パラサイトマン
ついにケビンが来た
安西はごみから片付け始めたエリカの後ろ姿を見ながら、今日は期待していいのかどうか、考えあぐねていた。
(男の部屋に来て、何もないってことはないよな……)
「何してるのよ? 片づけて」
「ああ、ごめん」
安西は片付けに集中できないまま、とりあえず段ボール箱を開けた。
「半年も使わずに済んだなら、いらないんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、中身は確認しないと」
「キッチン用品?」
「ああ、前、彼女と同棲してたから、その時のか。料理しないからな」
「安西君はもうその彼女に未練はないの?」
「ないよ。あったら今日、誘ってないよ」
「……そうよね」
「透に未練はあるのか?」
「あるわけないでしょ? 素敵だと思って、誘って1回デートしただけなのに」
「でも小川にはあるんだろう?」
「……あるわよ」
「やっぱりな」
「先週、智子宅に泊めてもらったとき、理想の夫婦姿を見せつけられて、悲しくなちゃったの。未練はあるけど、このままじゃいけないと思って」
「結婚したいなら、あきらめないとな」
「そう、前を向いて生きて行こうと思ってるの」
「じゃあ、もう焼き鳥もフィットネスもやめる方が良いかもな」
「どうして?」
「だって、小川を視界に入れない方が良いだろう? 青木とは部署が同じだからしょうがないけど」
「やめたくないな、特に焼き鳥は。いつか2人に子供ができたら、子連れで参加してくれたら良いと思わない? 智子が会社辞めようが育休だろうが、近いから参加できるし、歩くようになってあの座敷でよちよち歩いてるのってかわいくない?」
「子供好きなんだ」
「うん、ほんとは幼稚園の先生になりたかったけど、ピアノ弾けないからあきらめたの」
「別にそれは、俺たちの子供でも良いんじゃないか?」
エリカが安西を見つめた。安西は恥ずかしかったが、視線を逸らさなかった。
「こんなバカな女でも良いの?」
「バカな女? どうして?」
「だって、未だに小川君に未練があるなんてバカじゃない」
「まあ、それは一度惚れたら情が深いってことだろう」
「……物は言いようね」
「そう、物は言いようだよ」
安西はエリカにキスをしようとして近づいた。
「片付けが先」
「片付いたら良いのか?」
「良いわよ」
エリカは立って部屋を見渡した。
「何なら引っ越してきても良いし。ただし、そこそこちゃんと清潔に保てるならね」
「ほんと!?」
「でもさ、この台所何よ? 流しとか汚いしさ。ここまで汚れる前にちゃんと掃除しないと」
「尻にひかれそうだな」
安西が笑った。エリカの好きな『真面目な顔から笑った目』だった。
「ひかれないようにすれば良いんじゃない?」
「そうだけど、とにかく片付けるよ!」
*****
ケビンの採用が決定になった。もうケビンの喜びようはすごかった!
「I've already booked the flight!」
「OK, I'll pick you up at the airport」
「Thanks!」
「ついにケビン来日ね」
「そう、2課の女性陣が喜ぶ反面、なんかもめそう……」
「いつ成田着なの?」
「来週水曜だってさ。迎えに行くから、半休取るよ」
「家が決まるまでうちに泊まるんでしょ?」
「ああ、だからその前にいっぱいいちゃいちゃしとかないとな」
「え?」
「たぶんケビンが俺の書斎で寝るからな。ちょっとやりにくいというか」
「そうね……」
海外出張中もおあずけだったし、先週土曜は山本が来たしで、ちょっと欲求不満のところに来週からケビンだもんな。日本でまた再会できるのはもちろんうれしいけど、もう少し2人だけの時間が取れたらなあ、と思う。普段でも家に母さんもいるしな。
*****
「ありがとう、おかげできれいになったよ」
安西はキスを期待しながら言った。
「どういたしまして。来週確認するから、ちゃんときれいにしておいてね」
そう言ってエリカが立ち上がった。安西の残念そうな顔を見ながら、
「買い物行かないと。冷蔵庫何もなかったものね」
「あ、メシ……」
「そう、夕食の買い物に行かないと」
「あ、そうだな」
すっかりエリカのペースだったが、2人は食材の買い物に出かけた。
「この辺り、便利ね。西友もあるし、商店街もあるし」
「そうだな、帰りに寄れる方が楽だと思って。自炊しないけど」
