ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間
ほんとうのハネムーンまで二十五時間〜丁々発止〜⑧
足が止まる。
ぎぎぎ、と後ろを振り返った。
「じ、じうに?」
あんなに完成された美しさと清潔な色気があって、ハイティーンですらないですと?
確かに、小学生の頃から究極の美みたいだった三歳下の男の子を知っている。加えて、長じるにつれて凛々しさも増しちゃって、天上の美みたいな人が私の旦那様。
あー、ヨーロッパの人達からみたらローティーンにしか見えないだろう私を見てバカにするのももっともよねえ。
妙~な子供っぽさも納得した。
しかしブラウンもずるいよね。
子供に携わる仕事を望んでいる私なら、手加減するだろうとの策略だ。
どこまでも人のことを調べて、優位に立てるようにする。それは大事な素質なんだろう。
必死な表情を計算して作ってる、と思っちゃうのは庶民のひがみかしら。
この人、周りを手のひらで転がしてきたんだろうな。
けれど、透也くん相手にはそうはいかない。旦那様の声はとても静かだった。
「円佳。僕と同じで、彼らも年齢が免罪符となる世界に生きていない」
そうだ。
初デートの日、透也くんは十二歳だったけど十五の私を堂々とホテルに誘ってきた。
なにをするかも私以上に識っていて、行動には責任を伴うことを理解していた。
その論理でいえば、ハニーブロンドは自分のしたことの責任をとらなければならない。
「五歳でテロリストとなる子供もいる」
透也くんの言いたいこともわかっている。
乳児院で辛い環境の子供を見てきている私でさえ、世界にはもっと過酷な環境に置かれている子供がいることを知ってはいる。
甘い認識でいたら、大人でさえ弑されるような子供に、生温い温情は危険だということも。
「それでも、彼女は保護すべき子供だわ。……お尻ぺんぺんはしてやるつもりだけど!」
ブラウンに乗ってしまう私は甘っちょろいかもしれない。
手を差し出したら、大けがをするのかもしれない。
私の行動が透也くんの足をひっぱってしまったら。
ううん、後悔はあとでするものだ。
透也くんのことだから、私の行動も計画のうち。
あえて彼がムチになって、私をアメにしてくれるのだ。
ふふ。
世界中に『嘉島透也を怒らせたら、奥方にすがれ』って宣伝して回る気かな。
透也くんが私だけに優しいから、私は安心して手心を加えられるの。
「彼女を迎えに行ってくる。ブラウン、わかっていると思うけど嘉島透也に二度の温情はないわ。あとは、透也くんと二人でどうぞ」
顔見知りみたいだものね。
まあ、公爵閣下ならそうかも。……身分をあからさまにされてたら、上からの物言いは出来なかったろう。偉そうにする必要はないけれど、どんな身分の人にも敬意を示しつつ対等な態度でいどまねば。
今後の課題だと、扉に向かう。
ブラウンなんて名前酷いなあ、なんてぼやきは無視。
「円佳。第七船倉に追いつめる」
透也くんには返事をする。
「わかった」
なにも言わなくても、私のガードさん達が付き従ってくださるのがありがたかった。
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