パラサイトマン

ノベルバユーザー549222

音って意外に聞こえるんだな、知らなかった、大失敗。

 もう8時。金曜の宴会だから2時間限定。2次会なんて行かないが、それにしてもケビンは何気に智子の隣に来て話しかけてるし。

「親友の奥さん、取っちゃったりして」

「そんなことないですよ!」

「でも楽しそうじゃない?」松村さんにからかわれている。

「宴もたけなわですが、1次会はここでお開きです!」今日の幹事の神崎さんだ。

「2次会で挽回しないと! 1次会は小川君の奥様にケビンを取られたけど、2次会で!」

「俺と智子は帰りますので、ゆっくりどうぞ」

「Are you leaving?」

 ケビンが悲しそうな顔した。それって俺にじゃないだろ?

「Have fun!」ケビンにそう言って

「帰るぞ」俺は智子に言った。

「ケビン残していって大丈夫?」

「大丈夫だよ、ガキじゃあるまいし」

 俺と智子以外は2次会に行くらしい。

「まさか、お前行きたいとか?」

「ううん、幸雄さんが帰るなら帰るけど……、焼き鳥屋、覗いてみる?」

「ああ、そうだな……」

 みんなと別れて、俺たちは焼き鳥屋に寄ったが、もういなかった。安西も広瀬もうまく行ってるから、早めに切り上げて金曜デートかもな。

「ケビンと何の話をしてたんだよ?」

「幸雄さんとの馴れ初めよ」

 ああ、なるほど。

「それに私に『ツンデレなのか』とか聞いてきたのよね」

「ああ、ケビンはツンデレ系女子好きだからな」

「そうなの!?」

 神崎さんに言っとけばよかったな。

「幸雄さんはツンデレだって」

 俺がツンデレ!? 

「違うよ!」

「クラスではアマンダに冷たいのに、家だとデレデレだったって」

「そんなことなかったよ!」

 何言ってるんだよ、ケビン! ケビンが智子を独占したと思ったが、むしろ智子が聞きだしてたのか? 良かった、2次会に行かなくて。

 家に着くと母さんまで

「ケビンは?」

「2次会に行ったよ」

「大丈夫?」

「大丈夫だろ。携帯もあるし、家の住所知ってるんだし」

「じゃあケビン戻る前に、智子さんは先にお風呂に入ったら?」

「はい、そうします」

 あ、そうか。何も考えずにケビンを家に泊めることにしたけど、智子は気を遣うし、母さんも気にしてる。早く家を探さないとな。

***** 

 ケビンが10時過ぎに帰ってきた。

「Did you have a fun time?」

「Yeah, your colleagues are really nice」

 楽しかったなら良いけど。

「I want to start finding a place to live. I have several appointments tomorrow. Come with me」

 予約?

「Sure」

 自分で内覧の予約も取ったのか。まあそれならいいけど、当初はこの近辺の不動産屋に行こうと思ってた。

「Good night」

 ケビンがシャワーを浴びてから俺の書斎に入っていった。

「ケビン、帰ってきたのね」

「な、問題なかっただろ?」

「私には問題だったわ」

 え? 何が?

「アマンダにひざ枕してもらってたって何なのよ!?」

「ああ、あれか」

「『あれ』!?」

「学校の劇だよ。俺がアーサー王でアマンダが王妃役で、アーサー王が死んだシーンだよ」

「それだけじゃないでしょ?」

「まあ、確かに劇以降、アマンダがやりたがるから付き合ってやってたけど」

 久々に智子に押し倒された。いつもなら燃えるけど、今日はまずい!

