パラサイトマン
見苦しい俺
無事2次会が終了して、入り口で来てもらったお礼を一人一人にしたが、
「いやあ、あのビデオは傑作だったね」と口々に言われた。ケビンとトーマスも大満足だったが、俺は複雑。
「2次会、お疲れ様でした」安西と山本だった。
「ありがとな、今日は。しかし、あんなスライド作ってたなんて、知らなかったよ」
「ほんとは智子にも秘密でやりたかったけどね」
「おかげで恥をさらさなくて済んだわ」
「いいよな。俺なんて、あんなビデオを流されて。たぶん2人は誰にも頼まれてないから、勝手に作ったみたいだけど。まったく驚いたよ」
「人前で怒って悪かったけど、おめでとう」兄貴だった。
「俺こそ、ごめん」
「幸せにな」兄貴はそう言って力なく笑った。本当だったら兄貴の方が先に結婚するはずだったもんな。
「じゃあ、お2人さん、ごゆっくり」同期4人と、兄貴が一緒に帰った。
ケビンとトーマスも挨拶に来た。
「Have fun, womanizer」
「Don’t call me a womanizer!」
笑いながら、営業2課の連中と消えて行った。ま、せっかく日本来たんだし、友達作って帰ってもらっていいんだけどな。
「womanizerって何?」青木が聞いてきた。
「『女たらし』って意味だよ」ああ、全く!
「おめでとう」
ブライアンだった。
「ありがとう」青木が笑顔で答えた。
「ほんとに付き合ってたんですね。疑ってごめんなさい」
「いえ、良いんです」
俺はそう答えたが、あの日に青木からの告白があって、ついに今日という日を迎えたわけか。結婚、それも年内にゴールインとはあの時は全く思わなかったな。
「でも英会話のレベルチェックのときは、まだ付き合ってなかったんでしょ?」
「ああ、そうですね」
青木を見ると、英会話のクラスメートと話してる。
「あの時もまだ付き合ってなかったんでしょ?」
今更なんで、突っ込んで聞いてくるんだよ……
「あの時って?」
俺はとっさにごまかした。
「あとからあのバーに来た日ですよ。彼氏だったらそこで怒ったはずですよね?」
「あ、同期で飲んでるって勘違いしてたので……」
やばい。
「でも僕を見て怒りませんでしたね?」
「智子を信じてるので」なんだよ、この挑戦的な態度は。
「じゃあ、たまに飲みに誘っても良いんですか?」
ふざけたことを言いやがって。
「だめです、それに俺が英語を教えるので、もう辞めさせますから」
何張り合ってるんだ、俺。結婚したのに。青木が俺のピンチに気が付いた。
「今日はありがとう、ブライアン」
「また僕のクラスを取ってくれるんでしょ?」
「俺が教えるから、もう辞めるよな」
青木がちょっと戸惑っていた。
「そうね、あそこの英会話安くないし、将来のために貯金もしないとね」
「……そうですか。お幸せに」
やっとブライアンが帰った! なんだったんだよ、いったい……
*****
ホテルの部屋は当然スイート。実は昨日も泊まってたんだが、今日はバラの花束やシャンペンのプレゼントがあった。ああ、疲れた。俺はベッドに服のまま、倒れこんだ。
「せっかくだから乾杯しない?」
そう言われて俺は栓を開けた。映画で見るほど泡が出たわけではなかった。
「乾杯」
うまいけど、アルコール度数高そう。シャンペンを一気に飲み干した青木が言った。
「結局、何度もアマンダとキスしたってことなのね?」
「なんでここで蒸し返すんだよ!?」
「でもそういうことなんでしょ?」
意外に嫉妬深い? 結婚前ならまだしも……
「数回だよ」
「無意識なんでしょうけど、結果的に女たらしなんじゃないの?」
「どういう意味だよ!?」
「だって振られたことないでしょ?」
「あるよ、お前に平手打ちされたときな」
「あれは振られたとは言わないでしょ?」
「振られたと思ったよ。超ショックだった」
「……ほんと?」
「そうだよ」そう言って俺は青木を抱き寄せた。
「ほんとにアマンダに『結婚しよう』って言ったの?」
まだ言うか!?
