Fog HOTEL
第四章 血 ~4~
優と光の方は、誰にも知られないようにホテルの長い廊下を歩いていた。
光の思い出せない過去の謎と闇を払うために隠密で探ることにしたのだ。
お互いに考え込んでおり、重い空気の中に優は考える時の癖で唇を触っていると、光は重い口を開いた。
「お前の考えでは、全ては歩夢の過去が大きく関係していると・・・・?」
仲間が部屋から去った後も、光は思い出せない過去を考え続けていた。そんな様子を優が見て、ある思いで二人の中である結論が生まれたのだ。それを調べるために動き出したのだった。
「あぁ、お前が覚えていると言った痣の場所が、俺の推測する所ならな・・・」
優はまだ言葉を濁していたが、光は何かに気が付いたかのように
「なら、あのゲストがここに来たのも・・・・」
ある事実が頭に浮かび、それを受け入れられない光に優は口角を上げて嬉しそうな笑みを見せると
「それは、偶然じゃないってことやろ・・・・」
そう言うと、また唇を触りながら考え込み始めた。
そんな優を見て、光はため息をつきながら彼の考えがまとまるまで待つことにした。
こうなった時の優は誰の言葉も耳に入らくなるのを誰よりも知っていた。
光は、自分の中に生まれた思いをどう受け入れようかと悩むように天井に目をやり
「ホンマに変なことばっかりやな・・・・そんな事が偶然に起きるなんてな・・・・」
光は独りごちた。
もし、今から自分たちが確認することが事実であったとしても、光には納得が出来ないだろう・・・・どうして、こんな事が起きたのだろか・・・・
光の思いと裏腹にその言葉を聞くと、優は何かを閃き
「もしかしたら、それは、偶然ではなく誰かが手引きしたのかもな」
優の言葉に光は生唾を飲み込む。
「これは、俺たちの中に裏切者がいるってことかもな・・・」
更なる優の言葉に光は動揺した。
「!!!!!!!!!!!!」
光には信じられるはずはなかった。どんな時も皆で力を合わせて、この不自由な身体で支え合って来た、その時間を共有している仲間に裏切者がいるはずがない!
光は自分の感情のまま優を睨んだが、優は自分の考えを整理するように話し始めた。
「ずっと、俺も引っ掛かってけどこの山奥のホテルに、偶然にもクリスチャンの女が来るとは思えない、あのゲストは意図的に選ばれたとしか・・・・」
優の考えは光の興味を引くものだった。
「そして、スマホを落としたと言っていた。まぁ、ありえない事はないが連絡手段を簡単に人は手放さないと思う。だから、意図的に絶たれたと俺なら考える・・・」
優の考えは筋が通っているが、その強引な考え方を光は否定するように
「その考えは強引って思える部分もあるで・・・でも、変な事が多いのは俺も認めるわ・・・・」
そう反論してきた光に優は嬉しそうに言った。
「なら、迷った人間が山の上に上がって来るか?助かりたい人は下って行くものやろ?近くに建物すらないのに、なにを目指して上がって来た?ここは、隠れたように創られているだから、俺たちはここに住めてるわけやけど・・・・」
そう述べた優に光は降参したようにため息を聞かすと
「そうやな・・・この場所に足が向くなんて、森に囲まれたホテルに来るなんてな。誰かに呼ばれたとしか考えられないな・・・・」
光の態度に優は静かに肩を叩くと
「歩夢には悪いが真実を確かめよう・・・俺たちの答えが正しいかどうか・・・」
その言葉と同時に優は霧となり消えた。光も後を追うように霧となり消えた。
二人が再び現れたのはステンドグラス部屋だった。
優は静かに中央に置かれている棺を静かに見つめていた。
「ここは、相変わらず明るいし、枯れない花が咲いているのか・・・」
光は部屋の明るさが少し辛そうに言うと
「歩夢の思いが暗くならないためと、あと枯れない花じゃなくてアイツがずっと手入れをしている証拠や、彼女が目覚めた時のためにとな・・・」
そう言いながら優は、棺の蓋をゆっくりと開けた。
やはり、中には女が静かに眠っていた。その姿を見て優は小さくため息をつき
「あの時のまま眠り続けているか・・・」
確認するように優は静かに女を見つめていたが
「なぁ、あの時も考えるべきやったのかも、この女がここに来た理由と目覚めない理由を・・・・」
光は自分の鼻にまとわりつく匂いを拭い去るように鼻を擦り続けていた。
そんな光を見て優は可笑しいようで笑うと
「他人事やと思って、ホンマにこれは辛いからな・・・って、俺の記憶が正しかったら」
そう言うと光は眠り続けている女なの胸元をゆうくりと広げた。
「ほら、俺の匂いの通りや・・・」
光は嬉しそうに告げると優は目を見開き、眠っている女の痣をしっかり見ようとしていた。ゲストと形・大きさ・場所、寸分たがわず同じ痣を見つめ続けていた。
「なるほどね・・・・」
優は自分の答えが正しかったと知って嬉しそうに微笑んだ。
すると、光は胸元を開け続けながら優に説明し始めた。当時の事を思い出すように
「なぁ、これは歩夢を助けようとした時の傷で・・・・この首元の二つ並んでいる傷は歩夢が喰いつた跡やな・・・・」
光は指をさして場所を教えた。その指の動きを優は見ながら
「噛んだ傷すら治ってない・・・・これは、あの日から時が動いてない、そして吸血鬼になってないってことか・・・・」
そう言うと、ブツブツと言いながら考え込み始めた。
そんな優の様子に光は呆れたように微笑んでみせるが目の前の女は、今にも起きそうなほど血色も良く眠っている。これは優の言うように吸血鬼になってないって事だ・・・・女とゲストと同じ痣・・・・これは、二人の共通点なのだろ、そうすると先ほど優が話していた事もあながち間違いではないだろうと光は思い始めていた。しかし、自分の頭の中の濃い霧は晴れるどころか、どんどん濃いくなっていく・・・・どうしても思い出さなければならない答えを覆い隠そうとするかのように・・・・
光も考えを巡らしている時に優が突然、声を掛けて来た。
「歩夢はこの治ってない傷跡の事は知っているのか?」
優の突然の問いかけに光は驚きながら
「いや、知らんと思う・・・誰にもそんな事を何も言ってなかったから」
光はそう答えながら静かに眠っている女の胸元を直した。
その時だった、優はパッチと指を鳴らすと
「これで、一本に繋がった・・・・」
そう嬉しそうに告げると、眠っている女を見つめた。
やっと糸口を見つけ、自分の心の興奮を押えられずにいたのだった。自分の見つけた答えが誰かを傷つけることすら知らずに、その為に起こる出来事など知らずに裏切者と知恵比べをしていたのだった。
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