ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間
結婚式まで012時間〜再会した二人〜 ③
「『特許』さえあれば、私なんて必要ないんでしょう!」
悲鳴のように叫べば、黒い焔のような双眸で見つめられた。
恐ろしさに、体が動かなくなる。
「……なにか誤解しているようだけど。君が手に入らないのなら、特許にはなんの価値もない」
「え」
私は固まった。
あれ?
『オ父サンノ特許』は要らないもの? 一部の人にしか需要がない?
でも、透也くんは経営者。ってことは商人さんであるわけで、クズにも価値をつけるのが仕事じゃないの?
混乱してきた。
「たとえ世界が欲している技術であっても、円佳かどちらか選べというのなら僕にとって必要ないものだ」
特許のほうがおまけ、って透也くんはそんな風に思ってくれていたの?
とくんとくんと、心臓が嬉しそうに動く。
ほわっと温かいものが体の中心から四肢に広がる。
でも。
一瞬、晴れはしたものの、再び曇ってしまったであろう私の顔を見て、透也くんは低い声で呟いた。
「円佳が望むなら、僕は嘉島家の跡取りであることを放棄する」
「っ、駄目!」
とんでもないことを言われて、咄嗟に反対する。
透也くんはカリスマ経営者だ。
彼が携わっている企業はことごとく業績を上げ、社員たちの給料も待遇も向上させている。
透也くんが退いても嘉島家の屋台骨は揺らがないかもしれないけれど、数十万人に及ぶ生活が彼の肩にかかっているのだ。
「先ほどは政略結婚じゃないと言ったけれど。むしろ君を手に入れるためなら、僕はどんな手段でも使うつもりだ。君を破滅に追いやってから救いの手を差し出すとか。例え、僕じゃない男と婚姻の祭壇に進んでいても、円佳を僕のものにする」
ギラギラとした瞳は本気だ。
…………嬉しい、のに。
透也くんには、私が迷っているのがわかっているようだった。
「どうすれば、僕の気持ちに偽りはないと信じてもらえる?」
透也くんが勁い視線でぐいぐい圧してくる。
「……それは……」
私は途方にくれた。
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