パラサイトマン

ノベルバユーザー549222

伊豆旅行4

 もう少しぬるいお湯の方が好きだが、大浴場も悪くないと思い始めていた。

「今日、青木と中を回って何の話をしてたんだよ?」

「気になる?」

「なるよ」

「お前の話だよ」

 え? いない席で自分の話をされるのって嫌いなんだけどな。

「どんな話だよ?」

「どれだけ青木がお前に真剣かってこと」

 やっぱり、真剣か……

「その真剣さが重いんだろ? わかるよ」安西が言った。

「そうなんだよな……」だからこそ、青木のマンションに行くのはまずいと思った。

「そっちこそ何の話をしてたんだよ?」

 当然安西も、俺と山本の会話が気になったようだ。

「アンティークジュエリーの話。あれがかわいいとか、そういうこと」でもさすがに冗談とはいえ、気に入ったリングのレプリカを買って欲しいと言われたことは言わなかった。どうやら安西には言ってないようだし。

***** 

 部屋で女性陣は温泉に行く支度をしていた。

「そうそう、アンティークジュエリーミュージアムで聞いたけど、小川君は結婚は30代でしたいんだって」

「そうなの!?」智子はショックだった。

「そう言ってたわよ。早く結婚したいなら、他を当たる方が良いと思うけど」

「じゃあ、エリカはそれが理由であきらめるのね?」

「うーん、そうね……。社内っていうのもやっぱり抵抗あるけど……あきらめたくはないなあ……」

 智子もあきらめたくなかった。

「めぐみは今日、広瀬君の違う一面を見たんでしょ?」

 智子に聞かれてめぐみは認めた。

「そうね、一緒に泳いでたら痛みが走って溺れそうになったの。すぐにクラゲに刺されたって気が付いてくれて、適切に対処してくれたの」

「良かったわね」2人ともそう聞いてうれしかった。めぐみを置いて行ったことに少し罪悪感があったからだ。

「そうね、ちょっと広瀬君のことを見直したわ」

「そうよ、確かに子供っぽいところもあるけど、しっかりしてる部分もあるんだから、そういうところを見てあげないと」

 智子の言葉に、

「そうよね……」

「ところで、お風呂は入れるの?」エリカが聞いた。

「うん、くらげの毒は熱に弱いんだって。でも1回入ったからもう今日は良いから、2人で行ってきて」

「わかったわ」

***** 

「もう青木と付き合えよ。良い奥さんになれそうだし、結婚前提で良いと思うけど」安西に言われたが、

「でももし結婚したら、俺は朝霞に転勤だよ」

「あ、そうか」社内結婚はどっちかが転勤になる。間違いなく俺だろう。

「でも寿退社するかもしれないじゃん」広瀬が言った。

「そうかもしれないけど……」

 いまいちふんぎりがつかない。朝霞に転勤もしたくないし、これで青木が嫉妬深かったら、結婚しても干渉されるだろうしなあ。二人のことは信頼してるが、マンションに誘われてることとか言いたくなかった。だいたいもう3か月も2人で出かけてることを知らないわけだし。

「じゃあ、俺が狙っても良いってことなんだな?」

 え? 安西?

「いや、そういうわけでは……。それにお前、山本が良いんだろ?」

「そうだけど、俺にしてみればどっちも俺に振り向かせないといけない点では同じだから、青木の方が大人しいし、いけるかも」

「そういう問題かよ?」

「お前、うぬぼれるなよ。ずっと青木が一途にお前のことを思ってるなんて、大間違いだからな。そんなにうじうじしてるんだったら、俺が奪うからな」

 そう言って安西が風呂から上がった。あのクールな安西とは思えないセリフだった。

「そうだよ、小川。好かれてる間に決めちゃえよ」

 そう言って広瀬も上がった。

 予想外の展開に俺は驚いてしまった。安西が青木を狙う……。でも俺みたいに決められない奴より、安西の方が良いかも。給料も俺より多いし、良い奴だしな。あ、のぼせてきたかも、上がろう。

