箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

38・ルートリッヒとの激戦

左半身が血塗れになった俺は上着を脱ぎ捨てると平手でパチンっと胸を一つ叩いた。

気合いを入れ直す。

「さあ、続きを始めようか、組長さんよ!」

「上等だブヒ!」

褌一丁のルートリッヒが前に踏み出すと、短パン一丁の俺も前進を開始する。

「一つギアを上げさせてもらうぜ。お前は少し強いから、ランクアップしないと戦いにならないようだ!」

「少しではない。かなり強いのだブヒ!」

堂々と向かい合う両者が互いの間合に踏み込んだ。

刹那、長身のルートリッヒが打ち下ろしのパンチを打ち込んできた。

俺は避けずにパンチを顔面で受け止める。

ドガンッと激突音が轟いた。

だが、今度は俺もぶっ飛ばない。

それどころかよろめかない。

「耐えるブヒか!!」

俺は顔面でルートリッヒの拳骨を受け止めたまま言ってやる。

「チート能力で耐久力を上げてみた。これでお前のパンチを食らっても骨が砕けないぞ!」

「能力を書き換えたプヒか!?」

「そうだ。それが魔王の能力だ!」

そう、これも無勝無敗の能力である。

耐久力を向上させた。

代わりに攻撃を避けないと書き換えた。

一時的なステータス移動である。

耐久力を上げて、代わりに敏捷度を下げたとも言える行為だった。

一時的なのだが、こういうこともできるようだ。

「俺からも行くぜ!」

俺は片腕の廻し受けで眼前の剛腕を払いのけると前に飛び出す。

「せえゃ!!」

そして、ルートリッヒの懐に飛び込むと中段正拳突きで腹筋が固そうな腹を力強く突いてやった。

バゴンッと派手な音が轟く。

まるで交通事故で軽トラが電柱に激突したときのような音であった。

「プヒっ!!」

俺の正拳突きを食らったルートリッヒが前のめりになって口をパクパクさせていた。

効いている。

しかし、それでも俺の体に太い腕を廻してくる。

頭の上から腕を回して俺の背後からズボンを掴む。

そして、力任せに吊り上げられた。

「うらぁブヒ!!!」

「お尻にズボンが食い込むぅぅうう!!」

そこからの遠投だった。

ルートリッヒは片腕一本で俺を遠くに向かって放り投げる。

「うらっブヒ!!」

おそらく10メートルは投げられていただろう。

「うわ~、飛んでる~」

俺は体を捻ると足から着地しようと試みた。

だが、足元が地面に触れる刹那だった。

ルートリッヒが走って追って来ていた。

そして、撲られる。

「がはっ!!」

斜め下から斜め上に振り上げられたルートリッヒのスマッシュアッパーが着地寸前の俺をぶん殴る。

「ぐはっ!!」

俺はグルグルと回転しながら空中を飛んだ。

「何糞!」

俺は回転しながら地面を拳で叩いて跳ね上がった。

次の瞬間には両足で綺麗に着地を試みる。

しかし、着地に成功した俺にルートリッヒが肩を突き出し走り迫って来る。

「破極道ぉぉおおお!!!」

今度はタックルだった。

「ドンっと来いや!!」

俺は胸を張ってルートリッヒのタックルを体で受け止める。

凄い衝撃のタックルだった。

「うぬぬぬっ!!」

後方に脚を踏ん張り押される力に耐えていたが、豚の馬力に押されて踏み下ろした足を滑らせながら後退していく。

そのまま数メートル押されると、後ろ脚が後方の壁に当たって止まった。

寄り出されたが、受けきった。

「組長のタックルを小さな子供の体で受け止めたブヒ!!」

アビゲイルが唖然と驚いていた。

「まだまだブヒっ!」

今度はルートリッヒに下手の回しを取るようにズボンを捕まれる。

「わっしょい!!」

そのまま持ち上げられた。

頭よりも高く吊り上げられる。

「まーたー、ズボンがお尻に食い込んでるるるる!!!」

「ブッヒーーー!!!」

