パラサイトマン

ノベルバユーザー549222

見苦しい俺

 無事2次会が終了して、入り口で来てもらったお礼を一人一人にしたが、

「いやあ、あのビデオは傑作だったね」と口々に言われた。ケビンとトーマスも大満足だったが、俺は複雑。

「2次会、お疲れ様でした」安西と山本だった。

「ありがとな、今日は。しかし、あんなスライド作ってたなんて、知らなかったよ」

「ほんとは智子にも秘密でやりたかったけどね」

「おかげで恥をさらさなくて済んだわ」

「いいよな。俺なんて、あんなビデオを流されて。たぶん2人は誰にも頼まれてないから、勝手に作ったみたいだけど。まったく驚いたよ」

「人前で怒って悪かったけど、おめでとう」兄貴だった。

「俺こそ、ごめん」

「幸せにな」兄貴はそう言って力なく笑った。本当だったら兄貴の方が先に結婚するはずだったもんな。

「じゃあ、お2人さん、ごゆっくり」同期4人と、兄貴が一緒に帰った。

 ケビンとトーマスも挨拶に来た。

「Have fun, womanizer」

「Don’t call me a womanizer!」

 笑いながら、営業2課の連中と消えて行った。ま、せっかく日本来たんだし、友達作って帰ってもらっていいんだけどな。

「womanizerって何?」青木が聞いてきた。

「『女たらし』って意味だよ」ああ、全く!

「おめでとう」

 ブライアンだった。

「ありがとう」青木が笑顔で答えた。

「ほんとに付き合ってたんですね。疑ってごめんなさい」

「いえ、良いんです」

 俺はそう答えたが、あの日に青木からの告白があって、ついに今日という日を迎えたわけか。結婚、それも年内にゴールインとはあの時は全く思わなかったな。

「でも英会話のレベルチェックのときは、まだ付き合ってなかったんでしょ?」

「ああ、そうですね」

 青木を見ると、英会話のクラスメートと話してる。

「あの時もまだ付き合ってなかったんでしょ?」

 今更なんで、突っ込んで聞いてくるんだよ……

「あの時って?」

 俺はとっさにごまかした。

「あとからあのバーに来た日ですよ。彼氏だったらそこで怒ったはずですよね?」

「あ、同期で飲んでるって勘違いしてたので……」

 やばい。

「でも僕を見て怒りませんでしたね?」

「智子を信じてるので」なんだよ、この挑戦的な態度は。

「じゃあ、たまに飲みに誘っても良いんですか?」

 ふざけたことを言いやがって。

「だめです、それに俺が英語を教えるので、もう辞めさせますから」

 何張り合ってるんだ、俺。結婚したのに。青木が俺のピンチに気が付いた。

「今日はありがとう、ブライアン」

「また僕のクラスを取ってくれるんでしょ?」

「俺が教えるから、もう辞めるよな」

 青木がちょっと戸惑っていた。

「そうね、あそこの英会話安くないし、将来のために貯金もしないとね」

「……そうですか。お幸せに」

 やっとブライアンが帰った! なんだったんだよ、いったい……

***** 

 ホテルの部屋は当然スイート。実は昨日も泊まってたんだが、今日はバラの花束やシャンペンのプレゼントがあった。ああ、疲れた。俺はベッドに服のまま、倒れこんだ。

「せっかくだから乾杯しない?」

 そう言われて俺は栓を開けた。映画で見るほど泡が出たわけではなかった。

「乾杯」

 うまいけど、アルコール度数高そう。シャンペンを一気に飲み干した青木が言った。

「結局、何度もアマンダとキスしたってことなのね?」

「なんでここで蒸し返すんだよ!?」

「でもそういうことなんでしょ?」

 意外に嫉妬深い? 結婚前ならまだしも……

「数回だよ」

「無意識なんでしょうけど、結果的に女たらしなんじゃないの?」

「どういう意味だよ!?」

「だって振られたことないでしょ?」

「あるよ、お前に平手打ちされたときな」

「あれは振られたとは言わないでしょ?」

「振られたと思ったよ。超ショックだった」

「……ほんと?」

「そうだよ」そう言って俺は青木を抱き寄せた。

「ほんとにアマンダに『結婚しよう』って言ったの?」

 まだ言うか!?

