ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

ほんとうのハネムーンまで二十五時間〜丁々発止〜⑦


 公女だろうが、侮辱罪に問われようが喧嘩は買ってやる。

 大体、透也くんを執事に? 確かに彼は有能だから、ハニーブロンドの用事を全て華麗にさばけるだろう。
 それに、いかに透也くんが有能でも、やっぱり執事さんや秘書さんあっての縦横無尽な活躍だと思うし。
けどね。

「貴女は間違ってる。透也くんは貴女一人に仕えるにはもったいない人なの。上に立つ人なの。そんなこともわからないの」

 ひきかえ、透也くんに仕えている人達は遣り甲斐を感じてくれているから、働いてくださっている。
 有能な彼らを満足させるくらい、私の旦那様は優れているのだ。
 ここら辺が違うんですよ、お姫様。

 カメラ越しににらみあっていると、透也くんが言葉をはさんできた。

「令嬢。僕の奥様との会話で、彼女に敵わないのが理解できたと思うが」

 声が氷をまとっていて、隣で聞いていても身震いしそう。
 はたして透也くんがハニーブロンドを見つめると、彼女が青ざめた。

「招いてやったとはいえ、嘉島のシステムに侵入したこと。僕の円佳を傷つけたこと。僕から罰を与える。……狩れ」

 透也くんの声に反応したスタッフ達が、次々と彼の命令を実行していく。

「Aブロック閉鎖!」
「H,G,F封鎖!」

 報告とともに、ディスプレイに映し出されていた船内見取り図と思しき図面が、次々と紅く染まっていく。
 画面の中のハニーブロンドは弾かれたようにタブレットを操作しだした。
 やがて絶望したようにタブレットをバッグにしまい、走り出した。
 彼女を追って、次々とカメラが切り替わっていく。

……いやだな。

 透也くんは本気で怒っている。
 彼女が悪いことをしたから、罰しようとしているのはわかる。
 だからといって少女にも見える女性を、大の男がよってたかって追いつめるのは好きじゃない。

 私は透也くんの傍を離れた。

「円佳」

 聞かないわ。
 絶対に振り向かない。
 多分、透也くんは黒い湖のような瞳で私を見つめている。彼の双眸を見てしまえば……、逆らえなくなりそうで。

「マダム・デュポワをそそのかしたのがこの兄妹と言っても?」

 足が止まる。
 そうか。
 嘉島のシステムに侵入するなんて、凄腕さんだと思った。
 あの家のセキュリティを弄れるんだもの、船のシステムなんて簡単だよね。

 それに、マダムは催眠だか暗示にかけられていたのか知らないけれど、本心で思っていなければ、考えたことのない台詞なんて出てこないだろう。

 マダム。

 おっとりしてお茶目で、お姉さんてこんな感じなのかな、と思っていた。
 信じていた人に裏切られたのも辛かったし、あのベッドでの時間は怖かった。

 なにより、私はあのとき透也くんの心を手放した。
 透也くんは出逢ったときから、沢山の言葉や態度で私への気持ちを表してくれていたのに、疑ってしまった。

 許せない。
 罪を憎んで人を憎まずなんて、聖人みたいなことを出来ない。
 ブラウンが必死な形相になった。

「円佳、オー……妹はまだ十二歳なんだ!」

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