沈黙になった。安西は話題を探していた。
「社内恋愛でも良いのか?」
「智子に言われたの。『社内だって気にしてる間はその程度の感情』だって」
「なるほど……」
「それに智子は『社内だからこそチャンス』だって。確かにそうよね」
「まあな、部こそ違うけど、同じ建物に一緒にいる時間は長いしな」
「何食べたい?」
「あ、なんでも……」
「じゃあ、カレイの煮つけとかにする?」
「良いね!」
*****
「味付け、薄いかも」
「その方が健康に良いよ」
安西は久しぶりに、こんなちゃんとした夕飯を食べる気がしていた。
「いただきます! うん、旨い!」
「ほんと?」
「ほんとだよ! 感動!」
「良かったわ、口に合って」
「もちろんだよ! 美味しいよ、幸せ……!」
そう聞いたエリカも幸せだった。
「いつでも作ってあげるわよ」
「ほんと!?」
「だからあんまり汚くしないでね。ごきぶり大嫌いなの」
「好きな人いないだろう」
「それに怖いんだもん」
「いつ引っ越してくる?」
「まだわからないな……。もう少しこの関係を続けて、やっていけそうならかな」
「ああ、そうだな」安西は少し残念だった。
「安西君だって、私のこと、想像と違うかもしれないし」
「それは違うに決まってると思うけど」
「そう?」
「だから面白いんだよ。新たな発見というかさ」
「そうね……」
「今日、泊っていく?」
「ううん、泊まらない」
「残念」
「そのうちね」
「わかった、そのうちな……」
*****
月曜日。ケビンの採用決定を昼休みに言うと、
「私も迎えに行きたいけど……」神崎さんだった。
「え? 神崎さんが行くなら私も半休取ります」
智子!? 迎えに行くだけなのに?
「いや、俺1人で行きますので、皆さん、仕事しててください」
ケビン来日決まってから、女性陣6人と俺という弁当タイムで、そこにたまに小野さんや小林さんが入るが基本女性陣に1人混じってる俺だった。
「ケビン人気、すごいな」
小野さんも小林さんもある意味感心していた。
「一応服装は確認するつもりです。まさかずっとあんな格好はしてないと思うんですけど……」
俺の結婚式で来日した際はずっとモッズファッションで、一緒に遊んでるときは結構写真を撮られてた。Twitterなりに載ったかもしれないが、とにかく目立っていた。
「俺、ユニクロ好きなんで、ユニクロに連れて行きます」
「良いじゃない、あのファッションセンス! 似合う人そんなにいないんだから、良いと思うけど?」堀川さんだった。
「そうですけど……」
「大門さんはそんなに細かい人じゃないから、大丈夫じゃない?」
「まあそうだけど……」
目立つのが嫌いな俺だから過剰反応してるのか? それともケビンは目立ちたいのか、トッドみたいに。本人に聞くしかないな。
「それでケビン歓迎会、今週金曜とか?」大牟田さんだった。
「ああ、そうですね……」また焼き鳥欠席か、しょうがないな。
「お店、予約しとくわね!」神崎さん、張り切ってる……
「俺たちも入れといて」小野さん、小林さんも行くらしい。
「奥様もどう?」神崎さんが気を利かして聞いてくれた。
「はい、行きます!」
「一応多めに予約しとくわね。2課の他の連中も行きたいかもしれないしね」
「そんなに俺の結婚式2次会の後、仲良くなったんですか?」
「そうね、もっとなりたかったけど、あの女の子と盛り上がっちゃったし……」
神崎さんが残念そうに言った。確かにそうだったな。
「ケビンって小川君と同じ年よね?」大牟田さんだ。
「はい、誕生日……確か4月だったな」
「じゃあバレンタインもあるし、誕生日もってことね!」
「……そうですね」
まあ勝手にやってもらうか。ケビンから相談を受けない限りは大人なんだし、好きにしてもらって良いしな。
*****
水曜日。18時過ぎ着の便でケビンが来る。午後半休で迎えに行く予定だった。
「いよいよね!」神崎さんが一番興奮してるかも。
「そうですね、金曜のこと、言っておきますよ」
「家はどうするの?」
「決まるまではうちにいますよ」
「いいなあ! この辺に住んでるのよね?」
「あ、はい……」
なんか俺の周りも騒がしくなりそう……。
「週末は家探しですよ」
「どの辺探してるの?」
「今日確認しますけど、前は俺の近所って言ってました。でもこの辺高いですからね……」
「そうよね、うちの近所は穴場で安いけど?」
神崎さん、そんなに積極的なんだ!?