「隣にケビンいるし……」

「夫婦なんだから、夜の営みがあってもおかしくないでしょ!」

「いや、そうだけど、だから来る前にしただろ……」

「私とケビンとどっちが大事なの!?」

「そういう問題じゃないだろ?」

「そういう問題よ!」

 馬乗りになって俺の服を脱がせ始めるし、これはやるしかないか……。

***** 

 やろうと思えばできるもんだな。ある意味スリルがあったかも。

「ケビンがいる間に、もっといろいろと聞きださないと」

「いや、明日きっと物件決まるだろうから、早く出てもらうよ」

 なんだ、嫉妬して損した。聞かれて困る話はもうないはずだけど、ケビンに変に面白おかしく話されると困る。

***** 

 時差ボケもあるのに、朝、ケビンがちゃんと起きてきた。最初の内覧が11時らしい。

「I think that's him」

 駅前の分譲マンションだと思っていた物件の前に、スーツ姿の男性がいた。

「ケビンさんとご友人の方ですね。相沢と申します」

 そう言って名刺をくれた。

「小川です。よろしくお願いします」

「最初の物件はオーナー様がご購入後に転勤になったので、賃貸物件ということで、弊社が管理しております」

 話を聞きながら、エレベーターに乗った。

「ここです」

 807号室だった。

 中に入ったが、広い! それも家具付きだった。

「オーナー様の家具をご使用になることもできます。もし使用されたくないのなら、トランクルームに移動しますので、遠慮なくおっしゃってください」

 良い物件と思うけど、3LDKだし高そう……!

「ここ、幾らですか?」

「22万円に管理費で23万5千円です」

 23万! 俺はケビンを見た。

「What's your budget?」

「Well, unlimited」

 予算が制限なしって? ケビンん家って結構古い家だったし、金持ちじゃなかったと思ったけど? でもわからないか、智子の実家も実は金持ちだったしな。

「もう1件は同じマンションで2LDKですが、家具無しで14万5千円になります」

 俺たちは509の部屋へ移動した。家具がないから広く見えたが、確かに家具を全部そろえるのは大変か……

「807の物件は、オーナー様が戻って来られるまでの限定になりますが、こちらの509は更新し続ければずっとお住まいいただけます」

 ケビンに期間限定のことを言うと、509にすると言った。まあ家具は買えばいいが、何年日本に住むつもりなんだろ?

「Can you afford to pay for this flat?」

 大門英会話の先生ってそんなに給料良いのか?

「Yeah, I am a freelance architect. I still have several clients」

 あ、そうなんだ。建築家としての収入があるわけか。

「Yukio, ask him about sounds」

 ケビンが壁を触りながら言った。

「音とかどうですか? 駅のそばですけど、電車の音とか……」

「防音サッシですから音は聞こえませんが、振動はすこしありますね。気になる方は気になるようですが……」

「How about sounds from neighbours?」

 隣の音? え? まさか昨日、聞こえてた? 俺はケビンを見た。ケビンがウィンクした! たぶん俺は赤面したはず。

「隣の音は聞こえないですよ。でもピアノはご遠慮ください」

「I'll take it」

 あ、即決。じゃあ、次は家具か。

***** 

 相沢さんのオフィスで賃貸契約を交わした。早い。ビックカメラに寄って、家具の下見だけしてきた。その後、駅前でコーヒーを飲んだ。

「I really like this Bento. I want to do like this with my wife near future」

 そう言って見せてくれたのは、智子が鮭ふりかけで作ったハートの真ん中にノリで「バカ」と書いてるのだった。

「How did you get it?」

 写真を撮ったのは……、松村さんだっけ?

「Yumiko sent it to me」

 日付は結婚式と新婚旅行の間の日付だった。ということは撮ってすぐ送ったか。松村さんの下の名前知らないけど……。俺は速攻、前川にラインした。

「2課の松村さんのフルネームは、松村弓子だけど?」

 やっぱり! 呆然としてる俺をみて、にやりと笑った。トッドそっくり。まあ松村さんに悪さはしないと思うけど……

***** 

「もう家が決まったなんて、すごいわね」

 智子も母さんも驚いた。予算制限なしなら、すぐ見つかるさ。

「家具が届いたら、引っ越しだな」

「いつから大門英会話で働くのかしらね?」

「来週月曜日からだって」

「ほんと、ケビンって行動力あるのね。結婚式で来日して、それでもうここまでってすごいわね」

 智子も母さんも感心してるが、俺もだ。この調子だと日本女性との結婚も年内だったりして……!

