ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間
本当のハネムーンまで168時間〜出発〜 ③
「円佳」
透也くんが下を示した。
眼をやったとき最初に見えたのは、青い海原に浮かぶ白い点だった。
やがて、みるみる白く巨きな船になっていくので、無意識に声を上げてしまった。
「クジラみたい」
降りたってみて、あらためて大きさにあんぐりしちゃった。
船にはヘリポートまである。
「全長二五〇メートル。時速21ノットを誇る、世界最高クラスのクルーズ船だ」
船の大きさは想像を超えていた。
透也くんと高校のときに行ったエジプトのピラミッドも大きかった。
しかし、東京タワーより少し小さい程度のものが海に浮くのかぁ。
「私達の住んでいる処って大きいんだね……」
いつも飛行機で一足飛びだったからわからなかった。
この船を浮かべても余りある大洋を、いくつも抱えている、地球。
今日はミラノ、明日はパリ。
だと思えばセネガルに一週間出張。
間に中国を挟んで、ブラジルへ。
色々な国を、日またぎで飛び回っている人。
私の旦那様は地球規模の仕事をしているんだと、今更に実感したのだった。
「船は、なんて名前?」
「『Insula plenam celebrationum』」
訊いたことがない言語の、でも見事な発音だった。
「……もしかして、ラテン語? なんて意味?」
なにげなく訊いたら、くす、と微笑まれた。
「『慶びごとで溢れた島』」
「素敵」
機体から降り立った私達は船長さんに迎えられ、流暢な日本語で挨拶を受けた。
「ようこそ。嘉島さま、奥さま。船長の、アッシェル・ベッテルハイムです」
――奥様、て言われた!
ぽーとしていると、透也くんにさりげなくエスコートされて、歩くよう促された。
船長室に付属している応接間で一緒にハイティーを楽しんだあと、客室まで案内して頂く。
VIP専用エレベーターを降り、ドアを開け室内に入った瞬間、息をのんだ。
「こちらがロイヤル・スウィートとなっております」
重厚なドアには『Confractus est optimus(最上なる憩い)』とラテン語が金字で打ち付けられている。
スチュワードがカードキーをホルダーに入れれば、電動カーテンが連動した。
オープンデッキの前に、真っ青な海が広がっている。
「わあ……」
「本日の晩餐会はわたくし船長が主催しております。わたくし他、一等航海士・甲板長・事務長が同席させていただき、一八時三〇分から開始いたします。十五分前にお迎えに上がります」
船長さんが頭を下げて、船員さん達は退室されていった。
「御用は」
秘書さんが確認すると、透也くんは一八時に迎えにくるようにと言った。
みんな下がると、二人っきり。
空気が重くて甘くてもじもじしてしまう。
変だ、私。
透也くんと二人でお泊りなんて、沢山していて。
エッチだって、彼が二十歳になって解禁になってから、それこそ何百回となく抱き合ってきたのに。
時計を見たら、シャワーを浴びて支度しても、まだ一時間くらいは余裕がある。
 なら、い、一回くらいは出来るかな……? て、なにイヤラシイこを考えてるかな、私!
でも……、今日が結婚初夜、だし。
いたたまれなくて、室内探検をした。
ダークブルー系で、ポップな現代アートのような室内。
旅行のとき、クラシカルな雰囲気の部屋を頼むことが多い透也くんにしては珍しいチョイスだと思う。
「わー……、ここリビング?」
なんとグランドピアノが置いてある。
「固定してあるけれど、揺れないってことなんだ。……すご」
階段があったので登りかけると。
「円佳」
透也くんが私に声をかけてきた。
だるまさんが転んだ、みたいに動けない。
   きっと私は緊張した面持ちになってる。
一歩、一歩透也くんが近づいてくる気配。
背中に寄り添い、そ、とお腹に手を回される。
「狭くない?」
気づかわしげな声。
「大丈夫」
返事と共に彼の手をきゅっと握ったら、安心したような気配がした。
嬉しくなって、振り返る前に耳を食まれた。
「円佳」
「ふぁ……」
それだけで私の体がのけぞった。
透也くんの声が甘く、ささやいてくる。
「少し、寝ようか」
し、心臓がっ、喉から飛び出そう……っ。
「は、い……」
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