「言ってないよ! 嫉妬してもしょうがないだろ! 小4だぞ?」
「そうだけど、遠距離恋愛しやすくなったじゃない、Zoomやらいろいろあるし」
「そうかもしれないけど、俺は遠距離恋愛体質じゃないから」
「私も無理かな……」
「そっちこそ、なんだよ、あのブライアンの態度」
「ブライアン?」
「そうだよ、『たまに飲みに誘ってもいいですか』だって、ダメに決まってるだろ」
そう言って、俺は自分でちょっと大人気なかったかと思った。男友達も欲しいかも?
「でも行きたかったら行っても良いけど」
「もし行ったら小川君も、女性と2人で出かけたりするんでしょ?」
「いや、あんまり興味ないな。そんなに女友達いるわけじゃないし」
「私も興味ないから行かない。その時間があったらめぐみやエリカと行く」
確かに。俺もそれなら同期やトーマス、ケビンと過ごす。
「……一緒に風呂に入る?」
「……やだ」
「なんで?」
「恥ずかしいもん。お風呂場、明るいし」
「今更何言ってるんだよ、わああああ!」
突然、青木が俺を押し倒した! そして俺の服を脱がせ始めた! このシャンペン、新婚用に変なものが入ってるのか? 急に大胆になって、俺は風呂より恥ずかしい。
驚く俺をよそに、今度は青木も脱ぎ始めた! でもこういうの、結構好きかも。まだ一緒に風呂に入るのをあきらめたわけではないが、先に受けて立つか。
*****
同期4人と透は3次会ということで、ホテル近郊のバーにいた。
「お疲れ様でした」
5人は乾杯して、おつまみをつまみはじめた。
「ああ、今頃一緒に風呂に入ってるのかなあ。うらやましい」
広瀬の言葉に安西が
「やめろよ、そういう話。みじめになるから」
残りの4人もうなずいていた。
「しかし気がつくべきだったな。あのあと幸雄はアマンダの家に遊びに行ってたし、アマンダも来てたんだから、親は育て方に文句言ってたわけじゃなかったんだ」
「ということは、最初の彼女ってことかよ?」広瀬が驚きながら聞いた。
「そういうことだったんだろうね。全く気が付いてなかった」
「ファーストキスが小4で、彼女がいたなんてませてるわね……」山本が言った。
「ところでさ、幸雄はタバコ吸ってないよね?」
「見たことないけど、昔吸ってたのか? スポーツ好きだし、吸わないと思ってたけど」安西が答えたが、驚きを隠せなかった。
「ケビンのお兄さんが10歳くらい上でね。結構ワルだったんだけど、感化されてて、タバコも覚えちゃってね」
「え? 小学生で?」前川が聞いた。
「そう、当時はイギリスでは16歳以上だとタバコが吸えたからね。ケビン宅に行くたびになんかタバコ臭いから、父さんが問い詰めたらあっさり白状したよ。そういうところは子供だったから、悪びれた様子もなかったな」
「そうなんだ!?」安西も驚いた。
「そう、『最初は咳が出たけど、シーシャから始めたらすぐ吸えるようになった。りんご味でおいしかった』だって。全く……」
「シーシャ?」広瀬が聞いた。
「水タバコだよ。よく中近東の人が吸ってる……」
「ああ、あれね。映画以外でみたことないな」
「日本だとそうだろうけど、ケビンのお兄さんはシーシャもやってたんだろうね」
透はため息をついた後に、ビールを一口飲んだ。
「確か、トッドって言ったと思うけど、高校も中退してバンドが何かやってたようでね。ケビンの家に行くなと言われても言うこと聞かなかったよ。まあ不良にあこがれるのって誰でもある程度はあると思うけど、ちょっと早すぎたというか」
「ケビン、イケメンだし、きっとお兄さんもカッコよかったんでしょうね」
前川の言葉に、
「そうなんだよ。かっこいいもんだから、すごいあこがれちゃって。あのままイギリスにいたらドラッグもやってただろうね」
