パラサイトマン

ノベルバユーザー549222

たまらない。

 翌日。ロッカーで広瀬に会った。

「お前、青木とデートだったんだろ。何が親とだよ……」

「デートじゃないよ」ああ、朝からめんどくさい。

「じゃあ何だよ?」

「出かけただけ」

「それをデートって言うんだよ」

「なんとでも呼べ。俺は忙しい」

 こういうのは無視するに限る。

***** 

 無視作戦は女性陣には通用しなかった。

「それで、考えた結果は?」

 会社の出口で2人が待ち構えていた。青木はいなかった。

「ケーキ、ごちそうするよ。めっちゃうまい店が駅前にあるから」

「ケーキでごまかす気?」山本が挑戦的だった。

「食ってから言えよ」

 恩田洋菓子店。俺のお気に入り。そんなに甘いものが食わないが、食うならここがベスト。店構えはずっと変わってない。レンガ作りで中も少し洋風なインテリアだ。手前で販売していて、奥で食える。小さな店だが、学校帰りの女子生徒でいっぱいだった。

「3人、行けますか?」

「一番奥が空いてますよ」

 そう言われて奥の席を陣取った。

「ここのお勧めはフルーツタルトだけど、どれもうまい」

 2人はショーウィンドウを見てまで悩んだようだが、結局フルーツタルトにした。

「どっちが誘ったのよ?」前川が聞いてきた。

「そんなことどっちでも良いだろ? 答える義務はないと思うね」

「智子もはっきり答えないしさ。どうも怪しいのよね」山本が言った。

「怪しくないよ」そう答えたが、正確に言うとちょっと怪しいか。一応、告白された上で一緒に出掛けてるし。

 フルーツタルトとコーヒーが来た。

 周りを見回すと男は俺だけだった。食べ始めると電話がなった。

「智子からじゃない?」

 ああ、いちいち鬱陶しい。でもケビンからだった。ケビンからの電話は、たいていは今日フォートナイトができるかどうかだ。

「Yo」俺は電話を取って言った。

「What’s up?」

「In trouble」

「A woman?」

「Women」

「Oh, I see. Have fun, Womanizer」

「What!?」

 電話が切れた。ケビンのにやけた顔が目に浮かんだ。

「誰から?」山本が聞いた。

「親友のケビン」

「イギリスから?」

「そう、WhatsApp経由だよ」

「何それ?」

「ラインみたいなやつ」

 このまま話題を戻したくなかった。

「うまいだろ? フルーツタルト」

「確かにおいしい。ダイエット中だけど、また来るかも」山本は俺に賛成した。

「だろ?」

「小川君、好きな人、いないの?」今度は前川だった。

「いないなあ……」少し青木がよぎったが、まだそういう感情はなかった。

「どんな女性が好みなの?」

「ヒストリア・レイスみたいな女性」

「誰それ?」

「ググったらすぐわかるよ」

 2人はすぐに見つけた。

「アニメじゃない」山本が不満げに言った。

「そうだよ。アニメオタクじゃないけどね」

「それに金髪だし」

「外見の話じゃないよ。はかなそうに見えてしっかりしてる女性が好み」

「相手がアニメキャラだったら、勝ち目あると思うわ」

 自信ありげに山本が言った。

「勝ち目も何も、単に好みだって話だよ」

 全く女性はよくわからん。

「ねえ、この辺りの美味しい店もっと教えてよ」前川に聞かれた。

「他はあんまり知らないなあ」

「家族で外食とか、この辺でしないの?」

「もうちょっとで家なのに? それに帰国してからは父さんが入院して、外食どころじゃなかったな」

「あ、ごめん……」前川が申し訳なさそうに言った。

「ああ、いいよ」

「お父さんのお仕事なんだったの? 海外7年って長いよね」山本が聞いた。

「商社だよ。2回目の海外はもう兄貴も俺も生まれてたから一緒に行ったけど、子供生まれる前はドイツに3年いたんだよ」

「そうなんだ!」

「ドイツのあと帰国して、もう海外はないだろうと思ったらイギリスになったんだって」

 俺は冷めたコーヒーを飲み終えた。

「あのさ、俺からも質問して良い?」

「なんでも聞いて」山本がコーヒーを飲みながら答えた。

「広瀬、良い奴だと思うんだけど?」

「うん、良い人よ」

「でも本人は、お前らに好かれてないって思ってるみたいだけど」

「同期としては好きよね、めぐみ」

「そうだけど……」

「めぐみのこと、気に入ってるものね」それを聞いた前川は少し迷惑そうな顔をした。

「まあ良い人ではあるけど、色気を感じないのよね」前川がため息をつきながら背もたれにもたれた。

「色気?」

 男の色気ってやつか? 女の方からもそういう見方ってするんだな。

「じゃあ、安西は? あいつは色気あんのか?」

「あると思う」山本は同意した。

「そうね」前川もだった。俺もそう思う。

「でも広瀬にはないってことか?」

「あるんでしょうけど、あんまり感じられないのよね」

 そうなんだ。でもつまりそれは、男として見てないって意味か。

「ちなみに、安西の色気ってどんな感じなんだよ?」

「そうね、やっぱり目かな。実際知的だけど、その眼鏡の奥にある知的な眼差しが、何かの拍子で優しくなった瞬間とかかな」

