パラサイトマン

ノベルバユーザー549222

新婚旅行と兄貴の思惑

 翌朝。念のため、青木が詰めてくれた中身を確認してトランクを閉じた。移住サポートに見せる書類は手荷物だし、とりあえず問題なし。

 飛行機は当然エコノミーだったが、こんなに小さかったっけ? 俺が大きくなったのか。8時間、狭いがしょうがない。

「あのさ、お前妊娠してるかもしれないって、言ってたけど……」

「あ、してなかった……」

「あ、そうなんだ」

 来年の今頃、赤ちゃんがいるなんて想像できないけど、ほんとにないってわかるとちょっとショック。でもまあもう少し2人でいいか。

***** 

 機内でまあまあ眠れたか。無事ホノルル空港に到着。入国時に俺は仮のグリーンカードを見せないといけないが、もちろん青木には秘密。ばれないようにしないと……

「お前のパスポート貸して」

 受け取った俺は、俺のグリーンカードを上に載せて、税関に渡してすぐにピルケースを落とした。薬の錠剤やらが床に飛び散った。

「あ、ごめん!」

「拾っとくから、税関お願い」

「わかった、ありがとう」

 税関の質問にもサクッと答え、指紋登録も済ませて、無事入国した。

「これ、薬よね? どうしたの?」

「念のためだよ。体調崩してアメリカの薬とか飲みたくないなと思って」

「ああ、そうね」

 少々見苦しい嘘だったが、まあいい。無事入国したしな。

 ホテルはロイヤルハワイアンにした。ホテルへのシャトルバスを待ってる間に、移住サポートの担当者にラインした。今日の3時にホテルで会うことになっている。

「ホテルにチェックインしてからどうする?」

「腹も減ってないしな。ワイキキビーチでも散歩するか」

 朝にハワイについたが、天気もよくて空が高い。冬の東京とえらい違いだ。

***** 

 ピンクの外観で、可愛い感じ。新婚旅行向きだと思ってここにしたが、正解だった。ビーチも近いし、オーシャンビューの部屋で、良い感じ。

「このホテルのスパ、良さそうだったから予約しといたぞ」

「え? スパ?」

「肩こりがひどいって言ってただろ」

「万年肩こりだけど、いいの? 高かったんじゃない?」

「新婚旅行なんだから、良いに決まってるだろ。俺が優しいうちに行っとけ」

 確かに高かったが、移住サポートの人と会ってる間に行ってきてもらう。

「2時半から80分だから」

「え? 80分!? その間、幸雄さんはどうするの?」

「観光案内見て、どこ行きたいか考えるよ」

「ありがとう!」

 大喜びの青木、じゃなくて智子だった。新婚旅行中に名前で呼ぶくせをつけておかないとな。

 荷物を置いてから、ワイキキビーチやアラモアナショッピングセンターを散策。年末年始は観光客が多いな。芸能人も来てるらしいが、あまり興味なし。

 智子のリクエストでパンケーキを昼に食べたが、甘かった。そうこうしているうちにもう2時前。ホテルへ戻った。

「じゃあスパに行ってくるね」

「ごゆっくり」

 出て行って5分ほどしてから、俺は書類を確認し始めた。智子のパスポート、グリーンカード用の写真、戸籍謄本など。少し早めにロビーに行くと、それらしき人がいた。

「小川さんですね、移住サポートHJの早川です」

 アロハシャツ姿の好青年、たぶん年はちょっと下くらいの人だった。

「フライトはいかがでしたか?」

「機内でも寝れたので、快適でした」

「それは良かったです。では、書類を拝見します」

 早川さんが1点1点確認している。不備がありませんように……。

「結婚証明書の代わりの戸籍ですね? あ、英訳もありますね。完璧です」

「安心しました」