「え? それはまずいでしょ?」山本が言った。
「そうだけど、日本より甘いからね。もう父さんも母さんもアマンダの件の前から、幸雄のことはずっと心配してたんだよ。本人は何も知らないけどね。ケビンの親にも言ったし、学校にも言ったけど進展がなくてね。後任が見つからなくて帰国もできない最中に、父さんがガンと診断されたときは、父さんが命を懸けて幸雄を守ったかと思ったよ」
「そうだったんだ」安西は、だから透が父親のことを大事にしつつ、幸雄のことも気にかけているんだと思った。
「だから『夏休みに渡英して、どっちかの家に泊まりたい』って毎年言ってたけど、母さんは絶対許さなかったもんな。たぶん父さんの遺言だったと思う」
「だから帰国後一度も、イギリスに行ってないのね」前川が2杯目のビールを注文した。
「就職してから行く分には20歳過ぎてるし、勝手にすればいいけど、今度はスケジュールが合わなくてだめだったみたいでね。だから、今回2人が来日したのはびっくりだったね」
「確かにクソガキだな」安西の言葉に
「そう、ケビンが悪ガキ、正確に言うとワルの弟、幸雄はクソガキ、トーマスは……まあ、普通のガキって感じかな」
*****
一戦交えたあと、寝てしまったらしい。シャンパン1杯とはいえ、俺にはきつかった。11時過ぎか。隣で青木も寝ていた。たぶん俺よりたくさん飲んでたはず。
一人でも良いから、広い風呂に入ることにした。明日から家の風呂だし、ハネムーンはスイートのわけないから、普通の風呂だろうしな。
風呂は日本式に限る。ぬるめの風呂に長湯が好きだから、温泉はちょっと熱すぎであまり行かないけど、北海道は温泉多いし、帰省したら行くことになるんだろうな。俺の左手にある結婚指輪。初めての指輪だから違和感ありありだけど、嫌いじゃない。
浴室のドアが開いた。え? タオルは巻いてるけど、青木が立っていた。
「湯船に入るから、向こう見てて」
いざ、入って来られると俺もめっちゃ恥ずかしい。言われたとおりに壁を見た。
「もういいわよ」俺が振り向くと、湯船に一緒に浸かってた。
「……どうしたんだよ、急に大胆になってさ……」
「わかんない。よく覚えてないのよね」どうやらいつもの青木みたいだが……
「酔ってたってことか?」
「そうね、シャンパンなんてほとんど飲んだことなかったしね」
「あのシャンパンに何か入ってたかも?」
「媚薬とか? まさか」
あの銘柄、控えて帰ろう。何かの際に使えるかもしれない。
「もう酔ってないのに、なんで一緒に風呂に入ってくれてるんだよ?」
「まあ、新婚初夜だし、記念にね……」
正確に言うと、すでに入籍済みだから新婚初夜ではないけど、バタバタと引っ越して、入籍して、家から一緒に通勤して、母さんいるしであまり実感なかったからな。
「じゃあラウンド2だな」
「そうね」青木がそばに来た。今後もたまにスイートに泊ってもいいかもしれない。
*****
「もう11時過ぎか」広瀬の言葉に、透は時計を見た。
「今日は実家に泊まってるのか?」安西が聞いた。
「うん、俺の部屋は幸雄の書斎になってたけど、ベッドもまだ置いてあるしな」
「東京引っ越しの手伝いもできるし、遠慮なく連絡くれよ」
「ありがとう。でもその前に年末年始で帰省するから、連絡するよ」
「ぜひ飲みに行きましょうよ!」山本が言った。
「そうだね。幸雄は新婚旅行でいないし、静かな正月になりそうだよ」
「いやあ、あのビデオは傑作だったね」と口々に言われた。ケビンとトーマスも大満足だったが、俺は複雑。
「2次会、お疲れ様でした」安西と山本だった。
