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Fog HOTEL

二重丸 大牙

第三章 秘密 〜3 ~








 白い重圧感溢れる棺の前で私が振り返ると、歩夢が何も言わずに立っていた。
歩夢は私が棺の前に居る事を知り、全身が一瞬で悲しそうに染まっていた。私は触れてはいけない何かに触れている感触と罪悪感から彼と一緒に居るのが辛かった。何を言われても仕方がないと覚悟した。
しかし、歩夢は私を責める事もぜずに無言のまま棺へと足を進めた。そして、私の横に立ち力無くただ私を見つめ続けたのであった。私はそれが何を意味するのか逡巡し、うまく答えに辿り着けない。歩夢と目を合わしたが罪の意識から目線を外すと、歩夢は小さく笑った。



「眠っているみたいでしょう・・・・」



そう、小さい声で語りかけて来た。私は見てしまったことを反省しながら小さく頷く
歩夢はもう一度だけ私に微笑んでくれた。そして静かに目の前の棺を開けると膝を床につけ眠っている女の人に愛おしそうに頬を優しく撫でた。
その途端、私の胸は大きな棘を刺した痛みを発した。歩夢はそんな気持ちも知らずに、眠っている彼女を見つめながら



「彼女は・・・吸血鬼になった俺の罪すら許し、愛してくれ・・・・
救おうとしてくれた人なんだ・・・・」



その言葉を聞いて眠っている彼女がどれほど愛されているのか痛いほど分かった。嫉妬と羨ましい気持ちで私の胸は埋め尽くされたのだ。しかし、語りは続いていく。



「だが・・・・許されない愛には必ず報いが訪れる・・・・彼女は報いのために命を落としてしまったのだ・・・それも、最後まで俺を救おうとして・・・・」



それ以上、歩夢は口を開かなかった。今まで決して語ることのなかったであろう辛い思いに私は言葉を失っていた。私は慰める言葉が見つからずただ聞いているだけだった。何一つ彼の役に立てる事が出来ない、そう目の前の彼女のように救うことすらできない、それが何よりも悲しかった。これほどまでに歩夢から愛されている彼女に悔しさで頭がおかしくなりそうだった・・・・


すると歩夢は静かに私の方に瞳を合わせると



「優君たちがね、悲しみを和らげるためにこの場所を作ってくれた・・・
彼女と会いたい時に二人だけで会える場所を・・・・彼女が目覚めるその時までって・・・」



彼らの繋がりの強さと、お互いに思いあって生活をしていることを知った。



「この場所を知っているのは、貴方と優さんだけなの?」



私が尋ねると、歩夢は静かに首を横に振り



「優君と、恵吾、光が作ってくれたんだ、彼女に好きだったステンドグラスに飾られた部屋をって・・・・」



歩夢はその時の様子を思い出すように嬉しそうに周りを見渡していた。



「そうなんだ・・・・」



私の返事を聞いても、歩夢は彼女から少しも離れたくないのだろう、ずっと頬を撫で続けていた。
目の前の彼女は直ぐにでも目覚めそうなほど静かに眠っていた。
そんな、彼女を見つめていると言葉に出来ない気持ちが芽生えてくる・・
そう、何か大切なことを忘れているような・・・・そんな気持ちを振り払うように首を振り



「彼女はずっと眠っているの・・・・?」




そう私が尋ねた途端、歩夢の瞳から涙が流れ始めた。涙を拭かず歩夢は唇を噛みしめたが何かを覚悟した顔に変わると



「昔、俺たちが命を狙われた時に、彼女は身を挺して俺を庇って命を・・・・
俺は彼女を助けかった・・・・俺たちの仲間にすれば助けられると思ったんだ。」



二人がどうなったのか知りたかったから私は何も言わずに聞いていた。


「でも、それが罪だったのだろうね・・・あの日から彼女は眠りから覚めないんだ・・・」



これは、歩夢の懺悔なのだろ・・・・ずっと胸の奥にしまい込んでいた罪。
でも、本当は誰かに聞いて欲しかったのだろ、自分の重い荷物を・・・
だから、私は遮ることもせずに聞いていた。