 へー、意外によく見てんだな。前川も山本の意見に賛成だった。

「小川君の色気は……」

「言わなくていいから」

「なんでよ!?」山本は言いたいらしい。

「聞いたら意識するだろ? それにもし安西が今の話を聞いたら、絶対気にしてお前らの好きなその『瞬間』が見れなくなるぞ」

「あ、確かにね」2人とも同意した。

「どうやったら、広瀬を男としてみてやれるんだろ?」

「うーん、難しい質問ね……」

 こんなこと、本人に言えるわけないし、せっかく聞いてみたが収穫があったとは言えなかった。

***** 

 とりあえずケーキで気が済んだようで、良かった。帰宅して夕食を軽めに食べて、部屋へ行った。青木からラインが来てた。

「絞られたんじゃない?」

「まあな」

「でもまた一緒に出掛けるでしょ?」

「いいよ」

 青木と出かけることを、楽しみにしている俺がいた。女性陣3人の中ではヒストリアに近いのは青木かもしれない。おしとやかという言葉はもう死語かもしれないけど、山本と前川に比べると青木がおしとやかに見える。

「俺、エスケープルームに行きたいんだけど」

「どこにあるの?」

「各地にあるみたいだよ。どこでも良いなら、俺がチケット取っとくけど」

「お願い」

*****

 土曜日。エスケープルームの最寄り駅で待ち合わせたが、服装のことを言い忘れていた。青木は結構ミニスカートだった。

「そのスカート……」

「何?」

「めくれたらパンツ見えるよな?」

 青木が赤くなった。

「当たり前じゃない」

「予約したエスケープルーム、ちょっとアクティブ系にしたんだよな……」

「どういう意味?」

「もしかしたらパンチラが拝めるかも」

「え?」青木が少しひいた。

「キャンセルしても良いけど……」

 キャンセルは残念だが、俺もパンチラはうれしいけど、恥ずかしいかも。

「キャンセルしたらお金戻ってこないんでしょ?」

「来ないだろうな」

「じゃあ行きましょう!」

「じゃあ、俺が見ても文句言うなよ」

「……見えたって言わないでね」

 なるほど。知らぬが仏ってわけだ。

 俺が選んだシナリオは火事になったビルから脱出するが、罠が仕掛けられていて、それを解いていかないと逃げられないというものだった。『進撃の巨人』バージョンもあったが、ヒストリアが出てこないからやめた。もし可能なら、トーマスと行きたいしな。この火事バージョンは、ネットでははしごを上ったり、狭いところをくぐるなどがあったから、俺が先に行くか……。

 制限時間は2時間。暗号を解いたり、体力勝負と書いてあったが、前半は大した動きもなく、謎を解いて次の部屋に行くだけで、ちょっとつまらなかったが、突然部屋の電気が消えて、赤いランプとサイレンが鳴った。ついに来た。スモークまで出てきて臨場感も出始めた。

「あのはしごで上に行くんじゃない?」

「ああ、そうだな。先行くよ」

 先に上についたが、青木が上がってこない。もう一度降りようとしても上からは降りれない。

「何やってんだよ?」

「これをクリアしないと私はここで終わりなんだって!」

 新たな難問が出たらしく、奮闘していた。

 何をしてるか、全く見えなかったが待つしかない。

「なんとかクリア……」そう言って青木が上がってきた。

「何だったんだよ?」

「大量の風船が出てきて、時間内に全部割らないといけなかったの」

「何個くらい?」

「さあ、30個はあったかも。今度は私が先に行くわ。見なかったことにしてあげるから」

 青木はまだ息切れしてた。見なかったことにしてくれるそうだけど……。

 しばらくは平地のみだった。もしこのまま終わったらがっかりだ。でもネットではチューブのようなところを四つん這いで行くところがあったぞ。

 あった! ここだ! 俺は青木を見た。

「……じゃあ先に行くわね」

 そう言って青木が、先にチューブのようなところに入った。俺も後に続いたが、やばい。スカートの丈がちょうど良くて、見えそうで見えない。この微妙さがたまらない。あと生足。どうやら俺は足フェチらしい。わしづかみにしたくなったが、そこはぐっとこらえた。とりあえず、今日はみるだけ。さらに良いことにこのチューブ、意外に長い。このゲームを選んで大正解だった。

 チューブを抜けた先で青木が聞いてきた。

「見えた?」

「見えなかったよ」でも俺の顔はにやけてたはず。

「うそぉ。見えたんでしょ?」

「ほんとに見えなかったけど、見えなかった具合が最高、あと生足も」

 青木が真っ赤になった。

「もう……!」

 最後のミッションで部屋が大きく揺れた。

「おっと、もうちょっとがんばるか」

***** 

 脱出率30%だったそうだが、無事コンプ。証明書をもらってゲームは終わった。

「今日、いい夢見れそう」

「ちょっと!」また青木が赤くなった。かわいい。

「お前が先に行くって言ったんだぞ」

「そうだけど……。ああ恥ずかしい」

 やっぱりグループではこういうことってないもんな。今日は青木のかわいいところも見たし、楽しかった。



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