「ありがとな、今日は。しかし、あんなスライド作ってたなんて、知らなかったよ」
「ほんとは智子にも秘密でやりたかったけどね」
「おかげで恥をさらさなくて済んだわ」
「いいよな。俺なんて、あんなビデオを流されて。たぶん2人は誰にも頼まれてないから、勝手に作ったみたいだけど。まったく驚いたよ」
「人前で怒って悪かったけど、おめでとう」兄貴だった。
「俺こそ、ごめん」
「幸せにな」兄貴はそう言って力なく笑った。本当だったら兄貴の方が先に結婚するはずだったもんな。
「じゃあ、お2人さん、ごゆっくり」同期4人と、兄貴が一緒に帰った。
ケビンとトーマスも挨拶に来た。
「Have fun, womanizer」
「Don’t call me a womanizer!」
笑いながら、営業2課の連中と消えて行った。ま、せっかく日本来たんだし、友達作って帰ってもらっていいんだけどな。
「womanizerって何?」青木が聞いてきた。
「『女たらし』って意味だよ」ああ、全く!
「おめでとう」
ブライアンだった。
「ありがとう」青木が笑顔で答えた。
「ほんとに付き合ってたんですね。疑ってごめんなさい」
「いえ、良いんです」
俺はそう答えたが、あの日に青木からの告白があって、ついに今日という日を迎えたわけか。結婚、それも年内にゴールインとはあの時は全く思わなかったな。
「でも英会話のレベルチェックのときは、まだ付き合ってなかったんでしょ?」
「ああ、そうですね」
青木を見ると、英会話のクラスメートと話してる。
「あの時もまだ付き合ってなかったんでしょ?」
今更なんで、突っ込んで聞いてくるんだよ……
「あの時って?」
俺はとっさにごまかした。
「あとからあのバーに来た日ですよ。彼氏だったらそこで怒ったはずですよね?」
「あ、同期で飲んでるって勘違いしてたので……」
やばい。
「でも僕を見て怒りませんでしたね?」
「智子を信じてるので」なんだよ、この挑戦的な態度は。
「じゃあ、たまに飲みに誘っても良いんですか?」
ふざけたことを言いやがって。
「だめです、それに俺が英語を教えるので、もう辞めさせますから」
何張り合ってるんだ、俺。結婚したのに。青木が俺のピンチに気が付いた。
「今日はありがとう、ブライアン」
「また僕のクラスを取ってくれるんでしょ?」
「俺が教えるから、もう辞めるよな」
青木がちょっと戸惑っていた。
「そうね、あそこの英会話安くないし、将来のために貯金もしないとね」
「……そうですか。お幸せに」
やっとブライアンが帰った! なんだったんだよ、いったい……
*****
ホテルの部屋は当然スイート。実は昨日も泊まってたんだが、今日はバラの花束やシャンペンのプレゼントがあった。ああ、疲れた。俺はベッドに服のまま、倒れこんだ。
「せっかくだから乾杯しない?」
そう言われて俺は栓を開けた。映画で見るほど泡が出たわけではなかった。
「乾杯」
うまいけど、アルコール度数高そう。シャンペンを一気に飲み干した青木が言った。
「結局、何度もアマンダとキスしたってことなのね?」
「なんでここで蒸し返すんだよ!?」
「でもそういうことなんでしょ?」
意外に嫉妬深い? 結婚前ならまだしも……
「数回だよ」
「無意識なんでしょうけど、結果的に女たらしなんじゃないの?」
「どういう意味だよ!?」
「だって振られたことないでしょ?」
「あるよ、お前に平手打ちされたときな」
「あれは振られたとは言わないでしょ?」
「振られたと思ったよ。超ショックだった」
「……ほんと?」
「そうだよ」そう言って俺は青木を抱き寄せた。
「ほんとにアマンダに『結婚しよう』って言ったの?」
まだ言うか!?
