ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

本当のハネムーンまで96時間前から知恵熱だした①

 
 ダンス教室から出たあと、私は透也くんの待っている船室に戻らず、ふたたび船べりのジョギングコースを歩いていた。

 私の歩く方向を見て、ガードさんの一人が慌てて制止しようとしたけれど、別の方が透也くんに指示を仰いだらしい。
 歩くまま、ほうっておいてくれている。

 火照った体に海を渡ってきた風が気持ちいい。
 ほ。
 ブラウンのおかげでヒートした頭を冷やして、思考の海に潜ろう。

 透也くんが仕事している間、コネを作る。それは魅惑的な考えだ。
 でも、私。もう一度学生になるの?
 高校生だった透也くんにプロポーズされて、「自分が学生のうちは結婚しない」って言い切ってなかった?
 社会人を一度したから、結婚したからってそれを覆していいんだろうか。
 だって、学費をどうするの?

 五年間働いてきたからそれなりに貯金はある。
 嘉島家に六歳の頃からお世話になっている私は衣食住を全て母に養われていた。

 社会人になってから、せめて私の払える範囲で家賃を入れようとお義母様に申し出たら、『代わりにと言っては語弊があるのだけれど、付き合って』と言われて社交界なるものに連れ出されていた。

 ええ、ええ、オペラのプラチナシーズンチケットだの、歌舞伎座の以下略だの。
 お茶に、能に、お出かけのたびに増えていく余所行きのワンピースも、お着物も、小物類すべてお義母様に買って頂いてました。

 アクセサリーやランジェリーは透也くんから。
 旅行費用はお義父様からお小遣いとして頂戴してましたが、なにか?

 ……ほぼ手つかずの私の貯金、私の為だけに使っていいんだろうか。

 透也くんは最高級のものに囲まれた暮らしをしている。
 私が彼になにかプレゼントをしようとしたら貯金の半分くらいは一回の買い物で吹っ飛ぶ。

 だとしても、愛おしい人へのプレゼントくらい、自分が汗水たらして造り出したお金で買いたいではないか。

 透也くんに学費を出してもらう?
 ノンノン。
 彼にとっては大海原にこぼした一滴の水くらいなんだろうけれど、これ以上のおんぶにだっこは女が廃る。

 結論、学校へ行くのは却下。

 それより、私が透也くんに出来ること。
 私しか透也くんに出来ないことを考えないと。
 夫婦はギブ・アンド・テイク、あるいはウイン・ウインの関係が基本だと思う。
 今は透也くん一〇〇〇対私一くらいだけどね!
 でも、その『一』が大事なんだと思う。

 うーん、なにがしてあげられるかなあ。
 素でいさせてあげること。
 でもなあ、執事さんや秘書さんと話してるときのブラック透也くんも素敵なんだよね……。
 あれも彼の地なわけで。

 彼が魔王化するときは大体、私が透也くんの愛の上限を振り切ったときだから……、おしおきえっちは怖い。
 もう、どろどろに溶かされて、啼いて鳴いておねだりするまで……いやん。

 優秀で権力もある透也くん。
 世界有数の財閥の御曹司なのは彼の一部だし、普通の男性として扱う、とかも考えたけど、なんか違う。

 うーーーーーーーーーーーーーーーん。

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