パラサイトマン

ノベルバユーザー549222

くそ兄貴め!

 月曜日。広瀬はご機嫌だった。ムードのあるバーでめぐみと過ごし、上手く次につなげたからだ。小川から聞いた『女心に寄り添え』というトッドのポイントは大いに役に立った。今まで自分が呼びたいようにめぐみを呼んでいたし、自分基準に考えると子供っぽく見えるなら、めぐみに合わせれば良いという発想が今までなかったからだ。来週をどうしようか考えると楽しい。今週小川が帰国するから、報告するのを楽しみにしていた。

***** 

「デート、どうだったの?」エリカがめぐみに聞いた。

「トッド効絶大だったわ」

「え? じゃあ寝たの?」

「違うって! そうじゃないけど、大人の男の雰囲気を醸し出してたの!」

「そうなの!?」智子も驚いた。

「『やればできるじゃない!』って感じね」

「じゃあ付き合うの?」エリカが聞いた。

「ずっとこういう感じだったらね」

 智子は幸雄に今すぐ報告したかったが、あの疲れた顔を見るとためらった。帰国してからにするつもりだった。

「結局、安西君とは会わなかったのね?」めぐみが聞いた。

「うん、連絡もなかったの」

「そうなの?」

「でも透さんとは連絡取れて、今週末デートになったんだけど……」

「良かったわね!」 智子が言った。


「まあね、小川君が邪魔しなきゃ良いけど」


「しないわよ、大丈夫」


「智子が言うなら、大丈夫かな……」


***** 

 いよいよ明日帰国だ! 最後に2社目と昼食、1社目と夕食で最後の確認を兼ねた懇親会だった。今度は高そうな和食レストラン! 俺はうれしいが、良いんだろうか?

 芹沢部長も最後に担当の確か、ジョンソンさんだったけ? 大勢会ったからあとで名刺をみないとわからないが、結局ずっと仕事の話をしてる。一番契約したいところだから、力が入るのはわかるが……、今度来た際の話までしてる。俺も同行か。

「大役だったな、お疲れ様」

 ホテルへ帰る車の中だった。

「部長こそ、お疲れ様でした」

「契約が本決まりになれば後は法務の仕事で、その後またこっちに戻ってくるから、頼んだぞ」

「わかりました」

***** 

 帰りの機内、機内食で起こされるまで爆睡だった。

「そんなに機内で寝たら、時差ボケ治らないぞ」

「そうかもしれませんけど、無事に終わったらドッと疲れが……」

「まあ、そうだろうな」

 あと3時間で成田だ。早く智子に会いたい。

***** 

 着いた! 日本だ!

 スーツケースをピックアップして、出口へ。

「おかえりなさい」智子がすぐ俺を見つけてくれた。

「ただいま」

「いいねぇ、新婚は」

 俺の顔はにやけてたに違いないが、そんなことかまうか!

「初めまして。資材部事務の小川智子です」智子が挨拶した。

「芹沢です。旦那さんを2週間お借りしました」

 部長は俺の方を向いて言った。

「明日は1日代休として休んでいいぞ。中村にはもう言っておいたから」

「ありがとうございます!」

「俺はここからこっちだから。じゃあ、会社で」

「はい、お疲れ様でした」

 成田で部長と別れた。

「確かに鋭そうな感じね」

「そう、もうすごく疲れたな」グリーンカードのことは明日でいいや。

「あのね、ブライアンからラインがあって……」

 ブライアン? 疲れていてもこの名前に俺は反応する。

「飲みに行ったのか!?」

 なんで俺がいないことを知ってたんだろ?

「まさか、ケビンが大門英会話の面接受けたって。ケビンから聞いてない?」

「あ、いや、まだ……」

 また露骨に嫉妬してしまった!

「そ、それで、採用されそうって?」

「さあ、そこまでは書いてなかったけど、大門さんは気に入ったみたいよ。『女性の生徒を集められる』って」

「まさかケビン、大門英会話の専属タレントも兼ねるとか?」

「さあね、でもケビンならできるでしょ?」

「でもなんでそれをお前にラインするんだよ? 普通は俺だろ」

「ケビンから聞くと思ったんじゃない?」

 いまいち気に入らない。ケビンがお世話になってるとはいえ……

「ケビンからは連絡ないな」

「出張中って知ってるからじゃない?」

「ああ、フォートナイトができないって言ってあるからな」

「あと、広瀬君とめぐみも良い感じだしね」

「そうか、それは良かった。安西と山本は?」

「エリカは透さんと今週末デートだって」

 え? 安西、何やってるんだよ……

「透さんとエリカの仲、邪魔しないよね?」

「……しないよ」

「エリカが気にしてたから」

「2人がそれで良いなら、俺は何も言わないけど」

「そうよね」

***** 

 家に着いた。風呂入って久々の和食。旨い! 本当は智子のチーズハンバーグが良かったが、明日してもらう。でももうだめ。一気に気が抜けた。智子を待てず、寝てしまった。

***** 

 時差ボケもなかったようで、夜中に1度も起きなかった。朝起きると、10時過ぎだった。智子は出社していなかった。

 俺の書斎の机の引き出しを開けた。智子のグリーンカード。どうやって話そう? このままばれないようであれば、言いたくないんだけどな。もう少し様子を見ることにした。この調子では移住はなさそうだし、ほんとに記念になりそうだ。無効になってからバレても文句は言われないだろう。

「おかえり。おかげさまでめぐみちゃんと復活できそう」

 広瀬からのラインだった。

「よかったな」

 安西が気になった。兄貴とデートって知ってるんだろうか? 山本は俺が兄貴との仲を『邪魔する』と思っているようだが。安西も奥手なのか、社内だからやりづらいのか。でも俺からデートのことを安西にばらすのはな……