「言ってないよ! 嫉妬してもしょうがないだろ! 小4だぞ?」
「そうだけど、遠距離恋愛しやすくなったじゃない、Zoomやらいろいろあるし」
「そうかもしれないけど、俺は遠距離恋愛体質じゃないから」
「私も無理かな……」
「そっちこそ、なんだよ、あのブライアンの態度」
「ブライアン?」
「そうだよ、『たまに飲みに誘ってもいいですか』だって、ダメに決まってるだろ」
そう言って、俺は自分でちょっと大人気なかったかと思った。男友達も欲しいかも?
「でも行きたかったら行っても良いけど」
「もし行ったら小川君も、女性と2人で出かけたりするんでしょ?」
「いや、あんまり興味ないな。そんなに女友達いるわけじゃないし」
「私も興味ないから行かない。その時間があったらめぐみやエリカと行く」
確かに。俺もそれなら同期やトーマス、ケビンと過ごす。
「……一緒に風呂に入る?」
「……やだ」
「なんで?」
「恥ずかしいもん。お風呂場、明るいし」
「今更何言ってるんだよ、わああああ!」
突然、青木が俺を押し倒した! そして俺の服を脱がせ始めた! このシャンペン、新婚用に変なものが入ってるのか? 急に大胆になって、俺は風呂より恥ずかしい。
驚く俺をよそに、今度は青木も脱ぎ始めた! でもこういうの、結構好きかも。まだ一緒に風呂に入るのをあきらめたわけではないが、先に受けて立つか。
*****
同期4人と透は3次会ということで、ホテル近郊のバーにいた。
「お疲れ様でした」
5人は乾杯して、おつまみをつまみはじめた。
「ああ、今頃一緒に風呂に入ってるのかなあ。うらやましい」
広瀬の言葉に安西が
「やめろよ、そういう話。みじめになるから」
残りの4人もうなずいていた。
「しかし気がつくべきだったな。あのあと幸雄はアマンダの家に遊びに行ってたし、アマンダも来てたんだから、親は育て方に文句言ってたわけじゃなかったんだ」
「ということは、最初の彼女ってことかよ?」広瀬が驚きながら聞いた。
「そういうことだったんだろうね。全く気が付いてなかった」
「ファーストキスが小4で、彼女がいたなんてませてるわね……」山本が言った。
「ところでさ、幸雄はタバコ吸ってないよね?」
「見たことないけど、昔吸ってたのか? スポーツ好きだし、吸わないと思ってたけど」安西が答えたが、驚きを隠せなかった。
「ケビンのお兄さんが10歳くらい上でね。結構ワルだったんだけど、感化されてて、タバコも覚えちゃってね」
「え? 小学生で?」前川が聞いた。
「そう、当時はイギリスでは16歳以上だとタバコが吸えたからね。ケビン宅に行くたびになんかタバコ臭いから、父さんが問い詰めたらあっさり白状したよ。そういうところは子供だったから、悪びれた様子もなかったな」
「そうなんだ!?」安西も驚いた。
「そう、『最初は咳が出たけど、シーシャから始めたらすぐ吸えるようになった。りんご味でおいしかった』だって。全く……」
「シーシャ?」広瀬が聞いた。
「水タバコだよ。よく中近東の人が吸ってる……」
「ああ、あれね。映画以外でみたことないな」
「日本だとそうだろうけど、ケビンのお兄さんはシーシャもやってたんだろうね」
透はため息をついた後に、ビールを一口飲んだ。
「確か、トッドって言ったと思うけど、高校も中退してバンドが何かやってたようでね。ケビンの家に行くなと言われても言うこと聞かなかったよ。まあ不良にあこがれるのって誰でもある程度はあると思うけど、ちょっと早すぎたというか」
「ケビン、イケメンだし、きっとお兄さんもカッコよかったんでしょうね」
前川の言葉に、
「そうなんだよ。かっこいいもんだから、すごいあこがれちゃって。あのままイギリスにいたらドラッグもやってただろうね」
