パラサイトマン

ノベルバユーザー549222

惚れた者の負けってやつか

 そして今日はケビンだ。キスの真相……。何だろうな?

「昨日、エリカから面白い話が聞けたんだけど」

「何だよ?」

「透さんの『ひろみさんが中川さんと寝てない』確信についてよ」

「なんでわかったんだよ?」

「透さんがエリカに言ったから」

 何だよ? 弟には言えなくて彼女には言えることなのか?

「で?」

 智子の説明を聞いたが……。なるほどね。あるかもしれないけど、兄貴って何人と関係持ったことあるんだろ? 俺はそっちの方が気になった。

「それでね……」

 嫌な予感。

「めぐみが広瀬君とマンネリ化してるから、『教えてあげて欲しい』って……」

 それ、広瀬が聞いたらショック受けるぞ。

「で、結局話したわけだな?」

「うん、だって私があまりにも機嫌良いから……バレちゃった」

 そんなに機嫌が良くなるほど、良かったのか? 俺はそっちに驚きだ。

「期待されると困るんだけどな」

「期待してるでしょ!」

 もう1回トッド会か。しょうがないな……。

***** 

 俺と智子は約束通り、11時半にケビンのマンションに行った。

「Thank you for coming」

 相変わらずきれいな部屋だな。すでにいい匂いが……まさか、ケビンの手作り?

「Are you cooking?」

「Yeah」

 料理できるんだ? 智子も驚いてる。

「手料理ご馳走するのね……」

「そうらしいな」

 なんで30分早く呼ばれたのか、確認しなくては。

「Yukio, I need your help」

「OK, how?」

 また延々と話し始めた。昔からよくしゃべるが、今もすごいな。要するに絶対何とかしたいってことか。

「Why did you kiss the girl?」

「She wanted encouragement for her exam」

 は? そんな理由、信じたのかよ?

「その子が学生でテスト前だったってこと?」

「そうだろうな」

 俺は呆れてしまった。松村さんに振られるのは決定だな。

 またケビンの長い話が始まったが、要するにその子の好きなミュージシャンに似てるから、キスしてもらったらその人にしてもらったと思ってテストで頑張れるってことか。

「どう思う、この理由? お前だったら信じる?」

「うーーん、微妙なところね。確かケビンはミュージシャンに見えてたから、似てる人がいてもおかしくないけど……」

「So, she wanted his kiss, not mine」

 それ、開き直り以外何者でもないと思うが? 

「お前だったら、ケビンを信じて付き合う?」

「うーーん、どうかな?」

「Should I tell a lie?」ケビンが俺たちの会話が理解できないだけに不安そうに聞いてきた。

「How?」

「いっそ、『病気だから手術前に勇気づけて欲しい』とかの方は良くない?」

「そんな人がバーに行くか? それもオールナイトで」

「あ、そうね」

「嘘は勧めないな。良いだろ、事実を言えば。それで振られたらしょうがない」

「『しょうがない』で済むのかしら?」

「さあ?」

 俺と智子の会話がやっぱりわからないケビンが、不安そうにしてるが、こればっかりはどうしようもないな。それこそ人口の半分は女性なんだから。

 インターホンが鳴った。突然、ケビンが俺の肩を掴んだ!

「TELL ME, WHAT I SHOULD DO?」

「Tell the truth anyway, and then……」

「『Then』what?」

「……God only knows」

「WHAT!?」

「松村さんを入れてあげる方が良いと思うけど」

 俺は急いで鍵マークを押して、オートロックを解除した。

「そうね、『神のみぞ知る』だわね」

「そうそう」

 こんな焦ってるケビン、初めて見た。やっぱり本気なのか?

「こんにちは」

 松村さんが上がってきた。

「これ、後でみんなで食べようと思って」

 恩田洋菓子店のフルーツタルトのホールケーキだった。

「Thanks」

  ケビン……めっちゃ緊張してる。でも松村さんもいつもよりおしゃれしてるし、やっぱりまだ好きだと思うが……。

「素敵ね。さすが建築家ね。インテリアもわかってるのね」

 部屋の中を見渡して松村さんが言った。

「そうですね、俺も驚きました。でも昔から部屋は綺麗でしたけど、てっきりケビンの母親の趣味だと思ってました」

 ケビンは松村さんに部屋を見せ始めた。ケビンの緊張も少しは解けたか? 

