パラサイトマン

ノベルバユーザー549222

俺のファーストキスが暴露されるなんて

 ついに結婚式当日。おじいちゃんは腰が悪く出席できずだった。だから北海道で式をあげて欲しかったんだろうが、しょうがない。おじいちゃんには悪いがちょっとホッとした。

 ホテルの教会なので、式は出席は自由にしてもらえるが、披露宴は当然そんなに呼べなかった。式の後、2次会まで3時間ほど空いてしまうが、意外にもみんな来てくれた。

 チャペルに青木とお義父さんが入ってきた。ああ、緊張する。もう入籍してるとはいえ、結婚式となるとやっぱり新鮮だし、結婚するんだなあと実感できる。

 クリスチャンでもないのに、教会式で結婚というのもどうかと思うが、ウェディングドレス姿はやはり綺麗だった。結局俺がひらひらが好きということで、レースがたくさんついてるドレスで、ちょっと違うけど、一応ひらひら。俺が七五三じゃないと良いけど。

 結婚指輪の交換。整備のままだったら、外さないといけなかったが、営業職だからまじめにはめることにするか。

 最後に花嫁にキスか。ドレスの裾を踏んでしまったが、無事に3秒ほど唇にキスもできたし、無事終了。

 披露宴も顔しか知らない営業所の所長の挨拶からスタートして、中村課長、資材部の富永部長と挨拶長い。ケビンとトーマスを見ると兄貴と同じテーブルだから、いろいろ話している。日本の披露宴なんて、予備知識なんてあるわけないもんな。昨日、成田に到着で時差ぼけもあって眠そうだが、1週間日本滞在予定で、新婚旅行に行く前に一緒に遊べるから良かった。17年ぶりに日本で再会か。二人の結婚式にもぜひ出席したい。

***** 

 やっと披露宴も終わって恐怖の2次会。あきらめていじられるか……

 参加者はほとんどが会社の人だった。当たり前か。違うのは兄貴、ケビン、トーマス、青木の弟の隆君と晴彦君、青木の英会話教室のクラスメートとブライアン、そして短大時代の友人だけだった。中村課長や富永部長、鈴木主任まで来てた。ため息。

 安西と山本が司会だった。

「本日は小川幸雄くんと智子さんの結婚式2次会ということで、お集まりいただいてありがとうございました。最初に新郎新婦の経歴の簡単なスライドを、ご覧ください」

 そんなもの作ったのか? 

「隆には『変な写真を提供したら、彼女をおじいちゃんに紹介する席には幸雄さんはいないと思いなさい』と言っておいたの」

「かわいそう、隆君、姉に脅されてる」

「だって変な写真とか嫌じゃない」

「まあな。俺のは兄貴が写真提供したんだろうけど、大丈夫だろうな。だいたいこんなのを作ってるって知らなかったから、俺は何の手も打ってないよ」

「まずは新婦の智子さんから。北海道帯広生まれ、3人兄弟の長女として誕生しました。ご実家は代々農業をされています……」山本の説明とともにスライドが始まった。かわいいじゃん。今度北海道に行ったらアルバム見せてもらわないと。無難な写真ばかりで、よほど姉が怖いと見えるというか俺に期待されてるってことなのか……。

「続きまして、新郎の幸雄くん。東京都生まれ、2人兄弟の次男として誕生。3歳でお父様の仕事で渡英……」安西の説明でスライドが始まった。

 遺影以外の父さんの写真を見るのは久しぶりだ。写真の中で俺を抱っこして笑ってる父さん……。ケビンとトーマスと一緒に写った写真もあった。

「小5で帰国後、日本ですぐに生活になじめない中、翌年お父様を亡くされました。人付き合いが悪いと思っていた方もいらっしゃると思いますが、ご理解いただければと思います」

 安西……。思わず俺は下を向いてしまった。

「この後の質問タイムの質問を募集しますので、フリータイム中に山本か、わたくし安西までお願いします。では自由にご歓談ください」

 質問タイム……。やっぱりな。俺は青木を置いてケビンとトーマスのところに行った。

「Congratulaions!」

「Thanks」

 トーマスは相変わらず優しそうな顔だちで、ちょっとウィリアム王子に似てるかも? 残念ながら髪が薄いところまで似てしまってるが、そんなことは関係ない。背もウィリアム王子並みにでかい。そして、ケビン……ガキの頃からイケメンだったが、なんでこんなにかっこよくなったんだろうか? グリーンの目がきっと色っぽいんだろうな。細いが背も高いから、モッズファッションが良く似合う。ケビンの兄貴のトッドは10歳以上も離れてて、モッズの大ファンだったからその影響も受けてるんだろう。当時はケビンがうらやましかったんだよなあ。あんなかっこいい兄貴がいるなんて。音楽やらいろいろトッドからは影響を受けた。ネオモッズのジャムとかの方が俺は好きだったが、俺がジャック・ケルアックを読んだのもその延長線だった。縦じまのスリムスーツの似合う奴ってそんなにいないと思う。

