ヤンデレ御曹司から逃げ出した、愛され花嫁の168時間

水田歩

結婚式の153時間前〜逃亡先に到着〜 ①

 午前二時。
「円佳ちゃんから『これから行きます』ってメールが入ったときもだけど。透也くんからも『彼女がマリッジブルーなので、しばらくそちらで寝泊りしたいそうです』って連絡があったときも驚いたわ……。どうしたの?」 

 院庭に巨大な鳥のようにヘリが降りたち、私と警護チームを降ろして、再び飛び立ったあと。
 おっかなびっくりだった院長に出迎えられた。

 電話したときは宿直中で寝ぼけているような声をしてらしたけれど、ヘリが着陸するに及んで完全に眼が覚めたみたい。

 キラキラした瞳からするとどうやら心配半分、興味半分といったところ。
 私の結婚話を大好きな乙女ノベルズの中のイベントみたいに楽しんでくれているらしい。

「……急に、大財閥をしょって立つ方の隣に私が並んでいいのだろうかと不安になってしまって」

 私が気弱そうな微笑みを浮かべてみせると、院長は同情的な表情をしてくれた。

 母と院長と透也くんのお義母さまとは、乳児院育ち。
 生まれてすぐに預けられ(あるいは捨てられ)た、同い年である三人の結束は、なかなかに固い。
 私には生まれたときから三人の母親がいるようなものだった。

「大丈夫よ、円佳ちゃんは花嫁修業ばっちりだし。怖いものはないのよ」

 院長は私を抱きしめてくれた。

 うん、知ってます。
 彼女の腕の中で私はこっそりと思う。

 嘉島家の総力を結集して学ばされたんだもん、『庶民出身の花嫁候補としては最強』の自覚ある。
 だからこそ、なんで透也くんが私を求めてくれたのかがわからなくて混乱してしまっているのだ。

 長年の教育で、彼の、ひいては嘉島家の理想の花嫁修行が出来たのかもしれないけど。
 あまた咲く名花の中には、私より優秀な総帥夫人候補生が沢山いるのに。

 ――

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