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ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

004時間前~挙式

 起きたときには、透也くんの姿はベッドになかった。
 明日からの休みに備えて、海外とのやり取りがあるのだろう。

 私はおそるおそる起き上ってみて、自分の脚で動けるのを確認して、そろそろと自室に戻った。
 時計を見ると、あと一時間ほどでスタイリストさんたちがやってくる。

 それまでに軽く朝ごはんを食べておこうと思っていたら。

「おはようございます、円佳さま」

 スタイリストさんがアシスタントの方や大きなトランクを持って現れた。
 トルソーに着せたドレスを運び込んで来たのを見て、私は眼を瞠った。

 マダム・デュポワのドレスだった。……あれで発作起きたんだ。お腹のへんが、きゅ、と縮こまる。

「透也さまから変更を承りました。円佳さまのご指示通りに直すようにって。いじり甲斐がありますわあ。腕を奮いますね!」

 スタイリストさんがほがらかな声を出す。
……一週間前にフィッティングしてくださった方達じゃない。
 マダム・デュポワもいない。そういうこと、だったんだ。

 本当なら、透也くんは私以上にこのドレスをめちゃくちゃに切り裂いて燃やしてしまいたいはず。

 なんというか、透也くんには『坊主憎けりゃ袈裟まで』的な所がある。

『連座ダメっ』
『ハンムラビ法典では『目には目をであって、目には目と歯と絨毯爆撃じゅうたんばくげき』なんて言ってないでしょっ!』
 
 これまでに何度となく透也くんに言い聞かせてきた。

『それは受け取り側の主観を無視しているよ。たとえ円佳が攻撃したのが目だけであっても、僕は目と歯を攻撃されたと感じるかもしれないだろう?』

 そ、そうかな……。
 でもっ、ドレスに罪はないと考えてはくれたらしい。
 よかった。
 私のために、闇に葬られるドレスを増やしたくなかった。

 今回のドレスは淡雪のような総レースで首から手首まで覆われていて、大人っぽい雰囲気のものだ。
 手織りのレースに真珠やダイヤが惜しみなく使われている。
 マーメイドラインで体の線くっきり。
 童顔気味な私には難しいのかな、と思いつつ挑戦してみたデザインだった。

「お髪がキュートですわ。透也様によれば、昨晩はパープルのカラーコンタクトを着用されておられたとか。本日も装着されますか?」

 私は頷いた。
 昨晩というよりも数時間前、夫になる人は濡れた瞳で覗きこんできて、熱くささやいた。

『髪も、瞳も僕に流されまいとする証……好きだよ、円佳。なのに僕に堕ちて、欲しがる円佳。ぞくぞくするよ』

 わーっ!

「では……」

 スタイリストさんは鋏を取り出した。

「きゃっ」

 悲鳴をあげてしまったくらい、思い切りドレスを切り刻んでいく。
 あっというまに襟ぐりからは鎖骨が見え、袖はノースリーブ、何メートルもあるトレーンはそのままで、前はミモレ丈になった。

 ところどころにピンクと紫のグラデーションで出来たコサージュや同色のリボンが取り付けられていく。

 それに合わせてヘッドドレスも、ショートヘアが映えるように変えられていた。

 クラシカルでドレッシーなドレスは高貴な雰囲気を残しながらも、キュートなものになった。
 
 二時間後。
 礼拝堂の前で待っていた透也くんは私を見て、艶やかに微笑んでくれたのだった。

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