「2人、お似合いよね」

「そうだな。松村さんも若く見えるしな」

 ケビンの仕事部屋を覗くと、PCの椅子に松村さんを座らせて俺たちに見せたポートフォリオをPCで見せていた。俺の時なんてPCをつけなかったくせに。男の友情なんてこんなもんなのか? え? 俺が松村さんに嫉妬してる? 

 智子が手伝って、昼食の用意をした。懐かしのミンスパイと紅茶。中がミンチだから、ちゃんと食事になる。ケビンのお母さんレシピなら、旨いはず。めっちゃイギリスっぽい。

「これ、ケビンが作ったの?」

「そうみたいですよ」

「すごいわね!」

 松村さん、大喜び。

「美味しい! ケビン、料理上手なのね」

 これしか作れないんじゃ、って思うのはケビンに失礼か。確かに旨い。ケビンは褒められてうれしそうだ。

「Thanks」

 しかし、もしケビンが振られたとしても、今日のことが知れたら神崎さんに殺されるな。

 とりあえず他愛ない話から始まった。ケビンは何気に自分の生徒にならないかと誘ってるが、無料で良いらしい。じゃあ、生徒じゃないだろ? ま、口実だもんな。智子も一緒でも良いけど。
 あっという間に食べ終わって、フルーツタルトをいただいた。紅茶とよく合うよな。……それで? ケビンが俺を見てるけど、俺にどうしろと?

「Tell her the truth」

 俺が言うのかよ? しょうがないな。

「その、ケビンがキスした理由なんですけど……」

「なんで自分で言わないの?」

「そうなんですけど、こう見えてもケビンはへたれなんで……」

「幸雄さん? それってあんまりいい意味じゃないでしょ?」

「そうだけど、へたれだろ? なんで自分で言えないんだよ?」

 あ、松村さんがちょっと引いてるかも……。ミスったか、俺!

「『シャイ』と言うべきじゃない?」

 そうとも言うが、もう遅い。

「Yeah, I am a Hetare……」

「ほら、認めただろ?」

「……in front of my loved one.」

 え? 何気に告白してるし? これって少なくとも『シャイ』ではないだろ? 松村さんが真っ赤になった! 智子も驚いてる。

「……そ、その、キスした理由は……」

 なんで俺がどもってるんだよ? とにかく俺は聞いたままを話した。

「それってケビンは誰かの代わりで良かったの?」

 え? 信じるのか、この話? そう言ったあとに、松村さんは自分で英語で言い直した。

「Yeah why not? So the kiss wasn’t with my heart」

 今後も代理キスとか頼まれたらするのかよ!? 心がこもってなかったら何をしても良いっていうのか!? 松村さんも同じことを思ったらしい。自分で聞いていた。

「No I won’t, but I was happy to encourage her though」

「私には理解できないわ。何であれ、幸雄さんが他の女性にキスなんて絶対許せない」

 智子が言ったが、俺もだ。

「松村さんはどうですか?」

「私も嫌だけど、そんなこと言ってるからまだ独身なのよね」

「そういう問題じゃないですよ!」

「でも完ぺきな相手なんていないわよ」

「でも妥協じゃないんですよね?」

「もちろん。たぶん私には過ぎる男性だと思うけど……」

「じゃあ、付き合うんですか?」

「……そうね、まずは友達からかな」

 は? 高校生じゃあるまいし。

「それだからまだ独身なんですよ」

 松村さんがショック受けてる! 

