撃を受け止める。

カコンっと乾いた音がなった。

片手持ちの俺が両手持ちの木刀を受け止めたのだ。

俺はキングの打ち込みの力に揺るがない。

力では、まだまだ俺のほうが勝っているらしい。

「まだまだ!!」

そして、流れる動きでコースを変化させたキングの木刀が俺の腹部を横振りの胴打ちで狙って来た。

流れるような二段の剣筋だ。

綺麗な剣術である。

俺は滑るような足捌きで半歩だけ後退するとキングの胴打ちを寸前で回避する。

「よっと」

「くっ……」

キングの胴打ちが空振った。

「魔王様が紙一重で躱したぞ!!」

輪の誰かが叫んだ。

次の瞬間である。

俺の面打ちがキングの頭を狙う。

直撃!

否。

寸止め。

俺の振るった面打ちはキングの眼前で止まっていた。

「ふっ!」

更に俺の攻撃が続いた。

胴打ち。

籠手。

喉に突き。

そして、最後に再び面打ち。

連続の四打だった。

しかし、どれもこれもヒットせず。

すべて寸止めである。

その寸止めの数々をキングは何一つ回避できていなかった。

もしも俺が止めていなければ、すべてがクリーンヒットしていただろう。

すると外野の輪から「おお~~!!」っと歓声が上がった。

キングは冷や汗を流しながら片膝をついて頭を下げる。

表情には不甲斐ないと自分を攻めている感情が見て取れた。

「参りました、エリク様……」

キングはショックを受けているようだった。

剣技だけなら、この町で一番の使い手だと自負していたのだから仕方ないのだろう。

しかし、それが子供扱いされたのだから落ち込むのも無理がない。

しかも剣道の素人と言いきった俺に技で遅れたのだ。

そりゃあショックだよね。

唐突に俺が愚痴る。

「やっぱりだわ~。ショックだよ~」

天を向いた俺が溜め息を吐きながら言ったのだ。

そのまま脱力に肩を落とす。

するとキルルが背後から訊いてきた。

『どうかなされましたか、魔王様?』

俺は木刀を投げ捨てると理由を話す。

「俺さ、武器で他者を攻撃できないようだ……」

「『えっ??」』

キルルもキングも首を傾げていた。

「どうやら俺の無勝無敗の能力が勝手に作動してさ、他者を武器で攻撃できないんだわ。何度やっても寸前で攻撃が止まるんだわ~……」

微妙な表情でキングが言う。

「ならば、今の寸止めは、エリク様の意思じゃあないと……?」

「うん」

俺は大きく頭を揺らして頷いた。

「本当はお前の頭をカチ割るつもりで打ち込んだんだけど、全部止まっちまったよ……」

そう、寸止めは俺の意思じゃあないのだ。

「カチ割るって……」

「どうせ復活するんだから、死んでもかまわんだろ」

「死ぬのは、かまいます……」

「とにかくだ。俺の無勝無敗の能力だと、魔法同様に武器の仕様も禁止らしい。まあ、なんとなく本能で分かってたんだけどね~」

『武器の禁止、魔法の禁止、素手のみの闘争術。それが魔王様の戦闘スタイルなのですね』

「そうなる」

俺は暗い顔で言うと、おもむろに自分のズボンを膝までズリ下ろした。

チンチロリンを配下たちに晒す。

外野の輪から「おおっ!!」っと驚きの声が上がった。

そして、ズボンを下ろした俺を見ていたキングが顔を引きつらせながら問うた。

「エ、エリク様……。何故に突然ズボンを脱ぐのですか……?」

周りの連中も目を丸くさせている。

「いや、見ている連中に、少しサービスが足りなかったかなって思ってさ」

『魔王様、おちゃめはお控えください! サービスが過ぎますよ!!』

言うなりキルルが背後から膝まで落ちた俺のズボンを吊り上げるように定位置までズリ上げた。

「ぬおおお!!」

『もう、魔王様は子供なんですから!!』

「食い込む! ズボンが股に食い込むぞ!!」

『ほら、行きますよ!』

キルルは俺のお尻をパチンと平手で叩いたのちに歩き出す。

一人で先に進んで行った。

「まてよ~、キルル~」

『ほら、早く行きますってば!』

「じゃあな、キング」

俺はキングに手を振ると先を歩くキルルを追った。

なんやかんやあったが、去り行く俺にキングが見送りの声を掛ける。

「お疲れ様でした、エリク様……」

もう一度振り返った俺はキングに言ってやった。

「キング、稽古を頑張れよ。お前はもっと強くなれるんだから、稽古に性を出せや」

「は、はい……。エリク様……」

そしてキングが礼儀正しく頭を下げながら、去り行く俺を見送った。

そのまま俺はキルルの後ろを追って町を回る。



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