Fog HOTEL

二重丸 大牙

第二章 正体 ~4~







 私自身に起こっている現実は、誰に話しても笑われると思う出来事に私は追い詰められていた。ここで逃げ出しても彼らに追いつかれるのは、先ほどの追いかけっこで理解できた。
だからと言って、彼らを救える事などなんの取柄もない私には無理だろう・・・
私を見据えている優を前にして立ち尽くしていると、重い沈黙を破るように低く恐ろしい声が私の耳に入って来たのだ。



「なら、救ってみせろよ・・・・」




零士がゆらっと動きだすと、いままでしゃがみこんでいた優も立ち上がり



「こんなことをしてもな・・・・」



優は強引に私を後ろから羽交い絞めにし腕を取って身動きが取れない様にすると
首筋に舌を這わせたのだ。私は蛇に睨まれた蛙のように恐怖で身動き一つ取れずされるがままになっていた。



「血が我々を狂わせても・・・・」



その言葉を聞いた瞬間、私の胸の痣が突如痛みを発し呪縛に解けたように我に返った。



「やだ!!!!!やめてぇぇぇぇ!!!!!」



私は胸の痛みに耐えながら大声で叫び必死で抵抗を試みる、その痛みは神が何かを訴えているかのように・・・・



「神は言う、敵を愛せよと・・・・」



また、私の口が勝手に動いた。そして、その言葉と同時に痛みを伴っていた痣が今度は光を放ったのだ。眩く暖かい光を部屋全体に放っていた。その光に浴びた彼らは当然のように怯み、光から目をそむけながら徐々に後ろに下がって行く



「なんや、この光は・・・太陽の光とは違う・・・」



零士は光を浴びて苦しみながら言う



「胸から光ってる、あの痣から光ってる!」



青空は眩しい光を避けながら私を見ると仲間に伝える。光を浴びている吸血鬼たちは各々に苦しみだしていた。すると、今まで私を避けるように仲間の後ろに隠れていた快が前に進み出ると



「神の光だよ・・・僕たちの終焉の光だよ・・・」



そう悲しそうに仲間を見つめ伝えた。すると光は何故か嬉しそうに笑いながら



「何百年も生きてきて、終わりがこんなにあっけないなんてな・・・」



諦めているかのような発言に私は彼らの終わりが見えた気がした。
すると歩夢が深紅の目から涙を流し唇を噛みしめながら仲間の前に出て来た。それは、私から発する光の苦しみかと思われたが、私の前に立つと口を開き



「貴女が言う愛が全てを許すなら・・・俺が全てを愛し仲間を救う・・・」



力強い言葉を伝えると、私の光を遮ろうと胸の痣の部分を手で押さえたのだ。
一人で光を浴び続ける歩夢の身体には強烈な痛みが走っているかのように、言葉にならない声で叫び続けていた。その姿を見た優は駆け出し歩夢を痣から離そうと肩を掴むが歩夢が力強く跳ねのけた。



「やめろ!お前だけが灰になってしまう!」



心配する優に歩夢は少しだけ仲間の方に顔を向けると、痛みに耐えながらゆっくりと微笑んで見せた。



「愛で救われるなら・・・これで救われるはずだよ・・・俺は仲間を裏切らない、何があっても、これからも・・・」



歩夢の姿がだんだんと衰弱していっているは誰の目にも明らかだったが、誰も何も出来ずにいた。



「皆への・・・愛で・・・で・・・・す・・・救われる・・・」



歩夢の息遣いも荒くなり、言葉すらハッキリ聞き取れなくなっていく
その様子を見ていた快が突如、身体を震わせ瞳を深紅に染めると



「嫌だ!!!!!!!! 誰も終わりにはさせない!!!!!!!!」



叫びながら、私の命を奪うために首筋に飛び掛かり喰らいつこうとしたのだ



「やめろ!」



青空が怒った顔で叫ぶ



「もう、終わらせよう、こんな事は・・・・俺らは滅ぶべき存在だから・・・それを受け入れるべきなんや・・・・」



悔しそうに、そう呟くと青空は顔をそむけるように下を向いたのだ。その言葉で快は悲しそうな瞳のままゆっくり動くと、歩夢の背中に膝をつき彼の身体をささえるように背中に寄り添った。



「アホぬかせ!みんな目を覚ませよ!なんで俺らが消えなあかんね!」



今までの様子を見ていた零士は、仲間に怒鳴り散らした。



「俺は絶対に認めんからな!俺らの存在が消えることは!」



零士には信じられなかった、いや信じたくなかったのだ、仲間が消えるという現実をどう受け入れて良いのか分からず、光をふさぐことしかできず、イライラとした様子を見せていた。そんな、零士に快は自分の腕の中で弱っていく歩夢を感じながら



「そんなことより・・・歩夢だよね?歩夢が消えてしまうよ・・・
皆は、それでいいの・・・?」

快は涙を流しながら皆に訴えたのだ。その瞬間、私は我に返り目の前の歩夢の姿に驚いたのだ。歩夢が私の胸を押え、その後ろで快が涙を流している・・・・パニックになりそうな私の目に次に入って来たのは、胸を押えている歩夢が衰弱し床に鈍い音を立てて倒れたのだ。



力なく床に倒れている歩夢に仲間は駆け寄る。彼らは口々に何かを叫んでいるが、それは無声映画のワンシーンのように私の鼓膜は全く音として捉えることが出来ない、それよりも私は歩夢を見て、彼を失う怖さが心を一気に支配したのだ。


その心に動かされるように、彼を助けたい一心で辺りを見回すと、私は彼らと争った時に割れた硝子の破片を掴んだのだ。私の行動に一早く気が付いた光が私の手を掴んだ。



「お前、なにするつもりや・・・」



彼の言葉に私はキッと睨みつけると強引に引き離した。私の力強さに光は驚いていたが、その彼の前で私は躊躇なく自分の手首を切った。



「!!!!!!!!」



驚く光の前で、私は歩夢を助けることしか頭にはなかった。
目の前で、倒れている彼の瞳をもう一度だけ見たい・・・彼の優しい声を聞きたい・・・
そう願いながら、歩夢の口元に傷口を持っていき私の血を与えたのだ。



「神様・・・どうかお願いします・・・」



神に祈りながら、歩夢に血を与え続けた。このまま彼と別れてしまう恐怖に耐えながら・・・



「血、血だ!血をよこせ!!!!!!!!」



私の血の香りに理性を失ったように零士が暴れだし始めたが、恵吾が必死で制止していた。
他の者は、誰も私の行動に逆らうことなく見守っていたのだ。



「う・・・・ぐっ・・・・ゴホッ・・・」



私の血の味に酔いながら身体の痛みに耐えるように苦闘の表情を浮かべる歩夢
そんな、彼を見つめながら私は必死で神に祈りを続け、自らの心のままに行動をしていた。
その行為が神に背いている事だとも知らずに愚かな道に走り出していた。
ただただ歩夢を救うために動いていたのだった。









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