 営業2課の連中がそばに来た。

「イギリス時代の友達?」小野さんが聞いた。

「そうです、ケビンとトーマスです」俺は簡単に紹介した。

「ミュージシャン?」小林さんが聞いた。

「いえ、ケビンは建築家です」

「そうなんだ。芸能人みたいだね」

 いつもこんなファッションなのかは知らないが、そうだとしたらそう思われるだろうな。

「How is Japan?」小林さんが話しかけている。

「Great! I wish I could have migrated to Japan because……」

 さすが営業2課、会話は通訳不要だった。

「さて、宴もたけなわですが、質問タイムに入りたいと思います」

 来た、いじられタイムだ。あきらめて俺は席に戻った。

「いろいろ聞かれるでしょうね」

「場が盛り上がる答えをすればいいだろ」

「まあね……」青木も憂鬱らしい。

「では、最初の質問。最初のデートはどこでしたか?」山本が聞いた。

「ディズニーシーです」青木が答えると

「やっぱりデートだったんじゃないか!」広瀬が言ってる、無視。

「智子さんの作った料理で一番のお気に入りは?」安西が聞いた。

「チーズハンバーグです」

 全部こういう調子だと助かるんだけど。

「智子さんのどこに色気を感じますか?」来たぁ、そろそろだと思ったんだよな。

「生足です。特にミニスカートから見える太ももで、あのエスケープルームでの……」

 青木が俺の口をふさいでいた!

「なんだよ!?」

「隆に根回しした意味ないでしょ! なんで小川君が恥ずかしい話をするのよ!?」

 みんなこういうのを見たがってるんだろうな。大盛況だった。

「おいおい、最後まで言わせろよ!」中村課長のヤジが飛んだ。

「言ったらだめなのかよ?」

「だめよ!」

 しょうがない、どうしようかな。

「今晩から夫婦げんかをしたくないので、詳細は伏せますけど、デートでエスケープルームはお勧めです。特にミニスカートで来てもらうと盛り上がると思います」

 これでわかる人はわかるだろう。でも青木は俺をにらんでいた。

「智子さんは幸雄くんのどこに色気を感じますか?」

「男らしくリードしてくれるところです」

 めっちゃ模範解答。

 ケビンとトーマスを見ると、兄貴の通訳で理解してるようだったが、兄貴が何か安西に耳打ちした。

「幸雄くんのイギリス時代からの親友のケビンとトーマスが、特別ビデオをお見せしたいと言っていますので、先にそれを流しますね」

 特別ビデオ? まあ変なものはないはず。でも、そのためにケビンはMacブックを持参していて、スクリーンにつないだ。

 兄貴がいちいち訳すのかと思ったら、日本語字幕がついてた! 

「Memory of childhood in England ~イギリスでの子供時代の思い出~」

「初めまして、私の名前はアマンダです。智子さん、幸雄くん、結婚おめでとうございます」

 アマンダ!? どういうことだ、え?

 俺はダッシュでケビンのMacブックで一時停止を押した。

「What is it?」

  俺の動揺する姿を見て、会場は盛り上がっている。

「なんだ、実はイギリスに彼女いて、二股だったのか?」

 ああ、酔っぱらってる人がいるから変なヤジが飛び始めた。しかし、アマンダ、美人になったな。トーマスが俺に囁いた。

「Your first love and kiss」

 嘘だろ?

