パラサイトマン

ノベルバユーザー549222

伊豆旅行1

 そうこうしてる間にもう伊豆旅行。広瀬の車で行く案もあったが、1人乗れないから電車になった。

「せっかくだからさ、男女ペアで座ることにしましょうよ」

 山本の提案だった。

「男女じゃなくても良いんだろ。単に二人ずつ座れば」

 6人って意外に中途半端な数らしい。4人だと席を向かい合わせにして一緒に座れたが、6人だと1組あぶれてしまう。

「そうしたとしても1組は男女になるでしょ」

「まあ、そうだけどさ。ガキじゃあるまいし」

「くじ引き作ってきたから」

 作ってきた? 用意周到だな。あきらめてくじを引いた。なんで山本が隣なんだよ……

「やった! 小川君のとなり!」

 俺は青木を見た。青木の隣が良かったが、しょうがない。広瀬は前川の隣で嬉しそうだったが、前川が複雑な顔をしていた。

「道中よろしくね、小川君」

「こちらこそ」

 東京―伊豆間は3時間弱か。最悪寝るか。青木は安西とだった。

 さすが海の日の連休で3組の席は離れてしまったが、青木、安西は斜め前だった。

 列車が出発した。山本のテンションは高かった。家で飲んできたのかよ。

「夏休みとかどうするの?」

「夏休み? 何も考えてないよ。でも兄貴が京都から帰ってくるよ」

「お兄さん、京都に住んでるの? どのあたり?」

 一度行ったがあんまり覚えてない。

「ちょっと待って」 

 そう言って俺は兄貴の住所を見せた。

「紫野? 北大路の方ね」

「詳しいな」

「京都出身だもん」

「そうなんだ!? 方言ないな」

「実家帰ったら出るけど」

「兄貴が京都を気に入ってね。俺も1回行ったけど……」

「どこ行ったの?」

「修学旅行で行かないところに言ったよ。高山寺とか」

「ああ、夜間拝観のきれいなところでしょ」

「夜間拝観?」

「そう、桜のシーズンは夜も拝観できてね。お寺と桜がライトアップされてすごい綺麗なの」

 へーー、そうなんだ。意外にも京都話で山本とは盛り上がった。ちゃんと話すと良い奴だな。

***** 

「ごめんね、隣が俺で」安西は智子に謝った。

「そんなことないわよ!」

「小川の隣が良かっただろう?」

「……そんなことないから」

「隠さなくても良いって」

 智子は安西の隣は問題なかったが、小川がエリカの隣が面白くなかった。

「小川、良い奴だけど、ちょっと心配かな。俺の弟じゃないけど、ちょっと弟っぽいというか」

「安西君、兄弟いるの?」

「妹だけどね」

「青木は?」

「弟が2人だけど、どうして小川君が心配なの?」

「この間のが気になってね」

「突然帰っちゃったときのこと?」

「そう。身近な人の死ってやっぱり堪えるからな。それも子供だったら、なおさらね」

「そうね……」智子はあの日、小川が泣いたことを思い出していた。少しでも小川の心の支えになれたら、と思っていた。

「伊豆旅行、来るとは思わなかったけど、とりあえず良かったよ」

「温泉、大浴場で入るかしらね?」

「さあ、無理強いはする気はないけど、ここまで来て温泉入らないのはなあ」

「そうよね、がんばって説得しないと」

「いっそ、混浴にするか?」

「混浴!? そんなのあるの?」

「さあ、知らないけど、大きめの家族風呂を取って勝手に混浴にすればできると思うけど」

「……もしそうするなら水着着るわ」

「そしたら小川も水着着るだろうから、あんまり意味ないか」

「でも、安西君から混浴案が出るなんて。広瀬君みたい」

「どういう意味だよ? 俺だって、彼女大募集中だから」

 智子は後ろを振り返ると、エリカと小川が意外にも盛り上がっていた。楽しそうな小川の顔を見て、智子はちょっとショックだった。

「同期からカップル出るとしたら、小川と誰か、だろうね」

 智子は小川の彼女に一番近いのは自分である自信はあったが、彼女になれる自信はなかった。でもこの間見せてくれた涙は、少なくとも心は許してくれてると思いたかった。