「金曜に本人に言ってください」
*****
ケビンの乗った飛行機は定刻到着。2月の頭のヨーロッパ便はすいてたようで、すぐに出てきたが、すごい荷物!
「Welcome back!」
「Yeah, thanks」
明らかに顔が疲れてた。飛行時間長いもんな。とりあえずうちに向かった。
*****
うちに着いて、俺の書斎を使うように言った。俺のパソコンはケビンが来る前に寝室に移しておいた。気になる服装は、さすがにモッズファッションスーツではなかったが、サイケ柄のシャツか。まあ良いけど。
智子が英会話習ってて良かった。母さんも一応英語できるし、ケビンもリラックスできそうだった。
「Do you remember my colleagues? They’ve planned the welcome back party for you for this Friday」
「Really?  Thanks!」
そう言ってケビンが俺の書斎に消えた。多分寝るんだろうな。駅からうちへ帰るときに大門英会話の場所は教えておいたから、明日勝手に行くだろう。
「ついにケビンが来たわね」
「そうだな。もめなきゃいいけど」
「もめないでしょ?」
「そうだと思うけど、ついトッドを見ちゃうんだよな。トッドは本当にトラブルメーカーだったよな、今考えると」
*****
金曜日。ケビン歓迎会か。
なんか2課女性陣がえらいオシャレをしてきてるなあ。そう思ったのは俺だけじゃなかった。
「なんだ、今日はみんなめかし込んじゃって。どうしたんだ?」中村課長だ。
「今日、ケビンの歓迎会です」
「あ、あのイケメン? 日本に来たのか?」
「はい、駅前の大門英会話の先生になりましたよ」
「そうか、いいねぇ、イケメンは」そう言って、課長室に入っていった。
2課の騒ぎを聞いて安西が部屋に来た。
「ああ、今日ケビン歓迎会か。じゃあ今日の焼き鳥は無理だな」
「そう、智子もこっちに参加だから」
「聞いたかもしれないけど、こっちも進展したから」
「そうか、安心したよ。しかし二人とも進展早いよな」
「お前と違って優柔不断じゃないからな」
「どういう意味だよ?」
「でも結婚したのを見ると、余計結婚したくなるからな。お前たちのおかげだよ」
「良い報告、待ってるからな」
*****
なぜか大半が定時にあがった、ケビン歓迎会のためだとしたらすごい。『ケビンは確かピザが好きだった』という俺の曖昧な記憶で決めたイタリアンレストランが、今日の会場だった。ケビンはもう店の前にいたが、服装はスーツでこそなかったが、やっぱりちょっとな……。水玉のシャツはともかくとして、紫と赤ってどうなんだろうか? 意外にユニクロの似合わない男なんだろうか? うちにいる間に俺のを貸して着せてみようか。
「Nice to see you guys again. Thank you for the welcome back party for me」
「通訳の心配ないから、適当なところで焼き鳥に混じるか?」
「そうね、様子見て抜けれそうならね」
総勢17名での歓迎会だった、つまり中村課長以外の全員だった。俺はケビンのそばに座る必要がないから、智子と抜けやすそうな席に座っていた。乾杯を済ませて、この店のお勧めであるカルパッチョが前菜だった。旨い。他も期待できそう。
「What's your ideal woman?」
早速、神崎さんが聞いてる!