 ケビンがタバコを吸おうとした。

「Non-smoking please」

「Oh, sorry」

 これを機にタバコもやめろ、ケビン。日本では嫌われるぞ。

***** 

 エリカは映画を見た後に、また安西の家に行った。部屋をチェックしたエリカは、

「がんばってきれいにしてるじゃない」

「当たり前だよ。俺の人生がかかってるんだから」

「大げさね」

「先週掃除したのに、キスはお預けだったな」

「当たり前よ、すぐに汚されたらまた掃除なんだから」

「今度、エリカの家に行ってみたいな」

「良いわよ、狭いけどね」

 安西は、自分がじらされてることはよくわかっていた。でもそれは、まだエリカが小川のことを忘れていないからだと思うからこそ、我慢できることだった。

「今日の夕食は肉にする?」

「ああ、いいね」そう言ったものの、安西は気が重かった。

***** 

「いびきなんて気にしなくていいわよ」

 定食屋で夕食を済ませた広瀬とめぐみだった。

「でも、俺のいびきで小川が伊豆で寝れなかったとかいうし……」

「私もかいてるかもよ?」

「え?」

「だって1人暮らしだもの。誰も言ってくれないからわからないからね」

「そうだけど、小川に言われてショックだったよ」

「いびきで嫌いになんて、ならないから」

「後で前言撤回なんて言うなよ」

「言わないわよ!」

「じゃあ、俺のマンションに来る?」

 めぐみは黙って腕を組んだ。

「やっと入れてくれるのね」

「散らかってはいないけど、タバコ臭いかも」

「タバコってセクシーよね。私の前だったら吸っても良いわよ」

「良かった! 焼き鳥屋も禁煙だし、喫煙家に厳しいからさ、最近」

「でも健康のことを考えたらやめる方が良いけど、タバコ吸う男性ってゾクゾクするの」

「良いね。でも結婚したらタバコやめるよ」

「そうなの!?」

「子供に良くないし」

「……まあね」

 2人は広瀬のマンションに向かった。

***** 

「うちの壁が薄いようで昨日やったこと、ケビンにバレてたぞ」

「え?」 智子が真っ赤になった、かわいい。

「ケビンが引っ越すまでお預けだな」

「そんなにここ壁薄いの?」

「気が付かなかったけど、そうみたいだぞ」

「でもすぐ引っ越すんでしょ?」

「今週引っ越すと思うよ。夕飯くらいうちに食べに来ても良いけどな」

「でも誰かが通うんじゃない?」

「まあな。ケビンはお前が好みというよりかは、お前が俺にやってるようなことを彼女としたいようだな」

「ふぅん、そうなのね」

***** 

「口に合わなかった?」

 安西が黙って食べてるのを気にして、エリカが声をかけた。

「いや、美味しいよ。美味しすぎて無口になっただけだよ」

「鶏肉の漬け込み時間が短かったから、ちょっと味が薄かったわね」

「そんなことないよ、唐揚げは俺の大好物だよ」

「それならいいけど……」

 エリカは相手が誰であれ、沈黙が苦手だった。

「お礼に洗い物は俺がするよ」

「あ、ありがとう」

「お礼を言うのはこっちだよ。美味しい料理を作ってもらってるんだから」
 また沈黙になった。

「……食べたら帰るわ」

「どうして?」

「……なんか迷惑みたいだし」

「そんなことないよ……。泊っても良いんだよ?」

「それはやめておくわね」

「まさか、それはまだ……」

「そういうわけじゃないけど、もうちょっとお互いを知ってからの方が良いと思うから」

「……わかった」

 エリカはまだ小川のことを忘れられないわけではなかったが、だからといってすぐに安西の深い関係を持ちたいと思っているわけではなかった。前を向いて歩くにはある程度の行動が必要だと思ったから、安西の家に行ってみたが、その先に行くことを足踏みしていた。



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