ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

ほんとうのハネムーンまで二十四時間④

 緊張しだす。
 
『私が彼女を迎えに行く(大人の対応をしてやるわ!)』

 偉そうに息巻いたものの。

「わ、わたし。ラブロマンスの主人公はやってみたいけれど、サスペンスとバイオレンスのヒロインはしたくないなぁ……」

 おもわずぼやけば、思いがけないことを言われた。

「円佳様の経歴を映画監督に売れば、間違いなく今年のヒット作を作れるでしょう」

「なんですと?」
「いえ、とくには」

 むーん。
 うちのガードさん達って、なんでいっつも楽しそうなんだろう。そうじゃないと、ボディガードなんて勤まらないのかな。

 私のむっつり顔をどう解釈されたのか。

「大丈夫です。ターゲットは劇物及び武器は携帯しておりません」

 なんか、サラっと怖い単語キター!

「お、おう……」

 さっき、透也くんも『狩れ』とか言ってたよね?
 貴方がた、セキュリティ会社の社長と社員さんなのだから、専守防衛なんじゃないですか?
 みなさん、やたら好戦的な気がする。

 海外だと命の遣り取りに発展することは珍しくないからかな。

「参考までに申し上げておきますと」
「はい」

「円佳様のガードは我が社でもっとも優秀なものが承っております」
「え」

 透也くんたら。

「わ、私のような一般人に、なんて無駄使いを……!」

 ぶ。
 空気が震えてる。
 見れば、ガードさん達全員の肩が震えていらっしゃる。

「そのような認識は、円佳様お一人だけです」
「えー……」

 承服しかねるなあ。

「私、一般人ですよ? そりゃ、透也くんがらみで誘拐はあるかもですが、それ以外は(多分)恨みを買っていませんし」

 私のガードなんてむしろ楽ですよね、と振り返れば、全員に目をそらされた。
 なぜ。

「あたっ」

 よそ見していたら、頭をぶつけた。
 以降は配管が複雑に入り組んだ通路を頭をぶつけたり、つまずかないように進んでいく。

 じりりん。
 船内電話が鳴り、びくつく。
 ガードさんの一人がしなやかな動作で受話器をとり、一言二言交わす。

 なんで電話が鳴るのっ、しかも私達しかいない所を狙って。ホラーか! ……ああ。無線が通じなくなっているんだ。

 そう思うと、心細さが足許から登って来る。
 透也くんがいない。
 自分から背中を向けたのに、彼がついてきてくれるものだと思っていた。

 多分ブラウン、じゃなくて公爵を見張ってるんだよね。
 透也くんしか立場上対抗出来る人がいないから。
 ……でも。

 透也くんの傍にいると、ねっとりと甘い雰囲気になってしまって彼の熱に強さに押し流される。
 溶けて液体になってしまうのを、個体でいるのが精一杯。

 離れると、わかる。
 私は全身全霊をかけて透也くんに頼り切っている。
 同じ船のなかにいるのに姿が見えず、声が聞こえないだけでこんなに心細い。

「透也くん……」

 うう。
 見栄なんて張らずに彼の傍にいればよかった。
 せめて『一緒に来て』ってお願いすればよかったぁ。

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