そこから振り回される。

地面に叩きつけられて、また吊り上げられると再び地面に叩きつけられた。

肋が数本イカれて、右肩もイカれる。

三度目の吊り上げでズボンが破けて解放された。

俺は地面を全裸で転がったのちに素早く立ち上がる。

「この野郎! 魔王をボロ雑巾のように振り回してんじゃあねえぞ!!」

「まだ立てるブヒか!?」

俺は全裸のまま堂々とファイティングポーズを築いた。

もう肩の骨折も直っている。

その俺にルートリッヒが走り迫り拳を振るう。

「うらっ!」

打ち下ろしのパンチだ。

その拳骨に俺も拳骨を合わせる。

「そりゃ!」

ガンっと拳骨と拳骨がぶつかり合った。

刹那、ゴギッと音が鳴る。

今度はルートリッヒのほうが拳を引いた。

「ぐがぁ……」

ルートリッヒの中指が折れている。

俺の拳骨のほうが勝ったのだ。

ルートリッヒは冷や汗を流しながら言う。

「おのれ、魔王が……ブヒ!」

俺は腰に手を当てながら言ってやった。

「安心しろ。直ぐに治るからよ」

俺が述べた通り直ぐにルートリッヒの指が回復する。

折れて腫れていた中指が元の様子に戻ったのだ。

「な、なんだブヒ。痛みが消えたブヒ……」

「これが俺の能力だ。まあ、そんなことよりも続きを楽しもうぜ。行くぞ!!」

今度は俺から前にダッシュした。

その前進にルートリッヒが拳を合わせた。

俺の顔面をカウンターで打ち撲る。

その拳を俺は強引に払いのけると更に前に踏み込む。

再びルートリッヒの懐に入れた。

そこからの反撃の乱打。

「せあっ!」

下段前蹴りで左膝を蹴る。

「とりゃ!」

右鍵拳で脇腹を打つ。

「はいっ!!」

上段廻し蹴りで頭部を蹴り飛ばした。

「ぐがぁがぁがぁ!」

俺の鋭い三連打にルートリッヒの巨漢が揺れる。

それでもルートリッヒはダウンしない。

気合いで耐えていた。

「糞ブヒィィ……」

そして、よろめくルートリッヒの眼前に俺は両足を揃えて跳ね上がる。

「いっくぜぇぇええ!!」

俺は空中で両足を抱えるように体を丸めた。

そこからの──。

「ドロップキックだ!!」

「ブヒっ!!」

俺は両足で飛び蹴りをルートリッヒの顔面に打ち込んでやった。

脚力に背筋の力を乗せた全身前例のドロップキックで顔面を蹴られたルートリッヒがダウンする。

ルートリッヒは背中から倒れてから一回転すると腹這いで止まる。

俺も空中で一回転すると足から綺麗に着地した。

「どうだい、俺のドロップキックは!?」

「お、おのれ……ブヒ」

ルートリッヒは凄い表情で立ち上がって来た。

豚面の額に血管が幾つも浮き上がっている。

ルートリッヒの眼光は、まるで親の仇でも睨むかのような眼差しであった。

その威嚇的な眼差しに答えるように俺も気合いを引き締める。

そして、全裸の俺は股を割って深く腰を落とした。

両拳を握り締めながら頭の高さで構える。

顎を引き瞳を研ぎ澄ました。

全裸の威嚇。

俺も静かに威嚇を露にする。

「な、なんだブヒっ……!?」

ルートリッヒの額から大粒の汗が流れ落ちる。

後日、ルートリッヒが述べていた。

この時に魔王エリクと重なって見えた闘志の光景を──。

俺が別の生命体に見えたらしい。

イメージが具現化して見えたのだろうさ。

それは、怪物を越えた怪物だったと言う。

身長3メートル、背中に巨大な蝙蝠の羽。

鋭い瞳が四つ輝き、輪郭が獅子の形。

額から角が三本生えていて、分厚い胸板に六つに割れた腹筋。

太い腕は六本生えており、太い足と足の間に爬虫類の尻尾が生えていたらしいのだ。

幻覚だ。

俺の気合いが産み出したイメージである。

それは即ち、ルートリッヒが幼いころに想像した旧魔王の姿であった。



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