ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

ほんとうのハネムーンまで97時間〜ダンス教室〜①

 午前八時。
 スポーツウエアにダンスシューズというちぐはぐな恰好でダンスフロアに立った。

 ねらい通り、インストラクターの他はガードさんと私の貸し切り状態である。

 日本で透也くんと一緒に習ってきたけれど、それが問題でもある。
 私が透也くんのリードしか慣れてないのだ。
 あんなに! 美しくて、背の高い人としか!!

 透也くんから差し出された手は彫刻のように美しい。
 あの身長差から見降ろされる、黒い湖のような煌めきを宿した眼差し。
 抱かれたときに毎回うっとりしてしまう逞しさ。
 加えて、深く吸い込んじゃいたくなるオーダーのコロン。
 ソフトなのに強く、強引ではなく軽やかに洗練された、しかも踊りやすいリード。
 優雅に笑んだ口元。
 踊っているうちにうっすらと目元が紅くなり、弾んだ息と汗に濡れた髪、私を貪っているときの彼を思い出させる。

 たまらん! ……ごほごほ。

 とにかくっ、私は世界で百番には入るんじゃないかというスーパー美形としか踊ったことがない。

 透也くんが言ってた「新婚旅行三年間」はともかく、今後ダンスシーンの機会は多いことだろう。
 航海三か月中にもダンスパーティは予定されているし、練習しておくほうがいい。

 今まで透也くん以外の男性と踊らせてもらったことがないんだけど、……そんな訳にはこれからはいかないだろうし。

「踊っていただけますか」

 差し伸べられた手を見てから、顔を見てぎょっとなった。

 昨日のブラウン……!

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