ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

ほんとうのハネムーンまで二十五時間〜丁々発止〜④


 混乱して透也くんを振り返ると、彼は冴え冴えとした表情でブラウンに話しかけた。

「貴君の妹君だな」
「……てことは、『お兄様がトウヤをプレゼントしてくれる』って言ってた『お兄様』って貴方?」

 瞬間、敵認定した。

「留学の話も、私と彼を引き離そうっていう策略だったのね!」
「ご名答。でも、事実でしょう?」

 ブラウンはつらっという。
 でも、タイミングが悪すぎた。私は悩んで悩みまくって熱を出したのだ。

「貴方達、兄妹揃って失礼過ぎない? 透也くんはモノじゃないのよ!」

 私の大事な旦那様を奪われてなるものですか!
 ふ、とブラウンが嗤う。

「貴女は嘉島透也を前にして欲得感情がないと言い切れるの?」

 舐めないでよ!

「そんなの、透也くんの力を使えばたちどころに乳児院なんて百カ所くらい余裕で出来るに決まってるでしょ!」

 私の言葉に、ブラウンどころか彼を囲んでいる男達の目も丸くなる。

「彼に頼めば、各国の福祉関係者にアポイントなんて、すぐに完了するわ!」

 くっくく……と忍び笑いが聞こえてきた。
 私をつつんでくれている透也くんの体が揺れている。
 見れば私達のガードさん方も噴きだすのを我慢していらっしゃる。
 なぜ。

「本当に君って子は……、円佳らしいね。愛してるよ、僕の大事な奥様」

 透也くんに強く抱きしめられる。
 彼の声が楽しそうで嬉しそうだ。

 あれ。
 私ったら熱が出てる間、一生懸命考えてたのに、私得なことしか考えてなかったーー!
 うう、恥ずかしい。

「君のせいで透也の輝きには陰りがあるんだとこの前も言ったのに。円佳、僕の言葉を訊いてるか?」

 ブラウンは拝聴されていることに慣れているのだろう、ぼうっとしていた私に不満そうだった。
 いかん、物思いはあとだ。

「だからなに」

 私の強い態度に違和感を感じたのか、かすかにブラウンの眉が寄っている。

 透也くんやガードさん達もそうだけど、彼の周りには本当に表情を掴ませない人が多いな。
 こっちだって、子供の眼差し一つで気分や体調を判じなけれなばならないプロですから、感情を読み解くのは下手じゃない。

「……そのことで罪悪感を感じないのか?」

「お生憎様。透也くんはね、太陽なの。恒星なの。自分で光れる人なの。私が陰だとしても、ものともしないわ」

 むしろ激しい光は峻烈すぎて、私みたいにみんな目が眩んでしまうかもしれない。だったら陰りがあるほうがほっとできるわ。

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