パラサイトマン
それは知らなかった、ごめん。
月曜日。智子は総務にいた。
「おはよう、ディズニーシーの割引券2枚欲しいんだけど」
「誰と行くの?」
「弟が彼女連れて、北海道から上京するの」
「あら、良いわね。このチケットは、先に旅行代理店で割引価格で購入しないといけないの。社員証聞かれるかもしれないから、智子が買っておく方がいいかもね」
そう言ってめぐみは2枚渡した。
「ありがとう」
*****
金曜日。いつもの焼き鳥屋。
「明日もフィットネスクラブ行こうぜ」広瀬が言った。
「あ、明日だめなんだよね」青木が言ったが、俺は黙っていることにした。
「私も短大時代の友人と約束入れちゃった」前川が言った。
「俺も元カノが荷物取りに来るし」安西も予定があった。
「元カノと同棲してたの!?」山本が興味津々だった。
「そう、1年ほどしたけど、結婚に至らずでした」
「安西君、結婚したかったの?」前川が聞いた。
「微妙なとこだな。結構束縛されてたというか、会社の宴会も嫌がられてたし、ちょっと自由が欲しかったな」
「それって愛されてる証拠じゃない?」山本がからかった。
「そうかもしれないけど、程度の問題だよ」
「安西いなかったら、たとえ小川がいてもこうやって同期では遊べなかったと思うな」広瀬だった。
「そしたら小川君と直接遊ぶようアタックしたいところだったけど、社内恋愛はね……」山本が言った。誘われても、悪いがお前とはあんまり出かける気ないけど。
「まあな、変に噂になりたくないし。この間も営業のカップル別れてさ。おかげでちょっと1課は雰囲気悪いね」
「同じ課だったんだ」青木が言った。
「そう、先輩後輩でね。でもえらい仲良かったから、それはそれでやりづらかったけど、別れてからは女性の方が、その男の方にとげのある言葉ばっかり言うわけ」
「女性が先輩なんだ」俺が聞いた。
「そう、だから厳しく指導してるともいえるけど、あれは振られた腹いせだと思うね」
今まで会社の宴会にほとんど顔を出さなかったが、こうやって飲んでる席で話のネタにされるんだ。確かに社内恋愛って微妙だよな……
「でもさ、出会いがないじゃん」広瀬が言った。
「まあね、金曜の夜も同期で飲んで、土曜も集まってるようじゃね」前川だった。
「だから同期で集って、カップルになるんだよ」
「広瀬君は社内恋愛派なのね」
「めぐみちゃん、やっぱりわかってなかったのか」
「私は社内恋愛はちょっと……」前川が引き始めた。
「でもたまたま好きになった人が社内の人だった、というパターンもあるはずでしょ」そう言って青木は俺を見た。なんで俺を見るんだよ。
「確かに、それはある。だから小川君のこと狙ってるんだけど、いまいち勇気が……」飲みながら山本がそう言うが、そういうことは言える勇気はあるのか、もう酔ってるのか。
今日も焼き鳥旨かった。みんなと駅で別れた。
*****
「明日10時に舞浜駅ね」
青木からラインが来た。
「10時? 早くないか?」うちから舞浜まで1時間以上かかる。
「午前中の方がすいてるからね」
「わかった」
*****
土曜の舞浜駅。すごい人。これ、みんなディズニーに行く人? あり得ない。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
通勤より可愛い目の服だった。王道かもしれないが、俺はひらひらスカートが好きだから、今日の服は結構俺好み。
「さ、アプリも入れたし!」
「アプリ?」
「どのアトラクションがすいてるか見れるアプリよ」
アトラクションとか乗る気ないんだけど。
「これ、チケットね」
「あ、もう買っておいてくれたんだ、いくら?」
「3,800円」
えらい安いな? 値下がりしたか。
「英会話、行きづらいだろ?」
「まあね。でもあと1回だから。次は金曜のクラスは取らないし」
園内に入ると、中が広いから意外に混んでるように思えなかった。
「そうそう、今これ読んでるの」
そう言って青木は、文庫を見せた。
「『路上』?」
「ジャック・ケルアックの」
「ああ、『On the Road』か。ケルアックは全部読んだよ」
「英語で、でしょ?」
「そうだけど、その方が作者の言いたいことは直接伝わってくるからな」
「英語で読める人のセリフよね……」
「見せて」
そう言って中をペラペラと見たが、ああ、漢字……。
「漢字が多いな」
「当たり前だと思うけど」
「今でも小説は英語で読んでるの?」
「いや、本自体を読んでないな」
「じゃあ何してるの?」
「ゲーム」
「ゲーム?」
「そ、今はまってるのはフォートナイトで、ケビンとトーマスと一緒にやってるよ」
