ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間
結婚式の013時間前〜透也〜 ④
彼ら親子を保護したのは母親同士の友情のなせるわざであって、特許の占有使用権は副産物にしか過ぎない。
問題の特許は、存命中は円佳の父親が所有し、彼の死亡時には彼女が受け継ぐことになっている。
嘉島家では占有料として莫大な額を提示したが、円佳の両親は首を横に振った。
家永夫妻は、平和的な利用にのみ使用許可を与え、嘉島に特許を使用したい組織の監査及び使用中の監督を委ねただけだった。
派生して生まれた特許の使用料も円佳の両親は拒否したので、委託された嘉島家は福祉に還元している。
執事がくすりと笑った。
透也は盛大に顔をしかめた。
無表情鉄仮面の執事が表情をくずすときは、説教されるか弄られるかのどちらかであると相場が決まっているからだ。
「円佳さまが賢い方でよろしゅうございました」
「……なにが言いたい」
「透也さまが逃げられれば追う質であることを、無意識に感じ取られているのでしょう」
驚愕の家出宣言以降、円佳から透也への直接的な連絡はない。
その気になれば、誰よりも隠れんぼが上手い円佳。彼女の気配が失われたら最後、透也は倒れるか現代の魔王と化すだろう。
彼女付きのボディーガードから定時連絡はあるし、円佳の心肺機能をモニターする計器を放さずにいてくれるからこそ、透也は平静をたもっていられる。
「さもなくば今頃、日本中に戒厳令が敷かれておりましたでしょうし、某国は地図から消え失せておりましょうからな」
「……人を独裁者か核弾頭みたいに言わないでくれ。それに僕のスタッフは軍隊じゃない」
透也はからかわれても返せるほどには冷静さが戻ってきたようだった。
「ご冗談を。嘉島セキュリティを軍の教育部隊として迎え入れたいと招致してくる国は増えるばかりです」
あちこちの戦場を渡り歩いた、凄腕の元軍人である執事が穏やかに反論したのに、透也は冴え冴えとした視線をくれた。
「セキュリティ会社は、もともと彼女を護る為に作った組織だ。嘉島は、内政干渉になりかねないことには関与しない。これは決定事項だ。円佳のことは僕が対処する。後のことは君にまかせる」
執事が頷いたのを確認してから、透也は皆に退室を促した。
「……『後処理』でございますが。以前のように結婚式をペンディングとなりますと、今回は大々的に報道させておりますぶん、少々厄介です」
最後に残った執事が低い声で呟いたので、透也はグラスを傾ける手を止めた。
高校を卒業するとき。
透也は浮かれていたあまり、全力で結婚式の準備をしていた。
円佳本人から言いだされて結婚式の延期が決まったときは、周囲を右往左往させてしまった。
ふ、と透也は笑みを浮かべた。
「あのときは君にも両親にも迷惑をかけた。今回駄目だったら、『アジアンプリンス、二度も同じ女性に結婚を保留される』とでも、面白おかしく広めてくれ。人は不幸に群がる。パーフェクトな僕に多少の疵があったほうが、親しみが持てるだろう……決して円佳に責めを負わせるな」
透也の言葉に、執事はうなずいた。
「あとは僕が敷いたセキュリティをいかに破ったかだ。……某国にそんなハッカーがいるなんて聞いたことがない。調べるか」
小さくつぶやくと、透也はタブレットを操作した。と、カチャリとドアが開いた。
執事が誰何するように顔を向けたのがわかった。
「透也様」
そっと声をかけられ、顔をあげて透也は眼を見開いた。
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