「言ってないよ! 嫉妬してもしょうがないだろ! 小4だぞ?」

「そうだけど、遠距離恋愛しやすくなったじゃない、Zoomやらいろいろあるし」

「そうかもしれないけど、俺は遠距離恋愛体質じゃないから」

「私も無理かな……」

「そっちこそ、なんだよ、あのブライアンの態度」

「ブライアン?」

「そうだよ、『たまに飲みに誘ってもいいですか』だって、ダメに決まってるだろ」

 そう言って、俺は自分でちょっと大人気なかったかと思った。男友達も欲しいかも?

「でも行きたかったら行っても良いけど」

「もし行ったら小川君も、女性と2人で出かけたりするんでしょ?」

「いや、あんまり興味ないな。そんなに女友達いるわけじゃないし」

「私も興味ないから行かない。その時間があったらめぐみやエリカと行く」

 確かに。俺もそれなら同期やトーマス、ケビンと過ごす。

「……一緒に風呂に入る?」

「……やだ」

「なんで?」

「恥ずかしいもん。お風呂場、明るいし」

「今更何言ってるんだよ、わああああ!」

 突然、青木が俺を押し倒した! そして俺の服を脱がせ始めた! このシャンペン、新婚用に変なものが入ってるのか? 急に大胆になって、俺は風呂より恥ずかしい。

 驚く俺をよそに、今度は青木も脱ぎ始めた! でもこういうの、結構好きかも。まだ一緒に風呂に入るのをあきらめたわけではないが、先に受けて立つか。

***** 

 同期4人と透は3次会ということで、ホテル近郊のバーにいた。

「お疲れ様でした」

 5人は乾杯して、おつまみをつまみはじめた。

「ああ、今頃一緒に風呂に入ってるのかなあ。うらやましい」

 広瀬の言葉に安西が

「やめろよ、そういう話。みじめになるから」

 残りの4人もうなずいていた。

「しかし気がつくべきだったな。あのあと幸雄はアマンダの家に遊びに行ってたし、アマンダも来てたんだから、親は育て方に文句言ってたわけじゃなかったんだ」

「ということは、最初の彼女ってことかよ?」広瀬が驚きながら聞いた。

「そういうことだったんだろうね。全く気が付いてなかった」

「ファーストキスが小4で、彼女がいたなんてませてるわね……」山本が言った。

「ところでさ、幸雄はタバコ吸ってないよね?」

「見たことないけど、昔吸ってたのか? スポーツ好きだし、吸わないと思ってたけど」安西が答えたが、驚きを隠せなかった。

「ケビンのお兄さんが10歳くらい上でね。結構ワルだったんだけど、感化されてて、タバコも覚えちゃってね」

「え? 小学生で?」前川が聞いた。

「そう、当時はイギリスでは16歳以上だとタバコが吸えたからね。ケビン宅に行くたびになんかタバコ臭いから、父さんが問い詰めたらあっさり白状したよ。そういうところは子供だったから、悪びれた様子もなかったな」

「そうなんだ!?」安西も驚いた。

「そう、『最初は咳が出たけど、シーシャから始めたらすぐ吸えるようになった。りんご味でおいしかった』だって。全く……」

「シーシャ?」広瀬が聞いた。

「水タバコだよ。よく中近東の人が吸ってる……」

「ああ、あれね。映画以外でみたことないな」

「日本だとそうだろうけど、ケビンのお兄さんはシーシャもやってたんだろうね」

 透はため息をついた後に、ビールを一口飲んだ。

「確か、トッドって言ったと思うけど、高校も中退してバンドが何かやってたようでね。ケビンの家に行くなと言われても言うこと聞かなかったよ。まあ不良にあこがれるのって誰でもある程度はあると思うけど、ちょっと早すぎたというか」

