ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

本当のハネムーンまで153時間〜透也〜 ④

 
 公爵は嘉島のセキュリティシステムに、公女が作ったコードを使うよう再三迫ってきた。
 冗談じゃない、懐に毒蛇を飼うようなものだ。……僕が吐き出す毒とどちらが強いかな。
 難なく制することは出来るが、不要なことをしてこれ以上円佳との時間を削られたくはない。

 おまけに兄妹揃って僕を欲しがっている。
 兄は強大な嘉島の力を、妹はお綺麗な人形としての僕を。

 公爵は「鉄壁のガード」と名高い嘉島のセキュリティを破ることによって、彼がオーナーである企業のシステムが世界一だと知らしめたい。そして嘉島グループを公国内に誘致したい。

 公女はお気に入りの僕の結婚を邪魔して、侍らせたい。

 迷惑なことに二人の利害が一致した。
 妹のジェラシーに兄が乗り、某国を隠れみのにしたのだ。

「公爵は、僕が某国はデコイだと知っていることをそろそろ気づいたかな」

 だがまだ、半信半疑だろう。
 某国とマダム・デュポアには報復をしたものの、それ以上の追求をしなかったのはそのためだ。
 公爵と妹については、身辺を探らせることもしなかった。
 世間は某国と関わりのあった夫人が嘉島に粗相をしたと見ているだろう。

 マティアスとしては僕に一泡吹かせてやったと世界に喧伝したいのだろうが、嘉島のセキュリティが破られたことを漏洩したら、自分が黒幕だとバレてしまう。
 彼はもう一幕、狙っている。

 元々、このクルーズを計画してあった。
 乗客は皆、セキュリティ会社のスタッフ達。
 円佳の顔見せを兼ねての慰安旅行だったが急遽、僕のセキュリティ会社の「実戦を伴う研修」にプランを変更する。

 なにもなければ、よし。

 公爵はこの情報を掴めば疑いながらも介入してこざるを得ない。
 世界中が注目しているトウヤ・カシマのハネムーン(の一部ではあるが)を、最高の豪奢を謳い最強の警備を誇る客船の処女航海で行うのだ。

 いかな僕でもここで起こった失態を世界に隠蔽することは不可能だと公爵は考える。

 セキュリティ会社のシステムに、わざと侵入経路を作らせた。
 妹を使い、社員になりすまして潜入してくるだろう。

 彼らがしでかす悪戯は、十中八九船内システムへの細工だと思うが、内通者を募ってテロリストごっこやシージャックもどきを仕掛けてくる可能性もある。

 会社からのボーナスだと喜んでいる社員には申し訳ないが、休暇中に起こった不測の事態にどんな風に対応するかを見極めることも大事だ。

 テロ行為を許しても赦さなくても、この作戦が公になれば、『最愛の女性を囮に使う極悪非道な嘉島の当主』と評判になるだろう。
 それもいい。
 彼女を僕への交渉材料にしようなどという輩が減るだろうから。

 だが、円佳は僕の唯一だ。内外に隠す必要はない。彼女は僕が守る。

「とはいえ愛おしい奥様は、僕がなぜこれほどセキュリティに力を入れているのか、わかってないんだろうな」

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