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ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

結婚式の009時間前〜プレ初夜〜①

 午前二時。
 ソファに座っていた透也くんは、不思議な笑みを浮かべた彫像のようになっていた。
 
「ご、ごめん」

 しゅ、しゅ、と衣摺れの音をさせて透也くんに近づいた。
 ぼんやりと私を見上げた透也くんの眼がまん丸になる。

「それ」
「あのあと執事さんにお願いして、手元に残してもらったの」

 透也くんが高校を卒業したときにプロポーズしてくれたのに、計画されていた翌日の結婚式を断ってしまった。

 はっきり言って、私の予定を確かめておかなかった透也くんが悪い。

 でも私は、なにも考えていなかった。
 私が頑なに拒否したことが嘉島家にどれだけの損失を与えたのかを。
 同時にウエディングドレスのことを。
 後日、さりげなく執事さんから聞かされて青くなった。

 透也くんは使い回しをよしとしない。
 特に『破談になった』なんていわくつきなものは次のお式に使ってもらえないどころか、誰か他の花嫁さんにも着てもらえない。

 デザイナーさんの情熱の結晶、ましてや透也くんの私への愛の証しを棄てさせてはいけないと強く思った。
 処分される寸前だったドレスを慌てて自室に運んで貰った。

 以来、『結婚式の前夜に、プレ初夜で透也くんに着たところを見せよう』と決めていたのだ。

 身にまとったドレスの上半身は、ビスチェタイプで両サイドをリボンで調節するタイプ。

 肩から腕にかけてチュールレースを垂らしていて、動かすと割れて腕があらわになる。
 レースをリボンでとめて、パフスリーブのようにしてもいい。
 背中と胸元はハートの形に切れ込みになっていて、裾はアシンメトリーな布がチューリップのように幾層にも重なっている。
 ふわふわと、メルヘン国のお姫様が着るようなドレス。

 透也くんの理想というより、私が子供の頃から目をキラキラさせて語っていたドレスそのものだった。

 幼かったな。
 あの頃の私はまだ、なにも考えてなかった。
 今も嘉島家のことや当主になる嘉島透也という人のことを理解しているとは言い切れない。
 けれど、少しは大人になっていたい。
 透也くんと並んで立てるようになりたい。

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