「土曜にまたデートだけど、焦りは禁物だよな」

「そうだな。そうそう、部屋に連れて行く前に、いびき治しとけ」

「そうだった! 忘れてた! どうやったら治るんだろうな?」

「ネットで検索してみたら?」

「治ったかどうかの確認に、たまに俺んとこに泊まりに来て欲しいんだけど」

 え? 気が進まない。

「いびきチェックアプリでもセットして寝ろよ」

「冷たいなあ!」

「それで治ってなかったら、俺が寝不足になるだろ」

 12時前か。広瀬は、整備のキリの良いところで早めに昼を取ったのか。

「あ、仕事戻るわ」

「ああ、じゃあまたな」

 どうやら、サボってたらしい。

 ライン電話が鳴った。安西からだった。

「おかえり」

「ただいま、やっと帰ってきたよ」

「やっぱり転勤か?」

「いや、とりあえずしばらくは2課のままだけど、どうにも腑に落ちないことがたくさんあったから、どっかには行くと思うな」

「そうか……」

 それが理由で電話してきたんじゃないだろ、絶対。

「山本のことなんだけど……」

 やっぱり! 安西から切り出してきた。

「思わせぶりだけして、先週末は誘わなかったんだけど……」

 それ、結局逆効果だったんだけど。

「兄貴と今週デートだって」結局俺がバラした。ライバルいる方が安西が動くかと思ったんだが。

「……俺の場合はライバルがいるからな、広瀬みたいにすぐにうまくいきそうもないな」

 やっぱり知らなかったようだな。

「実際どうなんだよ? 頑張りたいって思ってるんだろ?」

「思ってるけどさ……。どうすればいいか、わからないんだよ」

 困ったな。山本は俺の好みではないけど、人間的には良い奴だと思ってるから、兄貴が選んだとしてももちろん大賛成だ。でも安西の気持ちを考えると……。

「混浴時に『俺とデートを』って聞いても答えなかったし」

「でもそれって『ノー』っていう返事とは限らないだろ」

「でも『イエス』ならそう言うだろう?」

 まあな。智子に聞かれて俺が答えないときはまだ悩んでるときだったから、山本もそうだと良いけど……。

「お前を使って悪いけど、透とのデート、どうだったか後で教えて欲しいんだけど」

 ……スパイか、俺は。でもまあしょうがないか。

「わかった。でも智子は使わないから、俺が兄貴に聞いたことだけだからな」

「もちろん、サンキュ」

 電話が切れた。大人の方が恋愛に憶病かもな。そう考えると、智子が積極的で別の意味で俺が憶病だったが、とんとん拍子に決まった方なんだろうな。

*****

「ただいま」

 智子が定時で帰ってきた。

「おかえり」

「幸雄さんに出迎えてもらうのって変な感じね」

「まあな」

 本来なら焼き鳥だったが、俺と智子が行かないことにしたから、ないらしい。

「良く休めた?」

「さすがにな」

「今日はチーズハンバーグにするのよね?」母さんが聞いた。

「はい、着替えたら作ります」

 やった! チーズハンバーグの後は今日こそ1戦交えるし、やっぱり家が一番だな。でも正直に言うと、ここで一緒に風呂に入るとかしたかったな。部屋以外ではいちゃつけないのも、実は不満。それとも聞くだけ聞いてみるか? 狭い風呂だけど、一緒に入りたい。

***** 

 あっさり却下だった。理由はやっぱり母さんが気になるって。まあな、2階に風呂場があれば話は別だけど。しょうがないか……

***** 

 土曜日。今週は同期でのフィットネスじゃないから、俺は1人で泳ぎに行くことにしていた。出張中の食事もくどかったし、少し運動したかった。俺の水泳が終わるころに智子が合流して、軽くスカッシュの予定。軽く運動するとすっきりする。

 俺は大学の課題を、智子は母さんと買い物したりで、やっと日常生活が戻ってきた気がする。

***** 

 インターホンが鳴った。時計を見ると夜9時か。回覧か?

「はい?」智子が出た。

「……山本です……」

「エリカ? どうしたの?」

 え? 山本? 

「今日は確か、透さんとデートだと思ってたんだけど」

 そう言いながら、智子が玄関を開けた。

 山本が泣いている! まさか兄貴が……?

「どうしたんだよ?」

「とにかくあがって」

 和室へ通した。母さんはまだ布団をひいていなかった。

「……ごめんなさい」

 いつも元気な山本が泣いてるなんて……!

「どうしたの?」

「……今日、透さんと映画に行って、食事して、とっても楽しかったんだけど……」

 まさか、兄貴……。俺はマジでキレそうだったが、まずは話を聞かないと。

「駅で別れたら、女の人に話しかけられて……彼女だって」

「ひろみさん?」

「幸雄さん、知ってるの?」

 智子も山本も俺を見た。

「引っ越しの日に、兄貴の携帯に電話してきて俺が話したんだけど……」

 まさかヨリを戻した? だとしたら最悪のパターン。山本をもてあそびやがって!

「『ヨリを戻したから』って……。昨日も透さんのマンションに泊まったって」

「でも今日会って、透さんは何も言ってなかったんでしょ?」智子が聞いた。

「そうだけど、そのひろみさん、『昨日は透さんに何度も求められて、まだ自分は愛されてるって実感した』とかいうし……」

 なにぃ! くそ兄貴め!

「山本は今日、うちに泊まれ。智子は山本と和室で寝ろ。母さんは悪いが俺の書斎で寝てもらう」

 そう言って俺は立ち上がった。

「兄貴に会いに行ってくるから」

 智子が何か言いたそうにしてたが、無視だ。急いで着替えて、兄貴のマンションに向かった。もしまだあの女がいたら、どうしてやろうか?



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