ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間
結婚式の153時間前〜逃亡先に到着〜 ②
「愛しの旦那さまが、あらやだまだ婚約中だったわね。彼の顔を見たら、円佳ちゃんの心配なんてふっとんじゃうわよ」
院長からウインクされた。
「……そうだといいんですけれどね」
彼は私のことを迎えに来たがるだろう。
それを見越して、透也くんには接近禁止をお願いしてある。
私の身に危険なことがあれば、約束は反故にされるだろうけれど、そんなことにならないように万全を期してくれている。
なぜか私は、確信していた。
浮かない私の顔を見てなにか思うところがあったのだろう、院長も表情をあらためて優しく言ってくれた。
「わかったわ。ここは円佳ちゃんの実家同然だもの。透也くんが迎えにくるまで、ここにいらっしゃい」
「ありがとうございます」
にこにこにこ。
私は微笑みを浮かべて見せた。
というわけで、勤務先の乳児院に寝泊りさせてもらうことになったんである。
 
「さすがに大移動は疲れるなー」
私は宿直室のベッドへあおむけに転がりながら、ため息を吐き出した。
いや、実際に動いてくださったのは、ボディーガードの方たちとヘリコプターなんだけど。
「これからどうするかなー……」
というより、これからどうなるんだろう。
さっきまで、透也くんの隣にいる未来があったのに、今はなにも浮かばない。
考えたくない。
眼の上で腕を組んだ途端、彼からプレゼントされたブレスレットがシャラリと鳴った。
『僕からのプレゼントを最低一つは身につけていて。円佳が僕のものだと、世界中にしらしめたい』
言われたとおり、素直に身につけていた。外してしまおうと思ったけど、どうしても手が動かない。
自分から、愛されている証を外すなんて出来ない。
「未練がましいな、私」
天井を見ながら今までを思い出していくうち、涙が枕を濡らしていく。
「なんで……っ?」
愛されて、大事にされてると思っていた。
私の人生は透也くんが全てだったのに。
『両思いの人と結婚出来るなんて、奇跡ってあるんだなぁ……』
私が透也くんのことを想いながら感謝して、シャワーを浴びたのは今朝のこと。
夢物語に浸っていた自分を嗤ってやりたい。
初めて会ったときから浴びるようにもらった言葉は全て嘘だったの?
「……もしかしたら、彼は私を殺す、の……?」
ううん。
殺すために婚約した?
だって、『オ父サンノ特許』さえ手に入れば、私は要らないんだもの。
むしろ生きていたら、透也くんがほんとうに結婚したい女性との障害でしかない。
私が死ねば、『遺産』として簡単に透也くんの手に入るのだから。
色々な感情が混ざって、大声で泣きわめきたくなる。
深呼吸をして、息をととのえた。
「寝よ」
電源をオフにしたままの携帯電話を触ってみた。
オンにしたら、透也くんからの着信でいっぱいかな。
連絡くらいしたほうがいいかな。
ううん、必要ない。
私のことはボディーガードさんから報告されてるし。
あれ。
「……透也くんにおやすみの挨拶をしないの、出会ってから初めてじゃない? やめやめ! 彼のことは考えないっ。おやすみ!」
むりやりに眼をつぶる。
私の長い一日は、ようやく終わりを告げた。
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