***** 

「めぐみちゃん、どれやる?」

「いろいろ持ってきたのね」

 広瀬がそう言ってめぐみに見せたのは、ウノ、トランプ、花札だった。

「どれやる?」

「じゃあ、花札」

「いいね、俺も花札大好き」

***** 

「なるほど。じゃあ今度兄貴のところに行くときは、大阪と神戸も行ってみるよ」

「せっかくだから、私の帰省の時に一緒に京都に来ない?」

 え? それはちょっと……。

「なんかそれってお前の親が勘違いしそうだから、ちょっとな……」

「良いじゃない、勘違いされても」

「良くない。困る」

「どうして困るのよ? 彼女いないんでしょ?」

「いないから困らないっておかしいだろ」

 関西の見どころを教えてもらったのは良かったけど、こういう強引なのが嫌なんだよな。あと1時間! お願い、早く着いて。あ、良いこと思いついた。

「席替えするか?」

「席替え?」

「そう、俺と安西が入れ替わるから」

 そう言って俺は席を立った。

「そんな!」山本の文句を無視して、安西と青木が座る席に行った。

「安西、席替えだから」

「席替え?」安西が驚いている。

「そう、広瀬以外は席替え」

 俺は青木の横に座った。青木がびっくりしてる。

「もう山本の『一緒に京都に帰省しよう』攻撃に困ったから、席替え」

「え? エリカがそんなこと言ってるの!?」

「兄貴が京都に住んでるからな。京都の話では盛り上がったけど」

「一緒に京都に行かないよね?」

「行かないよ。だいたい夏休みは兄貴が帰ってくるし。彼女連れて帰ってくるだろうから、東京にいるよ」

***** 

「小川君と智子ってやっぱり怪しいわよね」エリカは怒っていた。

「そうだね、怪しいね」

「安西君もそう思うよね」

「青木は小川のことは好きだと思ってたけど、小川もそうみたいだな」

「じゃあ付き合ってるってこと?」

「さあな。でももし付き合ってるなら、この旅行中の2人の素振りでわかると思うな」

「2人でどっかに消えるとか?」

「それはないだろう。仮にも6人で来てるんだから。でもさりげない何かでわかると思うよ」

「さりげない何かね……」

*****

 俺はリクライニングを倒した。

「お前も倒さないのか?」

「ああ、そうね」

「お前も夏休み、北海道に帰省するんだろ?」

「いや、しないと思う」

「暑い東京にいてもしょうがないだろ」

「じゃあさ、西武遊園地の夜のプールとか行かない?」

「夜のプール?」

「毎週金曜日は花火もあるんだって」

「混んでそうだな」

「じゃあ夏祭りは? この間やったみたいな縁日もあると思うし」

「あの縁日コーナーは面白かったな。ちょっとムキになったけど」

「ずいぶん仲良いようだけど?」

 山本が突然現れた!

「なんだよ、盗み聞きかよ!」ちょっと俺は焦った。まさかバレた?

「車内がうるさいからちゃんと聞こえなかったけど、ディズニーシー以外にも出かけてるんじゃないの?」

「出かけてないけど、今誘ってるところ」青木の切り抜け方、なかなかうまい。

「また抜けがけするの!?」

「夏の北海道の飛行機高いから、帰らないもの。帰らない者同士遊ぼうかと思って」

「小川君、行かないよね?」山本の念押しだった。

「兄貴が帰ってくるからな。そっちがメインだから」

「え、夏休み一緒に遊ぼうと思ってたのに」青木ががっかりしてるが、スケジュールが合えば遊びたいとつい思ってる俺だった。

「それに2人でリクライニング倒してるし。怪しいな……」

「怪しくないって」急いで取り繕う俺。

「私の隣のときはリクライニング使わなかったでしょ?」

「え? ああ、そうだな。お前に襲われないように構えてたからな」

「どういう意味よ!?」

「肉食女子だから」

「何よそれ、ちょっと智子、席替え」

「え? いやよ、せっかく小川君が来てくれたのに」

「じゃあ、私と席替えね」

 前川だった。広瀬とうまくやれてないのか?

