ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間
ほんとうのハネムーンまで二十四時間③
「船体として区切る壁があるのはわかったんですけど……、どうやって密閉されたところを行き来してるんですか」
上層部の客室があるデッキには大きな壁はなかったように思う。それとも、個室の壁としてうまくカムフラージュされていたのかな。
だとしても、ビル何階建てもあるような高さを、例えばAの壁で区切られたところからBの壁で区切られたところに行くのに、いちいち最上層までいって最下層まで行くとしたら大変だよね。
「そこで、水密戸という開口部が生まれました」
水密と水圧に耐える為、隔壁は厚さ数十センチから数メートルに及ぶらしいけれど、戸も壁と同じだけの分厚さを備えているのだという。
ひええ。
「……人力で開け閉め出来るんですか」
船員さん達、みんな怪力なんだろうか。
「勿論、乗組員が通行する際や非常時に避難路を確保する際には、ローカル側で開けられます。最悪の状況だと、円佳様が開ける担当になられることもあると思いますので、油圧式などを利用して、一般の方でも操作は可能です」
そうなんだ。
「円佳様は万が一がある方ですから」
開け方・閉め方を教えてくれた。
……なんだろう、「あんた絶対トラブルに遭うでしょ」という副音声の確信めいた言葉は。
『最悪』のときなんて、来ないことを祈るばかりだ。
「水密戸は、船を保護するという観点から、ブリッジから全ての扉を閉める制御ができるようになっています」
「あ」
「そうです」
ハニーブロンドは操舵室と水密扉の閉システムを操舵室から奪ったのだ。
「透也様はわざと、令嬢が扉閉システムを一部操作できるようにしていました」
……あざとい。
本気でシージャックを達成できそうだった公爵兄妹も、それを楽々と阻止しちゃう透也くんも。
三人がずる賢いだけなんだろうか。
それともセレブの人って、みんなこんなに悪事に頭が働くんだろうか。
「円佳様。角を曲がりますと、第七船倉になります」
 
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