ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間
ほんとうのハネムーンまで110時間~敵と遭遇〜 ②
廊下でブラウンヘアの美青年とすれ違う。
透也くんよりも更に大きい。2m近くあるのかな。
アンバーの目、ダークスーツがお似合いだなあ。
年齢は二十六、七歳くらいかな。
優雅な佇まい。
ガードするより、される側の王子様みたいだよね。
透也くんの会社は顔で採用しているのかな? ……ボディガードだもんね、セレブの隣に立つ人だから見目もある程度は採用の条件なのかな。
でも、怖くていかついてるほうが威圧感はあるけど。あ、威圧感をなくすためか。なるほど。
納得して、ふんふんと通り過ぎようとしたら。
「円佳は透也様になにを差し上げられるの?」
日本語で囁かれた。
くる、と振り向くと、青年が綺麗な笑顔を浮かべている。
「愛などと青臭いことを言わないでくださいね。透也様にはもっと羽ばたけるステージがあるのに、貴女が地上に彼をとどめてしまっている。そんなもの、愛ではないですよ」
言い捨てると私とは反対方向に去っていく。
…………透也くんフリークだ。
私の旦那様はカリスマ的な経営者だから、女性だけではなく男性にも熱烈な信望者がいるんだ。
私には愛しかあげられるものがないのに、全否定から来た。
でも、透也くんに凍てついた孤独の途を歩けばいいというの? それが経営者としてあるべき姿だって言いたいの。
間違っている。
強くそう思うのに、私はブラウンの青年の背中に怒鳴れないでいた。
だって、財産も権力もある人で、愛を与えられる人がいるかもしれないでしょう……。
ううん、世界は広いんだもの。私よりも透也くんに相応しい人は沢山いる。
「はぁぁぁ……」
トイレでハニーブロンドの美少女に毒を吐かれて次にこの青年に楔を打たれた間、2・3分足らず。
ボディガードの人が私に近づいてくる僅かの間に、私の生命力はゴリゴリと削られてしまった。
 
「円佳、なにがあった?」
お皿に俯いていれば、指でやや強引にあごを上向きにされた。
なんとか気持ちを立て直したものの、透也くんに気づかれないはずはなく。
冷めていく料理を気にしながら、私は格差とかコンプレックスを全部彼に吐き出しててしまった。
黙って訊いていた透也くんはやがて厳しい目で私をみつめた。
「円佳、これだけは言っておく。自分のことを貶めるのは君自身ですら赦さない。世間に出て傷つくのならば二度と外に出しはしない」
「ん」
透也くんの腕の外に出たいなら、二度と弱音を吐いちゃいけないんだ。
「……違う」
もやもやするまえに、頬を撫でられた。
「お願いだから、今みたいに辛かったら僕に全て吐き出してくれ。円佳が辛いのは全て僕のせいだ。手放してあげられないかわりに、君の重荷は全て僕がもつ」
「でも」
優しくて強い瞳に、反発しなくちゃと思う。
透也くんは、私の言いたいことはわかっているとうなずいた。
「円佳が抱えきれなくなったらでいい。僕の役目は君を見守って、どうしようもなくなる前に声をかけることだから」
ぶわっと涙腺が緩む。
寄りかかりまくっている自覚はある。
けれど、私は背負えるだけしか荷物を持てない。
ずるいとわかっているのに、彼が許してくれるから甘えてしまう。
透也くんが手を伸ばしてきて、唇を指で封じられた。グロスと、料理の油で汚れちゃうのに。
「情けないとか思わないでくれ。天真爛漫に外で咲きたい花を僕がガラスの温室に閉じ込めているんだ。花が咲きやすいよう温室を管理するのも花を世話するのも、僕の権利だ」
私が透也くんの指に口づけると、今度は彼の唇が私のそれに触れる。
「僕の愛する女性は君だけだ」
 
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
439
-
-
381
-
-
1
-
-
3087
-
-
310
-
-
2
-
-
75
-
-
70810
-
-
89
コメント