 申込用紙に記入もした。智子の分を俺が代わりに申請するという委任状にも、サインした。

「では、これで本申請を行います。ハワイ島から戻られる1月3日までに出来てるかは微妙なところですが、間に合わなければFedexでお送りします」

「よろしくお願いいたします」

「本物がお手元に届いたら、できるだけ早く移住してください」

「え? 次の更新までじゃ、だめですか?」

「3年間のうち、1年以上アメリカを離れると失効する可能性がありますが、しかるべき理由があれば再入国許可証で対処できますので、おっしゃってください」

「……わかりました」

 ということは2年以内には移住しないといけないということか……甘かった。

「もし何かしらの理由ですぐに移住できない際には、すぐに教えてください。たとえば奥様が妊娠されて出産は日本でおこないたい、とかご家族が病気になられた、など。でもそれでも失効の可能性はありますし、再入国許可証は最高2年ですが、次の更新時に更新できない、または期間を短くされるなどがあるかもしれないことをご了承ください」

「わかりました」

「それではパスポート以外の書類をお預かりします。ハワイ滞在、楽しんでくださいね」

「よろしくお願いします」

 早川さんに挨拶して部屋へ戻ったが、だいぶ日本の移住サポートの話と違うな。早川さんの情報の方が正しいだろう。やっぱり本当に移住するなら、帰国したら職探しを始めないと無理そうだな。でも前回から状況は変わってないし、仕事も見つからないだろうから、あきらめることになるかもな……。それならそれでしょうがない。

「気持ちよかった……」

 智子が戻ってきた。

「どうだった?」

「もうあまりの気持ちよさに、寝落ちしちゃった」

「良かったな」確かに顔がちょっと寝起きかも。

「カップルスパもあったから、せっかくだから試してみる?」

「カップルスパ?」

「そう、同室で2人で受けれるの」

「へーー、いろいろあるんだな」

「それで、何してたの?」

「あ、俺も寝落ちしてたみたい」

「今晩は時差ボケもあって寝れないかもね」

「そうだな」と返事しつつも、2年以内に移住しなければいけないのはショックだった。

***** 

 夕食はワイキキビーチ沿いのレストランにした。夜風が気持ちいい。ハワイに移住出来たらよさそうだが、物価は高そうだった。明日はレンタカーを借りて島を見る予定。ノースショアとか、楽しみだ。

***** 

「今頃、ハワイで新婚旅行か……」

 安西以外が帰省する前に、同期4人と透はまたいつもの焼き鳥屋で集っていた。

「言うな、みじめになるから」

 広瀬の言葉に安西が言った。

「透さんと京都散策したかったです」エリカの言葉に安西は面白くなかった。

「そうだね、穴場とか教えて欲しかったけど、もう転勤だしね」

「今、ハワイは夜なのね。智子はまたとろけちゃってるのかなあ」

 時計を見てめぐみがつぶやいた。

「ほんっとにうらやましい! 私も昼も夜も満たされたい!」

 エリカの言葉に

「欲求不満? ずいぶんはっきり言うね」

 透が反応した。

「だって、小川君、夜も上手なんですって! 実の兄でもそんなこと知らないですよね」

「え? なんでそんなこと知ってるんだよ?」透は驚いた。

「そういうこと、透に言うなよ!」安西が諫めた。

「同期でそういう話までするんだ?」透は同期とはそこまでの付き合いはなかった。

「でもさ、小川がうらやましいよ。あの青木の真剣さにちょっと嫉妬したな。俺も元カノにあれだけ思われてたら、俺が結婚にまだ踏み切れないって言っても別れることにならなかったと思うな」