「え? それはまずいでしょ?」山本が言った。
「そうだけど、日本より甘いからね。もう父さんも母さんもアマンダの件の前から、幸雄のことはずっと心配してたんだよ。本人は何も知らないけどね。ケビンの親にも言ったし、学校にも言ったけど進展がなくてね。後任が見つからなくて帰国もできない最中に、父さんがガンと診断されたときは、父さんが命を懸けて幸雄を守ったかと思ったよ」
「そうだったんだ」安西は、だから透が父親のことを大事にしつつ、幸雄のことも気にかけているんだと思った。
「だから『夏休みに渡英して、どっちかの家に泊まりたい』って毎年言ってたけど、母さんは絶対許さなかったもんな。たぶん父さんの遺言だったと思う」
「だから帰国後一度も、イギリスに行ってないのね」前川が2杯目のビールを注文した。
「就職してから行く分には20歳過ぎてるし、勝手にすればいいけど、今度はスケジュールが合わなくてだめだったみたいでね。だから、今回2人が来日したのはびっくりだったね」
「確かにクソガキだな」安西の言葉に
「そう、ケビンが悪ガキ、正確に言うとワルの弟、幸雄はクソガキ、トーマスは……まあ、普通のガキって感じかな」
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一戦交えたあと、寝てしまったらしい。シャンパン1杯とはいえ、俺にはきつかった。11時過ぎか。隣で青木も寝ていた。たぶん俺よりたくさん飲んでたはず。
一人でも良いから、広い風呂に入ることにした。明日から家の風呂だし、ハネムーンはスイートのわけないから、普通の風呂だろうしな。
風呂は日本式に限る。ぬるめの風呂に長湯が好きだから、温泉はちょっと熱すぎであまり行かないけど、北海道は温泉多いし、帰省したら行くことになるんだろうな。俺の左手にある結婚指輪。初めての指輪だから違和感ありありだけど、嫌いじゃない。
浴室のドアが開いた。え? タオルは巻いてるけど、青木が立っていた。
「湯船に入るから、向こう見てて」
いざ、入って来られると俺もめっちゃ恥ずかしい。言われたとおりに壁を見た。
「もういいわよ」俺が振り向くと、湯船に一緒に浸かってた。
「……どうしたんだよ、急に大胆になってさ……」
「わかんない。よく覚えてないのよね」どうやらいつもの青木みたいだが……
「酔ってたってことか?」
「そうね、シャンパンなんてほとんど飲んだことなかったしね」
「あのシャンパンに何か入ってたかも?」
「媚薬とか? まさか」
あの銘柄、控えて帰ろう。何かの際に使えるかもしれない。
「もう酔ってないのに、なんで一緒に風呂に入ってくれてるんだよ?」
「まあ、新婚初夜だし、記念にね……」
正確に言うと、すでに入籍済みだから新婚初夜ではないけど、バタバタと引っ越して、入籍して、家から一緒に通勤して、母さんいるしであまり実感なかったからな。
「じゃあラウンド2だな」
「そうね」青木がそばに来た。今後もたまにスイートに泊ってもいいかもしれない。
*****
「もう11時過ぎか」広瀬の言葉に、透は時計を見た。
「今日は実家に泊まってるのか?」安西が聞いた。
「うん、俺の部屋は幸雄の書斎になってたけど、ベッドもまだ置いてあるしな」
「東京引っ越しの手伝いもできるし、遠慮なく連絡くれよ」
「ありがとう。でもその前に年末年始で帰省するから、連絡するよ」
「ぜひ飲みに行きましょうよ!」山本が言った。
「そうだね。幸雄は新婚旅行でいないし、静かな正月になりそうだよ」
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