「え? 広瀬くんと?」

「花札とかトランプあるから遊べるわよ」

「わかったわよ」山本が広瀬と座った。

 到着までの残り1時間は、安西と前川、広瀬と山本、青木と俺で座った。

「ほんとにエリカから逃げてきたの?」

「そうだよ」

「エリカが苦手なのね」

「良い奴だとは思うけど、どっかずれてるというか、俺とはかみ合わないというか……」

「そう?」

「お前は仲良しだし、同性だからわからないんだよ」

「じゃあ、私とは?」

 そんなこと、ここで聞かれても……。恥ずかしいだろ。

「……まあ、合ってると思ってるから会ってるんだけど?」

「良かった!」

 最近、実は自分は草食男子なのかと思うことがある。それとも同期女性陣が積極的なのか、肉食になるほど魅力的な女性にまだ出会っていないのか……

「ほらみて、海」

 海か。いいな。週末旅行とかいろいろ行ってみたいなって誰と? 俺は青木を見た。

「日焼けしそうだけど、泳ぎたいよね」

「ああ、そうだな」

 青木の前で泣いた日以来、ちょっと青木を意識しちゃって恥ずかしい。

***** 

 旅館のシャトルバスで旅館に着いた。和風旅館ってそんなに泊まったことないけど、良い感じ。あのフランス料理の西洋風も良いけど、和風も好み。

「いつも予約の電話しかしてなかったけど、実際来てみると良いところね!」

「ありがとう、予約してくれて」青木も山本も喜んでる。

「連休に取れたのはラッキーだったわよね」

 2泊3日……。せっかくだから楽しみたい。

***** 

 10畳の部屋だったが、良い感じ。新しい畳の匂いがした。女性陣は荷物を置いてこっちの部屋に来た。

「こっちの方が広いのね」青木が言った。

「そうなんだ?」

「あ、部屋食にしてるから、こっちでそうだからだと思う」

「部屋食?」初めて聞いた。

「夕食は部屋でってこと」

「そうそう、そのまま酔いつぶれても良いってこと」

 何だよ、広瀬。俺は飲まないぞ。

「さ、海水浴行くか!」安西が張り切ってる。

 旅館の裏が泳げる海だった。

「水着買ったのか?」

 水着に着替えると広瀬に言われた。

「競泳用はさすがにないからな」

「お母さんの見立て?」

 は? 

「そんなわけないだろ」

 着替え終わったころに女性陣が部屋に来た。

「ねえ、日焼け止め塗ってくれる?」

 山本はまたあの赤いビキニだった。目の毒なんだけど。

「女同士で塗れよ」刺激が強いんだけど。

「俺が塗ってあげるよ!」

 安西だった!

「安西、お前がそんなことするとは思わなかった」

「なんで? 彼女いないし、同期で来たんだから良いだろう」

「安西君、この旅行で何か期待してるんじゃないの? さっきなんて混浴案が出たんだもの」

「混浴?」

 俺は青木の言葉の意味はわかったような気が、混浴って……?

「海で混浴できるけど」

「小川君、まさか『混浴』の意味、知らないの?」山本が聞いた。

「知ってるよ! 風呂でしなくても海でもプールでもできるだろ」

「ああ、やっぱりな。混浴にしたら小川が水着着るからないよな、って言ってたんだよ」

「え? 温泉で混浴って裸でってこと?」

「やっぱりわかってなかった! 当り前じゃない!」山本に笑われた。

 そうなんだ。

「そんなこと、ここでできるんだ?」

「そう、安西君のアイデアで行けば可能なのよね」青木が言った。

 なるほど。

「面白そうだけど、このメンバーで混浴はないな。だいたい、なんで6人で混浴なんだよ? おかしいだろ」

「じゃあ誰とだったら、有りなのよ?」山本が挑戦的に聞いてきた。

「そりゃ……、彼女とでしょ」

 当り前のこと、聞くなよ。

「たとえば、智子ととか?」山本が突っ込んできた。

 やっぱり疑われてるか? その手には引っかからないぞ。

「だから、このメンバーではないって」

「私は入りたいけど」

 青木! 何言ってるだよ! 人がせっかくやり過ごしてるのに! 

「小川、お前赤いぞ!」

 え、うそ、まずい!

「やっぱり、小川君は智子が好きなのね!」

「違うよ! 水着姿を見ながらだと、いらぬ想像を……」

「じゃあもっと想像して。日焼け止め、塗ってあげる!」

「自分で塗るからいいよ!」

 と言ったが、遅かった! 山本が俺の背中に日焼け止めを塗り始めた。

「私も塗らせて」

 前川まで。でも青木は来なかった。まあ良いけど。

「ありがとう、お礼に塗ってやるよ」

 そう言って俺は前川の肩と背中に塗ってあげた。青木が驚いた顔を見せた。塗りに来ないからだ。視線を感じた先を見たら、広瀬だった。

「なんでめぐみには塗ってあげるのよ!」

「お礼だよ」

「私にお礼は?」

「十分塗ってもらっただろ」

「じゃあ、明日お礼して」

「明日雨みたいだけど」

「ほんと、それ?」

 山本には悪いが、うまく切り返せると面白い。

「俺たちにも塗ってもらいたいなあ」

 安西がそんなこと言うなんて。よっぽど寂しいのか?

「俺が塗ってやるよ」

 安西の露骨な嫌そうな顔!

「もちろん安西君にも塗ってあげるわよ」

 前川は広瀬にも塗ってあげたが、青木は誰にもしなかったし、自分にも塗ってなかった。俺は機を利かせて聞いてみた。

「青木は塗らなくていいのか? 色、白いからあとで日焼けで痛いかもしれないぞ」

「塗ってくれるの?」うれしそう。かわいいな。

「痛そうにされると気の毒だしな」

「智子は何もしてないのに、塗ってもらえるの?」山本が不満げだった。

「だから明日晴れてたら、塗ってやるよ」

 そう言って俺は青木の肩と背中に触れた。色が白くて綺麗だった。うなじが色っぽい。

「私にはそんなに丁寧に塗ってくれなかったけど」

「そんなことないよ、みんな同じだよ」

 前川は鋭いな、確かに青木には丁寧に塗ってた。足にも塗ってあげたかったが、さすがにそれはまずいか。生足が日焼けしてほしくないけど。

 海水浴なんて何年ぶり? 海も気持ちいい。俺はまた1人で泳いでいた。



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