ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間
本当のハネムーン122時間前から妖精狩り①
『妖精達』を狩る作業は円佳の休んでいる時間、あるいは僕から離れている時間に進めていた。
  普段なら彼女を手元に置いておこうとする僕が、ボディーガード付きとはいえ、探索を許可したのを不思議には思っているようだ。
仕事をしているからと納得してくれてるらしい。
手元のノートパソコンの画面には、公爵と妹の映像が映し出されている。
船内の監視カメラの画像ではない。二人を尾行しているガードが撮影しているものだ。
二人が船内を散策したり、レビューショーを楽しんだりしているようだ。……画像が本当ならば。
オーギュスト・ミュレー、エヴァ・ミュレー。
偽パスポート及び社員証によれば、パリ在住でフランス支社のスタッフとその家族らしい。
「予定通り、罠にかかったようだな」
「は」
僕の言葉に執事がうなずく。
公女でなければ見つけ出せないような小さな穴を我が社のシステムと、この船の入船システムに作っておいてやったのだ。
「予想通りとはいえ、よくも潜り抜けたものだ。せっかくの才能、別のことに使えばいいものを」
「貴方がそれをおっしゃいますか。ハッカーとの攻防にしかプログラミングの才能を使わない貴方が!」
執事がわざとらしく非難してきたのに、僕は口角をあげて答える。
「円佳を守るのが僕のライフワークだ。趣味と実益を兼ねている。これ以上の適職はない」
そうか。
僕とあの兄妹は同類だな。
有り余る才能を自分のために使う。
「システムは既に修正に入っております。しかし、これで公爵と公女が我々に攻撃を仕掛けたという証拠はなくなりましたな」
「ああ」
慰安旅行で社員が仕掛けた悪戯が船の航行を危ぶませる、というシナリオなのだろう。
あくまでも自分達は表舞台に立たずに、だ。
が。
「僕がおまえ達を野放しにするとでも思うのか」
ハニーブロンドヘアの女性とブラウンヘアの男性と接触してから円佳の表情が浮かないものになったとガードから報告を受けていた。
円佳を写し込んでいた、どの監視カメラも件の人物達を捉えていないなんて、あり得ない。既に映像回線は細工されていた。
ガード達は公爵や公女の顔を知っている。
兄の本来の髪の色はアッシュブロンド、瞳はグレイ。
妹はプラチナブロンドヘアにアイスグリーン・アイ。
プロなのだ、カツラやカラーコンタクト程度の変装でも骨格や仕草から見分けがつく。
……見かけても、あえて拘束するなと指示しておいたのが裏目に出た。
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