「My ideal woman is…… like Tomoko」
は? 全員が智子を見た。
「She is my wife」
「I know, Don't worry, I won't steal her from you」
俺は智子を見た。本人も驚いている。何だよ、赤くなってるし。
「お前、大門英会話の先生に好かれてるんだな」
「偶然よ!」
ケビンのことは信頼してるけど、しばらくうちに居候だし、複雑……。
「ケビンってまさか人妻キラーとか?」神崎さんだった。
「いや、そんなことないと思いますけど……」そんなこと急に言われて俺だって困ってる。
「Sorry, I am confusing you guys, I like a woman like Tomoko, not herself. She is my image of a Japanese woman」
「日本女性が好みなのね」大牟田さんだ。
まあ、日本人と結婚したいって言ってたけど、本気だったのか……
「イケメンに好かれてうれしいだろ?」
からかい半分、本気で聞いてみた。
「人は容姿じゃなくて中身よ!」
「これで中身もよかったらどうする?」
「どうもしないわよ、もう結婚してるのに」
「独身だったら?」
「……幸雄さんに振られてたら考えたかも」
「え? 絶対俺のこと、あきらめないんじゃなかったのかよ?」
「え?」
なんだよ、やっぱりお前もイケメンがいいのか……! すごいショック。早くケビンの家を探さないと。
(男の部屋に来て、何もないってことはないよな……)
「何してるのよ? 片づけて」
「ああ、ごめん」
安西は片付けに集中できないまま、とりあえず段ボール箱を開けた。
「半年も使わずに済んだなら、いらないんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、中身は確認しないと」
「キッチン用品?」
「ああ、前、彼女と同棲してたから、その時のか。料理しないからな」
「安西君はもうその彼女に未練はないの?」
「ないよ。あったら今日、誘ってないよ」
「……そうよね」
「透に未練はあるのか?」
「あるわけないでしょ? 素敵だと思って、誘って1回デートしただけなのに」
「でも小川にはあるんだろう?」
「……あるわよ」
「やっぱりな」
「先週、智子宅に泊めてもらったとき、理想の夫婦姿を見せつけられて、悲しくなちゃったの。未練はあるけど、このままじゃいけないと思って」
「結婚したいなら、あきらめないとな」
「そう、前を向いて生きて行こうと思ってるの」
「じゃあ、もう焼き鳥もフィットネスもやめる方が良いかもな」
「どうして?」
「だって、小川を視界に入れない方が良いだろう? 青木とは部署が同じだからしょうがないけど」
「やめたくないな、特に焼き鳥は。いつか2人に子供ができたら、子連れで参加してくれたら良いと思わない? 智子が会社辞めようが育休だろうが、近いから参加できるし、歩くようになってあの座敷でよちよち歩いてるのってかわいくない?」
「子供好きなんだ」
「うん、ほんとは幼稚園の先生になりたかったけど、ピアノ弾けないからあきらめたの」
「別にそれは、俺たちの子供でも良いんじゃないか?」
エリカが安西を見つめた。安西は恥ずかしかったが、視線を逸らさなかった。
「こんなバカな女でも良いの?」
「バカな女? どうして?」
「だって、未だに小川君に未練があるなんてバカじゃない」
「まあ、それは一度惚れたら情が深いってことだろう」
「……物は言いようね」
「そう、物は言いようだよ」
安西はエリカにキスをしようとして近づいた。
「片付けが先」
「片付いたら良いのか?」
「良いわよ」
エリカは立って部屋を見渡した。
「何なら引っ越してきても良いし。ただし、そこそこちゃんと清潔に保てるならね」
「ほんと!?」
「でもさ、この台所何よ? 流しとか汚いしさ。ここまで汚れる前にちゃんと掃除しないと」
「尻にひかれそうだな」
安西が笑った。エリカの好きな『真面目な顔から笑った目』だった。
「ひかれないようにすれば良いんじゃない?」
「そうだけど、とにかく片付けるよ!」
*****
ケビンの採用が決定になった。もうケビンの喜びようはすごかった!
「I've already booked the flight!」
「OK, I'll pick you up at the airport」
「Thanks!」
「ついにケビン来日ね」
「そう、2課の女性陣が喜ぶ反面、なんかもめそう……」
「いつ成田着なの?」
「来週水曜だってさ。迎えに行くから、半休取るよ」
「家が決まるまでうちに泊まるんでしょ?」
「ああ、だからその前にいっぱいいちゃいちゃしとかないとな」
「え?」
「たぶんケビンが俺の書斎で寝るからな。ちょっとやりにくいというか」
「そうね……」
海外出張中もおあずけだったし、先週土曜は山本が来たしで、ちょっと欲求不満のところに来週からケビンだもんな。日本でまた再会できるのはもちろんうれしいけど、もう少し2人だけの時間が取れたらなあ、と思う。普段でも家に母さんもいるしな。
*****
「ありがとう、おかげできれいになったよ」
安西はキスを期待しながら言った。