「No, no, no, no, no, no, no, NO!」

 確かに初恋ではあったが、これだけはまずい、特に兄貴の前では。

「智子さんに知れたら困ることでもあるのか?」鈴木主任まで……

 ああ、もう後には引けない……。広瀬が俺を捕まえに来た。

「さ、あきらめて席に戻って。青木が待ってるし」

 席に戻ると、青木の目が怖かった。

「あの人、誰? きれいな人よね」

「同級生だよ。別に後ろめたいことなんて何もないよ」

「じゃあ何でそんなに焦ってるの?」

「理由は別にあるんだよ……」

 ビデオが始まった。ケビンとトーマスもビデオに写り、どうやらzoomで話したもののようだ。

ケビン「小4の思い出について教えてください」

アマンダ「一生忘れられない思い出よ。幸雄が私のスカートをめくって、その日に限ってアニメキャラのパンティを履いてたから、もう大ショックで……」

 会場が盛り上がった、小学生のスカートめくり。かわいいよな。でも……

トーマス「アニメキャラのパンティのせいで泣いてしまったんですね」

アマンダ「そうなの。私が泣いたもんだから幸雄がびっくりしちゃってね」

ケビン「僕たちも驚きましたよ。でもこれは好きな子のパンティが見たいということだったので、アマンダは幸雄の初恋だったわけです」

 さらに盛り上がった、ああ、恥ずかしい。

アマンダ「そう聞いてうれしかったの、私も幸雄が好きだったから。でも『キスして』って言ってもキスしてくれなかったから、もっと悲しくなって大泣きしちゃったの」

 少し静かになった。小4でキスしてって日本でもまだあまりないんだろうな。

アマンダ「『私のことが好きならキスしてよ』って何度も言ったら、やっと頬にしてくれたけど、唇じゃなきゃ嫌だったの」

トーマス「でも親を呼び出すまで、泣かなくても良かったんじゃないですか?」

アマンダ「今ならそう思うけど、当時はどうしても納得が行かなかったの。好きな子が泣いて頼んでるのに、できないっておかしいでしょ? その程度の愛情だったてこと?」

 小4の考えることか、それが?

アマンダ「結局、翌日キスしてくれたから、許してあげたし、あの後は『キスして』って言うとしてくれるようになったから良かったんだけど」

 兄貴を見た。呆然としてる……が、会場は大盛り上がり。

アマンダ「帰国前に『将来、結婚しようね』って約束したけど、やっぱり大泣きしたわ。でもお互い良い人見つけたし、ほんとにいい思い出よね」

 アマンダは笑って言った。俺にとってはいい思い出ではない。

アマンダ「結婚おめでとう、幸雄。智子さんとお幸せにね」

 ビデオが終わった。兄貴を見ると……俺をにらんでた!

「じゃあ、何か? あの日、父さんがアイルランドの出張を切り上げてまで、お詫びに呼び出されたのは、アマンダにキスしなかったからってことか?」

 兄貴がキレた……

「……うん……」

「なんで、キスしなかったんだよ!? 翌日したんだろう!? してたら呼び出されなかったんだぞ!?」

「そ、そうだけど、口にキスなんて嫌だったし……」

「あの日、アマンダの親から『どんな育て方したんだ!』とまで言われたんだぞ! スカートめくりをしてあそこまで泣かせるなんてって父さんが嘆いてたんだぞ!」

「アマンダの親は、泣いてる理由は知ってたよ」

「なにぃ!?」

 あ、火に油を注いだ?

「『娘が好きならキスしろ』ってアマンダの親にまで言われたけど、俺、小4だったんだよ!?」

「じゃあ何でそう言わなかったんだよ!?」

「……だって恥ずかしかったし、アマンダ大泣きだったし、もうどうしていいかわからなかったし……」

「後からでも言えただろう!?」

「……帰宅してからも延々と怒られて、言うタイミングも逃しちゃったし……」

「あの後、父さんも母さんもお前の教育を間違ったかと、すごい悩んでたんだぞ!? 夜中に起きたら遅くまで相談してたのを聞いたけど、真剣に悩んでたんだからな」

 あ、そうだったんだ。知らなかった……。

「……ご、ごめん……」

「明日、父さんの墓前で謝れよ! 新婚旅行のあとじゃないぞ、明日だぞ!」

「……式が無事に終わった報告に行くつもりだったから、ついでにするよ……」

「ついで?」あ、すごい怖い声のトーン……

「……いや、ちゃんとするけど、お願い、母さんに言わないで……」

「今更言えるか、バカ!」

 兄貴の怒りは収まっていなかったようだが、安西のマイクを借りて

「見苦しい兄弟げんかをお見せして、申し訳ございませんでした。こんな弟ですが、今後ともよろしくお願いいたします」

「いやあ、さすが外国、ませてるね」中村課長が感心していた。兄貴の思いをよそに、ビデオで大いに盛り上がった。ああ、全く……

「では最後の質問です、今日はお2人はこのホテル泊ですが、このあと、どうされますか?」安西からの質問だった。決まってるだろ、でも最後に盛り上げるか。

「良い1日でしたけど、少し疲れたので、ゆっくり休みたいと思います」

 またもや青木の模範解答。

「幸雄くんはどうですか?」

「せっかく風呂が広いので、一戦交える前に一緒に風呂に入りたいと思います」

 おお、盛り上がった。これで終わりだ、休みたい。

「ほんとに一緒にお風呂に入るの?」青木が聞いた。

「良いだろ、せっかくなんだし。だいたい伊豆で混浴したいって言ってただろ? 明るいところでじっくり見せてもらうからな、わかったな」

 歓声が上がった。あ、マイクのスイッチが入ったままだった。青木が真っ赤になった。



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