「本当なら、吸血鬼になって目覚めるはずなんだ・・・
目が覚めるはずなのに・・・でも、それは罪だったから・・・許されない罪だから、彼女は目覚めないのだと思う」



歩夢はそう言うと私の方に目線を向けると



「俺は罪が許される日を待ち続けるしかないんだ、人の血を啜っても・・・彼女が目覚める日まで、俺は生きぬかなきゃならないんだ・・・」



そう、この重い十字架を彼は背負っていたから。他の吸血鬼とどこか違っていたのだと実感した。そして、彼の吸血鬼としての覚悟を知った。



彼の涙は流れ続け、眠っている彼女の頬に落ちる。それを彼は優しく拭う
その涙を私は黙って見守るしかなかった。ずっと続いている不思議な感覚のまま



「俺のせいで、彼女が人間として天へ帰る道を閉ざしてしまった。離れたくないと願ったから・・・彼女の幸せを考えもせずに・・・・」



歩夢の気持ちが私の心に突き刺さってくる。愛する人への悲しみで苦しん欲しくない、それが私の独りよがりの思いであっても・・・・少しでも彼を救う事が出来たら・・・



「彼女は幸せそうな顔で眠っている・・・・、それは、貴方を愛していたからだと思うの・・・貴方に愛されていたから安心して幸せそうに寝ているのだと思う・・・言葉が無くても私にはそう感じるよ・・・」



私の言葉を聞くと歩夢は一瞬驚いた顔を見せたが、感謝の気持ちを現すように微笑んだ。



「・・・・ありがとう」



歩夢は、ゆっくりとお礼を言いながら律儀に頭を下げた。



「私が貴方たちの言う通り、もし神ならば、彼女に生を与えられるのかな?もしかしたら、貴方を助けたように、彼女にも・・・・」



私は歩夢が倒れている時を思い出した。彼の涙を止められるのなら、私はどうなってしまってもよかったから・・・・
もし、それが罪であっても、私は選ぼうとした。



「あ、貴女は何をするつもりなの・・・・」



歩夢は警戒した様に言うと、眠っている彼女を庇うように私の前に立ちはだかった。
そう、指一本触らせないように・・・・
その姿に私は動揺した。



「わ、私は、貴方を助けたくって・・・・」



私は焦る、敵対したくないのに、どうして誤解させるのだろか・・・



「こんな俺を怖がらずにいてくれた事には本当に感謝している・・・だが、彼女だけは・・・
この気持ちを分かってもらいたい・・・・」



そう辛そうに私に告げると。何かに思いをはせるようにゆっくりと目を閉じた。
彼の気持ちを察した私は何も言えなくなってしまった。
そんな私の前で、歩夢は棺の中に顔を入れると頬に優しく口づけすると、立ち上が棺の蓋を閉めた。



歩夢は静かに振り返ると



「貴女にはもう酷いことはしないと誓おう、だからみんなの所に戻ってはくれないか?」



歩夢は静かな口調で伝えた。私は素直に頷きたかったが、私にも考えがあった・・・
歩夢なら私の事を分かってくれるかも知れない、だから勇気をだして伝えることにしたのだ。



「どうか、ロザリオだけは返して欲しいのです・・・・あれは、とても大切なモノなのです・・・何よりも、大切なモノなのです・・・・・」



私の頼みに歩夢は悲しそうに首を静かに振って答えた。



「申し訳ないが・・・・あれは我々の命を奪いかねないモノだから、返すことは出来ないが大切に預かっているので・・・・」



彼らに逆らう事は出来ないのなら、私は従うしかないのだ。



「分かりました・・・・」



小さく頷く私を歩夢は、優しく肩に手を添えると申し訳なさげに口を開くと



「では、行こう・・・・」



歩夢に促されるように、私たちはステンドグラスの部屋を後にしたのだ。





私は知らなかった、この部屋が大きな意味を持っていたことを・・・・
私の運命の金が大きく響いていたことを・・・・私はただ、自分の見えない未来の暗闇に心が負けそうになっていたのだった。








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