「どういたしまして。来週確認するから、ちゃんときれいにしておいてね」
そう言ってエリカが立ち上がった。安西の残念そうな顔を見ながら、
「買い物行かないと。冷蔵庫何もなかったものね」
「あ、メシ……」
「そう、夕食の買い物に行かないと」
「あ、そうだな」
すっかりエリカのペースだったが、2人は食材の買い物に出かけた。
「この辺り、便利ね。西友もあるし、商店街もあるし」
「そうだな、帰りに寄れる方が楽だと思って。自炊しないけど」
沈黙になった。安西は話題を探していた。
「社内恋愛でも良いのか?」
「智子に言われたの。『社内だって気にしてる間はその程度の感情』だって」
「なるほど……」
「それに智子は『社内だからこそチャンス』だって。確かにそうよね」
「まあな、部こそ違うけど、同じ建物に一緒にいる時間は長いしな」
「何食べたい?」
「あ、なんでも……」
「じゃあ、カレイの煮つけとかにする?」
「良いね!」
*****
「味付け、薄いかも」
「その方が健康に良いよ」
安西は久しぶりに、こんなちゃんとした夕飯を食べる気がしていた。
「いただきます! うん、旨い!」
「ほんと?」
「ほんとだよ! 感動!」
「良かったわ、口に合って」
「もちろんだよ! 美味しいよ、幸せ……!」
そう聞いたエリカも幸せだった。
「いつでも作ってあげるわよ」
「ほんと!?」
「だからあんまり汚くしないでね。ごきぶり大嫌いなの」
「好きな人いないだろう」
「それに怖いんだもん」
「いつ引っ越してくる?」
「まだわからないな……。もう少しこの関係を続けて、やっていけそうならかな」
「ああ、そうだな」安西は少し残念だった。
「安西君だって、私のこと、想像と違うかもしれないし」
「それは違うに決まってると思うけど」
「そう?」
「だから面白いんだよ。新たな発見というかさ」
「そうね……」
「今日、泊っていく?」
「ううん、泊まらない」
「残念」
「そのうちね」
「わかった、そのうちな……」
*****
月曜日。ケビンの採用決定を昼休みに言うと、
「私も迎えに行きたいけど……」神崎さんだった。
「え? 神崎さんが行くなら私も半休取ります」
智子!? 迎えに行くだけなのに?
「いや、俺1人で行きますので、皆さん、仕事しててください」
ケビン来日決まってから、女性陣6人と俺という弁当タイムで、そこにたまに小野さんや小林さんが入るが基本女性陣に1人混じってる俺だった。
「ケビン人気、すごいな」
小野さんも小林さんもある意味感心していた。
「一応服装は確認するつもりです。まさかずっとあんな格好はしてないと思うんですけど……」
俺の結婚式で来日した際はずっとモッズファッションで、一緒に遊んでるときは結構写真を撮られてた。Twitterなりに載ったかもしれないが、とにかく目立っていた。
「俺、ユニクロ好きなんで、ユニクロに連れて行きます」
「良いじゃない、あのファッションセンス! 似合う人そんなにいないんだから、良いと思うけど?」堀川さんだった。
「そうですけど……」
「大門さんはそんなに細かい人じゃないから、大丈夫じゃない?」
「まあそうだけど……」
目立つのが嫌いな俺だから過剰反応してるのか? それともケビンは目立ちたいのか、トッドみたいに。本人に聞くしかないな。
「それでケビン歓迎会、今週金曜とか?」大牟田さんだった。
「ああ、そうですね……」また焼き鳥欠席か、しょうがないな。
「お店、予約しとくわね!」神崎さん、張り切ってる……
「俺たちも入れといて」小野さん、小林さんも行くらしい。
「奥様もどう?」神崎さんが気を利かして聞いてくれた。
「はい、行きます!」
「一応多めに予約しとくわね。2課の他の連中も行きたいかもしれないしね」
「そんなに俺の結婚式2次会の後、仲良くなったんですか?」
「そうね、もっとなりたかったけど、あの女の子と盛り上がっちゃったし……」
神崎さんが残念そうに言った。確かにそうだったな。
「ケビンって小川君と同じ年よね?」大牟田さんだ。
「はい、誕生日……確か4月だったな」
「じゃあバレンタインもあるし、誕生日もってことね!」
「……そうですね」
まあ勝手にやってもらうか。ケビンから相談を受けない限りは大人なんだし、好きにしてもらって良いしな。
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水曜日。18時過ぎ着の便でケビンが来る。午後半休で迎えに行く予定だった。
「いよいよね!」神崎さんが一番興奮してるかも。
「そうですね、金曜のこと、言っておきますよ」
「家はどうするの?」
「決まるまではうちにいますよ」
「いいなあ! この辺に住んでるのよね?」
「あ、はい……」
なんか俺の周りも騒がしくなりそう……。
「週末は家探しですよ」
「どの辺探してるの?」
「今日確認しますけど、前は俺の近所って言ってました。でもこの辺高いですからね……」
「そうよね、うちの近所は穴場で安いけど?」
神崎さん、そんなに積極的なんだ!?
「金曜に本人に言ってください」
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ケビンの乗った飛行機は定刻到着。2月の頭のヨーロッパ便はすいてたようで、すぐに出てきたが、すごい荷物!