*****  

 部屋に戻ると部屋食が用意してあった。安西に言われたことが気になって、会話に参加してなかった。

「卵焼き、食べて」青木が俺の皿に置いた。

「ああ、ありがと。じゃあこれやるよ。お前、イクラ好きだろ」

 俺はイクラの小鉢を青木にあげた。

「いいの? 小川君も好きでしょ?」

「好きだけど、いいよ」

「じゃあ、どれか食べる?」

「そうだな、かまぼこ1枚もらうか」そう言って俺は1枚取って、食べた。

「もうさ、付き合ってるみたいなオーラが2人から出てるんだけど」

 という山本の言葉に

「そうだな、もう2人だけの世界ができてるよな」

 安西も広瀬も同意した。

「そ、そんなことないよ」俺は照れ隠し的に言ったが、青木の顔は見なかった。

「イクラ好きなら、私のをあげる」

 山本はそう言って、俺にくれようとしたが、

「いや、いいよ。安西の大好物だし、安西がもらえよ」

「ありがとう、俺がもらうね」

 安西が強引に受け取った。山本は面白くなさそうな顔したが、何も言わずに気を取り直してみんなに聞いた。

「夕食のあと、どうする?」

「めぐみちゃんが大丈夫なら、ゲームなり散歩なり行くか?」

「あ、私はもう大丈夫。まだひりひりはしてるけど」

「毒性の強いくらげに刺されたからな。2、3日は痛いと思う」

「良く知ってるんだな」

 田舎のない俺には、クラゲに刺された際の対処など知るわけがなかった。

「ああ、海育ちだからな。これもくらげに刺された跡。めぐみちゃんを刺したくらげより毒がきつかったからな」

 そう言って足首の跡を見せてくれた。ケロイド状? とかいう感じに火傷みたいな跡だった。

「えー、こんなふうに残るんだ!」前川が少しひいていた。

「うん、だから最初の処置はすごい大事だから、海に行くときはピンセットも持っていくことにしてるよ」

「でもそのおかげで、前川も大事に至らなくて良かったな」

 安西がそう言ったのを聞いてはいたが、俺は会話にはほとんど集中していなかった。なんでそんなに、安西に言われたことが気になるんだろうか? 別にうぬぼれてなんていないけど、確かに青木を誘ったのはお礼のフランス料理店だけだった。あのブレスレット、買っておけばよかった。あとからネットで買えればいいけど……。何を考えてるんだ、俺は? ライバル出現で焦ってる? 

「小川君、聞いてる?」

 青木に言われて、我に返った。

「あ、ごめん、聞いてなかった」

「王様ゲーム案が出てるけど……」

「王様ゲーム?」初めて聞いたな。

「そう、箸で作ったくじ引きで、〇を引いたら王様、×を引いた人は王様の下僕だから命令を聞かないとダメ、と言うゲーム」

 広瀬が説明してくれたが、なんだそれは? 

「そ、それ、危険だと思うけど……。女性陣で泣く人出るかもしれないから、ちょっと……」

 今回強気の安西が躊躇してる。そんなやばいゲームなのか?

「じゃあ、その辺は緩和案も有りにしよう。『キスして』は頬にすることと、この旅行中にできることに限ること。東京でデートとかもなし、どう?」

 広瀬の案にみんなが了承した。

「どこで覚えてきたんだよ、そんなの」

「高校の修学旅行」

 広瀬……。前川とのキスを狙ってるとみた。

「よし、もうくじはあるから」広瀬が出した。

「なんだ、やる気満々だな」

「もちろん、こんなに盛り上がるゲームないぜ」

 確かに盛り上がりそうだが……

「じゃあ、1回戦!」

 1人ずつ箸を引く……。お願い、何も当たらないで……

「やった! 私が王様だわ!」

 山本が王様、そして広瀬が×を引いた。

「じゃあ、めぐみとツーショット写真を撮って」

「何枚でも撮るよ!」でも前川もまんざらじゃなかった。広瀬が前川の肩を抱いて数枚撮った。

 2回戦。安西が王様、広瀬がまた×を引いた。

「じゃあ……前川のほっぺにキスで」

「やった!」

 なんか広瀬のためのゲームみたい。まあいいか。広瀬の提案だしな。

「意外に普通だね。もっと過激になるかと思ったけど」安西が言った。

 まだ最初だからだと思うけど。

***** 

 もう1時間以上、このゲームをやってるんだけど。もう終わりたい。

「ついに王様だ!」

 安西が喜んでる。でも×を引いたのは俺だった。

「悪いな、俺で」

「いや、いいよ。じゃあ、青木にキス」

 言うと思った。俺はルール通り、頬にキスをした。

 このゲーム、キリがないんだけど。あ、俺が王様になってしまった! ×は安西だった……。どうしよう。頬にキスでも良いけど、一気に関係を進ませてやりたいな。

「ほんとは、安西と山本で混浴だったけど……」

 安西が真っ赤になった! 山本は唖然としてる。

「さすがにそれは無理だと思うから……」

「いや、フロントに聞いてくる」

 安西!? 本気か……! 行ってしまった。

「私はいやよ!」

「だから、せっかく人が違うことを言おうとしてるのに……」

  すでにすごい盛り上がり。自分が王様引くと楽しいな、この日ゲーム。でも×をひくとやばいな。なんとか青木は王様、俺が×というパターンは避けたいところだが、山本が王様を引いた場合もまずいかもしれないな。

「安西君、エリカのこと気に入ってるよね?」

 前川の言葉に、

「そうよね、私もそう思った」

 青木も同意したが、山本は耳まで真っ赤だった。照れるとかわいいじゃん。

「でも混浴なんて……」

「だから違うのを言おうとしてるんだけど、誰も聞いてないな」

 安西が戻ってきた。

「まだ家族風呂、いけるって。予約してきたけど」

 え? 安西!? さすがに他の連中もびっくりしてる。

「……それで良いなら、そうするか? 違う案、聞きたくないみたいだし」

「聞かせて、違う案!」 山本は必死だった。

「……でもせっかく取れたなら、水着で混浴にするか」

「えーー、つまんないな」

 安西!? 

「わかったわよ。私は水着着るから、安西君は全裸でもいいわよ」

 山本!? 

「じゃあ、混浴タイムは30分ということで、ここでいったん休憩にするか」広瀬が言った。

「30分!? 長くない?」

 山本が文句を言ったが

「着替え時間も入れて、だから」

「……わかったわ」

 ほんとにしないと思ったから口にしたのに、すごい展開。まあいいか、安西は嬉しそうだし、山本もまんざらじゃないようだし。

「小川君! 覚えておきなさいよ!」

「なんだよ、水着でも良いにしてやっただろ」

 まんざらじゃなかったか。ここで安西に頑張ってもらいたいが、どうだろうな?



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