「イギリスの友達?」
「そう、今でも親友で、モードはトリオかデュオが多いけど、スクワッドの時はケビンの弟入れて4人にしてる」
説明し始めて気が付いた。
「そんなに、つまんなさそうな顔すんなよ」
「つまらなくないけど、わかんないんだもん」
「で、『路上』面白い?」
「うん、面白いけど、うらやましく思っちゃった。自由に生きた人たちで」
「でもその自由には代償が伴うんだよ」
「そうなの!?」
「あ、ごめん、ちょっとネタバレだったな」
「え、そうなの? 大丈夫よ。さ、アトラクションに乗らないと」
青木に手を引かれて最初のアトラクションに向かった。たまにはいいか、こういうのも。
*****
前言撤回。こんなに一生懸命、すいてるのを探して乗らなくても……。
「え? まだ乗んのかよ?」
「あと2つ残ってるわよ」
「全部乗らなくても良いだろ?」
「そうだけど、ここまで来たらコンプでしょ」
ゲームと似てるかもな。俺も必死でクエストクリアしてるし。
「わかったよ、あと2つね」
根性で全部乗った。やればできるもんだな。
*****
6時過ぎてもまだディズニーシーにいた。夕食を食べにレストランへ入った。
「食べ物、まずくないけど高いな」
「そうね。今度来るときはお弁当作ってくるわね」
「もう1回、ディズニーシー? 何度来ても同じだろ?」
「今度はディズニーランドにする?」
でも、ちょっと手作り弁当に興味はあった。
「良いけど、他にもあるだろ。例えば野球観戦とか」
「考えたことなかったけど、そうね」
結局夜までディズニーシーにいた。意外にいれるもんだな。
土産売り場を見ていて、ふと広瀬と安西にも買って帰ろうかと思った。家の分と3つ買った。ミッキーの缶入りのクッキーというだけで高かったが、まあ良しとしよう。誰と行ったかなんてバレるわけないだろう、青木が言わなければ。あの調子では誰にも言ってないようだしな。
「お土産誰に勝ったの?」
「家だよ。母さん、甘いもの好きだし」と言って気が付いた。これってマザコン的発言だったかも……
「お母さんのこと、大事にしてるのね」
「女手1人で育ててくれたからな。家の手伝いも全然しないから、十分パラサイトシングルだけど、せめてこれくらいはしないと……」
「私も実家に送ろうかな」
「北海道だっけ?」
「そう、帯広」そう言って青木はディズニーシーから実家へ送る手配をした。便利なサービスがあるんだな。
*****
月曜日。
ロッカーで広瀬に会った。
「これ、土産」
「ああ、ありがと」
広瀬は、中を見て案の定、驚いた。
「え? ディズニーシー? 誰と行ってきたんだよ?」
「母と。マザコンのパラサイトシングルだからな」
「……嘘だろ?」
安西も同じ反応だった。彼女いないこと知ってるし、ここでデートと言うとまた詮索されるから、母さんを使うのが1番無難だった。どうせパラサイトシングルって思われてるんだしな。でも兄貴が結婚して、子供生まれたら3世代で行ってもいいかもしれない。
*****
広瀬はどうしても、小川が親とディズニーシーに行ったことが信じられなかった。
「めぐみちゃん」
「会社で名前で呼ばないでくれる? 誤解されるでしょ」
めぐみはあからさまに嫌そうな顔をした。
「最近さ、小川がディズニーシーの法人チケット貰いに来た?」
「小川君? ううん、来てない。でも智子は来たけど」
「あー、これで読めたな。ついに同期からカップル誕生か」
「どういうこと!?」
*****
今日は少し残業して6時過ぎだった。イギリスは今日は祝日だから、今晩はトーマスやケビンとフォートナイトができる。今まで楽しみはゲームしかなかったが、最近は同期とも遊べるようになったし、なぜか青木ともデートとは言わないが、また今度でかけるし、少しは生活環境が向上したかもしれない。
*****
夕食と風呂をさっさと済ませてログインすると、2人ともオンラインだった。
「Yo」と俺がロビーでトーマスにチャットを書くと
「Ready to play?」待ってたかのように速攻返事が来た。
「Sure」
フォートナイトのボイスチャット機能はすごいと思う。チーム内で話せるから、ビクロイも当然取りやすくなる。
「Thomas! behind you, behind you」
「gimme ammo!」
「Damn it! Get my reboot card, Kevin!」
あと2人倒したらビクロイなのに、俺がやられてしまった! お願い、俺のリブートカード拾って。俺がヨーロッパサーバーにつないでるせいでピングが高くていつも不利だが、しょうがない。同じサーバーじゃないとチームアップできない。