「そうなの!?」エリカとめぐみは興味津々だった。

 そう言って、安西はアンティークジュエリーミュージアムでの智子との会話の内容を話した。

「じゃあ智子は最悪、妊娠を武器にしてでも結婚を迫るつもりだったってこと?」エリカは目を丸くした。

「まあ、あのまま小川が結婚する気にならなかったら、そういう手もオプションに考えてたってこと。絶対あきらめないって」

「そんなに幸雄に惚れてるのか。うらやましいな」

「夜も大事ですからね。ああ、知ってたら私も猛アタックしたのになあ」めぐみは枝豆をちびちび食べていた。

 透はエリカとめぐみの発言に興味はあったが、突っ込んで聞けなかった。

「小川君はトッドに教えてもらったんですって」エリカが言った。

「トッドにって何を?」

「あーあ、バラしちゃった。小川に怒られるぞ」安西が言ったが、

「なんでよ、小川君は安西君には口止めしたけど、私にはしなかったもん」

「まさか、伊豆の仕返しか?」

「そういうわけじゃないけど……。良いわよ、怒られても。どうせ振られたんだし」エリカに全く罪悪感はなかった。

「何をトッドに教えてもらったんだよ!?」

「女を満足させる方法ですよ」

「え?」透は信じられなかった。

 エリカはすべて透に話した。

「トッドの奴、信じられない……! 幸雄は小5だったんだぞ!」

「でもその効果あって、智子の『とろけちゃう』発言ですよ! こっちはそっちの方が信じられませんよ」

「……ちょっとはトッドが役に立ったってことか」透はため息をついた。

「今度、小川にそのテクを教えてもらうんですよ、俺たち」

 広瀬の言葉に透が言った。

「俺も教えてもらいたいな」

 広瀬と安西は露骨に嫌な顔をした。

「透が参加だったら、小川は嫌がると思うな……」

「そうですよ、それに新婚旅行から帰ってきたらすぐの予定なのに、透さんの転勤まで待たないといけないのは、俺たちちょっと……」広瀬も難色を示した。

「じゃあ、引っ越し早くするから、俺も入れてよ!」

「それを理由に早く転勤なんて、できるんですか!?」エリカもめぐみも驚いた。

「もうさほど業務もないし、なんとでも言うよ。母が病気とかな」

「小川がキレそうな理由……」広瀬がつぶやいた。

「録音しとくから、後で聞けば?」安西がそう提案したが、

「質問だってあると思うから、録音は嫌だな」

 安西はため息をつきながら、

「山本のせいで、トッド秘伝伝授会、中止かも」

「ほんとだよ、俺の片思いがかかってるから、中止は絶対困るのに……」

「なんで私のせいよ!?」

「そうだろう、口止めされてたのに……」

「いや、俺は兄として聞く権利はある!」

 ***** 

 レストランから戻って、改めて風呂場を見ると……。一緒に入れそう。

「せっかくだから、一緒に風呂に入ろうぜ」

「え? 狭いでしょ?」

「狭くないよ、お前があっちにもたれて、俺がこっちに入れば、足触り放題」

「何それ!?」ちょっと智子が赤くなった。もう結婚してるのに?

「そう、俺は足フェチだったことにエスケープルームで気が付いたから」

「足フェチ?」

「そう、伊豆では足にも日焼け止めを塗ってあげたかったけど、さすがにな」

「そうだったの!?」

「そう」

 と言って俺は、智子の服を脱がせ始めた。

「今から入るの?」

「そうだよ、飯も終わったし」

***** 

「俺が幸雄を説得するから」

「余計こじれそうだな」広瀬がつぶやいた。

「でも、最悪透なしでやるから。その時は録音しとくから」

「何とか説得するから、頼む!」

「で、いつ引っ越してくるんですか?」広瀬が聞いた。

「……1月の2週目。幸雄に手伝わせて、そこで説得するから、3週目でどうだ?」

「来週末引っ越しですか?」エリカはうれしい反面、そのために3週早くするのはどうかと思った。

「引っ越し業者の方も変更できるだろう。転勤シーズンじゃないし」

「でも荷造りは?」

「大して荷物ないし、何とかする、だから1週待って」

「……まあほんとに透が引っ越してくるなら、2週目は小川も手伝いでだめだしな」

***** 

「何の映画か忘れたけど、ブラピが彼女と一緒にお風呂に入ってて、彼女の足のムダ毛を剃ってあげるシーンがあってさ。やってみたかったんだけど、あんまり生えてないな」

 俺は明るいところでマジマジと智子の足をみた。

「あんまり見ないでよ」

「でもだから眉毛も薄いのか……」

 智子は目元を手で隠した。

「男の人は良いわよね。女は化けないといけないから、いろいろ大変なのよ!」

「足は剃らなくてもいいや、触るだけで」

 やっぱり俺は足が一番そそられる。さあ、最初のラウンドだ。



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