ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間
結婚式の009時間前〜プレ初夜〜 ②
「これ着たところを透也くんに見せたいなって」
自分勝手な理屈だけど、私のせいでお蔵入りになってしまったドレスに日の目を見させたかった。
透也くんに、苦い気持ちを思い出させるかもしれない。
でもこのドレスを着て、あのときがっかりさせてしまった透也くんを昇華させて。
子供だった私を卒業して、彼を疑った私を浄化してから、明日嫁ぎたかった。
透也くんの瞳に凶暴な光が灯る。
ソファに座ったまま手を伸ばしてきて、彼は私を引き寄せる。
「円佳」
お腹に押し当てられた透也くんの唇から、くぐもった声が聞こえる。
熱い息を吹きかけられて、筋膜に震えがはしる。
名前を呼ばれただけで、私の奥は濡れてくる。
私は透也くんの頭をかきいだいた。
「あの……ね。煽っておいて申し訳ないんだけど、お手やわらかに、ね」
透也くんから、欲にけむった瞳を向けられ、眉をひそめられた。
うん。
結婚式直前に喧嘩して、これから仲直りのエッチをするだけでも燃えるのに。
ドレスを身に着けたことで、アクセル踏み込んだうえにブーストをかけた自覚もある。
けれど、いくらキスマークやクマは最高のメーキャップアーティストさんがカバーしてくれてもですね、明日だけは五体満足でいたい。
「円佳の下半身が生まれたての子鹿みたいでも、『ああ、ハイヒールに慣れてないんだな、うぶな花嫁さんだな』って思われるだけだよ」
「足腰立たない前提っ?」
どれだけスるつもりなのよ!
そりゃあ私だって再会えっちが一回なんて、寂しいから「ね、もう一回」ってねだりそうだし、透也くんが一度で終わったことはないけれど。
……ごほごほっ。
「だ、だいたい嘉島家の嫁になる女に、世間さまがそんな好意的な見方をしてくれるわけないでしょう!」
「そうかな?」
なに、『僕以外の意見は認めない』的な黒さを滲ませちゃってんの?
素敵か!
「僕が花嫁入場から夫婦退場まで、円佳を抱いていれば問題ないんじゃないかな?」
「いや、大ありでしょ」
式の進行時間をまいたとしても、十分以上かかるだろう。
そのあいだずうっと抱っこされてたら、透也くんの腕と私のメンタルが死ぬ!
「大丈夫。参列者は僕や円佳の両親、院長だけだから」
僕たちの相思相愛ぶりを知っている人たちばかりだから、恥ずかしくないよと透也くんはのたまう。
私は目をぱちぱち瞬きした。
「私のオ父サン、参列するの?」
「そう。結婚式が感動の再会になると思うよ」
連絡取れてたんだと驚く私に、透也くんは悪戯っ子みたいな顔で笑った。
「防犯上の理由で参列希望者はすべてシャットダウンしたけど、大臣やセレブがうるさいから、今回の式は世界中に配信する」
「え? 招待客は実質ゼロ?」
確かにこの別宅は十数組しか泊まることはできないし、院長は身内同然。
『嘉島家のお知り合いってセレブだろうから、分刻みのスケジュールをこなしているんだろうな』と、勝手に日帰り客が多いのかと納得していたんである。
……てことは、前のときよりトーンダウンしてない?
一回目はドタキャンさせて、二回目もあわやの婚約破棄。
私は、嘉島家のメンツを潰したんだ。
透也くんは、私が落ち込んだことに即座に気づいてしまった。
「円佳が一番知っているだろうけど、僕は他人のテリトリーを侵しても、自分のテリトリーに侵入されるのは好きじゃない」
……そうだった。
その気になれば超一流のもてなし上手だからバレてないんだろうけど、透也くんはかなりの人嫌い。
なんとなく、透也くんのテリトリーに自由に出入りしているのは私だけな気がする。
ということは、ネット配信は苦肉の策なのかな。
「他意はない。強いていえば、僕が円佳を娶ったことを世界中に知らせたいだけだな」
~~~~っ、この人はあああ!
どれだけ甘い言葉を垂れ流すつもりなの……?
透也くんが見上げてくる。
  引き寄せられて、文句はきかないとばかりに唇が重ねられた。
お互いの柔らかさを味わうように、触れ合うだけのキスが続く。
どちらが先に辛抱できなくなったのだろう、うっすらと開けた唇の隙間があるなと思ったら、舌と舌を絡ませ合っていた。
体を重ねるようになるまで、キスで快感が得られるなんて思わなかった。
舌と舌がお互いをこすりあい、どんどん気持ちよくなってくる。
ビスチェの中で擦れている胸から、痛痒いような刺激が伝わってくる。
 
「ん、ふ、ゥん……」
吐息みたいな声が自然に漏れる。
上あごの裏の、弱いところをくすぐられて思わず透也くんの腕にしがみつく。
ああ、私。透也くんに飢えていた。
彼もそうだといい。
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