ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

本当のハネムーンまで彼女との21年間②

『あるいは僕の唯一の弱点が彼女だと気づかれているのか?』

 彼女を傷つけるほうが、僕への直接攻撃よりダメージがあると知っているのは見どころがある。嘉島透也の持てる力全てでお相手しよう。

 ところが犯人たちを捕まえると、『そんなつもりはなかった!』と一様に泣きわめくのだ。

 曰く
『嘉島の威力はあまねく知られており、自分達小物では歯向かう気すら起きない。まして次期当主の掌中の珠なんて、恐ろしくて手が出せない!』と。

 ……それも、そうか。

 実証を重ねるうち、僕と一緒より彼女が単独で行動しているときのほうが犯罪や事件に巻き込まれていることがわかった。
 しかも、嘉島がらみでない事件に巻き込まれる率が恐ろしく高いことも。

 本人にそれとなく確認しても、自覚がない。にへら、と太平楽な顔でおやつをたべている。
 微妙な表情を浮かべられていた彼女の母上にあとでそっと訊くと。

『……なんでかしらね。夫がらみで狙われるよりも、妙~な事件に巻き込まれることのほうが多かったの』

 円佳母子が居住を定めず転々としていたのは、円佳の周りに奇異なことが続くので周囲に注目されるようになったからだともいう。

 円佳ときたら、出かければ事故や事件に巻き込まれる。
 彼女はトラブルメイカーという人種なのだろう。

 僕の母は頭をかかえる円佳の母上をなだめながら、にこにこと微笑んで、僕が手配していた彼女のボディーガード達をあらたに最強の布陣にしなおした。

 僕はひそかに武術を学ぼうと決心し、ついでに彼女を護る人間を育てようと会社を興した。

「円佳は僕をサバイバルゲーム好きだと思ってるらしいけど……、実働部隊との演習とは気づいてないんだろうな」

 気づかせるつもりはないけれど。


 僕の恐怖は円佳が傍に居てくれないことだ。
 あの公爵は、それは優美に『彼女を手に入れれば嘉島のハートが手に入る』とでも某国の大使にささやいたのだろう。

 円佳が僕から逃げ出したのを知らされたときの、心臓を掴まれた痛みを、僕は忘れない。

「彼女の笑顔を曇らせたことを死ぬほど後悔させてやる」

……完全に潰しはしない。
 あんな男でもいなくなると、それなりにヨーロッパのパワーバランスが崩れる。
けれど。

「彼女を傷つける輩は万死に値する。公爵閣下、相応の礼はさせてもらう。オーレリア姫、君もだよ? 悪い子にはおしおきをしないとね」

ふう。
息を吐き出すと、円佳の額に口づけた。

「彼らにとって予想外なのは円佳、君だ」

 なにをしでかすのか、シミューレ―ションは不可能。

「僕は楽しみだけどね?」

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