「Finish him! Yeah! Victory Royale!」
勝った! 久々のビクロイ。
「got to go, GG」ケビンがゲームから抜けた。
「OK, GG」
3人で12人キルか。悪くない。もう1回やりたかったが、ビクロイで終わる方が気分は良い。
トーマスは日本が大好きで、今はアニメにはまっている。特に『進撃の巨人』の大ファンで、俺にも『見ろ』とうるさいから見てはいるが、見終わったあとうつになる。これが自由を得るための代償かと思うと、すごく悲しい。トーマスはリヴァイのファンだが、俺はヒストリア。運命に翻弄されていて、か弱く見えるけど芯の強い女性で、もろ俺の好み。ケビンも日本のアニメが好きだが、基本ツンデレ系ばかり見てる。今のお勧めは「4月の君の嘘」と「君の膵臓を食べたい」で、俺も見た。どちらも急に冴えない男の子にかわいい女の子が積極的に近寄って来て、という筋だが、最後はその女の子が病気で死ぬ。というか余命を宣告されたから、積極的だったんだけど、まさか青木も? そんなことないよな、元気そうだし。トーマスもケビンも日本に行きたいと言ってるが、未だに実現せず。俺も帰国後一度もイギリスに行けてない。母さんがどうしてもだめだというから行けなかった。今なら親の許可なしで自分の金で行けるが、今度はスケジュールが合わないし、パスポートの申請もしないといけない。でもゲームでつながれてるから、とりあえずは良しだ。
寝る前に携帯を確認したらラインに138件? おまけに電話も5件不在着信。嫌な予感…… 女性陣から大量に来てる。まずは一番少ない青木から見るか。
「ディズニーシーに一緒に行ったことがバレちゃった。お土産、広瀬君と安西君のだったのね!」
ん? なんでバレたんだ?
「会社の法人チケットだったの」
「だから安かったのか。ごめん」
なるほど、道理で安かったわけだ。もう見なくても山本と前川のラインの内容はわかったが、これで無視すると明日責められる。
案の定、2人からのは「自分たちもどっかに連れてけ」だった。電話も山本からだったが、フォートナイトをやってて全く気が付かなかった。
2人に「考えとく」と返信した。ああ、めんどくさい。
「おはよう、ディズニーシーの割引券2枚欲しいんだけど」
「誰と行くの?」
「弟が彼女連れて、北海道から上京するの」
「あら、良いわね。このチケットは、先に旅行代理店で割引価格で購入しないといけないの。社員証聞かれるかもしれないから、智子が買っておく方がいいかもね」
そう言ってめぐみは2枚渡した。
「ありがとう」
*****
金曜日。いつもの焼き鳥屋。
「明日もフィットネスクラブ行こうぜ」広瀬が言った。
「あ、明日だめなんだよね」青木が言ったが、俺は黙っていることにした。
「私も短大時代の友人と約束入れちゃった」前川が言った。
「俺も元カノが荷物取りに来るし」安西も予定があった。
「元カノと同棲してたの!?」山本が興味津々だった。
「そう、1年ほどしたけど、結婚に至らずでした」
「安西君、結婚したかったの?」前川が聞いた。
「微妙なとこだな。結構束縛されてたというか、会社の宴会も嫌がられてたし、ちょっと自由が欲しかったな」
「それって愛されてる証拠じゃない?」山本がからかった。
「そうかもしれないけど、程度の問題だよ」
「安西いなかったら、たとえ小川がいてもこうやって同期では遊べなかったと思うな」広瀬だった。
「そしたら小川君と直接遊ぶようアタックしたいところだったけど、社内恋愛はね……」山本が言った。誘われても、悪いがお前とはあんまり出かける気ないけど。
「まあな、変に噂になりたくないし。この間も営業のカップル別れてさ。おかげでちょっと1課は雰囲気悪いね」
「同じ課だったんだ」青木が言った。
「そう、先輩後輩でね。でもえらい仲良かったから、それはそれでやりづらかったけど、別れてからは女性の方が、その男の方にとげのある言葉ばっかり言うわけ」
「女性が先輩なんだ」俺が聞いた。
「そう、だから厳しく指導してるともいえるけど、あれは振られた腹いせだと思うね」
今まで会社の宴会にほとんど顔を出さなかったが、こうやって飲んでる席で話のネタにされるんだ。確かに社内恋愛って微妙だよな……
「でもさ、出会いがないじゃん」広瀬が言った。
「まあね、金曜の夜も同期で飲んで、土曜も集まってるようじゃね」前川だった。
「だから同期で集って、カップルになるんだよ」
「広瀬君は社内恋愛派なのね」
「めぐみちゃん、やっぱりわかってなかったのか」