「幸雄さん! 言い過ぎでしょ!」

「だってそうだろ? 友達やる必要なんてあるか? 松村さんだって好きなんでしょ? もう付き合っちゃってください」

 松村さんが黙ってしまった。

「ケビンは『友達から』だったら振られたと思いますよ」

「そんな振ったわけでは……」

「だからもうケビンの彼女でお願いします」

「……わかったわ」

 やった! 俺はケビンに向かって頷いた。

「さ、智子、帰るぞ」

「え? 2人だけにしないで」

「松村さん、何を言ってるんですか?」

 智子も少し戸惑っていたが、

「帰りますね。ケビン、紳士だから大丈夫ですよ」

 は? ケビンが紳士? でも少なくとも松村さんが嫌がったら、手も握らないから大丈夫。

「大事にしてもらえますって。俺が保証します」

「……ありがとう」

 松村さんが恥ずかしそうに答えた。

「Thanks!I owe you」そう言ったケビンの顔は、ガキの頃に欲しいものが手に入ったときの満足顔と一緒だった。

「No worries」

 俺と智子はマンションを後にした。

***** 

 2人だけにされた弓子はうれしい反面、困ってしまった。外国人と付き合うのは初めてだったから距離感も何もわからなかったからだ。

「Kevin, I…… 」

「Talk to me in Japanese. I'm learning」

 弓子はゆっくりとわかりやすい日本語でしゃべった。
「私の方がだいぶ年上だと思うんだけど……」

「Your age? I don' care」

「ほんと?」

「Why not?」
 
 弓子はそう聞いて安心した。6つも年下の男性と付き合うことに抵抗を感じていたが、少しずつそれが溶けていけば、結婚もあるかもしれないと思っていた。

*****
 
「結局ケビンの恋は実ったわけね」

 2人は家に向かって歩いていた。

「そうだな。神崎さんが怖いけど」

「良いわよ、ケビンは最初から相手にしてなかったんだし」

「そうだな」

「松村さんは何であれ、『あれは本気じゃなかった』って言う言葉が聞きたかったのね、きっと」

 ん? どういう意味だ? 俺の表情を読んだ智子が続けた。

「つまり、松村さんは単にあの女の子に嫉妬して、むくれてただけってことよ」

「でもお前だったら、俺がそんな理由で誰かとキスしたらキレまくるだろ?」

「当たり前じゃない、結婚してるんだから」

「じゃあ、独身で俺と付き合ってなかったら、怒らなかったってことかよ?」

「怒るより泣いたと思う……」

 あ、そうなんだ。

「だって誤解が解けなかったら、付き合ってるって思うじゃない」

「まあそうだな」

「でも私だったら、その理由でも結構引きずるな……」

 そうだろうな、未だにアマンダのことで嫉妬してるしな。

「もし、単身で渡米してもらったとして、さみしくて私に似てる人と関係を持ったんだったら、複雑だけど許せるかも。だって私の代わりだし」

 何、この話? まさかついてこないって言うんじゃ……

「でもアマンダに似てる人だったら、離婚すると思う」

 り、離婚……。初めて智子の口から出た言葉だけど……!

「何の話をしてるんだよ? 俺、単身渡米ってことかよ?」

「違うわよ! 絶対一緒に行くけど、私って幸雄さんの好みの女性だったの?」

 は? 女はわからん。どうなったらこういう話になるんだよ?

「そうだから結婚したんだけど?」

「でもアマンダとの共通点なんてないと思うけど?」

「そんな、子供の時と好みが変わるのは当たり前だろ」

「だってアマンダは幸雄さんから好きになったんでしょ? 私のことは、私が頑張ったから……なんでしょ?」

 まあ、前半は智子が積極的だったけど、後半は俺も頑張ったけどな。

「ガキの頃に好きになる理由なんて些細なことだろ、お菓子もらったとかさ」

「え? そう!?」

 そんなに驚くことか? 俺だけもらったらやっぱり特別感はあると思うけど。

「そんなもんだろ。よく覚えてないけど、アマンダからなんかもらったから、好かれてるって思い込んだと思ったな」

「でもアマンダも好きだったんでしょ?」

「そうだったけど、餌付けで好きになるなんて8歳だよな」

「そ、それがアマンダのことが好きになった理由なの?」

「まあ、可愛いって言うのもあったけど、そうだよ。だから嫉妬なんてしなくて良いんだよ」

 智子が何も言わずに腕を組んできた。これでアマンダへの嫉妬がなくなっただろうけど、月曜から本社勤務か。忙しくなりそうだな。

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