「Welcome back!」
「Yeah, thanks」
明らかに顔が疲れてた。飛行時間長いもんな。とりあえずうちに向かった。
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うちに着いて、俺の書斎を使うように言った。俺のパソコンはケビンが来る前に寝室に移しておいた。気になる服装は、さすがにモッズファッションスーツではなかったが、サイケ柄のシャツか。まあ良いけど。
智子が英会話習ってて良かった。母さんも一応英語できるし、ケビンもリラックスできそうだった。
「Do you remember my colleagues? They’ve planned the welcome back party for you for this Friday」
「Really?  Thanks!」
そう言ってケビンが俺の書斎に消えた。多分寝るんだろうな。駅からうちへ帰るときに大門英会話の場所は教えておいたから、明日勝手に行くだろう。
「ついにケビンが来たわね」
「そうだな。もめなきゃいいけど」
「もめないでしょ?」
「そうだと思うけど、ついトッドを見ちゃうんだよな。トッドは本当にトラブルメーカーだったよな、今考えると」
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金曜日。ケビン歓迎会か。
なんか2課女性陣がえらいオシャレをしてきてるなあ。そう思ったのは俺だけじゃなかった。
「なんだ、今日はみんなめかし込んじゃって。どうしたんだ?」中村課長だ。
「今日、ケビンの歓迎会です」
「あ、あのイケメン? 日本に来たのか?」
「はい、駅前の大門英会話の先生になりましたよ」
「そうか、いいねぇ、イケメンは」そう言って、課長室に入っていった。
2課の騒ぎを聞いて安西が部屋に来た。
「ああ、今日ケビン歓迎会か。じゃあ今日の焼き鳥は無理だな」
「そう、智子もこっちに参加だから」
「聞いたかもしれないけど、こっちも進展したから」
「そうか、安心したよ。しかし二人とも進展早いよな」
「お前と違って優柔不断じゃないからな」
「どういう意味だよ?」
「でも結婚したのを見ると、余計結婚したくなるからな。お前たちのおかげだよ」
「良い報告、待ってるからな」
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なぜか大半が定時にあがった、ケビン歓迎会のためだとしたらすごい。『ケビンは確かピザが好きだった』という俺の曖昧な記憶で決めたイタリアンレストランが、今日の会場だった。ケビンはもう店の前にいたが、服装はスーツでこそなかったが、やっぱりちょっとな……。水玉のシャツはともかくとして、紫と赤ってどうなんだろうか? 意外にユニクロの似合わない男なんだろうか? うちにいる間に俺のを貸して着せてみようか。
「Nice to see you guys again. Thank you for the welcome back party for me」
「通訳の心配ないから、適当なところで焼き鳥に混じるか?」
「そうね、様子見て抜けれそうならね」
総勢17名での歓迎会だった、つまり中村課長以外の全員だった。俺はケビンのそばに座る必要がないから、智子と抜けやすそうな席に座っていた。乾杯を済ませて、この店のお勧めであるカルパッチョが前菜だった。旨い。他も期待できそう。
「What's your ideal woman?」
早速、神崎さんが聞いてる!
「My ideal woman is…… like Tomoko」
は? 全員が智子を見た。
「She is my wife」
「I know, Don't worry, I won't steal her from you」
俺は智子を見た。本人も驚いている。何だよ、赤くなってるし。
「お前、大門英会話の先生に好かれてるんだな」
「偶然よ!」
ケビンのことは信頼してるけど、しばらくうちに居候だし、複雑……。
「ケビンってまさか人妻キラーとか?」神崎さんだった。
「いや、そんなことないと思いますけど……」そんなこと急に言われて俺だって困ってる。
「Sorry, I am confusing you guys, I like a woman like Tomoko, not herself. She is my image of a Japanese woman」
「日本女性が好みなのね」大牟田さんだ。
まあ、日本人と結婚したいって言ってたけど、本気だったのか……
「イケメンに好かれてうれしいだろ?」
からかい半分、本気で聞いてみた。
「人は容姿じゃなくて中身よ!」
「これで中身もよかったらどうする?」
「どうもしないわよ、もう結婚してるのに」
「独身だったら?」
「……幸雄さんに振られてたら考えたかも」
「え? 絶対俺のこと、あきらめないんじゃなかったのかよ?」
「え?」
なんだよ、やっぱりお前もイケメンがいいのか……! すごいショック。早くケビンの家を探さないと。
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