「ケビン、イケメンだし、きっとお兄さんもカッコよかったんでしょうね」

 前川の言葉に、

「そうなんだよ。かっこいいもんだから、すごいあこがれちゃって。あのままイギリスにいたらドラッグもやってただろうね」

「え? それはまずいでしょ?」山本が言った。

「そうだけど、日本より甘いからね。もう父さんも母さんもアマンダの件の前から、幸雄のことはずっと心配してたんだよ。本人は何も知らないけどね。ケビンの親にも言ったし、学校にも言ったけど進展がなくてね。後任が見つからなくて帰国もできない最中に、父さんがガンと診断されたときは、父さんが命を懸けて幸雄を守ったかと思ったよ」

「そうだったんだ」安西は、だから透が父親のことを大事にしつつ、幸雄のことも気にかけているんだと思った。

「だから『夏休みに渡英して、どっちかの家に泊まりたい』って毎年言ってたけど、母さんは絶対許さなかったもんな。たぶん父さんの遺言だったと思う」

「だから帰国後一度も、イギリスに行ってないのね」前川が2杯目のビールを注文した。

「就職してから行く分には20歳過ぎてるし、勝手にすればいいけど、今度はスケジュールが合わなくてだめだったみたいでね。だから、今回2人が来日したのはびっくりだったね」

「確かにクソガキだな」安西の言葉に

「そう、ケビンが悪ガキ、正確に言うとワルの弟、幸雄はクソガキ、トーマスは……まあ、普通のガキって感じかな」

***** 

 一戦交えたあと、寝てしまったらしい。シャンパン1杯とはいえ、俺にはきつかった。11時過ぎか。隣で青木も寝ていた。たぶん俺よりたくさん飲んでたはず。

 一人でも良いから、広い風呂に入ることにした。明日から家の風呂だし、ハネムーンはスイートのわけないから、普通の風呂だろうしな。

 風呂は日本式に限る。ぬるめの風呂に長湯が好きだから、温泉はちょっと熱すぎであまり行かないけど、北海道は温泉多いし、帰省したら行くことになるんだろうな。俺の左手にある結婚指輪。初めての指輪だから違和感ありありだけど、嫌いじゃない。

 浴室のドアが開いた。え? タオルは巻いてるけど、青木が立っていた。

「湯船に入るから、向こう見てて」

 いざ、入って来られると俺もめっちゃ恥ずかしい。言われたとおりに壁を見た。

「もういいわよ」俺が振り向くと、湯船に一緒に浸かってた。

「……どうしたんだよ、急に大胆になってさ……」

「わかんない。よく覚えてないのよね」どうやらいつもの青木みたいだが……

「酔ってたってことか?」

「そうね、シャンパンなんてほとんど飲んだことなかったしね」

「あのシャンパンに何か入ってたかも?」

「媚薬とか? まさか」

 あの銘柄、控えて帰ろう。何かの際に使えるかもしれない。

「もう酔ってないのに、なんで一緒に風呂に入ってくれてるんだよ?」

「まあ、新婚初夜だし、記念にね……」

 正確に言うと、すでに入籍済みだから新婚初夜ではないけど、バタバタと引っ越して、入籍して、家から一緒に通勤して、母さんいるしであまり実感なかったからな。

「じゃあラウンド2だな」

「そうね」青木がそばに来た。今後もたまにスイートに泊ってもいいかもしれない。

***** 

「もう11時過ぎか」広瀬の言葉に、透は時計を見た。

「今日は実家に泊まってるのか?」安西が聞いた。

「うん、俺の部屋は幸雄の書斎になってたけど、ベッドもまだ置いてあるしな」

「東京引っ越しの手伝いもできるし、遠慮なく連絡くれよ」

「ありがとう。でもその前に年末年始で帰省するから、連絡するよ」

「ぜひ飲みに行きましょうよ!」山本が言った。

「そうだね。幸雄は新婚旅行でいないし、静かな正月になりそうだよ」



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