「私は社内恋愛はちょっと……」前川が引き始めた。
「でもたまたま好きになった人が社内の人だった、というパターンもあるはずでしょ」そう言って青木は俺を見た。なんで俺を見るんだよ。
「確かに、それはある。だから小川君のこと狙ってるんだけど、いまいち勇気が……」飲みながら山本がそう言うが、そういうことは言える勇気はあるのか、もう酔ってるのか。
今日も焼き鳥旨かった。みんなと駅で別れた。
*****
「明日10時に舞浜駅ね」
青木からラインが来た。
「10時? 早くないか?」うちから舞浜まで1時間以上かかる。
「午前中の方がすいてるからね」
「わかった」
*****
土曜の舞浜駅。すごい人。これ、みんなディズニーに行く人? あり得ない。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
通勤より可愛い目の服だった。王道かもしれないが、俺はひらひらスカートが好きだから、今日の服は結構俺好み。
「さ、アプリも入れたし!」
「アプリ?」
「どのアトラクションがすいてるか見れるアプリよ」
アトラクションとか乗る気ないんだけど。
「これ、チケットね」
「あ、もう買っておいてくれたんだ、いくら?」
「3,800円」
えらい安いな? 値下がりしたか。
「英会話、行きづらいだろ?」
「まあね。でもあと1回だから。次は金曜のクラスは取らないし」
園内に入ると、中が広いから意外に混んでるように思えなかった。
「そうそう、今これ読んでるの」
そう言って青木は、文庫を見せた。
「『路上』?」
「ジャック・ケルアックの」
「ああ、『On the Road』か。ケルアックは全部読んだよ」
「英語で、でしょ?」
「そうだけど、その方が作者の言いたいことは直接伝わってくるからな」
「英語で読める人のセリフよね……」
「見せて」
そう言って中をペラペラと見たが、ああ、漢字……。
「漢字が多いな」
「当たり前だと思うけど」
「今でも小説は英語で読んでるの?」
「いや、本自体を読んでないな」
「じゃあ何してるの?」
「ゲーム」
「ゲーム?」
「そ、今はまってるのはフォートナイトで、ケビンとトーマスと一緒にやってるよ」
「イギリスの友達?」
「そう、今でも親友で、モードはトリオかデュオが多いけど、スクワッドの時はケビンの弟入れて4人にしてる」
説明し始めて気が付いた。
「そんなに、つまんなさそうな顔すんなよ」
「つまらなくないけど、わかんないんだもん」
「で、『路上』面白い?」
「うん、面白いけど、うらやましく思っちゃった。自由に生きた人たちで」
「でもその自由には代償が伴うんだよ」
「そうなの!?」
「あ、ごめん、ちょっとネタバレだったな」
「え、そうなの? 大丈夫よ。さ、アトラクションに乗らないと」
青木に手を引かれて最初のアトラクションに向かった。たまにはいいか、こういうのも。
*****
前言撤回。こんなに一生懸命、すいてるのを探して乗らなくても……。
「え? まだ乗んのかよ?」
「あと2つ残ってるわよ」
「全部乗らなくても良いだろ?」
「そうだけど、ここまで来たらコンプでしょ」
ゲームと似てるかもな。俺も必死でクエストクリアしてるし。
「わかったよ、あと2つね」
根性で全部乗った。やればできるもんだな。
*****
6時過ぎてもまだディズニーシーにいた。夕食を食べにレストランへ入った。
「食べ物、まずくないけど高いな」
「そうね。今度来るときはお弁当作ってくるわね」
「もう1回、ディズニーシー? 何度来ても同じだろ?」
「今度はディズニーランドにする?」
でも、ちょっと手作り弁当に興味はあった。
「良いけど、他にもあるだろ。例えば野球観戦とか」
「考えたことなかったけど、そうね」
結局夜までディズニーシーにいた。意外にいれるもんだな。
土産売り場を見ていて、ふと広瀬と安西にも買って帰ろうかと思った。家の分と3つ買った。ミッキーの缶入りのクッキーというだけで高かったが、まあ良しとしよう。誰と行ったかなんてバレるわけないだろう、青木が言わなければ。あの調子では誰にも言ってないようだしな。
「お土産誰に勝ったの?」
「家だよ。母さん、甘いもの好きだし」と言って気が付いた。これってマザコン的発言だったかも……
「お母さんのこと、大事にしてるのね」
「女手1人で育ててくれたからな。家の手伝いも全然しないから、十分パラサイトシングルだけど、せめてこれくらいはしないと……」
「私も実家に送ろうかな」
「北海道だっけ?」
「そう、帯広」そう言って青木はディズニーシーから実家へ送る手配をした。便利なサービスがあるんだな。
*****
月曜日。
ロッカーで広瀬に会った。
「これ、土産」
「ああ、ありがと」
広瀬は、中を見て案の定、驚いた。
「え? ディズニーシー? 誰と行ってきたんだよ?」
「母と。マザコンのパラサイトシングルだからな」
「……嘘だろ?」
安西も同じ反応だった。彼女いないこと知ってるし、ここでデートと言うとまた詮索されるから、母さんを使うのが1番無難だった。どうせパラサイトシングルって思われてるんだしな。でも兄貴が結婚して、子供生まれたら3世代で行ってもいいかもしれない。
*****
広瀬はどうしても、小川が親とディズニーシーに行ったことが信じられなかった。
「めぐみちゃん」
「会社で名前で呼ばないでくれる? 誤解されるでしょ」
めぐみはあからさまに嫌そうな顔をした。
「最近さ、小川がディズニーシーの法人チケット貰いに来た?」
「小川君? ううん、来てない。でも智子は来たけど」
「あー、これで読めたな。ついに同期からカップル誕生か」
「どういうこと!?」
*****
今日は少し残業して6時過ぎだった。イギリスは今日は祝日だから、今晩はトーマスやケビンとフォートナイトができる。今まで楽しみはゲームしかなかったが、最近は同期とも遊べるようになったし、なぜか青木ともデートとは言わないが、また今度でかけるし、少しは生活環境が向上したかもしれない。
*****
夕食と風呂をさっさと済ませてログインすると、2人ともオンラインだった。
「Yo」と俺がロビーでトーマスにチャットを書くと
「Ready to play?」待ってたかのように速攻返事が来た。
「Sure」
フォートナイトのボイスチャット機能はすごいと思う。チーム内で話せるから、ビクロイも当然取りやすくなる。
「Thomas! behind you, behind you」
「gimme ammo!」
「Damn it! Get my reboot card, Kevin!」
あと2人倒したらビクロイなのに、俺がやられてしまった! お願い、俺のリブートカード拾って。俺がヨーロッパサーバーにつないでるせいでピングが高くていつも不利だが、しょうがない。同じサーバーじゃないとチームアップできない。
「Finish him! Yeah! Victory Royale!」
勝った! 久々のビクロイ。
「got to go, GG」ケビンがゲームから抜けた。
「OK, GG」
3人で12人キルか。悪くない。もう1回やりたかったが、ビクロイで終わる方が気分は良い。
トーマスは日本が大好きで、今はアニメにはまっている。特に『進撃の巨人』の大ファンで、俺にも『見ろ』とうるさいから見てはいるが、見終わったあとうつになる。これが自由を得るための代償かと思うと、すごく悲しい。トーマスはリヴァイのファンだが、俺はヒストリア。運命に翻弄されていて、か弱く見えるけど芯の強い女性で、もろ俺の好み。ケビンも日本のアニメが好きだが、基本ツンデレ系ばかり見てる。今のお勧めは「4月の君の嘘」と「君の膵臓を食べたい」で、俺も見た。どちらも急に冴えない男の子にかわいい女の子が積極的に近寄って来て、という筋だが、最後はその女の子が病気で死ぬ。というか余命を宣告されたから、積極的だったんだけど、まさか青木も? そんなことないよな、元気そうだし。トーマスもケビンも日本に行きたいと言ってるが、未だに実現せず。俺も帰国後一度もイギリスに行けてない。母さんがどうしてもだめだというから行けなかった。今なら親の許可なしで自分の金で行けるが、今度はスケジュールが合わないし、パスポートの申請もしないといけない。でもゲームでつながれてるから、とりあえずは良しだ。
寝る前に携帯を確認したらラインに138件? おまけに電話も5件不在着信。嫌な予感…… 女性陣から大量に来てる。まずは一番少ない青木から見るか。
「ディズニーシーに一緒に行ったことがバレちゃった。お土産、広瀬君と安西君のだったのね!」
ん? なんでバレたんだ?
「会社の法人チケットだったの」
「だから安かったのか。ごめん」
なるほど、道理で安かったわけだ。もう見なくても山本と前川のラインの内容はわかったが、これで無視すると明日責められる。
案の定、2人からのは「自分たちもどっかに連れてけ」だった。電話も山本からだったが、フォートナイトをやってて全く気が付かなかった。
2人に「考えとく」と返信した。ああ、めんどくさい。
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